『エルゴの試練2』




各人(一部例外アリ)の『思惑』は別個でも、無駄にチームワークだけあるのがトウヤ・ハヤト一行の特徴である。

エルゴの試練も恙無く終了し、無事フラットへと戻ってきた。
問題はその後。

予想外の展開にトウヤとハヤトは少し困惑して。

談笑するカイナと とエルジンとエスガルドを遠巻きに見詰める。
庭で喋っている彼等の声は思ったよりこちらには響いてこない。
何を語っているかは聞えないが、楽しそうな様子だけは伝わってきた。

ってあんな短時間で人と打ち解けてたっけ?」
納得いかない顔でハヤトが腕組みをする。

「打ち解けていなかった、と思うけど」
トウヤも を見守りながら落ち着きがない。

基本的に相手を観察してから は相手に近づく。
今その行動パターンが崩れようとしていた。
兄離れ宣言から、名実ともに兄離れしてしまった
兄コンビ(トウヤ・ハヤト)は一抹の寂しさを感じていた。

「ブラコン……」
オロオロする兄二人を白い目で見てカシスが呟く。

「仕方ないだろう? 大切な弟だろうからな」
無意識に過保護。
はトウヤ達に過保護だったし、逆にトウヤ達も に過保護だった。
最初からの経緯を知るレイドが苦笑いをしてカシスへ言い返す。

「そうですね……血は繋がっていなくても、大切な弟なんですよね」
を監視する二人を遠巻きに眺め、クラレットは羨望の眼差しを へ注いだ。

同時刻。
兄二人が恨めしいのか、羨ましいのか判別不明の視線を送るフラット中庭。

「お出でにならなかった理由が分りました。わざわざ御気を使わせてしまって」
所作も言葉遣いも奥ゆかしい。
カイナが心底申し訳ない顔つきで へ頭を下げる。

エルゴの守護者として類稀なる力を持つカイナとエスガルド。
エルゴから与えられた知識が の正体をカイナ達へ悟らせたのだった。

「そんなつもりはない。今彼等と会うのは互いに不味いからな」
カイナに頭を上げるように頼み、 は穏やかに微笑む。

「やっぱり気配が全然違う。エスガルドと一緒に居たから、鋭くなったのかな〜」
エルジンが から感じる気配の違いに自分で驚いて。
まじまじと を見詰める。

ギブソン・ミモザと同じ召喚師の力を持ながら、違う成長をしたらしいエルジン。
の周囲に漂う魔力と高貴な雰囲気に圧倒されていて。
が自分から中庭に誘ってくれるまでまともに話が出来ずに居た。

それはカイナもエスガルドも同じ。
ざっくばらんな気質の神様に少し感動中のエルジンである。

「えるじん、アマリ見詰メルノハ失礼ダ」
保護者であるエスガルドに注意されてエルジンは舌を出して笑う。

「でもさ、エズガルド。間近で見るチャンスなんて滅多にないんだよ? 失礼だとは思うけどついつい見ちゃうよね? カイナお姉ちゃん」
自分と同じく をジーっと見ているカイナにエルジンは助けを求めた。

「ふふふ、否定できませんね」
エルジンに助け舟を出してカイナも笑った。

「我が存在を見抜く汝達のほうが立派だ。なにせ、トウヤとハヤトは信じておらぬからな。我が神だと」
嘆息する の幼い仕草に、エルジンは笑い声を大きくし。
カイナも驚きながら、こちらを窺うトウヤとハヤトを盗み見る。

「りぃんばうむノ神ナラ別トシテ、異界ノ神ノ存在ヲ信ジルノハ難シイ」

ましてや、リィンバウムのように召喚術が無い世界の住人が。
己の世界の神が存在すると信じるだろうか。
あのように歳若い青年達が。

思慮深いエスガルドの台詞にエルジンが漸く笑いを引っ込める。

「我等が結界によりマナ(魔力)を封じている世界故、トウヤとハヤトには馴染まぬのだろう。我のような存在が。
逆にマナが潤沢なこの世界で迂闊に本来の姿を曝せぬ事もあり、有耶無耶で通しておる」
「そうでしたか。それで とだけ名乗り、お姿は隠されているのですね」
の説明にカイナが納得した。

伊達に巫女と名乗っているのではない。
修行を積み、身を清くしエルゴの守護者として生活してきた日々。
妙にまったりしているメンバーと神( )の関係に仰天したカイナである。

カイナから見れば神は道を護り道を照らす存在で、軽々しく人と接する存在ではない。
高貴な存在が何故人に混じり、人と同じ生活を享受するのか。
不思議がっていたカイナに、 がエルジン・エズガルドを誘い中庭で事情を説明してくれていた。

「……ですが宜しいのですか? それで」
フラットのメンバーの暴言も笑って流す
カイナは を窺う。

名も無き世界の神といえど、神は神だ。
敬うべき存在ではないのだろうか。

「構わぬ。……カイナ? 役目を終えたとはいえ、汝は巫女であり道を照らす存在の一端を担う。真面目なのは良いが適度に、な?
汝の世界ではどうだか知らぬが、我は汝等が案じるほど不快には思っていないぞ」

ニッコリ笑った にカイナも身体の緊張を解す。

事態はカイナが説明して も把握している。

サプレスのエルゴ不在に端を発した、リィンバウムの結界の崩壊。
残りのエルゴ達で懸命に支えていたのに、召喚術が結界に穴を開ける。
結果脆弱になった結界の寿命もあとわずか。

弱まった結界に追い討ちをかける魅魔の宝玉による悪魔兵召喚。
重なり合った要因が、リィンバウムに再び危機を齎そうとしている。

 無関係とは言い切れぬ。
 リィンバウムの結界の脆さと、召喚術が結界に穿つ穴が原因か。

 我の苦労の元がコレだ等とは情けない。

 エルゴに接触した暁には張り倒しても気が治まらぬ。
 が、根本的問題は召喚術なのか?
 が、世界から召喚術が無くなれば、それこそ世界の存亡に関わる由々しき問題だぞ。

 むぅ……。

考え込む の肩をエルジンが突く。
「結界さえあれば本来の格好が出来るんだよね。見てみたいな〜」

好奇心がうずいてマス。
エルジンの顔に書いてある。

期待に満ちたエルジンの瞳から僅かに目を逸らし は小さく舌打ちする。

 今姿を曝しても解決にはならぬ。
 誰がバノッサを利用しているのかも分らぬし、キールの行方も気になる。

 しかもサプレスのエルゴの行方も知れぬではないか。

 流石は父親亡き後も紅の機械神と共に生活していただけあって……逞しいな。

思わずトウヤとハヤトとエルジンを比較して、内心だけで は乾いた笑いを漏らす。
「そのうちな? 今はその時ではない」
が曖昧に返事を濁すと、エルジンは残念そうな顔をした。

その後、カイナに教えてもらった『ゆびきりげんまん』を に強張って。
何れ時期を改めて本来の姿を披露する羽目になった である。

動作だけを見ていたトウヤとハヤトが不安を隠しきれず、互いに目を見合わせた。

「あれって『ゆびきりげんまん』だよな」

 初対面のエルジンと何を約束したんだ〜!!

叫びたいのを堪えて、ハヤトは傍らのトウヤに同意を求める。

「俺にもそう見えるけど、ハヤト」

少し迷惑そうな顔の

気に入らない相手なら斬って捨てる言葉を吐くのに、エルジンと渋々ゆびきりげんまんをしている。

脅されたのか? 苛められたのか?
いや、 に限ってそんなことはない。
エルジンだって悪い子ではないし、傍には保護者のエスガルドが居るじゃないか。

混乱する頭を必死に冷やしてトウヤもハヤトへ言葉を返す。

「気になる……メッチャクチャ気になる」
フルフル震えて悶えるハヤトに、何を想像したのか。
トウヤは真っ青になって の心配を始めた。

「本当に仲が良いね、彼等は」

城近辺や負傷した兵士の安否確認等々。

騎士団長としての一連の仕事をこなしてきたイリアスが、微笑ましい? 光景に目を細める。

イリアスの視線の先には呆れるくらい馬鹿のつく兄貴分が を怪しく見守っていた。
心温まる情景にイリアスが思わず傍らの副官・サイサリスへ話題を振った。

「仲が良いというか。あれはあれで貴重なのです。互いの存在が」

が最近己を神だとあの二人に言い張らないのは。
自身が告白した仕事の関連があるからと。
きっとこの二人の普通の態度が心地良いから。

なんとなく理由が分ってしまったサイサリスは、微笑を湛える。

「互いの存在が貴重?」
「はい、イリアス様。依存ではなく、互いを個として尊重する関係です。尤も最近は、 が兄離れしてしまったので、兄二人は寂しそうです」
サイサリスにしては珍しく、彼等の関係を少し茶化して説明した。

兄二人とサイサリスに表現されたトウヤとハヤトの背中が、本当に寂しそうに見える。
イリアスは喉奥で笑う。

「上手い表現だな、サイサリス」
言い当て妙だ。
笑い声を立てないよう配慮して笑うイリアスが、サイサリスの洞察力を褒める。
本当に良い副官を持ったと誇らしく想いながら。

「恐れ入ります」
実は の気持ちもなんとなく分ってきた。

鋭いサイサリスは直ぐに真顔に戻って、普段の落ち着いた顔でイリアスへ返事を返したのだった。



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 そこはかとなく2への繋がりを作ってみたり(爆笑)ブラウザバックプリーズ