『噂屋ネットワーク?』



 高校進学を果たし、勉学に励む傍ら番長業をこなし。

バイトに勤しむ の情報網は珍妙である。

噂屋チカリンに端を発した情報網は確実に の生活をハードボイルドへ導いていた。
チカリン発端の情報が、大なり小なり の身辺を賑やかにしているのだ。

「ったく、余計な手間とらせんじゃないよ」

手をパンパン叩き は気絶する七姉妹の生徒を見下ろす。

本格的にボコってしまうと弊害も出るので、少しばっかり痛い目を見てもらう。
基本的に平和主義の は相手から喧嘩を売られない限り。
自分から喧嘩を吹っかけてはいなかった。

 一般市民限定で

アーケード街の死角。
人の目に付かない薄暗く汚い路地裏。
腐った食品の匂いが充満する怪しい小道。
は鼻をつまみながら足早に路地から抜け出した。

 もぉ〜。なんなのよ〜。
 わたしを倒して覇権をなんて、どのゲームだよ。
 しかも何時の時代だヨ!
 馬鹿馬鹿しい。

《仕方ないだろう?  は良くも悪くも目立つ存在なんだから。私の若かりし頃のようだな〜》

 ルー、うっさいよ。

肩を怒らせて歩き は心の中の分身に悪態をついた。

《今日はご機嫌斜めだね、我らの姫君は。……と、掛け合い漫才はさておき。そろそろ足場を固めた方が賢明じゃないか?》
の不機嫌を漫才で片付けルーが本題を切り出す。

 足場を固める?

ルーの唐突な提案の真意が分らず、 はアーケード街の端っこで立ち止まった。

《そうさ。小蝿はこれからも我々の周囲を五月蝿く飛び回るだろう。一々振り払っていくのも良いが限度もある。ならばある程度の予防策はとっておくべきじゃないかい?》

 ふぅーん。予防策ね〜。

《大切よ。 が怪我でもしたら家族は心配するじゃない。バイトだって大目に見て貰っているんだから考慮すべきよ》

相槌を打った直後、ソルレオンが会話に乱入してくる。

 確かに。遅く帰ってきても怒られないし。
 勉強さえきちんとすればいいよ、って。
 言われてるし。
 信用してもらってる分、ちゃんとしないといけないかも。

脳内での会話は通行人には分らない。
一人百面相をする の脇を不思議そうに見やり、通行人は通り過ぎていく。

《蛇の道は蛇。良い穴場があると聞いたんだ》
ルーが酷く愉しそうに云った。


珠阯レ市・青葉区。
青葉通りに店を構えるインターネットカフェ『ダブル・スラッシュ』
PCの普及した数年で、めっきり姿を消したインターネットカフェがそこにはあった。

仕切りで遮られているPCスペースに、気だるげにカウンターに膝を着くアルバイト店員。
物珍しそうに左右を眺める にも興味を示さない。

《情報掲示板に姿無き噂屋・パオフゥなる人物がいる。チカリンも注目しているらしい》
が聞き流していた情報をきっちり拾って、記憶。
ルーが にPCの操作を指導しながら、ここへ来た目的を教える。

 へぇ〜。時代もIT化なんだねぇ。
 わたしも歳を取るわけだ。

《どこぞの親父の台詞だ……? 

しみじみ呟く にルーが半ば呆れた顔でツッコむ。
ルーの言葉を聞き流して、パオフゥ本人が解説しているというHPを開く。

「……ゲッ」
辛うじてこれだけの音を漏らし は頬を痙攣させた。

引き攣る、ではない。
痙攣だ。

『聖エルミンを影から支える裏番・向かうところ敵無し』
『求む! 裏番との接触方法』
『春日山高校番長vs聖エルミン番長の結果について』
『聖エルミン裏番長の実力に迫る』

書き込みタイプの噂掲示板。
教えて欲しいことや、自分が聞いた話がまことしやかに書き込まれている。
文字検索で『聖エルミンの番長』でトピックスを拾上げた結果に。
は魂を半分飛ばしかけた。

 なんじゃこりゃー!!!!
 わたしはバケモンかぁ――――。(怒)


《間違ってないんじゃない?》
《十中八九》
《そうですわねぇ》
の心の絶叫に、ソルレオン・麒麟・フォースの順に肯定の返事。

あんまりなフォローに、 は衝動的にキーボードを引きちぎりかけて、我に返る。
怒りと動揺に震える手で頼んだアイスティーを口に含み、 は深呼吸した。

 わ、わたしの知らない世界で、わたしが話題になってる。
 これってメチャクチャ面倒じゃない?
 ルーの言う通り知っておいた方がいいのかも。

ある事ない事、ずらずら書き込まれているPC画面。
ぐっと疲れた は額に手を当てて大きく息を吐き出した。

 人の噂は馬鹿にならないんだ……。
 例えその噂がデマカセでも。
 セベクの時にちゃんと実感したつもりだったのに。
 人間って喉元過ぎればなんとやら。
 すぐ忘れちゃうんだ。
 馬鹿かも、わたし。

ガックリ肩を落としながら、他の口コミ情報にも目を通す。

 何事も情報が第一だよね。
 闇雲に歩いてもフィレとかニャルとか。

 あの蝶々ズに良い様に遊ばれるだけだし。
 まったくもって人騒がせな連中めっ。


セベクスキャンダルの時に、フィレモンによりヨイショされ。
ニャルラトホテプにより痛烈な皮肉を頂いた
口先だけの言葉や気持ちほど当てにならないモノはない。

《彼らはヒトを実験動物か何かのように見ていますもの。本当不愉快ですわ》
つらつら考える に同調してフォースも苦々しい口調で言い切る。

 だよね! だよね〜。
 高みの見物ってカンジでさぁ〜。
 フィレの顔一発殴ったけど、あれじゃぁ足りなかったかも。
 ボコってればよかった。

 ちっ。

《……力に訴えるのは宜しくありません。平和的解決が大事でしょう?》
舌打ちする にフォースは控えめに忠告。

《剣よりも強きペン先かい? まぁ、日和見主義者の言いそうな事だね》
フォースの良い子的発言にすぐ反発するのがルーで。
真っ先に冷たい口調で言い放つ。
《辛辣に相手を挑発すれば全てが解決するわけではありませんわ。毒を以て毒を制すなんてなんて時代錯誤な》
応じてフォースも負けてはいない。
丁寧な口調を崩さずに皮肉をルーへ返す。

《……》
《……》
実体化まではいかないが。
の頭上で姿を現し火花を散らすルーとフォース。
手に取るように分って は首を横に振った。




Created by DreamEditor