『正義の味方志願』



  、中学三年の最後の晩冬。

二月。
自主登校期間になってバイトも始めて。
途中、バイトを変わって二月も終わろうかという月末。

の噂だけを聞きつけ挑んできた馬鹿を逆にノシた後、 はギガマッチョでCDを視聴していた。

「う〜ん……」

お気に入りのバンドのベスト盤か。
気になるニューフェイスのシングルか。
限られたお金を有効活用する為には悩む所である。

ヘッドホンから流れる歌声に は真剣に迷っていた。
そんな を棚影から熱く見詰める少女が一人。

。どうやらあちらの少女が、なんだか貴女を熱く見詰めていらっしゃいますわよ?》
フォースが気を利かせて へ教える。
は僅かに眉を顰め、パーカーの上着からコンパクトを取り出す。

たまきに紹介してもらった探偵事務所バイトの必須アイテム。
というより、喧嘩を避けるための必須アイテム(城戸指導)。

鏡を後方に向けて様子を窺えば、 と同い年か少し小さいくらいの少女が瞳を輝かせ に熱視線を送っている。

 ……ウザッ。てか面倒ごとの予感。

肌黒の瞳に映える白い服。
イマドキ流行のコスプレらしい。
金に近い瞳と白い髪。
どう色を変えているのだか不明だが、彼女の奇抜な衣装を一層際立たせている。

《まぁまぁ、敵意は感じませんし。話をしてあげれば満足するかもしれませんわよ?》
逃げの体勢に入ろうかという を、フォースが引き止める。

 や、そんなホトケゴコロ出しても多分意味ないし。

心の中でフォースに反論してから、そろーっと足先を出口方向に向ける

《分かりませんわ》
弾んだ声を上げてフォースは実力行使に出た。

「そこの貴女、どうしたの?」
声音だけは の声を真似て。
姿を隠したままフォースが声をかければ、少女は顔を輝かせて に走りよって来た。

 フォースゥウゥゥ!!
 ……今の裏ワザ、卑怯っすヨ!!


内心涙を流す真似をして は諦めのため息を吐き出した。

 きっと。あの時、城戸っちを引き止めたけどさぁ。
 城戸っちもこんな心境で立ち止まってくれたのかな〜。

 親の心子知らず(結構用法間違い)だヨ☆

「あ、あのっ!」

 がっしと の手を握り少女はどもりながら叫ぶ。
少女の大声に店内の客や店員の視線が に集中した。

「外、行こっか?」
顔は笑ってるけど目はぜんぜん笑ってないネ☆(これは麻生直伝) をしっかり決めて、親指で店の自動ドアを示し。
は見ず知らずの少女を脅したのだった。

ギガマッチョを出てると、ゲームセンターのムー大陸や、若者向けのショップが並ぶセンター街。等等。

夢崎区は比較的高校生や若い世代が集う活気ある区だ。
少女の腕輪を掴み有無を言わせず歩く。

適度な雑踏から程近い路地裏。
腕組みして は少女に物問いそうな視線を送ってみた。
以前に城戸と麻生がやっていて、密かに憧れていたのである。

「あのっ、あのぅ。わたし! 正義の味方として戦う使命を負う、聖エルミン番長二代目?  の話を聞いてどうしても会いたくて」

上着の両端を手で握り締め、上目遣いに を見る少女。

「? 正義の味方? わたしが???」

 しかも番長二代目???

普通逆だろう。
犯罪はしないが降りかかる火の粉は容赦なく払っている。
相手の突出した感情を感知できる為に、上辺の謝罪は見抜けるから。
そのような輩は問答無用で成敗している
あくまで自分のバイトや自分に関わる部分でのガチンコ喧嘩で、別に誰かの為にという心意気はない。

小首を傾げた に少女は何度も首を縦に振った。

「はいっ。女の子なのに強くて、尊敬されてて羨ましいです」
「……そう? まあ、いいわ。えっとなんて呼べばいいの?」

 貴女って言うキャラじゃないよね、この子。

結構失礼な事を考え、 は少女の名前を聞いた。

「イシュキックですv 転生戦士イシュキック!!」
喜々として自己紹介した少女・自称イシュキックに は引く。
気分的には一キロ位超ダッシュで引いた。

 わ、わたしがグライアスだって浮かれてた時もケッコー、変だったろうけど。
 イーちゃんはわたしより凄い。凄すぎるよ〜。

「じゃぁ、イーちゃん。憧れを崩すようで悪いんだけどね? わたしは正義の味方でも、なんでもないよ? 単純に短気で喧嘩早いだけ」
成るべく穏やかに穏便に。
イシュキックへ はこう諭した。

 ああ、元気な麻希ちゃんとエリーさんの気持ちが分かる。
 一方的な理想を押し付けられるとアイタタタってカンジ。
 自分的に。

の返答に不服なようでイシュキックは頬を膨らませる。

「表向きは喧嘩でも、本当は悪を討つべく地道に戦って」
「ないから」
言い募るイシュキックの言葉は即行で否定。
苦い顔をする にイシュキックは目に見えてしょんぼりした。

「わたしは選ばれた戦士として、使命を果たさなきゃいけないんです」
イシュキックは上目遣いに を見上げ、左右の人差し指を合わせては離すを繰り返す。

「勤めなんです、戦士としての」
拗ねた顔のイシュキックに は大きく息を吐き出した。

「イーちゃんがどういう立場か、ちゃんと分ってあげられないけどさ。命を懸けてまでまっとうしなきゃいけない『使命』なら、無理してやんない方がいいよ」

ポルターガイストにうっかり殺されかけた経験を持つ

好奇心や中途半端な使命感だけで燃えていると、痛い目を見る。
イシュキックの話に興味を示さない。
そんな が珍しいらしい。
イシュキックは穴が開くほど の顔を見詰める。
の言葉に嘘がないかどうか。

「死んじゃったらそれまでっしょ? 無理しないほうがいーって。正義の味方する時間があったら遊んどきなよ」

 ぽむぽむ。

はイシュキックの頭を二度ばかり撫でて、じゃーねぇー、なんて。
煙に巻く捨て台詞を残して早々に立ち去った。(手に負えないので逃げた

「……」
 
暫しポケーっと の背中を見送っていたイシュキック。
我に返って両手を組み恍惚とした表情を浮かべる。

「わたしを心配して(微妙に違う)、危険に足を踏み入れるなって忠告してくれたんだわ。でもわたしは戦士、戦う宿命を背負う者!」

 ぐっ。

握りこぶし片手に決意も新た。
イシュキックは。

 やっぱりあの人は伝説の裏番『裸番長』の二代目。
 ( に言っていたら問答無用で成敗された危険をこの子は知らない)
 見習わなくてはっ!

と、思ったとか。
後日面白い場所で再会する とイシュキックだが、 の拳骨(ペルソナ使っているのでとっても痛い)を貰うとは。
想像も出来ないイシュキックでした。



Created by DreamEditor