『お兄さんは掲示(刑事)』



 最近は平和だったのに、今日に限ってわたしピンチです(涙)


 バイト帰りに顔見知りのシンパ?
 仲間?
 のヤンキーと話していたら、妙にスーツの似合うお兄さんに声をかけられました。
 その色サングラスしてるオニーサンは、オニーサンはっ!

 こともあろうに掲示だったのです!!! (正しくは刑事)


蜘蛛の子を散らすように消えてしまった顔見知り(ヤンキー)、後でメールをしておこう。
内心想いながら顔を上げれば目の前には、刑事だというオニーサン。
眉間に皺がよっているので、彼が立腹している印象を受ける。

「君、名前は?」
警察手帳? 黒い小さな手帳を取り出して刑事は に問いかける。

「名前?」
警察に名前を問われる筋合いはない。

夜遅い繁華街に佇んでいれば、遊び目的の少女と見られても仕方がないが。
こっちはバイトの帰りである。
が不機嫌丸出しで刑事に疑問系で答えを返す。
刑事の眉間の皺が深くなった。

「すみません、わたしバイト帰りで必ずココを通るんです。しかもこれから家に帰るんですけど」
電車の回数券を刑事の顔面につきつけて は静かに反論する。
自宅と聖エルミンとは違う電車の路線なので、バイトに行く時はお得な回数券を利用していた。
毎日バイトに行くっているわけではないので、こちらの方がお得である。

「バイト?」
刑事が首を傾げた。
「はい」
返事を返しながら、 は刑事を前に見かけたことがあると思った。
正確には刑事に顔立ちの似た誰かを。

《ほらほら、イーちゃんに追いかけられて。チカリンと一緒にクラブに行った時、会ったじゃない! メット頭の青年!》
必死に思い出そうとする を見かねてソルレオンが横槍を入れる。

 あー!!! はいはい!
 あん時のワイルド一匹狼青年に似てんだ!
 親戚かな。

刑事の顔を が凝視すれば、視線に気づいた刑事が物問いそうに を見返す。

「やっ、あの、親戚の人とかいませんか? この間商店街で見かけたんです」
咄嗟に話を逸らせば、いきなり刑事のテンションが上がった。
クールでいかにも警察というような硬い雰囲気しか醸し出せないこの刑事が。
「達哉か? 達哉を見かけたのか!? 何処で? 何時ごろ??」
がっしと の両肩を掴み興奮する刑事。

 見た目と中身が違うじゃん、このオニーサン。
 あっついなぁ。

刑事に身体を揺すられながら はまったく違うことを考えていた。

「七姉妹に友達がいて、彼女が有名だって言ってたんです。えーっと、クールで寡黙で結構人気があるって。だから印象に残ってたんですけど」
チカリンが言っていた言葉を反芻しながら、刑事の質問には答えず。
どうして自分が彼を知っているかを説明する。

クラブで見かけたとは口が裂けても云えないので、場所を商店街に変更しておく。

 せめてもの情けだ。
 達哉とやら。


親類が掲示(刑事)だと遊べないよね。
等と は他人事。

「君の友達が七姉妹に居るのか」
を揺さぶるのをやめて刑事は明らかに安堵した調子で胸をなでおろす。

「いや、仕事柄あまり達哉とは会えなくてね。俺は達哉の兄で、周防 克哉」
「職業はケージさん。でも似合わないね、その服装と職業が」
刑事・克哉の言葉尻を奪って が嫌味を放てば克哉は微苦笑した。

「えっと、バイトは葛葉探偵事務所でしてます。なんなら所長に確かめてください。名刺渡しましょうか? 所長の」
定期入れから事務所の轟所長の名刺を取り出し、 は克哉の前でちらつかせる。
「いや、すまない。こんな時簡に出歩いている学生を見ると、つい……」
苦い顔になる克哉から感じる。

 反抗期の息子を抱えて四苦八苦する親父???
 なんでケージさんからこんなイメージが!?
 ああ、弟と仲良くないんだ!
 オニーチャンとしては、弟君(おとうとぎみ)と仲良くしたいんだね〜。

ふむふむ。
克哉から伝わってくる『必死さ』の正体が判明し、 は一人相槌を打つ。

 克兄(かつあに。 命名・克哉のあだ名)も大変だねぇ。

の哀れみの視線を受けて克哉はたじろいだ。
「……? 達哉から俺のことを聞いたりしたのか?」
「いえ。あの雰囲気からして兄弟が居るようには思えなかったんで。すっごく淡々としてて物事に執着薄そうだったし」
が達哉の印象を語れば、克哉の表情は一気に暗くなる。

 表向きはね。中身はタブン、克兄と一緒であっついと思うけどさ〜。
 今知ってもタイヘンなだけでしょ。
 わたしのせいで仲拗れられたらメーワクだし。
 兄弟の問題は兄弟で解決したまえ、なーんちゃって。

無意識に克哉にトドメをさして、ひとりごちる
なんだか一気に沈んだ克哉は の存在を疑問に思うよりも前に。
弟について一人考え込む。

《何か事情がありそうね、この兄弟》
の内側から克哉を観察していたソルレオンが発言する。

 大なり小なりあるっしょ。
 家庭のジジョーってやつ。


言いかけた は目を見張る。


幼い日の克哉と達哉。
燃え上がる神社。
仮面を被った子供達に。
年配の刑事が膝をついて唇を噛み締める様。
薄ら笑いを浮かべる偉そうなどっかの親父と。
翳った表情で父親を睨む達哉。
対照的に悲しそうな顔をする克哉。
キーワードのように何度も登場する燃える神社と放火魔と子供。
脳裏に展開される映像に は顔から表情を消した。

「……」

 にゃろう(怒)どーあってもわたしを巻き込みたいワケ!
 黒っちの行方も気になってるし。
 このまま知らん振りはしないけど。

 ハラ立つ! めっさハラ立つ

 そしてこの克兄も関係者って……なーんかね。

いっそお高いスーツの背中側に、達哉命とかって張り紙してやろうか。
とか、 は考えてしまう。克哉から伝わってくるのは達哉を案じる気持ちばかりだ。

 事件の影が見え隠れして、いやーな予感ヒシヒシ。

うんざりしつつも、 は一言断って。
無理矢理、探偵事務所の名刺を克哉に渡して足早に商店街を抜けて行った。

《あんなに情熱的なお兄さんだったら、さぞや大変でしょうね》
達哉に同情しているのか、ソルレオンが言う。

 確かに。
 彼女が出来ても素性を調べそうで怖いよ、克兄。
 ブラコンじゃないけど、心配性っぽいモンね。

《表向きはクールな兄弟でも。感情が表に出やすいお兄さんと、出にくい弟さん。面白い組み合わせじゃないの》
笑っているソルレオンに、そんな場合じゃないじゃん。
とツッコみたくても、面倒だっので は黙って肩を竦めた。




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