家政婦は見た!?



夜の短冊街。

些細な(?)喧嘩もひと段落。
喧嘩から発展した賭けの重み。

当事者二人と彼等に縁の深い二人。
計四人は月夜の通りに立ち尽くす。

「どうしてです!?その首飾りは……」
言い淀む黒装束の女性。
驚愕に目を見開きもう一人の美女へ歩み寄る。
彼女は伝説の三忍『綱手姫』と行動を共にするくの一で名をシズネという。

「フンどうせ出来やしないよ」
動揺する黒装束の女性に対し落ち着き払っているのは相対する美女。
シズネが付き従う伝説の三忍『綱手姫』本人である。

「行くよ、シズネ」
身を翻し立ち去ろうとする綱手。
「綱手……少しわしと二人で飲み直さないかのォ。久しぶりの再会だしのォ」
綱手と同じく伝説の三忍『自来也』は綱手を引きとめる。
白髪頭が特徴的なおっさんだ。
「……」
綱手は立ち去ろうと一歩を踏み出した姿勢のまま立ち止まる。
「シズネ、お前はナルトと一緒に今晩の宿でも探してくれ」
自来也は呆然と立ち尽くすシズネと、自来也の弟子であるナルトへ指示を出した。

弟子といっても『即席』の弟子で、綱手を捜す旅の間弟子にした。
観が無くもない。

木の葉の『ドタバタ忍者』うずまき ナルト。
意外性NO.1と評される下忍である。

表向きは。

本来のナルトは正反対。素性・性別・実力を隠して暗躍する凄腕の忍。
現在は五代目火影候補を捜す旅の途中。
候補を探し出したまでは良かったが、その後予想外というか予想通りというか。
仕掛けた『ドベ』の演技が災いし。

ある意味必要な、要らぬ『懸け』を背負う羽目となった。

「……ハイ!」
この場に居る面子の中で一番の常識人であろうシズネ。

自分ではどうあっても説得できない綱手の心を、自来也に託す。
大人の機微に疎いのは当然子供で、ナルトはさっぱり状況を理解していない。

ドベの演技を続けながら今晩は早く寝よう。
等とまったく違う事を考えていた。





自来也の提案で二手に分かれた面々だったが。
ナルトが大人しくシズネと宿を探しているかと言えば、否である。

影分身をシズネの傍に置き自身は夜の短冊街へ。

屋根伝いに空を飛翔するナルト。
揺れる金糸に感情が表に出ない蒼い瞳。

見据える先には呑気に手を振るスケスケ青年が一人。
『月夜のお散歩にしちゃ、静かだね? 気配も足音も消してドコ行くの?』
知っていてわざとだ。
金髪・碧眼。
一見好青年風のスケスケ青年はナルトを呼び止める。
「注連縄。わざと俺に気配を察知させて呼び寄せておきながら、とぼけるつもりか?」
ナルトにだけ感じられるようわざと気配を漂わせ。
暗に己を呼び出しておきながら、どこまでも人を食ったような態度を改めないストーカー幽霊。

久々にナルトは殺気を漂わせスケスケ青年、注連縄を睨んだ。

『そんなに怒っちゃイヤンv』

 きゃっv

なんて両手を組んで片足を上げてぶりっ子ポーズを取る注連縄。
ナルトの殺気もなんのその。
まったく怖がらず、注連縄はニコニコ無邪気にナルトへ笑いかけた。

『散歩がてら大人の事情って奴、垣間見るんでしょ?』
ナルトの手首を掴み、問答無用で注連縄はある場所へ向け移動を開始する。
「ちょ、注連縄!!」

 なんでお前が気づいてんだよっ。

『いーから、いーから♪』
注連縄に悟られたくなくて、否定の言葉を発しかけるナルトを黙らせる。

注連縄はナルトの腕を掴んだまま屋根を飛ぶ。
高速で短冊街の屋根を移動する二つの影は誰の目にも止まることは無かった。

『う――ん、スリリングだねェ、ね?ナルちゃんv』

 ポン。

ナルトの肩に手を置こうとして、注連縄は手を下ろすが見事肩透かし。
ナルトにかわされて前のめりにバランスを崩す。

「馬鹿か。あの二人の因縁なんて俺には無関係だろ?」
苛々して注連縄をねめつければ、注連縄は目を細め笑う。
『またまた。お兄さんの目は節穴じゃないからね? 何企んでるかは知らないけど、情報をいち早く握るのが勝利への近道。でしょう?』
短冊街のハズレにある屋台の群れ。
そのうちの『おでん』の暖簾が下がった小さな屋台。
並んで座る自来也と綱手の背中を見つめ注連縄は指摘する。
「……ヤなヤツ」
親指の爪を無意識に噛み、ナルトは苦々しい声で答える。
『飲んでるけど相手は伝説の三忍の二人。気配を殺して相手の会話を探れたら、忍冥利につきるでしょ? 実力を試す上でも面白そうじゃない♪』
「否定はしないけど……」
うんざりした顔でナルトは注連縄の出で立ちを見た。

腰から下に下げるエプロン姿の注連縄は買い物籠まで腕から下げて。
何の真似かと思ってしまう。

『実録! 家政婦さんは見たっ!!』
買い物籠から大根を取り出して、先を自来也と綱手の背へ向ける。
注連縄のドラマ見すぎな行動にナルトは頭を抱えた。
『ナルちゃんの影分身、シズネちゃんにはバレてないみたいだしさ。ここはサクサク情報収集して、この一週間を有意義に過ごせるよう計画を練りましょ〜vv』

この際誰にとって有意義かは不問とする。

大根を振りかざし奇声を張り上げる注連縄に。
エロ仙人からこの五月蝿い口を封じる術を教わっておくべきだったと。
ナルトは心底後悔していた。

そんな外野二人の騒ぎを他所に、ミニ同窓会が繰り広げられるおでん屋、屋台。
「お待ち」
屋台の主が自来也の前におでんを乗せた皿を出す。
「しかし……お前またキレーになったのォ……」
綱手を嘗め回すように眺め自来也は褒め言葉? を口にした。
「……相変わらずだね。言っておくがお前だけは願い下げだからね」
やや呆れた調子で綱手が切り返す。
「フン、わしだってお前にゃ興味ないよ」
数ミリだけ顔を引き攣らせ否定する自来也。

いくら外見が美女と言えど同い年だと分かっている綱手を口説くほど困っていないだろう。
態度から見れば。
そして訪れる沈黙。

「気になるか……」
まず口火を切るのは自来也。綱手の心境を探るように。
「何が?」
「……ナルトだよ」
聞き返した綱手に簡潔に答える。
自来也の言わんとする部分を理解して綱手は素っ気無く答えた。「別に」と。

「それにしちゃー、子供相手に大人気ないのォ。一週間そこそこで、あの術をマスターできるはずがないだろ。あんなの賭けとは言わんの」
どうやら自来也はなんらかの『話題』を持ち出す作戦らしい。
さり気なく綱手の大人気ない賭けの持ち賭けを非難しつつ。
更に綱手の顔色を窺う。
「チィ…」
綱手は小さく舌打ちした。
「何、ヤケになっている?」
「別に、何もヤケになどなっていない」
自来也の問いかけに弱弱しい調子で反論する綱手の背中がとても小さく見える。
大人二人の会話を通りを挟んで向かいの建物。

物陰から聞きながらナルトは首を傾げた。
『……先生、ガマ吉君には気づいてないんだねぇ』
良く見ればおでんやの軒先。
陰になって見えにくい部分にちゃっかり座り込む小蝦蟇一匹。
ナルトの口寄せに応じて登場したガマ吉が高性能マイクを片手に、そこに居た。
「大人のジジョーってのに忙しいんだろ?」
ナルトは無表情のまま薄く笑う。

「また大蛇丸に会うのか?」
自来也はのんびりした口調で本題を持ち出した。ほんの僅かに綱手の肩が揺れる。
「シズネの顔を見れば分かる。奴が、どんな取引を持ちかけてきたかは知らんがのォ」
酒の入ったガラスコップを片手に自来也は喋り続ける。
「結論を急ぐな。それと……一言これだけは言っておく」
沈黙を続ける綱手にはおかまいなし。
自来也は自分のペースを守り話を続けた。
「歴代の火影たちは、木の葉の里とそこに生きる者達を守り。乱世を治め里を繁栄させるというその理想……その夢に命を懸けた」
普段の自来也から想像も付かない真面目な内容の話。
「先代達の気持ちが分からぬお前じゃないだろう。もし……木の葉の里を裏切るようなマネをしてみろ。その時はわしがお前を殺すぞ
最後の一言。
淡々と紡がれる自来也の声音と、自来也の表情が一致していない。

マイクを握ったガマ吉が思わずマイクを地面へ落としかけた。
『うわ〜、いつになく真剣だぁ』
注連縄は緊迫感を吹き飛ばす調子で茶々を入れる。
「明日は雨?」
空を見上げナルトも雲の位置を確かめた。
流石は自来也の弟子達? 師匠の気質を良く理解している。

「……私にはもう関係ないでしょ」
露骨に嫌な顔をして綱手は吐き捨てた。
「身近な者の死を知って何も感じないのは殺戮者だけだ。お前は違うだろ?」
自来也の話題を終わりにしたい綱手を無視して、自来也は尚も喋る。
「お前ほど里の者達の身を案じてる奴はいなかった。あの時だって……」
「その位で説教は止めろ!」
我慢しきれなくなった綱手が声を荒げた。
「どうして」
口を噤んだ自来也。綱手は自来也に言うとはなしに呟く。
「……どうして、あんなガキを連れてきた」
非道く傷ついた表情で綱手は言葉を吐き出す。

文字通り喉奥から言葉の塊を吐き出すように、苦しい顔つきで。

ナルトと注連縄も互いに冗談を言い合わずに真剣に綱手の言葉に耳を傾ける。

「似てるだろ?……年の頃も同じだよ……」
自来也の言葉を最後に綱手は俯き黙り込んでしまった。

『大変だね、大人もさぁ〜』
大根を買い物籠に仕舞い注連縄は考え込むナルトへ話を振る。
「さあね。俺を通して誰を見てるかなんて大よそ想像は付くけど。なんかエロ仙人自分に都合よく話を進めようとしてるよな。気に入らない」
ガマ吉へ合図をし、こちら側へ呼び寄せて。
ナルトは小さく息を吐いた。
『もう少し様子を見る?』
俯き加減のナルトの頭。上を見て注連縄は問いかける。
「いや。シズネが動き出したみたいだ。帰った方がいい」
影分身のナルトからの連絡。

ナルトは空を見上げ、一度だけ綱手の背中。
『賭』の文字を一瞥して闇夜に消えた。

『家政婦さんは見た、だと。この後は殺人事件とか、名家の実情とか見るんだよね〜。どうしよっかな?』
女性週刊誌片手に思案する注連縄と、帰りそびれてしまったガマ吉。
夜の短冊街に佇む。
「悪ノリしすぎじゃがな」
早くナルトの後を追いかけ自分も家に帰ろう。
注連縄の呟きを聞いて、ガマ吉も宿屋の方角へ姿を消す。
『じゃvお兄さんもかーえーろっ』
自称家政夫(偽)さんも一人と一匹に倣って闇夜に姿を消した。


盗み聞きされたと自覚があるのかないのか? 数秒後、盛大にくしゃみをした白髪頭のおっさんがいたとか、いなかったとか。


しっかし本編は…が多い。話の流れを考慮して台詞そのまま持ってきてますけど、少々削ってしまいました。やっと少しコメディー色が出せたかな? ブラウザバックプリーズ