『行動が示す肩書き2』



 露骨に嫌な顔をして は蝶を手のひらで叩き落とした。

《……》
ルーが の行動に肩を震わせている。
フィレモンの気配を感じて中へ突入してきたソルレオンに至っては大爆笑した。

「はぁ〜……なんなのよ、モッタイブッテ登場しちゃって。なんか用?」
とても嫌。表情を崩さない に対して、蝶は健気に再び宙を飛び始める。

『この場所に立つことで君が新たな……』
言いかけた蝶を再度手のひらで。
さっきよりも威力を込めて床へ叩き落す。

「あー、はいはい。最後まで言わなくてもそーぞーつくから。
わたしの頭に浮かぶ燃える神社とセーラー服の女の子。
泣きじゃくる仮面の子供達に、明らかにヤヴァイ系の男の笑い声とか。
見ちゃった以上は巻き込まれるって言うチューコクでしょ」

舌打ちして は握り拳に力を込めた。

「てか、人類の進化ってバッカじゃないの? 悪ノリするニャルもニャルだけどさ。人間様はアンタ等蝶々ズの玩具じゃないっつーの」
悪態をつく を尻目にもう一度蝶は舞い上がる。

『闇と光は表裏一体。妄想に取り付かれた彼の暴挙はもう始まっている』
ヨタヨタと舞い上がった蝶が云った。

「ふぅん。セベクの時みたいに。無関係そうで関係アリな人達をかき回して。高みの見物を決め込もうってわけ」
冷静に喋るフィレモンとは別に、 は毒舌全開。
嫌味たっぷりにフィレモンへ言う。

「ある意味、わたしは時の輪から外れた位置に立ってるから。アンタ等も干渉しにくいし、だからこーやってわたしにチューコクしてるんだろうけど。
わたしはわたし流で対処させてもらうからね」

がフィレモンを睨めば、徐にフィレモンは実体化する。
男性の姿は前回と同じ。
仮面は顔を覆うモノから顔半分とちょっとを覆うタイプに。

「前より若返ってる?」
セベクの時に見たフィレモンはどっちかというと『おっさんっぽい』顔立ちだった。
なんだか今見ているフィレモンはあの時よりも十〜二十歳位若返っているような印象を受ける。
は正直に思ったことを音に出した。

《若いなぁ》
の発言を受けてルーが同意。

二人して「そうだよね」《ああ、若返った。若返った。何したんだろうな》等等。

失礼大爆発である。

ソルレオンは静かに の傍らに歩み寄り、纏まりそうもない話を収束させるべく口火を切った。
とルーに任せてしまうと終わる話も終わらない。

《我は魔獣王グライアス様をお守りする第一の僕にして、その後見人。ソルレオンなり。光の仮面を管理する者よ、用件があるならば聞こう》

言いながら尾で床を叩く。

「《 おお〜 》」
堂々としたソルレオンの態度に とルーが声を揃えて感嘆した。

「な、なんかさ。わたしって実は結構エライってカンジ?」
久しく忘れていた。というよりかは捨て去って消し去ったつもりでいる肩書き。
改めて言われてみると案外偉そうで。
は興奮気味にルーへ問いかけた。

肩書きだけは立派だよ》
にっこり笑顔でキッパリ言い切られて。
は頬を河豚の様に膨らませる。

『魔獣王の肩書きを引き継ぐ者よ。君の周囲で発生する事件は一つの糸で結ばれた複雑な物語。君の行動が地球の運命を左右する』
喋り始めたフィレモンにとりあえず向き直って。
話を聞いていた は噴き出した。

「はぁ!? わたしの行動が地球の運命を左右!?」

 どこのゲームだヨ☆

目を白黒させる を他所にフィレモンは大真面目。
本気と書いてマジと読む。
そんな雰囲気のまま話を続ける。

『君は唯一彼の干渉を受けず、独立したペルソナを持つ貴重な存在だ。私が導く彼等をどうか助けてやって欲しい』
苦渋に満ちるフィレモンの声音。
は胡散臭い物を見る目つきでフィレモンを眺め、それから大袈裟に息を吐き出す。

「毎回、毎回毎回毎回。善人面されてもこっちは困るんだよ。わたしは正義の味方じゃないっつーの。迷惑だよ、マジで。分る??」

しゃがみ込んで赤いインクか何かで書かれた魔法陣モドキ。
眺めて は嘆息した。

『君が嫌がるのも分るが、君は強い。その強い心は迷い彷徨う者の道標になる。私は君の持つその光が強いと確信してやまない』
「体験したからだよ」
優しく励まそうとするフィレモンの言葉を はまたもや遮った。

 ああああ、嫌。嫌過ぎる。
 叫ぶさっきの電波男の映像と燃え上がるどっかの建物。
 火の向こうに見える五人組。それから……ミニライブのステージ?
 みたいなのと、海岸。廃工場に不思議な神殿。
 浮島? エイリアン……あり得ん映像ばっかだワ。

次々に頭に浮かぶ映像に は薄すら笑いを浮かべる。
肩書きは捨てた。捨てた事によって戻ってきた肩書きの持つ力。
調和の力がフィレモンに同調して彼が見据える舞台の断片を脳に送り込む。
に拒否権はない。

 寧ろ? 利用させてもらうけど。

奥歯を強く噛み締め、意識を集中させて は頭の中の映像を追い払った。

「出来すぎてるね、今回も。まあ、当事者じゃないわたしがドウコウ云える立場じゃないけどサ。前回の借りをここで返させてもらうよ」
お腹に力を込めて立ち上がる。

不気味な廃屋内に満ちる不吉な未来の影。
断片にしてばら撒いているのは目の前の蝶。
善の化身を気取る偽善仮面。

 どれが正しくて間違ってるかなんて。
 きっちり白黒つけられるコトばかりじゃない。
 わたしは見て学んだ。だから云える。
 ライトサイドのコイツに向かって。

ペルソナッ!!
怒気を孕んだ の呼び声が廃屋に響き渡った。




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