『エルゴの試練1』




新たな仲間を連れ家路を急ぐ誓約者候補御一行。

「同じ世界から召喚された方、ですか」
白と赤のコントラストが美しい巫女装束。
身に着けたシルターンのエルゴの守護者。
鬼神の巫女・カイナがトウヤの説明に相槌を打つ。

「そうそう。すげーちっこいのに、メチャメチャ強いんだぜ」
人懐こい笑みを浮かべてジンガが会話に加われば反応するのは、シルターンの侍・カザミネ。
カザミネはメイトルパのエルゴの試練時に仲間に加わっていた。

「小柄ながら強いとは……拙者、是非手合わせを……」
「止めときなよ、返り討ちにされるから」
言いかけるカザミネに同じシルターン出身のアカネがツッコみを入れ。
ハヤトが「うんうん」と首を縦に振ってアカネの意見を肯定する。

「返り討ちとは! 拙者益々……」
テンションをあげるカザミネにアカネが盛大にため息をつき、それを笑うのが召喚師組。

ロレイラルのエルゴの守護者。
紅の機械兵士・エスガルド。
エズガルドの庇護者で元蒼の派閥召喚師の息子で機界の探求者・エルジン。

屈託なく笑うエルジンをエズガルドが見守り、ミモザ・ギブソンもカザミネの誤解? に溜まらず笑い声を立てた。

「違うよ、カザミネ。 は遠距離攻撃も出来るから、カザミネの近距離系の抜刀が効かないんだ。近づく前に倒されるって」
刀を手に喜ぶカザミネにハヤトが慌て補足説明をする。
「なんと!」
召喚術の三文字にカザミネは眉間の皺を深くした。
「それに は短剣を使うんだ。……剣士でも侍でもないし」
カイナと話していたトウヤが更にカザミネに説明を加えた。
「……無念」
修行の為にメイトルパのエルゴの守護者・剣竜に挑んでいたカザミネ。

更なる修行を求めてトウヤ達の仲間になった経緯もあり。
強者との手合わせが流れたのは(カザミネの一方的誤解だったとしても)残念だったらしい。

「個性では良い勝負よ、貴方と なら」
自信満々に言い切るミモザにカザミネが複雑そうな顔をする。
「そう? エルカは が勝つと思うけど。個性勝負でもね」

澄ました顔でエルカがミモザに言い返し、モナティーが事情をきちんと飲み込んでいないのに「そうですの〜♪」なんて。
手を挙げて元気良くエルカの意見に賛成していた。

「これから会えるけど、試練の場で会ってみたかったな。 君に」
エルジンがゴーグルの位置を直しながらエスガルドに言って、エスガルドも頷く。

「一足先にお兄さん達から卒業しちゃったのよ、彼は」
サイサリスと並んで歩いていたセシルが発言し、サイサリスも重々しい調子で「そうですね」なんて。
短く相槌を打つ。

「兄貴達より一足早く巣立っちゃった、みてーなモンだな」
スタウトが片手で鳥の羽ばたきを真似、ペルゴが苦笑して頭を振った。

「見ようによってはトウヤ達が置いてけぼりだからな」
薄笑いを浮かべたローカスに、トウヤとハヤトは詰まらなそうに口先を尖らせる。

「ううう、悔しいけどその通りかも」
ムッとしたハヤトがぼやく。
ガゼルが凹むハヤトの背中をバチッと叩いて、何時もと変わらぬ口の悪さでフォロー。

に信頼してもらってんだ。ハヤト、ウダウダ抜かすなよ」
頬を膨らます歳不相応のハヤトをアカネがからかい。
ミモザやエルジンも加わって騒ぎは益々大きくなる。

「……」
ハヤトの社交性が遺憾なく発揮されている間。
トウヤは元気のないクラレットとカシスを心配そうに見遣っていた。





世界の意思=エルゴに認められたトウヤ&ハヤト+仲間達。
シルターン・メイトルパ・ロレイラルの各エルゴの力を得るべく試練の場へ旅立つ。

「気をつけてな」
「行ってらっしゃ〜い」
「けが……しないでね」
「お土産宜しくっ!」
上から順に、 →アルバ→ラミ→フィズの見送りの言葉。

「うん、気をつけて行って来るよ……って、えぇええ!?  、行かないのか?」
フラットの子供達の見送りの言葉をナチュラルに流し、ハヤトが答え絶叫。
一人騒がしいハヤトの背中を背後に居たサイサリスが容赦なく押す。

「うわわわ……」
ハヤトはバランスを崩して床へダイブ。
フラットの廊下と仲良くお友達になったハヤトの頭を が撫でる。

「自分の問題は自分で解決できるであろう? 僕はハヤトとトウヤの結論を信じて待つだけだ。お守りの時間が終わったとも表現できるがな?」

ぽむぽむハヤトの頭を撫で、 が感慨深く遠くを見詰める。

普通は逆なんじゃ? なんて疑問を抱いたが、ハヤトは大人しく頭を撫でられた。

「トウヤも、無茶はせずに頼りになる……か、どうかは分らぬが。ハヤトと協力し、事にあたるようにな?」
騒ぎを聞きつけて駆けつけたトウヤにやんわり注意を促す。

の台詞に当惑した感情を一瞬顔に走らせ。
それでも普段の笑顔に直ぐに戻り、トウヤは微笑んだ。

「うん、分かった」
さり気にハヤトを無視。
トウヤは と玄関先から出て、フラット前の道へ降りる。

支度が済み、残りメンバーを待つ仲間達を背後に を抱き締めた。
トウヤと の抱擁に、モナティーとガウムが恨めしい視線を抱き合う二人へ向ける。
混ざりたいらしい。

「街を護る。バノッサの暴挙を止める。その為に力を求めるトウヤの決断を、僕は信じる。だからこそ共には行かぬ」
トウヤの耳元に、 は信頼の気持ちを押し込める。

フラットに人が増え、慌しくて言えなかった の本心。
試練に向かうと決めたトウヤとハヤトを信じる気持ち。
帰ってきてから伝えるのでは遅いので、無理矢理に今伝える。

……」
驚いてトウヤは顔を動かし の瞳を覗き込んだ。

「異界に飛ばされなければ、互いに近所の人間として過ごしていたのだろうが。トウヤもハヤトも僕にとっては自慢の兄だ。兄の考えを尊重すると言っている」
横柄な態度は変わらない。
悪戯っぽく輝く の瞳が試すようにトウヤを見詰める。
「じゃあ、頼りになる弟にフラットを任せておきたいな」
の意図を察してトウヤが答える。
「安心して試練を受けられる。バノッサが動き出す気配はないけれど、心配だからね」

信頼には信頼で。
と一緒でないのは残念だけれど、信頼してもらえるのは。
頼ってもらえるのは嬉しい。

異界の慣れない生活の中、懸命にハヤトと のフォロー役を努めようと努力してきたトウヤだ。
努力が報われた気持ちになる。

「任せておけ。僕は兄の期待を裏切らないぞ」
当初より格段に表情が豊かになった は屈託なく笑う。

「ああ、分ってる」
言われなくても分かっている。

言葉を飲み込み、トウヤは短い言葉で応じる。

が約束を一方的に遺棄しない性格なのは知っているし。
何より表裏のないキャラだというのも嫌と言うほど見てきた。

良くも悪くも正直な が自分達を振り回しながら教えてくれた大切な事。
 
 綺麗事だけじゃ何事も解決しない。
 でも欲張りでも構わないんだ。
  が教えてくれたから俺は欲張りになる。

 俺はバノッサを助けたいし魅魔の宝玉もなんとかしたい。
 城も、街も。世界の結界も。

 全部なんとかしたい。
 だからエルゴの試練を受ける。

 居場所を与え、迷子の俺達を助けてくれたフラットの皆の為に。
 俺とハヤトを信じてくれる街の仲間の為に。
 信じて待つと言ってくれた の為に。

リィンバウム風の家族風ハグを交わすトウヤと

「俺、仲間外れ?」
漸く玄関から脱したハヤトが目の前の光景をみて肩を落とし。
「うにゅうぅ!! トウヤますたーはズルイですのぉっぉおぉ〜」
「キュキュウー!!!」
地団太を踏み悶えるモナティー・ガウムコンビやら。

「巣立ちかしら? あれ」
相も変わらず騒がしい、トウヤ・ハヤト・ の周囲に首を捻るミモザの隣で。

「保護者二人から巧妙に逃げた風にも見える」
冷静に観察していたラムダが現状を上手く言い当てる。

「どちらにせよ策士ですね、 さん」
最後にスウォンが感嘆の声を漏らした。

外野が勝手に言いたい放題の中、互いの気持ちを確認しあった とトウヤ。
混ざれなくて拗ねる一部をなんとか騙し騙し、試練の場所へと旅立って行くのだった。




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 登場人物も流石に増えますね〜。この頃のカザミネさんはハジケてなかったな。ブラウザバックプリーズ