『城戸の遺産』



 実は

高校入学と同時に劇的な変化を味わった一人である。

セベクスキャンダルを通じて城戸達と知り合い。
しかもペルソナ使いとして覚醒し。
魔獣王の肩書きまで持つ女子高校生。
学園に顔を見せた城戸に可愛いがられる を見て。
学園のチンピラ達は考えこう結論するに至った。


 二代目裸番長は彼女だ、と。(一部認識間違い)


しつこいようだが、 はペルソナ使いである。
能力放棄はしていない。
ほそっこい外見に反して腕っ節は強いのだ(ルーを降ろしていれば無敵である)

姉御、と を慕う一派と。
二代目は俺だと息巻く諸々と。

仕方無しにタイマンした結果、 晴れてニ代目裸番長(大いに認識間違い)を襲名したのだった。

「……なーんか、違うと思うんだけどな〜」

アンニュイ。

頬杖ついて は放課後の学園の一角。
図書室でたそがれる。

目の前には七姉妹学園・通称セブンスの情報通。新聞部の上田 知香(うえだ ちか)。
通称噂屋チカリン相手に、何故かインタビューされていた。

「なにがですか〜?」
机に広げたノートに二代目に突撃いんたびゅーとかなんとか。
ペンで書き込みながら、チカリンは に言った。

「いや〜、城戸っちとは仲いーけど。別に騒ぐほどじゃないんだよ?」

 しかも裸番長ってマジで呼んでたんなら。
 逆に城戸っちにボコられてたんじゃないかな〜。

呑気に物騒な場面を想像しながら がぼやく。

同い年とあってチカリンとは直ぐに打ち解けた。
は苦笑してチカリンへ反論する。

たまきに紹介された探偵事務所のバイト。
思ったより面白く危険で。
だが、 のペルソナ能力は大いに活用されていた。

ぶっちゃけ、夜徘徊するチンピラ相手に暴れたい放題(酷)だったのである。

街の情報通、チカリンに目をつけられてしまっても致し方ないのだ。
の知らないところで。

「ふっ、ふっ、ふっ〜。わたしの情報収集能力をナメて貰っては困りますぅ〜v」
不敵な笑みを浮かべてチカリンは懐から、一枚の写真を取り出した。

すっと差し出される写真を一瞥し、 は顔色を変える。
写真にはガラの悪そうな聖エルミン生を拳一つでのしている の姿が映っていた。

 ヤ、ヤッバー(大汗)な、なななな、なんで!?
 闇に葬ったはずの、クラブで暴れた馬鹿をノシた場面が撮られてんの〜!!!
 しかも真っ暗な場所でボコったのに〜。(←悪知恵バージョンアップ)
 しっかり撮れてるって、どーなってんの〜。

心境はムンクの叫び。

固まった の反応に勝ち誇った笑みを浮かべる、チカリン。
勝負あり、であろう。

「強かったですね〜、ねぇ? 二代目」
満面の笑みを浮かべてペン先を へ突きつけるチカリンに。
はもう笑うしかなかった。

「さてさて。本題に入りましょ〜、普段はどう過ごされているんですか?」
好奇心丸出しのチカリン。
瞳はキラキラ輝き期待に満ちている。

「えっとね……期待を裏切るようで悪いんだけど。知り合いの事務所の、電話番のバイトしてるの。だからゲーセン行ったり、クラブ行ったりはあんまりしてないよ」

 喧嘩(学園の先生方にバレる程度の大きなの)もね。

心の中だけでひっそり付け加え。
が事実を話せる部分でありのまま。
答えればチカリンは少々不満そうに頬を膨らませる。

「えぇえ〜??? 本当ですかぁ〜??」
疑うチカリンの視線に鉄面皮で応じて、 は「本当デス」と。
超棒読み口調で返事した。
チカリンは腕組みして暫く考え込んでいたが、挑発的な視線を へ送る。

「分かりました。噂屋チカリンの名にかけて、調べ上げて見せますっ!」
「やっ、調べなくていいから……」
なんだか燃えてきたチカリンに裏手でツッコむが、チカリンの耳には届いていない。


 困るよね。たまきさんとか、所長とか。
 ただしさんとか、ただしさんとか、ただしさんとか!!


の脳裏に浮かぶは探偵事務所の面々。
そつのないデビルサマナー・たまきと所長はマシとして。

ハードボイルドに憧れるただしは要注意だ。
人当たりは良くて親しみやすい人なのだがノリが良すぎる。
良過ぎてトラブルを招くこと多々。


 パンピーなのに逞しいんだよね、ただしさん。


ある意味尊敬。
バイト先の人々に思いを馳せる を、チカリンが現実へ引き戻す。

「ではでは。質問の趣旨を変えます! ズバリ、裏番を張る上での秘訣は?」
喜々として問いかけるチカリンに、 は目を丸くする。

「裏番張ってるつもりはないんだよね、なんていうの? 自然にそーなってたかというか。なんというか」

曖昧な答え。
チカリンは納得しないだろうなぁ〜、なんて考えながら が答えれば。
案の定チカリンは不満顔。

 このまま質問されて答えても。
 ペルソナ能力を前提として話できなきゃ、会話的に成り立たないでしょ。
 不毛だよね〜、ウロチョロされると動きづらいし……。

は唸り声を上げて数秒間だけ真剣にシンキング。

《譲歩案を出して互いに利益を得たら?》

悩む の頭にソルレオンの提案が。
は何度か瞬きをしてニンマリ笑った。

 さんきゅー、ソルレオン!!

「そうだなぁ。目で見て確かめた事実を胸に仕舞っていてくれるなら、チカリンの他の取材に力になれる、かも」
含みを持たせて が言う。

要は。


 喧嘩とかの現場目撃しても、黙っててくれればイザって時に他で口をきくよ?


という、タイヘン分かり易い勧誘である。
意表を突かれた顔のチカリン。
鳩が豆鉄砲食らった顔でキョトンとしていたが、直ぐに笑顔になった。

「成る程〜、そうきましたか」

 にっこり。

の提案に敏感に反応してチカリンも笑う。
城戸の遺産から発生した不名誉(?)な の二つ名。
意外な場所で意外なパイプを作るのに役立ったのだった。




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