『行動が示す肩書き1』



 秋も過ぎ。

冬もそろそろの12月。

悲しいかな、悲しいかな。
クリスマスイブ。
はペルソナ達と住宅街を思いっ切り外れた、街外れ。
廃屋目指して歩いている。

 くっそ。もっと好条件で引き受けるんだった。

《世の中助け合いですわ》
親指の爪を噛む の隣で女神フォースが満足そうに微笑んでいた。

“サキに頼めた義理じゃないんだけどさ〜”

内部受験を終えた直後。
アヤセからの電話。
浮かない調子で切り出された用件に は逡巡した。

“珠阯レ市と御影町の境に、廃屋あるでしょ? 聖エルミンで噂になった、イカれたオカルト集団が集ってるってヤツ。最初はカンケーないとか思ったんだけど〜。
 なんかさ〜。黒瓜? が言うには、マジマズイらしいんだよね。ペルソナ様に似たような儀式をしてて。魔女を探して狩るっていうハナシらしいんだけどさぁ”

 馬鹿げてるとは思うけど。なんかビンビンくんの。

続けて喋りながらアヤセは受話器向こうの の反応を待つ。

“魔女はべっつに勝手に探せば〜ってカンジだけど。ペルソナ様はマズイでしょ。
 アヤセの友達も集団の被害にあって。魔女に間違えられてタイヘンだったんだよ! 囲まれて怖かったんだって! コラ! 笑い事じゃないよ”

ケタケタ笑う にムッとしながらアヤセは話を続ける。

“という訳で、その廃屋が無ければ集まらないと思うんだよね! アヤセ冴えてるってカンジ? サキならすみやかに壊せるじゃん。だから壊してv”

とたんに受話器の向こうからは大音量のブーイング。
受話器と耳に距離を置き、アヤセは を誘惑すべく魅惑の言葉を口にした。

“お願い聞いてくれたら、麻希に連絡取ったげる。怖くて聞いてないんでしょ? サキのことを麻希が覚えているかどうか。メルアド教えてもいいか、聞いてあげるよ”

静かになった にアヤセはニンマリ笑う。

“沈黙は肯定と取るからね〜”

一方的に受話器を電話に置き。
アヤセはガッツポーズを決めた。



現在に至る。

 うわっ。怪しいつーか、電波系? な人々が居ますよ。
 ナニ? あの魔方陣モドキは。んでもってナニ!?
 あの教祖みたいな怪しいオバーサンは。

廃屋を遠巻きに眺めてから、内部を覗くべく恐る恐る近づく。
立て付けの悪い板の隙間から覗き見た廃屋の中は別世界だった。

《うーん。人様にはそれぞれのシュミがあるからね〜》
形の良い顎に手を当てたルーがひとりごちる。
違うだろ! とは思うが、声を出せば気づかれてしまう。
は頭をガシガシかいて眉間に皺を寄せた。

「ペルソナッ」
小声でペルソナを召還。堕天使ルーを呼び出し、内部へ送り込む。

ざわめき立つ室内に混乱する集団。
カルト集団なら恐らくルーの姿を見て一つの結論しか出せないだろう。
ついでにソルレオンも呼び出して小屋の外から冷気の魔法をお見舞いする。

 凍死しない程度にね!

《心得てるわ!》
親指を立てる にソルレオンもうなずいて応じた。

中では悲喜交々。
ルーの姿に呆然とし魂を飛ばしている女性や。
指差して訳の分らない言葉を呟く中年男性。
正座してルーを拝み出す老人に、悪霊退散とか言っている小学生らしき少女。

《我を呼び出すには対価が必要だ》
俳優顔負けの演技力。
ルーは無表情を作って集団に口を開いた。
内心では大笑いしているだろうに、外見だけ見れば冷酷な悪魔が誤って降臨したように見える。
は笑いの衝動を堪えルーに見えるよう小さく首を縦に振った。

《偶然に我を呼び出したとはいえ、対価は支払ってもらう》
ルーは流れるような動作でリーダー格の老女の頭へ指先を伸ばす。

 うっし! 神経魔法のマリンカリン!!

心の中で が指示を飛ばせば、ルーが廃屋にいる全員に神経魔法をかける。
魅了され己の置かれている状況が分らなくなっている人々。

「ペルソナッ」
今度ははっきり呼ぶ。
女神フォースと聖獣麒麟。

二体に人々の搬送を依頼して、全ての人を最寄の駅近くの公園に運ぶ。
公園に運んでからフォースが状態回復の呪文を唱えて搬送完了。
は人気がなくなったのを確認してから廃屋へ足を踏み入れた。

「!?」
セベク事件時以来、味わっていなかった残像。
鉄格子に佇む青年が不気味な笑みを浮かべて壁へ怒鳴っている。



『ツィツィミトル……星の魔人の電波め! 俺に電波を送ってきやがって! うるせぇ!うるせぇ! 俺に電波を送るんじゃねぇ』

 ……えーっと???

困惑する の目の前で尚も青年は、怪しい単語をばら撒きながら。
一人芝居をこの廃屋ではないどこかで続ける。
この映像が現在の物か過去の物かは分らなかったが。
自分の存在する時間に近い時間軸。
で起こっている現実だと の第六感が告げている。

《イン・ラチケの宣託に、第六段階の新人類ね。イデアリアン? というらしいね》
が呆然とする横に舞い降りたルーが、青年の支離滅裂なぼやきを正しく把握して に伝えた。
は少し口を大きく開けたまま暫し青年を観察する。

 うーん。電波系だけど、エルの杖がメッチャ反応してんだよねぇ〜。
 こんなに杖が熱いって事はニャルの息も掛かってるんだろーな。
 神取みたいに。

危険だ、 は結論付ける。
彼がどこの誰でどんな事件に関わるのか未知数だが。
彼の存在と思考。
及び背後に潜む巨大な闇は危険だと 自身が自分に警鐘を鳴らす。

「電波系だね、見事に」
表情を引き締めて が呟いた。

《何処から見ても電波系だな》
応じてルーも へ同意する。

「とても嫌な感じがする。コイツから火の気配がするの。燃やし尽くす業火の気配。
 火に関連する事件を起こしたのか、起こすのか。分らないけど……これだけの負の感情を一人の人間が持ってるのって。久々に見るかも」
眉間に皺を寄せた の隣。
金色の粉を撒き散らしながら一匹の蝶が姿を見せた。




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