『本当の敵2』



謁見の間に着くと、粗方の勝負はついていた。

打ち倒された悪魔兵に黒装束の連中。
バノッサが宝玉の力を何度も振るうが、誓約者の資格を得たトウヤとハヤトには敵わない。
歯軋りするバノッサに表向きは動揺しているカノン。
いよいよ敵を追い詰めた、と思った瞬間に現れる。

「禿頭?」
の呟きにスタウトが反応して後方に下がって来た。

「違うでしょう? アレは悪の親玉ってゆーか、そんな感じよね」
モナティーを発見して近づいてきたエルカが訂正を入れる。

召喚師装束に身を包んだ、いかにも胡散臭い空気を放出する中年男性。
自称『無色の派閥』幹部のオルドレイク=セルボルト。

「やっとラスボスが舞台の裾に上がり、茶番の総仕上げというわけか」
バノッサを安心させ、甘言を囁く。
オルドレイクの行動を が評すれば、スタウトが不思議そうに「らすぼす?」なんて呟いている。

「茶番? エルカにも分るように喋ってよ」
不審そのもの。
エルカが に注文をつけた瞬間。
オルドレイクが放つ爆弾発言。

クラレットとカシスを『娘』と呼び。
尚且つ『後始末をつけろ』と言い捨て、あっさりと城を放棄した。

目的までも冥土の土産とばかりに打ち明け、戸惑うバノッサを引きつれ堂々と去って行くオルドレイク。

オルドレイクの目的は大魔王召喚。
魔王を召喚して世界を作りかえるそうだ。

破天荒すぎる思考だが本人は至って大真面目。
始末を娘に任せて消えてしまった点からしても、相当な自己中親父らしい。

「今聞いたとおりだ。あの二人の行動は全て、禿親父の言い付け通りだったのだろう? 
だから茶番ではないか。バノッサに宝玉を与えたのもあの男らしいからな。尤も茶番は途中までだがな」
動揺激しいメンバーを他所に冷静そのもの。
冷酷そうにも見える の冷淡な反応に、エルカは鼻を鳴らした。

「フン! 知ってたなら、先に言えばいいじゃない。あんな悪人面にバラされて……見てらんないわよ。トウヤもハヤトも平気そうでさり気に落ち込んでるじゃない」
メイトルパの気質か、メトラルの気質か、果てはエルカ自身の個性か。
に負けず劣らず毒舌で冷静なエルカにスタウトが乾いた笑みを浮かべる。

「当初の目的は達したんだからよ、いいんじゃねぇか?」
がらんどうになった謁見の間を一瞥しスタウトは言った。

「修羅場中だけどね」
対するエルカは肩を竦めて口撃する。

呆然とするジンガやイリアス。
今にも泣き出しそうに顔を歪め俯く、クラレット・カシスの姉妹。

かける言葉が見つからないガゼルを筆頭としたフラットメンバー。

居心地が悪そうに表情を曇らせるミモザと。
オルドレイクを気にするカイナ達エルゴの守護者組。
思惑飛び交う謁見の間。

「てんでバラバラね。収拾付かないじゃない、このままじゃ」
腰に手を当てて全員の表情を見てから。
エルカは尊大な喋り口を変えず、スタウトと へ口を開く。

「致し方あるまい。言うに言えぬだろう。敵の頭(かしら)は自分達の親で、自分達はスパイをする為にフラットへ来た等とは」
淡々とエルカに が応じる。
「違いない」
スタウトも に同じ意見。

両手を広げおどけるように、口をへの字に曲げ、腰を僅かに落とす。
は口角を持ち上げ、エルカはもう一度鼻を鳴らした。
やがてトウヤとハヤトを中心に人の輪が出来て、話し合いが始まる。

「ちょっと混ざってくる」
エルカは に言い捨て、さっさと話の輪へ紛れていった。

エルカの代わりに登場するのがローカス。
彼もさほど驚いていない人間に分類される。
冷静な光を宿した瞳で、輪から外れている とスタウトを見た。

「余計なお節介の総大将が、こんな所に居ていいのか?」
多大なるお節介を焼かれた身としては、こんな嫌味の一つ言いたくなる。
ローカスの皮肉に は悪戯の成功した子供の顔で笑う。

「その身分はトウヤとハヤトに譲った。もう隠居中だ」
ニヤニヤ笑って言い切った に、スタウトが噴き出した。
ローカスも一瞬だけ目を丸くしたが苦笑する。

「随分早い隠居生活だな」
横目で遠慮なく笑い転げるスタウトを睨み。
純粋に言葉の遣り取りを楽しむためだけに、ローカスは の発した単語を使う。

「オマケだったからな、本来の僕の立場は」

人の輪からイリアスとサイサリス、レイドにラムダ、ペルゴ、セシルが抜ける。
城の中を確認して回るのだろう。
去って行く騎士組を見送り がローカスへ返す。

「まったく……出来すぎたような、そうじゃないような話だぜ」
ローカスが苦い顔でクラレットとカシスを見る。
「馴れ合っているように見えて、壁を作っているのは分ってたけどな。俺が口を出す問題でもない。だから黙っていたが」
何かを更に付け加えようと、口を開きかけ。
口を噤むローカス。
「ま、今になってアレコレ詮索しても遅いって訳だな」
ローカスの顔に浮かんだ感情を読み取り、スタウトが茶化す。

次にスウォン・ギブソン・ミモザ・カイナ・カザミネ達が。
モナティー・ガウム・エルカを連れて広間から去って行く。
一旦フラットへ戻るのだろう。
モナティーが心配そうに何度も、トウヤとハヤトを振り返っていた。

「過ぎたるは及ばざるが如し、だろう」
涼しい顔で が言ったところで、ガゼルとジンガが近づいてくる。
「一旦引くぞ、 、ローカス」
険しい顔のままガゼルが告げた。
「じゃぁ、俺は旦那達に合流しとくぜ」
飄々とした何時もの態度で言い、スタウトはガゼルが止める間もなく。
謁見の間から出て行った。

とローカスはスタウトの逃げ足の速さに小さく笑い合う。

「……」
この状況下でよくも普通に笑っていられるもんだ。
沈黙するジンガの瞳が語っている。

「信頼度が違うからな」
ジンガの目線にきちんとした台詞で返し、 は謁見の間に背を向けた。
「な、なんで分かったんだ!?」
思わず両手で頬を押さえたジンガ。
分り易過ぎるジンガの行動に が声を立てて笑う。

人数が減って静かになった謁見の間に、 の笑い声だけが響いた。

「お前は顔に出てるんだよ」
の笑い声をバックにガゼルがすかさずジンガへ突っ込み。
「確かにな」
ローカスにまで肯定されてしまう。

「おれっち、そんなに分り易いかなぁ????」
眉間に皺を寄せたジンガに。
「「「分り易い」」」
・ガゼル・ローカス。
三人揃って綺麗に返答。

剥れるジンガを話のタネに、 達は暗い空気を払拭しながらフラットへの家路を辿る。
の『信頼』という言葉を聞いてからは、ガゼルは一度も背後を振り返らなかった。

 矢張りフラット一の理解者だな、ガゼルは。
 無論リプレママとは違った意味でな。

ガゼルが恐らく一番心配している筈である。
だが、エスガルドとエルジン、エドスに託してトウヤ達をそっとしておく方法(道)を選んだ。

 良い友を、仲間を持った。
 いかん、いかん!
 ……まったりするのは勝手だが、根本的な解決には至っておらぬ。

 バノッサは消え、宝玉も一緒に消えた。
 しかし魔王召喚儀式など本当にするのか?
 あの禿親父。物好きだな。

壊れかかったレコードが奏でる不快な音色。
オルドレイクから聞えた音と。
ある人物から聞えた音が不協和音を奏で、結構五月蝿かった。

はジンガと並んで歩きながらつらつら考える。

「実は大事(おおごと)に巻き込まれてたんだな〜、アニキ達」
事態の大きさにジンガが実感が湧かない、と愚痴口調で零す。
「召喚事故に巻き込まれて、異界に来た事件で大事だろ」
大物なジンガの発言に慣れっこ。
ガゼルが手馴れた様子で突っ込み返し、ローカスは我関せずを貫く。

天然というか、感覚的なジンガの発言を一々真に受けると碌な事がない。
フラットにおける嵐を呼ぶオコサマ。
リストの上位にランクインするジンガの言葉。
さらっと流すのが得策だ。

 オルドレイクはまず捨て置いても。
 あ奴の音が気になるな。
 一度確かめさせて貰おうか。

 ネガティブ思考そうでもあったし……厄介だ。

誰も彼もが運命論者だとしたら、うんざりする。
小さく息を吐き出す の目にフラットが見えてきた。



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 周囲の会話のみでハヤト&トウヤ出番なし? 戦ってはいるんだけど。ブラウザバックプリーズ