エピソード0  災難のはじまり

 



真夜中の校舎。

屋上に二つの小さな影。
屋上から見下ろす街のネオン。
煌々と輝くそれは屋上にまでは届かない。
校舎の白い壁を青白く浮かび上がらせていた。

「で、それが例のビンかぁ」
一人の少年がしげしげと。
クリスタルの小瓶を眺めた。
少年の黒髪が微風に揺れる。

香水入れにでも使えそうな洒落たデザインの小瓶である。
年代物なのか所々が薄汚れていた。

小瓶を持つ帽子の少年はうんざりした顔をする。
帽子からはみ出た金色の髪が所々はねていた。
「まぁな。アノ時『穴』を塞いでもらった借りもあったし。断れなかったんだよ」
帽子の少年は、人差し指と中指だけで小瓶を摘み左右に振る。
「一年預かればいいだけでしょ?小瓶がある限り『封印』は完全なんだから、気にすることないじゃん」
他人事全開の黒髪の少年。
にこにこ人懐こそうに笑う。
「あのなぁ? そもそも『穴』を開ける原因は……」
詰め寄る帽子の少年。
黒髪の少年は軽く両腕を持ち上げ万歳。
降参のポーズ。
「ごめん、ごめん。僕もフォローするから」
謝る黒髪の少年。帽子の少年は額に青筋浮かべつつため息。
「お前に義理人情なんて期待する俺が馬鹿なんだ」
「あははは。良く分かってるじゃん」
呑気に笑う黒髪の少年をギロリ。
殺気だった視線でねめつければ、黒髪の少年は真顔に戻る。
「冗談だよ。君は見かけによらず律儀だよね」
大人びた動作で黒髪の少年は肩を竦めた。
黒髪の少年のノリについていけない帽子の少年。

ふーっと。

大きく息を吐き出して身体から怒りを追い出す。
「!?」
突風。

春らしからぬ突風。
帽子の少年が持っていた小瓶が落下。

中庭へ。粉々に砕け散る小瓶。

屋上の手すりから身を乗り出して中庭を覗く二人。

沈黙。

「……割れちゃったね、結構呆気なく」
黒髪の少年は驚きに何度も瞬きをした。
「本当にただのビンかよ」
小さく舌打ちして帽子の少年も呆然。
「でも変じゃない? 僕と君がいるのに具現化しないよ?」
キラキラ光る小瓶の残骸。
眺め黒髪の少年は首を捻った。
「俺の退魔の太刀。お前の六属性の力が同じでないのと一緒だな。あっち風にいう『魔力』がなければアレは具現化できない」
「ふーん」
黒髪の少年が曖昧に相槌を打つ。
「仕方ない。アイツへ連絡を取る。どっちにしろアレを具現化できるには膨大な魔力を必要とする。んな魔力持ちの人間なんざ、まず居ないだろ」
日和見的発言だが嘘ではない。
帽子の少年は額を手で押さえ結論を下した。

やがて屋上から二人の少年の影が消える。


かくして。



本人のあずかり知らぬ所で災難の幕は切って落とされた。


主人公が登場しないOPって個人的には好きです。読んでる人には分かり難いかな、とは思いますが(苦笑)始まりました新シリーズ。最後までどうぞお付き合いくださいませvブラウザバックプリーズ