タイトル『バノッサの妄執2』




 クラレットは本当は黒い!!!!
 やっぱり黒だったんだ〜!!!

ハヤトとトウヤはアイコンタクトを交わし、互いに意思の確認。
カシスとキールはクラレットの素に顔を引き攣らせている。

「ふふふふ、これで心置きなく出来るものv」
を抱き締めてハグハグ。
ラミのクマヌイグルミよろしく、抱き締めてご満悦クラレット。
誰も口を挟めずにいる。

「お姉様って、実は可愛いモノ好きだったんだぁ……」
「ああ、そうらしい」
兄妹はクラレットを傍観。
を助けようともせずにちゃっかり冷静に観察中。

「そうじゃねーよな」
「そうじゃないぜ」
遠巻きにクラレットと を眺め、ガゼルとジンガが囁きあう。
その間も助けを求める の視線が広間に飛ぶが。
誰もキャッチしようとはしない。

 むぅぅうう。
 クラレットは矢張り底知れぬ何かを持っておるのか!?
 誰も助けに来ぬとはどういう了見だ!!!

ぶすくれる と対照的に『邪魔したらどうなるか、分ってますよね?』オーラを噴出するクラレット。

「……世界に平和が戻ったら、十二分に堪能させてあげるよ。クラレット」

こうしている間にもオルドレイクは魔王召喚の儀式に着手している。
兎も角時間がない。
蒼の派閥議長・グラムス氏が敢えて引いてくれた意味がなくなってしまう。

トウヤは悪い意味で高鳴る心臓を叱咤して、クラレットへ意見を述べた。

「そ、そうよお姉様! 世界平和の後ならどうとでも」

 こうなったら自棄!

とばかり、カシスは を人質ならぬ物質として差し出すこと決定。
クラレットに暗に含ませて訴えかける。

「なっ……汝等、我の神権(恐らく人権と言いたいらしい)を軽んじるでないわっ!」
察しの良い は顔を真っ赤にして拳を振り上げた。が、
「いやー! 世界平和あっての家族団欒だよな、な? キール!」
アハハハハ。
なんて白々しいハヤトの大声にかき消され。
「(家族団欒??)あ、う、うん。クラレット、まずは彼の暴走を止めなくては。結界が壊され、リィンバウムが異界の侵略に曝されてしまう」
ハヤトに振られたキールが義理堅く、クラレットの説得に当たる。

それで結局。

「ここが迷霧の森だよ」
地理に聡いキールを先頭に、誓約者一行は森を歩く。
留守番したかった を全員で拝み倒し、クラレットの機嫌も取って。
少々時間を食ったメンバーだが、概ね順調に目的地へと進路を進めている。

「……のう、キール。見事に囲まれておるが、面倒故速攻で追い払って良いか?」
クラレットと並んで(強制)歩きながら、 がキールの背中へ声をかけた。
森の木々を駆け抜ける人の気配と、人ではない気配。
殺気と悪意がこちらへ向けられている。
「ああ、構わないんじゃないかな?」
さらっと聞いた に同じくさらっと答えたキール。

ノンビリ歩いていたアカネとカザミネが揃ってコケた。
カイナとエルジンが「やっぱりクラレットと血が繋がってる」なんて小声で喋り合う。

「では遠慮なく」
ニッコリ笑顔で懐から銃を取り出す

不気味な静けさを誇る森に、銃声と野太い悲鳴ばかりが延々と木霊した。
数分も掛からぬ早業。
立ち枯れた木々だけが倒され、障害物となる岩も砕かれている。

「ふむ。早々に姿を見せぬか。勘違いして撃ってしまいそうだ」
言いながら、ドスドスドス。
きっちり三発ぶっ放し が咎めた。

「「「や、撃ってる! 撃ってる!!」」」
ガゼル・ジンガ・エドスが揃って突っ込む。
三人の声を無視した が更に銃のトリガーに手をかけた所で、見覚えのある面々が顔を出す。

「悔しいがお前達には借りがある」
眉間の皺も額の青筋も健在。
サイジェント顧問召喚師・イムランが用件だけを切り出した。

イムランの横にカムラン・キムランの順に並び立っている。

「華麗なるわたし達の召喚術で、道を塞ぎましょう」
カムランがレェエスのハンカチ片手にすまし顔で、 達がやって来た道を示す。

「任せて置け。時間稼ぎくらいにはなる筈だ!」
ニカッ。
白い歯で笑ってみせるヤ○ザ、基、ファンタジーとドス担当のキムラン。

「その様だ。蟻のように湧く雑魚に時間をかけている余裕はない」
森の周囲は黒い霧に囲まれ、不気味な静けさを醸し出しているが。
サプレスの力がより強くなっている。
目指す場所の先が紫色の光を放ち始めた。

「儀式が……始まるのかもしれない」
キールが紫の光を見詰め、焦って言う。
その間も 達を取り囲むように人や、そうでないものが何処からともなく湧いていた。

「任せたぞ?」
唇の端を持ち上げる に。
「それはこっちの台詞だ、ガキ」
金きり声を上げ反論するイムラン。
呆れるカムランに宥めるキムラン。
三兄弟に道は任せ、走り出したキールを先頭に全員が全力疾走。

遅れそうなエルジンをエスガルドが担ぎ、体力のない召喚師組ミモザ・ギブソンは顔を赤くして走る。
やがて全員の視界に石造りの建物が飛び込んできた。
「ここで儀式をするつもりよ」
岩の入り口。
見張り兵を短剣の柄で強打して、カシスが最前線組を手招き。

「りょーかいっ!」
アカネは元気良く返答し真っ先に飛び込む。
続いてカザミネ・ハヤト・ジンガ・ガゼル・イリアス・ラムダ・セシルといった直接攻撃メイン組が。

「気合はいーけど……」
慌てて後を追うのがトウヤ・ギブソン・クラレット・キール・エルジン召喚組一部。
その召喚組一部を追う、ローカス・エルカ・モナティー・ガウム・スタウト・ペルゴの召喚術も使える組。
タイムサービスに押しかける主婦さながら。
内部へ押しかけていった。

「ふむ。どう見るエスガルド、ミモザ」
岩の建造物から立ち上る紫の光。
天を貫く勢いのソレを中心に、空が黒い何かに浸食されていた。
指差す の言葉にミモザとエスガルドは空を見上げる。

「恐ラク、りぃんばうむノ結界ヲ貫ク魔力デアロウ。さぷれすノ魔王ヲ召喚スル道標ノヨウナ物ダ」
「そして、魅魔の宝玉があの光の源。つまりバノッサの精神が、それだけ歪められてしまっているという事」
エズガルドが説明し、ミモザも追加の補足説明を加えた。

その間に、細く狭い入り口をカシスとカイナが召喚術で破壊。
遠距離攻撃のサイサリス&スウォンが弓矢で背後からの援護にあたる。

剣戟の音に混じって、バノッサのちょっと追い詰められた風の高笑いだとか。
オルドレイクの己を過信した調子の演説だとかが聞えてきて。

「世界を作り変えたとして、本当に満足できるものなのか? 分らぬな」

自分に合わない世界を作り変える。
自分勝手な理論だが、オルドレイク本人は至って真面目。
ぶっちゃけ真剣でもある。

心理を理解できない訳でもないが、そこまで世界に拘る気持ちが分らない。

ぼやく の姿にミモザはニンマリと笑った。

「そりゃぁ、ね? 子供と違って大人は色々よ。理不尽だからって世界を変えたいと、わたしは思わないけど。
なまじ能力があるだけに、思いついちゃったんじゃないかしら? クラレットが言っていたみたいに、可哀想な人よね」
エスガルドが銃を持ってスウォンとサイサリスと共に援護へ回る。
ミモザだけが の隣に残りのんびり言葉を交わす。

「人間と違って神にも色々有り、苦労が絶えぬのだがな」
ミモザの顔色を窺いながら が軽い口調で呟けば。
ミモザは一瞬だけ度肝を抜かれた顔をして、それからズレた眼鏡を直した。

「あら、教えてくれちゃったりするの? 自分から」
手にした召喚用具。
分厚い本を指先で叩いてミモザは敢えておどける。

「我が正体を知っている者は何名かおるぞ。ただ蒼の派閥は我が知らぬ団体だったからな。汝等を信用する以前の問題として明かせなんだ」
ミモザの探りを無視。
は普通に返事を返した。

「我は汝等が云う、名も無き世界の神だ。護るは異界との壁、即ち結界だ。最近我が護りを壊し世界から人攫いを働く輩がおってな。頭を痛めていたのだ」

目を細め が太さを増す紫色の光の帯を見据える。

「召喚師の仕業と、リィンバウムの結界の疲弊。加えてサプレスのエルゴ不在が重なった結果だとはな。こちらに来て見なければ分らないとは、我もまだまだだな」
誰かの悲鳴と、クラレット・キールが声を荒げた怒りの声が。
建物内部から聞えてくる。

「エルゴの王が作った結界も、恒久的ではない……わたし達召喚師の慢心ね」
ミモザも仲間達が戦う声を聞きながら応じ、その身を入り口へ向けた。

「英雄は遅れてやって来るものでしょう? そろそろ行かない?」
器用にウインクしたミモザ。
は黙って身体の向きを変えた。




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 トウヤとハヤトは大真面目に主人公してますけど、夢主は傍観?? ブラウザバックプリーズ