『波打ち際と美少年?? 前編』



 中学三年生。

年明け。
後は卒業を待つばかりの は、珠阯レ市は港南区恵比寿海岸まで足を伸ばしていた。
自身の中に眠るペルソナの散歩の為に。

真夜中の恵比寿外河岸。
寄せては返す波の音。
恋人でもいればそれなりに盛り上がれる場所も。

「夜中。しかも真冬の海……居るのはペルソナ。めちゃめちゃフモー!!!」

波音を聞いて静かに過ごす麒麟と。
砂浜を往復して運動するソルレオン。
月を見上げて長い髪をかきあげる女神フォース。
の背後でニヤニヤしているルー。

四者四様の過ごし方は結構だが引率者は
思わず本音炸裂である。

《寒いのかい?》
愉快そうに尋ねる背後のルーは無視。
は寒さに紅潮する頬を片手で押さえて砂に『の』の字を書く。

「あ〜、メンドー、寒いー、眠いー」
《はい、どうぞ》
愚痴たれる にソルレオンがそっと寄り添う。
ふかふかの毛並みに頬を押し当て は大きく息を吐き出した。

不満は胸に燻っていて、城戸に教わった、同区の廃工場で憂さ晴らしをしようかと考えもよぎるが。
寛ぐペルソナ達の穏やかな雰囲気に御影町から出向いた甲斐がある、とも思う。

 まぁ、わたしがストレスを感じてたんだから。
 皆だってストレス感じてたんだろーね。
 外に出てゆっくりしたいよねぇ。

月へ手を伸ばし透き通る歌声で冬の海を彩るフォース。
彼女の歌声に眠気を誘われ、 は欠伸を何度も漏らしながらウトウトし出す。

去年に受けた内部入試。
入試に向け猛勉強の傍ら、園村に再会できたり。
城戸とも連絡を取り合ったり。
稲葉からは年賀状を貰ったし麻生からはメールを貰った。

《次からは時間を考えましょうね》
《白々しい優しさは時に皮肉になりえる、気をつけた方がいい》
優しい物言いのフォースをルーが茶化す。

フォースは微笑を湛え密かに怒りの感情を瞳に灯す。
との相性は良くともペルソナ同士相性が良いとは限らない。
の光と影を象徴するフォースとルーは何かにつけ衝突していた。

 心の天使と悪魔が睨みあうってカンジ?
 なーんか実際に見れちゃうとアレだけど。

睨みあうフォースとルーを半ばシカト。
視野に入れないよう心がけていたら、ペルソナ達が一気に姿を消した。
ソルレオンに寄り掛かっていた は左半分を砂浜へ。

「……(怒)」
密かに静かにキレた の背後からは砂を踏む音。

 ああ〜? んな時間に散歩かよ!?
 物好きだなぁ〜(自分は除外)

足音の主に毒づき顔を上げれば。

 キタロー??

月明かりを浴びて儚げに佇む美少年。
片目を覆う長い前髪はアレだが、本当に整った顔立ちをしていて。
美少年、という言葉がピッタリ当てはまる容姿と雰囲気を持っている。

 てか手にした花はナニ??

彼から感じるのは微かなペルソナ共鳴& があまり好きではない、混沌を二つ名に持つ意地の悪い存在の気配の切れ端。
根がミーハーではなく、ツイストに捩れた性格の は、深く考えず自分に手を差し伸べる美少年の手を取った。

「こんばんは」
外見から予想したよりは低い声。
上辺の笑顔で美少年は に挨拶する。

「コンバンワ」
左半分についた砂を払いながら、おざなりに返事。
内心では『どっかいけや、コルァ』といった気持ちで。

「夜に一人でこんな場所に居たら危ないよ?」
心配そうに忠告する美少年に は曖昧に笑った。

彼がたまたま自分を見かけて一声かけようとしたのは分かるが。
上辺の笑顔と上辺の人の良さをぶつけられても困る。
見て見ぬフリをして通り過ぎるのが礼儀というものだろう。

「アハハハ……こうみえても護衛術(ペルソナ使って格闘術)くらい出来るから。貴方こそ危ないんじゃないですか? 絡まれ易そう」

見た目が典型的美少年で発するオーラは優しげで。
カモられる典型的タイプに見える。

「絡まれ易そう??」
キョトンとした顔つきで美少年が言った。

「初対面の人に言うのもちょっとだけど。わたしは喧嘩なら慣れてるし、喧嘩の師匠(城戸)も居るから。そーゆう場面ケッコー見てきたけど。
不安そうにっていうか、自分がウッスイ感じで歩いているとカモられるよ?」

珠阯レ市には普段から足を運んでいる。
城戸の勤める会社が近くにある為だ。
近況報告&修行の為に、喧嘩を売られたり買われたりもある。

 ロウバシンって奴だって、城戸っち言ってたしね!
 親切するのは、きっと良い事。だと思うけど。

「……フフ」
目を丸くしていた美少年は小さく噴き出した。
ナニが可笑しいのか嬉しいのか? 酷く楽しそうにクスクスと笑う。

「心配されたの、久しぶりだな。なんだか懐かしいや」

遠い目をして海へ顔を向けた美少年の横顔はとても寂しそうだった。
寂しげな横顔はあの事件当時の園村と重なる。

「君は優しいんだね」
しみじみ美少年に言われ は内心ため息をつく。

 うっわー。麻希ちゃんが薄幸の美少女なら、こっちは薄幸の美少年???
 なーんかビミョーな展開ですヨ。
 鳥肌立っちゃう!!

自分で自分に突っ込んで。
目の前の美少年に素っ気無く告げる。

「自分だってイチオーは、女の子の真夜中の砂浜ポツン、を心配してたんでしょ? それなりに優しいって云えるんじゃない?」と。

美少年は再度目を丸くしてもう一度心底楽しそうに笑い声を上げた。

「それなりに優しい? ……面白い表現だね」
余裕の態度を崩さない美少年に は一撃を与えることにした。

 わーった、わーったから!
 そこで作るの止めなさいよね。
 ウザイから。
 てかこのまま続けるならとっとと帰れ(怒)

「男としての礼儀からか知らないけど。上っ面だけ親切そうに振舞うから」
挑発的に美少年を見上げ は率直に答えた。

今なら麻生が言っていた言葉の意味が分かる。

相手が望む自分を無意識に演じる自分が居る、優しいわけじゃない。

という、かつえの麻生の言葉の意味が。

今度こそ本当に驚いた顔で美少年は の顔を凝視した。




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