『蒼の派閥2』




眼鏡をかけた愛嬌のある女性。
名をミモザと名乗った。
「さっきから聞いてたんだけど、ボク、凄い頭のキレね」
男の変わりに の真正面へ腰掛け、ミモザはニコニコ笑う。
「この世界の基準がいまいち分らぬ。僕が凄いかどうかは良く分からない」
煽てにのる程お子様でもない。
は大人び動作で肩を竦めた。
「でも召喚術の話題をオープンにするのは感心しないわ。分るでしょう?」
理知的な笑みを浮かべるミモザに は首を縦に振る。
「彼を逃がさない手段としてココを選んだ。短慮だったとは思う」
が己の非を認めればミモザは眦を下げてもう一度ニコニコと微笑んだ。

次にミモザがウエイトレスを手招きする。
慣れた調子で紅茶とクッキーをオーダーし、 と男が飲んでいた紅茶カップを下げさせた。

「ミモザ、汝はサイジェントで見かけぬ顔だが僕に何用だ?」
ウエイトレスが去ってから。
は遠慮なく用件を切り出す。

ミモザは眼鏡奥の緑の瞳を丸くしたが、 の率直な問いかけに笑みを保つ。

「用って言うか、ね。貴方が何者か気になっちゃって」
悪戯の見つかった子供のように、ミモザは小さく舌を出した。
「わたしは蒼の派閥の召喚師・ミモザ=ロランジュ。貴方は只の じゃないでしょう?
他の見習い召喚師の目は誤魔化せても。このおねーさんの目は誤魔化せないわよ?」
だが直ぐに真顔に戻ってミモザも忌憚なく。
己の用件を切り出す。
「だってその魔力、普通じゃないもの。名も無き世界はやっぱり皆そう?」
椅子から上半身を乗り出すミモザに は頭(かぶり)を横へ振った。
「信じるなら話すが、笑われると不快だからな」
未だに自分の正体をフラットのメンバーは信じていない。

姿を明かしたカノンとサイサリスだけが知る己の正体。ミ
モザに素直に語ったところで十中八九笑われる。

妙な確信を胸に は明言を避けた。

「大丈夫、大丈夫! 笑わないから!」
胸を叩くミモザの軽い態度に の確信は高まる。

 笑われるな、絶対。

少し目線をミモザから外した の瞳が馴染みの人物を発見。
相手も の存在に気づいたようで驚いている。

「「どうしたんだよ、 」」
綺麗にハモって問いかけるガゼルとハヤト。
二人の背後に立ったトウヤが の勝手散歩(所謂、行方不明)に気づいて顔を顰め。

見慣れないフードの男は咎める目線をミモザへ送った。

「はぁ〜い、ギブソン。思ったより早かったのね」
ミモザが呑気にフード頭へ手を左右へ振る。
ギブソンと呼ばれたフードの男は、神経質そうに周囲を見回してため息をついた。

「ミモザ、君は今回の……」
「あー、はいはい。分ってますって。ところで、そのボク達が協力してくれるのかしら? わたしの方でも協力者を捜しておいたんだけど」
ギブソンの詰問口調を封じ、 の頭を撫でながら不敵にミモザが微笑んだ。




場所は戻ってフラットへ。
王都ゼラムから来たという蒼の派閥の召喚師。
ミモザとギブソン。

金の派閥とは異なる派閥の趣旨を説明してもらって漸く本題。

「盗まれ物を探して、かぁ〜」
アカネがふんふんと相槌を打つ。
「派閥によって召喚術に対する考え方、違うのね」
妙に感心しているリプレ。

サイジェントで大きな顔をしているのが、あの三兄弟だけにミモザとギブソンの出現は大きな驚きだ。

 真理の探究か。
 世俗と関わらぬのは政治的な干渉が派閥へ及ぶのを、最小限に抑えるためだな。
 思ったより召喚師とは不便な生活をしているのかもしれぬ。
 姉妹の血縁者が申しておったように。

傍観を決め込む はフラットの広間の端で、それぞれの会話へ聞き入る。

「けどこっちも驚きだわ。召喚術って君達が考えるほど、簡単に使えるものじゃないの。それを知識も訓練も無い二人が使うなんて……信じられないわ」
トウヤとハヤトへ目線を向け、ミモザが率直な感想を口に出す。

ミモザの発言にクラレットとカシスが顔色を変え俯いた。
ギブソンは探るような目線で姉妹を見詰め、ミモザにテーブル下で足を踏まれる。

「まずはギブソンを襲った黒装束の連中を探すのが先よ。手がかりになるかもしれない」
ミモザがズレ始める話題を正した。

生真面目なギブソンとは対照的。
大らかで大雑把。
それでも姐御肌であるらしく、ミモザの仕切りには卒が無い。

「ああ、ガゼルが動いてくれている。他の仲間も捜してくれてるよ」
トウヤがローカスとスタウトの名前を挙げ、ギブソンとミモザに説明する。

「やっぱり地理的に詳しい君達に頼んで正解ね」

 ねぇ、ギブソン?

ミモザに足を踏まれて呻くギブソンへ平然と会話を振る。
外見どおり、ミモザは中々の曲者らしい。
ハヤトとレイドが苦笑し合う。

「すんなり見つかってくれればいいんだが」
ギブソンの心配は尽きないようで、落ち着かない様子で広間のテーブルをトントン叩く。

こればかりは待つしかない。
主にミモザの語りで場を繋ぐフラットへガゼルが飛び込んできて、一同は工場地区へ移動。

廃工場の奥へ姿を消す黒装束の男達と、彼等について歩くバノッサの姿。

入り口をスタウトとローカス等アキュートメンバーが固め。
フラットとミモザ・ギブソンメンバーで廃工場へ踏み込んだ。
果たして、望んだ先は光か闇か。

勝ち誇った笑いを浮かべるバノッサに、失せ物を発見して気色ばむギブソン。
ミモザの静止を振り切りバノッサが呼び出したのは悪魔兵。
人とは少々異なる容姿を持つ悪魔兵を前に、負蒼の派閥の召喚師は戦慄した。
「あの使い方を知っているなんて……」
ギブソンが強張った顔のままバノッサの手の宝玉を睨む。
「んな事言ってる場合じゃねぇだろ」
移動を開始した悪魔兵と黒装束の男達。
攻撃を避けながらガゼルがギブソンへ怒鳴る。

ミモザとギブソンを護りながら。
斬り込み隊であるハヤトを筆頭に、アカネ・レイド、ガゼル、トウヤ、エドスが怯む事無く悪魔兵と戦う。

「はいっ」
後方ではスウォンが弓矢を放ち、敵の召喚師の動きを止める。
「……」
は彼等の戦闘に参加せず、じっとバノッサの表情を観察した。

 死相が一段と濃くなっておる。
 もはや避けられぬ道か。

 対照的にトウヤとハヤトの音は煌きを増し一段と高らかに鳴り響く。
 我の出る幕はそろそろ終わりの様だな、これだけ皆(みな)で協力できるのであれば。

は戦闘を最後まで見届けず、廃工場内から気配を消して去る。
「…… 、どうして……」
背を向けた
クラレットが苦しそうな顔をしながら一人呟いた。

出口を固めるアキュートメンバーとローカス。
彼等に合流すれば盛大に驚かれる。
「てっきりこの間みたいにスパーンっとな」
ニンマリ笑ってスタウトが短剣を前後に振った。

この間のハリセン召喚を例えているらしい。
ラムダが渋い顔になってローカスが噴出した。

「バノッサが執着している相手はトウヤとハヤトの二人。僕は問題外らしいからな。余計な口を挟み混乱させるのも無粋であろう?」
淡々と喋る にペルゴとセシルが近づく。
「それはレイドから聞いたけど、でも同じ世界から召喚された同郷でしょう? 心配じゃないの?」
セシルの疑問に は頷いた。

「心配だ。不器用で阿呆で飲み込みが悪くて……元いた世界に不満を持っていた大馬鹿者だ。だが信用している。心配よりも信頼が勝っている、と考えて貰いたい」

自分が先頭に立って二人を振り回すのはお終い。
子育て終了宣言のような の表現にペルゴが小さく笑った。

笑った拍子に槍を取り落とし、慌てて拾上げる。

「本来はあの二人だけが召喚されるところを、僕が無理矢理付いてきてな。僕はオマケだ。標(しるべ)は作った、後は二人の気持ち次第だと思う」

さらっと、実は重要な事をアッサリ告げた に空気が固まった。

「何故今頃、しかも汝等に話すか分るか? 僕は今後汝等とは別の行動を取らねばならん。よってトウヤ・ハヤト・クラレット・カシスのストッパー役を分別ある汝達に任せたい」

ラムダ、セシル、ローカス、スタウト、ペルゴの順に。
全員の顔を見て は用件を静かに切り出す。

フラットのメンバーのように最初からの仲間ではないからこそ。
トウヤ達を客観視できる彼等。
は異界の人間も地球の人間も。
信じようと決意を固めた。

、お前は本当に……何者なんだ?」
全員の気持ちを代表して、ラムダが声のトーンを落として へ問いかける。

「そう言えばフラットの面々に一蹴されて以来、殆ど公に口にしていなかったな。我は地球の結界を護る神だ」
言い切る

工場内の喧騒とは別の静寂が、場を包み込んだ。



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 駆け足で進む? 物語。別名主人公子育て終了宣言をす、の巻。ブラウザバックプリーズ