『噂屋ネットワーク?2』



 眩暈を起こしかけて踏み止まる。

は頭上を無視して目の前のPCへ向き直った。

 なんだろう。指先がチリチリするカンジ。
 画面の向こう。
 ペルソナ使いの気配がする。


 やっぱ珠阯レ市ってペルソナ使い人口が多すぎ。
 どうして? 作為的?
 それにこのHPを作ったヒトの執念を感じる。

 悪意? 憎しみ? 少し違うなぁ……。
 冷静さを装っているけど。

 コシタンタン

 タンタン麺……は、違うか。

HP越しに伝わるパオフゥなる人物の意識。
はぼんやり噂の検証をしていれば、誤ってチャットの部分をクリックしてしまう。

 あれ?

《良い機会じゃない。ほら、これ。HPを作ったパオフゥってヒトも居るみたいだし。折角だから聞いてみればいいじゃない。ネットなんだから》

なんとも呑気なソルレオンの提案だったが、 もそっかなんて考えて。
人差し指のたどたどしい手打ちだったが、パオフゥに話しかけることにした。

真昼間。

学校をサボった 以外、チャット上に居るのはパオフゥだけ。

『始めまして。サキです』
チャットなんて滅多にしないが、最低限のルールは知っている。
バイト先でも時折使っているので抵抗は無い。

『蝶が与える不思議な力の噂について知ってる?』
ベタな引っ掛け問題だと思うものの。
のボキャブラリーでは直球勝負が一番効果的。
フィレモンの名前を出さないだけ賢いといえよう。

ペルソナ使いは全てあの空間に呼び出され、フィレモンに問われる。
名前を名乗れるか、否かを。

『蝶? 知らねぇな』
パオフゥの名で返事が綴られる。

『じゃあ去年、御影町と珠阯レ市の境で起きた廃屋爆発事件の噂は知ってる?』
噂も何も張本人が なのだが。
いけしゃぁ、しゃぁ。
すっとぼけて書き込みをする。

『なんでも化け物が暴れたという目撃情報があるらしいな。俺が集めた情報によれば、黒い翼の男が白いスーツの男に飛び掛っていたというが?』

 半分はアタリ。
 ルーを降ろした状態のわたしが、フィレを殴り飛ばしたんだもん。
 あんな馬鹿馬鹿しい事件のオマケでだったのは。
 嬉しい誤算だったけどさ。

正直。噂は所詮噂でしかなく。
噂を束ねても真実には到達しない。
話の断片の信憑性を見極められるかどうかにかかってくる。

 パオ(パオフゥのあだ名・ 勝手に命名)は本物。
 すっごく冷静そう。
 冷静って言うか冷たいのかな?

『検事?』

指は無意識に言葉を綴った。

の頭に浮かぶ言葉の断片。
眼鏡をかけた女性が倒れ血が流れる。
脳裏に飛び込む映像に は下唇を噛み締めた。

 この女のヒト死んでる。もうこの世には居ない。
 かつてパオが見たもの?
 それともこれからパオが見るもの?
 どっちにしても関係はあるんだよね。

『……』
HPを繋ぐケーブルを伝って感じるパオフゥの動揺と静かな苛立ち。

『ごめん。蝶に会ってから白昼夢を見るよ。その人の過去だったり未来だったり。信じてくれなくて構わない。これはサキにしか分らないから』

 わたし、と打ちかけてサキに訂正。
は脳裏に浮かぶ映像を白昼夢と置き換え、パオフゥの出方を窺う。

『新手の新興宗教や占いの勧誘ならお断りだ。ココのルールは読んだだろう?』
取り付く島もないパオフゥからの返事に は微苦笑した。

『違う。祈って解決するならとっくに祈ってる。占って道が決まるなら、とっくに占ってもらってるしココには来ない。夢は寝てから見るモンじゃん』
不機嫌そうに顔を歪めるルーの顔を見上げ、 は長文を時間をかけて打ち込む。

 祈ってなんとかなってたら、祈ってたよ。
 あの(セベク)時に。


『お前、何者だ?』
警戒心? いや違う。
己の許容範囲を超えた人物の出現に戸惑っている。
パオフゥから伝わる意識に はニヤリと笑った。

『サキ。以上も以下もない。肩書きに価値を見出すのは三流がすること』

 あ、でもでも。
 社長とか、会長とか。
 実業家ってコトバには憧れるよねv

 人間、お金があってナンボでしょ。

の頭に浮かぶパオフゥの断片。

検事……検察庁関連なら、恐らくはそれなりに地位のあった人間。
そんな人間が呑気にHPで噂屋など営むだろうか。
カマかけだけは、ルーの指導もあって格段にアップした である。

『……』
パオフゥ、本日二度目の沈黙。
少しやりすぎたかと は内心舌を出す。

『なーんてね。ただの高校生だよ。パオフゥが思うような上等な人間じゃない』
一先ずワンクッション。
は打ち込んだ。

『ただの高校生か。このチャットに来る前に見ていたのは、全て聖エルミン裏番長関連だったな……本人か?』
皮肉気に唇の端を持ち上げるパオフゥの表情が目に浮かぶような。
嫌味の篭った返事。
は小さく唸り助けを求めるべくフォースを見上げた。

《正直が一番ですわ》

 ……理想の自分に助けを求めるのは間違いか。

即座にフォースから目線を逸らして は口を真一文字に結ぶ。

《彼は に興味を持ったようだけど、まだ早い。次回に二人でチャットする約束を交わして今回は明言を避けるべきだな》
腕組みしたルーが淡々と進言した。

 らじゃー。

心の中で右腕を高々と掲げ はルーへ応じる。

『どうでしょーね。噂屋サン。調べてみれば? あ、あとさ。調べて欲しいことがあるならある程度は力になれるよ。気が向いたらチャットに誘って』

ルーが言った言葉をそのまま文字に起こして入力。
負の部分を知るルーだから、少し白々しい返事が云えるというものだ。

『どうやって?』
『噂屋ならチカリン知ってるよね? サキって言えば分かるから。じゃ』
こうして はチャットを終了させる。

 面白いことになりそーだね。
 チカリンに連絡しなきゃ。

《きっと彼は連絡を取ってくるよ。フィレモンの気配がビンビンしたからね》
ニヤニヤ意地悪く笑うルーの予言が当たるまで、あと二週間。

ルーの提案に乗せられる形で知り合った顔の知らない情報屋。
こうして、持ちつ持たれつの奇妙な噂屋ネットワークが出来上がった? のであった。




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