脳を掠める


セベクスキャンダル。
御影町、わたしの住む町で起きたある事件。

なんとかシステムが暴走してそれで。
そう、それで町が滅茶苦茶になったんだって。
お父さんとお母さんが言っていた。

でもなんだか、そう言うお父さんとお母さんは苦笑していた様に見える。


 子供達も捨てたもんじゃない。


何故かお茶を啜っていたお祖母ちゃんが訳知り顔で言ったの。
なんだかわたしの家族は、事件と内幕を知ってたみたいだった。

事件が起きたのは、わたしが中学一年生の頃。
以来わたしはある一つのビジョンをずっと観ている。

脳の奥底から湧き上がるイメージを。
真っ赤に染まった大地と獣の咆哮。わたしは手に杖を持っていて。
傍らには淡く光る石を持った羽が生えた男の人。

《争いの歴史と共存の歴史。彼女が願った調和の光は粒になって溶け込んだ。同時にあの男の混沌の意志も。人は迷宮を彷徨うだろうか》

わたしの口は独りでに言葉を形作っている。……何言ってんだろう、わたし。

《人の心は奥が深い。故に迷宮を形作る。理性が本能を凌駕出来ぬのと同じだ》

羽を持った男の人がわたしに応える。

《我が身に連なる者達が行く末を見守るだろう。悪くはない明日だと良いがな》
わたしの目の端を、黄金色の蝶が一匹。
飛んで何処かへ消えて行った。