『メッティーとの遭遇』



 珠阯レ市。

が最近出没する主なスポットである。

「二代目とご一緒なんてドキドキですぅ〜」
「あっそ」
うきうきする噂屋こと、七姉妹学園新聞部部員。
通称チカリンは満面の笑みを浮かべて の隣に陣取る。

ちなみに制服姿で二人が入り浸る場所はクラブ。
目に悪いミラーボールとシュミの悪い音楽が大音量で流れていた。

 ちっ。
 イーちゃん(自称転生戦士イシュキック)から逃げてたら今度は噂屋かYO

仏頂面でジュースを啜る
酒には滅法弱い は自分を弁えているので、酒には手を出さない。

 てかさ〜。
 酒なんて飲もうモンならペルソナ使ってこの店半壊させてるしネ☆
 流石にこの規模は弁償できないよ。

とかなんとか。
心の中だけで一人ツッコんで嘆息。
お酒は二十歳を過ぎてから。
そんな法律 の頭には存在しないらしい。

の中のペルソナ達が一斉にため息をつく。

「でも顔パスなんて流石ですねぇ〜」
制服姿で高校生と分る二人。
なのに は顔パス。

というより、入り口のお兄さん達は明らかに に対して怯えていた。

「ああ、少し前にボコったからね」
探偵事務所関係のバイトで、逃がしたホシを追いかけてクラブへ。
その時難癖つけてきたお兄さん達をボコった事件は記憶に新しい。
が淡々と言えばチカリンは両手を組み合わせ、目を輝かせた。

「そ、それはどんなシュチュエーションで!?」
情報屋魂に火がついた。
にじり寄るチカリンに気圧されて引き攣った笑いを浮かべる

そんな の視界に珍しい髪型の青年? が。

 メット??
 つうか、この感覚はペルソナ共鳴。
 ペルソナ使い? 外見は美青年。
 といっても黒っちのような儚い雰囲気ではなく。
 ジャニーズの成長して、もう少しワイルドになった感じ。
 あ……フィレの幻影が見えますヨ。
 ってことはフィレ関係者か。

何事にも興味なし。
表面上はそう装う美青年を観察し、 は耳元で騒いでいるチカリンへ目線を戻した。

「ねぇ」
一人熱弁を振るうチカリンへ話しかける。
「ってワケで、私的には……はい?」
片や喋りに喋っていたチカリンは我に返って小首を傾げた。
「アレは誰?」
人差し指で堂々と件の人物を指差して、 はチカリンへ問いかける。

大胆不敵な の行動に目を丸くしたチカリンは慌てて の指を下に下げた。

「い、いくら二代目でも無謀ですよっ」
声を潜めてチカリンは返事をする。
の指差した人物が不審気にこちらを一瞥したからだ。

指を降ろされた は窺うような視線を青年に送るも、青年にあっさり無視された。

「名前は周防 達哉(すおう たつや)。七姉妹学園三年生。百八十一センチ、体重六十八キロ。七月二十七日生まれの獅子座のB型。クールでモテモテですよ」
メモも見ないでチカリンは一気に言い切った。
「……(汗)そ、そこまで聞いてないケド」

 名前だけわかりゃよかったんだけどね。チカリン。

先程とは違った意味で頬を引き攣らせる
チカリンの情報は信頼できるが、プライバシーはどうなるんだとも思う。

「珍しいですねぇ、周防先輩がクラブに来るなんて」
彼は一匹狼なんですよ〜。

チカリンの付け加えた情報に は黙ってうなずき、再度目線を美青年こと達哉へ戻した。

 モテモテ。死語でしょ。
 どっちかって〜と、イケメン? 予備軍ってトコか。
 まぁ関係ないけどさ〜、あの気配はペルソナ使いだからそっち関係で関係アリ。

 最近見るあの映像と関係あるのかな。
 エイリアンに〜、槍に〜。発動する誰かのペルソナ。
 って一回ニャルの野郎を脅しとこうか?

あれ以来接触できないフィレモンとニャルラトホテプ。
心配で探している淳の行方。
絡み合う糸は明確に不吉の影を暗示している。

《暴力はいけませんわ》
の頭にフォースの忠言。

 はいはい、分ってます。平和的会話による対話を継続って。
 ……あの周防っての、何かを捜してるみたい。
 でもね、ココにはないでしょ。

 多分(勝手に決めつけ)。

は何処までも余計なお節介焼き&無責任だった。
もう一度、達哉の目を見る。
見たと評すよりかは明らかにガンつけた。
表情を消してその虚ろな瞳だけを睨む。

「ひっ……」
踊っていた誰かが の視線に気づいて悲鳴を上げる。

見知らぬ少女からガンつけられた達哉はポーカーフェイスを保ちつつ内心は? マークが飛び交う。
初対面の人間に、男なら多少仕方ないものの。
クラブに不釣合いな少女に、睨まれる覚えもなければ筋合いもない。
自分は放火の証拠探しにここに来たのだから。

「おい、周防。お前二代目になにかしたのかよ」
顔だけは見覚えのある誰かが達哉に話しかけてきた。
頻りに からの視線を気にしつつも好奇心が勝ったようで、小声で。

「二代目?」
眉を顰めて達哉は聞き返す。

「し、知らないのかよ!? 聖エルミンの影番張ってるんだぞ、あの人。外見は結構普通だけどなキれるとヤベーって」
顔色を悪くしながら顔だけは見覚えのある男が言った。

 アンタの探し物はココにはない。

同時に。
聞き覚えのない少女の声が達哉の頭に響く。
僅かに目を見開いて驚く達哉の視線の先にはもぬけの殻の席。
つい数秒前まで座っていた『二代目』とかいう少女の姿は何処にもなかった。

達哉が話している隙にクラブを脱出した
成り行きでチカリンと肩を並べて駅まで歩く。

 黒っちからはニャルの影。
 んでメッティーからはフィレの影。
 気に入らない。マジ気に入らない。

 人間使って遊ぶなって言っただろうが、あの蝶々ズめ!!

《……黒須君と周防君の運命はどうでもいいのね。要はニャルラトホテプとフィレモンのオイタが許せないのね、 は》

怒りを新たにする と、 の俺様思考に呆れ果てるソルレオン。

「……」
奥歯を噛み締め が虚空を睨む。
のマジな雰囲気に饒舌なチカリンの舌も本日は閉店。
大人しく隣を歩いている。

《波乱の予感だねぇ》
のんびりとルーが呟くある日の夜。

曰くの『メッティー(未知)との遭遇』

この偶然ではない出会いが周防兄弟の胃を壊していくことになるなんて。
のペルソナには予測できても当の兄弟達には予測できない事だった。




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