『波打ち際と美少年?? 後編』


 人生は一期一会。

つまり一度会えば早々滅多に二度と会うことがないから、多少の暴言はオッケーだよね(意味間違い)の信念の元、テキトー且つ素で言いた放題。

の毒トークをすっかり気に入った様子の美少年。
名前を黒須 淳(くろす じゅん)という。

「強いね、神崎さんは」
並んで砂浜に座り淳は薄っすら笑っていた。
の名前だけを聞き、なぜか引き止める酔狂な美少年である。

「ノビノビしていて、自信に満ち溢れていて楽しそうだ」
羨望が混じる淳の台詞に は肩を竦めた。

「それは、黒っちの主観。わたしは黒っちが思うほど良い人じゃないし、自信もないし。楽しくもないよ。
皆そうだよ。毎日笑って愛想を振りまく人気者だって、いっつも楽しいわけじゃないもん」

の脳裏に浮かぶのは、タレントとして活動する上杉。
直接の面識はまだないが、彼の葛藤は伝え聞いている。
天職についたからといって毎日面白可笑しいわけではない。

さり気に目上らしい黒須を、『黒っち』呼ばわりする横柄さは の地である。

「そうかな」
歯に衣着せぬ の言葉に、笑顔を崩さずニコニコ。
淳は妹とでも喋っている調子で、主に聞き役に回っている。

「そぉーだよっ!! 辛いや苦しいがあるから、楽しいって気持ちが分かるんじゃん。親切にされたことがあるから、親切に出来るんじゃん」

言って は口先を尖らせる。
淳は伏せ目になって自嘲気味に顔を歪めた。

「そうかもしれない。……でも、辛いことや苦しいことばかりを、長い間味わっていると心が麻痺してしまわないかな?
麻痺した気持ちで過ごす毎日は、とても色褪せて見えるよ」

小さな小さな声。
淳は顔を歪めたまま抱えた膝に顎を乗せた。
のアンテナが、淳の言葉を彼の本音だと察知する。

 絶望ばかりを味わう毎日かぁ〜。
 黒っち、やっぱハッコーの美少年? 熟成発酵中
 実生活も。

 うっし。

 人生相談を引き受けるには、まだまだだけど。
 何事も挑戦だよね〜。
 ええい、言っちゃえ! 言っちゃえ、わたし!!
 イチゴイチエだ〜!! ←使用間違い。

チラリと淳の顔を盗み見て は低い声で唸った。
の頭の中で麒麟がぶつくさ言っていたが、それもシカト。

思い立ったが吉日。
有言実行。
冒険を体験して逞しく? なった は考えを実行に移す。

「自分が変われなきゃ世界は変わらないの」

懐かしむ。
あの時の自分へ想いを馳せ は静かに喋り出した。

「変わらない毎日。良い子でいようと思えば、思うほど身動きが取れなくてさ。辛くて苦しくて。なんで世界はこんなに意地悪で冷たいんだろうって、そう思えてくるの」

の哲学(というより、実体験に基づき下した一つの結論)に、淳は聞き入る。
自分と重なる部分があるからか。

ざざーんという、波の音がバックミュージック。

青白い月の光を浴びて肩を並べて座り込む二人。

「本音を喋れる友達が居る訳じゃないし。家族にだって全部話せるわけじゃないし。結局わたしって一人ぼっちじゃんとか。ちょーっと拗ねてたりもしてた」

与えられるだけに、与えられるだけを享受していた毎日。
それが自分で選んだ自分の人生だと思っていた。

「でも本当は違う。世界は常に変わらない。世界を、毎日が変わった! っていう生活がしたいなら、少しはさ。
自分から手を伸ばして『欲しいよ』って。ワガママ言って、喧嘩売ってカットウしないと。自分が変われないと世界は変わらない。
自分は変わらないで、周りを変えようなんて……ちょっとゴーマン。カリスマって言われる人だって、自分の全てを相手に受け入れさせてるわけじゃないだろーし」

口調はあくまでかるーく、ゆるく。

「なーんてさ。言うほど簡単に自分を変えられたら苦労しないけどね〜」

 うんうん。麻希ちゃんの例だってあるし。
 命がけじゃなきゃ変わらない何かもあるしね〜。

アヤセ直伝のマシンガントークをかました はすっきりさっぱり。
基本的にお喋りっ子なので、言いたい事を主張して気分は晴れ晴れ。

 フヒーv 満足〜vv

一人充足感に浸る と、考え込む淳。
訪れる沈黙と寒さ。
淳はどうだか不明でも、 には裡に四人も別人格を飼っている( 的ペルソナ解釈)ので沈黙は苦手ではない。

《言うなぁ? ジュケンが終わったからって気が大きくなってないか?》
感心した調子でありながら、少々の皮肉交じりなのはルー。

《まったく。相手が自分より弱そうだと強気になるんだから。そのクセは直しなさいって、言ったでしょう?》
育ての親代わりソルレオンからは、お小言を。

《率直な言質だとは認めるが》
はっきり言い過ぎだとは言わずに、言葉を濁す麒麟に。

《迷い彷徨う者を導くのは、苦労も多いでしょうが。達成感もまた大きいのですわ》
あくまでも の言動を好意的に受け止めるフォース。

「……不思議だ。なんだか神崎さんと僕の知っている人凄く似ているんだ。性別も、性格も違うのにな。
正義感が強くて頑固で決めたら突っ走ってちゃう、大切だった親友に」

過去形で親友を持ち出して、淳は疲れた表情を浮かべた。
世界の違いすぎる人間とで会った時に、戸惑う日本人特有の。

「黒っち」
淳の両手を自分の手で挟みこみ、 はまっすぐ順の揺れる瞳を見据えた。

「いい? どんなに黒っちが嫌がってても。逃げてても。黒っちに関わる色んな人が、実際にこの世に生きていて。黒っちのジンセーに影響を与えたり、受けたりして暮らしてる。
今は遠く離れていても、無関係じゃないよ。
わたしは黒っちのコト何も知らない。知らないけど黒っちみたいなタイプ、居た方が世の中楽しいと思う。
勝手に自己完結して自己否定したら駄目。わたしが尊敬する人からの受け売りだけど」

 多分、美少年スキーの人達には大うけするキャラだっ! 黒っち。

付け加えは心の中だけで。
見ようによっては達観者?  の口撃に淳は呆然。
少しだけ泣きそうな顔で を抱き締めた。
子供が友達に抱きつくように。

「僕は……償いたいんだ。償わせたいんだ。あの人を忘れた皆に、罰を与えたい」

は黙って淳を抱きしめ返した。
お母さん気分で。
数分間。 が抱き締めていると淳の身体が見る間に消えていく。
空気に溶け込むように。

「!? 黒っち!」
消えてしまった淳の姿を捜し が視線を泳がせる。
静かな夜の砂浜。
人の気配はない。

《……あれが犯人だぜ》
唐突にルーが現れ( は未召還)る。
ルーを睨もうとして背後を振り返った の視界を黒い蝶が過ぎった。

「なっ!? ニャル!!!」
ペルソナを発動しようとした をあざ笑うかの様。
黒い蝶も空気に溶けて消える。

「……にゃろ〜、モッタイブッテ!!!(怒)」
夜の砂浜で は拳を振り上げて叫んだ。

事件に首を突っ込んだ がニャルラトホテプもぶん殴るその日は近い。
のを、淳も も未だ知らない。




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