『炎情の剣3』




は冷淡な瞳を湛え、剣を交えるレイドとラムダの顔を交互に眺める。

 どっちもどっちだな。
 愚か過ぎるぞ、汝等。

 死ねば片付く問題でもあるまい。
 そもそも思想を成し得ずに勝手に土台だけ作って死に逝くは失礼ではないか。
 フラットの仲間にも、アキュートのメンバーにも。

背後で召喚魔法の炸裂する音と、誰かの悲鳴が上がっているが無視。
立っているのも疲れたので、地面に体育すわりをしてレイドとラムダの一騎打ちを観戦中。

「ユーウー!!! 思う存分説教していいから、その二人を止めろ〜!!」
離れた場所から へ向かって叫ぶハヤト。
の喜ぶツボを心得てきた辺り、ハヤトもこの生活で成長している。
はハヤトの言葉に笑顔で応じ、無色のサモナイト石を取り出した。

「召喚!!」
真っ白な光が の手元を覆い、光が消えるとあるモノが の手に収まる。

「せいやっ」

 ばっちこーんっ。

怒号や悲鳴が響き渡る沼地に、小気味良い音が二つ。
沼地で戦っていた全員の耳に届いた。

続いて剣が地面へ落ちる金属音が響き。
最後に男二人の呻き声が。

「愚か者。レイド、仲間の想いも考えず勝手に一人で先走るでない。ラムダ、思想の為に犠牲を払うなど無理がある。汝が一番理解しているであろう」

後頭部を抑えてうずくまる騎士二人。
滅多にお目にかかれない珍光景に、全員が戦いの手を止めマジマジと二人の騎士を見詰める。

「時にラムダ。 召喚術を無くしたとして、街が元に戻ると本気で思っているのか? 人々がアキュートに感謝すると思うのか? 答えよ!」

有無を言わせぬ の問いかけにラムダは固まった。

の台詞は耳に痛い。
ラムダ自身が何度も自問自答してきた事でもある。
アキュートの活動をしながらずっと感じてきた疑念でもある。

 ふん。己で矛盾を察しておきながら、過激派に転ずるなど百年早いわ!
 子供じみた意地ならばここで我が斬って捨ててやるに。
 心しやれ。

「召喚術の利便を知った民衆から召喚術を取り上げる。それだけで、圧政がなくなると。絵空事を信じるのか否か。正直に答えよと言っておる!」

は声を張りあげ、ラムダがヒクリと肩を揺らす。

「いいか? 仮に汝等が革命に成功したとしよう。貿易はどうする? 生活水準の確保はどうする? 政はどうする? 人々への説明はどうする? 領主の立場はどうする?」

矢継ぎ早に放たれる の問いにラムダは答えない。

「革命を起こせば終わるわけではない。革命後の方が寧ろ忍耐強く事にあたらねばならぬ。分っていてメンバーを率いておるのか?
責任は果たせるのか? そんな甘い考えで一騎打ちを受けてたつなど……百年早いわ!! この愚か者め!!」

が一気に畳み掛け、もう一度召喚した武器。

お笑い番組でお馴染みの『ハリセン』でスッパーンとラムダの頭を叩く。
小気味良い音が響き、近くに居たレイドが目を瞑って音の恐怖をやり過ごした。

「下らぬ一騎打ちは止めだ。召喚師の存在を考慮し、時には利用する逞しさを持たぬか。良いな?」
ハリセンを構える が説教を締め括ると。
驚くべきことにアキュート兵から歓声と拍手が巻き起こる。

「カリスマだ」
戦いが終わった。
そんな空気が漂う中、トウヤが呟く。

「仲直りをしろ。そこでこの件のラスボスが出るに出れず、困っておるではないか」

固まって動けないラムダとレイドを立ち上がらせ、 が木の陰のバノッサを指差す。

「……なんだ、手前ぇらが潰しあうかと思ったのによ」
出鼻を挫かれつつも自分のペースに話を持っていくバノッサ。
かなーり恨めしそうな視線を に送っている。
の放った台詞が、バノッサの本心を言い当てていたたからだろう。

「鋭い勘だな、
精神的に立ち直ったレイドが感嘆の言葉を漏らす。
「いや? ラスボスというモノは最後に登場するのがセオリーだからな」
無表情に戻る の返事に? マークを頭に浮かべる生真面目騎士・レイドとラムダ。

「あー、そうかもな」
達の居る場所に移動してきたハヤトが、なんとも呑気に同意する。

「RPGの敵役王道パターンをバノッサは地で行くタイプだ。間違いない」

だから心配している。

とまでは言えずに、 は言える部分だけを声に出した。

余裕たっぷりのバノッサは常と違い。
の中では予想範囲だったが、召喚術を操ってみせ。

結果炎に巻かれるフラット・アキュートメンバー一行。
一頻り高笑いを響かせたバノッサが落ち着いた頃合を見計らい、 は考えをラムダ達アキュートメンバーへ告げる。

「炎を斬るか。道は我等召喚術を扱える者で作る。直接攻撃に長ける汝達にはバノッサを撃退する役を任せたい」
昨日の敵は今日の友。
ラムダの返事を待つ に戸惑うアキュートメンバー。
「でも……」
セシルの困惑した声。
「アキュートの行為は褒められたものではない。が、汝達の性根までは腐っておるまい? こうなったらとことんだ。無血革命を目指そうではないか! 付き合うだろう?」
確信に満ちた の誘いにラムダが始めて笑みを見せた。
「ふっ……俺を説教しておいて買い被るか。面白い」
岩棚では遠慮の欠片も見せなかった

どういった心境の変化なのか。
ラムダは純粋に興味を持った。

「簡単だ。汝がレイドの故知だから、だぞ? 以前に『誰かを助けるのに理由は要らない』と言ったこともあるが、それは時と場合による。
あの時は僕の面倒を見てくれた、フラットの災難を見過ごせなかったからな」

アッサリした の発言にペルゴとセシルが口を開けて固まる。

「故知でなければ容赦なく斬り捨てた。覚悟もない者が呑気に一騎打ちなど言語道断。覚悟を振りかざすなら、罠でも張ってレイドを殺すくらいしないでどうする?」

の発言に今度はレイドが凍りつき、ラムダは同情の眼差しをレイドへ送った。

「甘いのだ、所詮。汝等は心底街を嫌ってはおらぬ。領民に絶望してはおらぬ。
だからこそ一線だけは護っておったではないか。己の胸に掲げる誇りだけは。僕はその心意気を買うと言っている」

煙に巻かれているのに、堂々たる の態度は周囲の者を落ち着かせている。

察したアキュートメンバー達は互いに目配せし。
初めて心の底からの笑顔を とフラットのメンバーへ向けた。

「敵わねぇな、チビ。そこまで覚悟があるなら俺は付き合うぜ?」
まずスタウトが両手を挙げて万歳。
不器用に片目を瞑ってみせる。
「悪くないな」
ラムダが剣を構え直しバノッサの立つ方角へ剣先を向けた。
「大した御方です」
ラムダに倣い槍を構えるペルゴ。
「ふふふ、君が言うと本当になりそうだから不思議だわ」
セシルは呼吸を整え、炎の壁向こうのバノッサを見据える。

は唇の端を持ち上げ、赤いサモナイト石を取り出す。

「行くぞ! クラレット・カシス・トウヤ・ハヤト!」
「「「「了解」」」」
魔力値が一番高く、尚且つ召喚術と相性が良い面子。
全員が炎の壁の前、横一列に並んでそれぞれにサモナイト石を手に握った。

「誓約により汝の力を借りん! 鬼神斬!」
まず の召喚した鬼神が炎の壁を切り裂く。

「お出で! ペンタ君ボム」
更にカシスがボムを投げ放ち爆風を持ってして炎を散らす。

「「召喚!ロッククラッシュ!」」
トウヤとハヤトがすかさず隕石群を招き、割れた炎の間に岩の道を作り上げた。

「行くぞ」
大剣を掲げたラムダを先頭にペルゴ・スタウト・セシルの順に岩の道を走り出す。

「雑魚が! 群れてどうにかなると思ってるのか!」
剣を横に構えるバノッサと、バノッサを護るように周囲を固めるオプテュスメンバー。

「思っているからこそ戦えるんです! パラ・ダラリオ召喚!」
最後にクラレットが霊界の強力な瘴気を放つ悪魔の骸を呼び出し。
悪魔の瘴気に当てられたオプテュスメンバー達が、次々に麻痺していく。

「確かに道は預かりました」
言ってペルゴがリーチの長い槍でバノッサの剣を受け止め。

セシルは後方でストラを発動。
スタウトは手早くバノッサの後方に回り込み。

ラムダはバノッサの真正面へ立ち、強力な威圧で彼に召喚魔法を発動する隙を与えない。

「群れるからこそ強いのだ」
ラムダの放った強烈な一撃が、バノッサの剣をへし折り。
武器を失ったバノッサは血走った瞳でトウヤとハヤトを睨みつけ、去って行った。




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