『行動が示す肩書き3』



 明確な意図を持ち呼び出されたルーは唇の端を数ミリ持ち上げる。

「行くぜっ!」

 フィレを一番殴る権利を持ってるのって。
 麻希ちゃんか、麻生さん、またはナンジョーさんだしね。

 今回は麻生さん台詞パクリでごー!!!

ペルソナ召還ポーズも真似て はフィレモンを睨む。

『……』
対してフィレモンは節目がちに目線を落としただけ。
の怒りを理解している態度を見せるが。

 誤(謝)ったって許してやんないよ〜!!
 申し訳なさそーにしてたって、過去は取り消せないんだから。
 こっちが受けた数々の屈辱、味わうがいい!

 ↑屈辱というよりかはプライバシー侵害という表現が正しい。
 が、 の日本語は時折オカシクなる。

火に油。
怒りを倍増させた は拳に力を込め、城戸直伝の左ストレートをお見舞いした。

衝撃波が廃屋を襲い、内部から木っ端微塵。
木の板も木片レベルに小さくなり空高く舞い上がる。
フィレモンも派手に吹き飛ばされ、むき出し部分の頬が真っ赤に染まっていた。
これでは屈辱を味あわせるというよりかは、怒りに任せてぶん殴った状態である。

尤も誰も に指摘はしないが。

「わたし達はアンタ達に弄られるのを待ってる人形じゃない。勘違いするな」

ドスの利いた声でフィレモンに話しかける の姿は、ばっちり城戸に被っている。

不安そうな顔で を見守るフォースに、感心した顔つきで を見下ろすルー。
好対照なペルソナを従え は真剣に怒っていた。

「我が名はグライアス。かつて魔獣を戒めより解き放った魔獣王。だけど忘れんじゃないわよ! わたしはわたしとして存在し、わたしの考えで動く。
 世界の調和? 知らないよ、そんなの。調和の為なら誰を傷つけてもいいなんて、そんなの間違ってる。だけどもっと間違ってるのは」

手馴れた仕草で胸元に仕込んであるエルの杖・拳銃バージョンを取り出す。
銃口をフィレモンへ向けて は喋り続ける。

「自分の本質を見失って、アンタ達の手のひらで踊らされてる馬鹿なペルソナ使い&アンタ達だっ!!!!」

 だぁん

見た目は軽い手のひらに収まる拳銃から発せられる発砲音はでかい。
外見に反比例して威力の高いエルの杖・拳銃バージョン。
銃弾は真っ直ぐにフィレモンの仮面へめり込む。

《おや、殺さないのかい?》

成り行きを見守っていたルーが に問いかけた。

口調は激しく怒っていても、フィレモンを狙った攻撃は手加減されている。
が本気で怒り狂えばフィレモンだってニャルラトホテプだって無傷ではすまない。
それだけグライアスの力は強大なのだ。

「ええ〜!? だってコレもいないと、ニャルが暴れんじゃん。わたしがストッパー役になるなんてヤダよ」

 めんどーじゃん。

付け加える にルーはにっこり笑う。

《確かに彼のお守は面倒だな》

一癖どころか百癖もあろうか。
皮肉と嫌味と。諸々の棘をふんだんに用いて人の痛い部分だけを攻撃する彼。
悠長にお守りなんてしていたら、こちらの神経が参ってしまう。
何より の自分の基準で彼を評する言葉が喜ばしかった。

相手のデカさは無視。
自分が信じた道が間違っていても、取りあえずは突っ走る。
駄目だったら間違いを認めればいい。
妙に男気溢れる少女になってしまったが、それも の個性だからいいか。
なんてルーは考えた。

「でしょ」
珍しくルーが分りにくく自分を褒めている。
察して ははにかみ笑った。

《彼の処遇はどうでも宜しいんですけど、如何しますの? この惨状》
ずっと黙っていたフォースが重々しく、 とルーの会話に割って入る。

「参上?」
《……悲惨な状況と書いて惨状ですわ。参るの参上ではありません》
微妙にズレた の認識間違いをきっちり正して。
フォースは残骸溢れる廃屋の成れの果てを指差した。

「あっ……」

燃やしたにしては焦げていない。
どこからどう見ても、何らかの巨大な力で吹き飛ばしました。
そんな風にしか見えない廃屋の残骸。
木っ端微塵に砕かれた廃屋内部の諸々。
眺めて は顔を青くした。

《考えてなかったんだな》
《考えてなかったんですわね》

ルー→フォースの順に意見を貰う。

反目しあう性質を持つ二体のペルソナの珍しい意見の一致に関心する暇もなく。
はフィレモンの存在も無視して右往左往。

「ど、どどっどどどーしよ!? 勢い余って吹き飛ばしちゃったよ〜」
一人後始末に頭を悩ませる

悶絶する を見下ろしルーは企み顔で顎に手を当てた。
そんな闇の仮面をフォースが怪訝そうな面持ちで眺める。

《だったらこのまま知らんフリすればいい。だってそうだろう? アヤセの友達も囲まれる位にヤバい集団だったんだ。彼らが何をしていたかなんて誰も知らないんだ》

一人うなずくルーにフォースが白い目線を向けた。

《まぁ! 己の行動に責任を持たずに彼等のせいにするんですの? あまり行儀の宜しい行動とは思えませんわ》

正義感溢れるフォースのコメントに今度はルーが白ける。

「っていうか。廃屋は壊していーって言ってたし。
元もとの原因はこの怪しい集団を作った思想? ていうか、お告げでしょ。それが引き金で、また変な映像が見えるようになったんだから。
セベクの後はぼんやりしか見えなかった映像がハッキリ見え出した。この責任はフィレにあるとわたしは考える。だから後はフィレに任せるワ」

金色の蝶に戻ったフィレモンを一見し は意地の悪い笑みを浮かべる。

「もし拒否ったら、ニャルが世界を壊す前にわたしが直々に壊す」

フィレモンにとっては最大級の脅しだろう。
己達に匹敵する力を持つグライアスが敵対するとなれば。
パワーバランスが崩れてしまうのだから。

『……』
「沈黙は肯定と受け取る」
返事をしないフィレモンに気をよくして は捨て台詞。

 くぅ〜!!!
 一回やってみたかったんだよねv アヤセにされて悔しかった!

一人密かに悦に入る
意気揚々と廃屋があった場所からスキップで去って行った。



って段々魔王っぽくなってきたわねぇ》
育て方間違えたかしら? 首を捻るソルレオンに。

《暴君》
微苦笑して麒麟が言い切る。

《明日の新聞がミモノだな》
唆した張本人・ルーは至ってお気楽で他人事。

《……このような事件が新たな事件の始まりでいいのでしょうか》
一人悩むフォース。

 うっさいよ、皆。いーじゃん、これがわたし流なんだから。

方向性バラバラのペルソナ達の意見が頭の中を飛び交う。
は心の中だけで顎先を逸らして澄ました調子で反論した。

今後起こる事件の陰に内心不愉快さを覚えながら。

 やっぱもう三回位殴る! 蝶々ズ!

なんて、決意を固めつつ。




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