第一印象



短冊街。
門に書かれた街の名前。
門の柱に片手を付き白髪頭のおっさんはため息をつく。
「綱手の奴はせっかちで短気だからのォ・・・」
ぼやく白髪頭のおっさんの隣では、金色頭のヒヨコが手にした風船を派手に割っていた。
「まずは現場に行くか」
一人心地に呟き、新たな風船を膨らませているヒヨコの襟首を引っつかみ。

飛んだ。

「なっ、なにするんだってばよ!」
(ていうか、目立ってるぞ)
唇の動きと実際の言葉が違うのはご愛嬌。
ヒヨコは刹那剣呑な光を湛えた蒼い瞳を白髪頭のおっさんへ向ける。
「固いこと言うな、のォ」
(あの後大蛇丸と取引こそはしなかったが、返答を先延ばしにしたからな。わしらも早く動かないとマズイぞ)

風を切り目的地・・・数十分前までは街の名所だった城跡へ向け高速移動。
白髪頭のおっさんも器用に二つの言葉を使い分け子供を窘める。

因果。
若しくは因縁。

 伝説の三忍と褒め称えられても、人の子。
 感情までは消せないよな。

襟首を掴まれ眼下の景色が目まぐるしく変化する様を眺め。
金色ヒヨコは一人心地に考える。

珍しく焦って城跡目掛け移動をしているのは、伝説の三忍の一人。
蝦蟇使い自来也。
外見こそは白髪頭のおっさんだが凄腕の忍者である。


片やその『伝説の三忍』に襟首掴まれ猫よろしく運ばれ中は、木の葉の下忍。
意外性NO.1と名高い『うずまき ナルト』
だが、つい数秒前。
ナルトは口の動きと実際の言葉が違う下忍レベルでは実行できない芸当を披露した。

驚くなかれ『うずまき ナルト』
素性・性別・実力この三つを隠して暗躍する凄腕忍者。
本来のナルトを知る人間は少ない。
共に行動する自来也は、そんなナルトの『素』を知る数少ない一人である。


凸凹コンビは今漸く。
五代目火影候補綱手姫が滞在するという『短冊街』に到達したのであった。


数十分前にプライバシー侵害も甚だしい、水晶玉を使った覗き。


綱手姫の傷を抉るような大蛇丸の発言。
甘言。
焦った自来也はナルトの襟首を掴んだまま水晶から垣間見た、城の残骸目指して動いた。


「・・・」
城を取り囲む壁上から見渡す城の瓦礫。
自来也は沈黙した。
「・・・」
同じく自来也の隣で立つナルトも呆れ果てた顔つきで目の前の風景を眺める。
「派手だってばよ」
水晶の小さい画面ではあまり臨場感もなかったのに。
こうして現場を目撃すれば、どれだけ派手に大蛇丸が登場したかが良く分かる。
いちいち登場するのに無関係の建物を壊すな、というのがナルトの偽らざる本音だ。
「のォ・・・」
自来也も同感なのか言葉少なにナルトの意見に賛同する。
(どうする?まだ大蛇丸達の気配はしてる。ブッキングするとこっちが不利だと俺は思うけど?)
険しい顔つきの自来也を横目に。
真正面を向いたままナルトは音を立てず口だけを小さく動かす。
自来也は答えず低く唸った。
(しかも言い争ってるみたいだな)
続けて言葉を紡ぐナルトだが、この城を見渡す壁に連れてこられた時同様。
「!?」
自来也に襟首を掴まれ、また街へと舞い戻る。

 どーゆーつもりなんだよっ。エロ仙人。

文句の一つでも言ってクナイでも投げればいいのだ。
しかし険しい顔つきのまま黙り込む自来也の横顔に悪態も胸奥に沈む。

 仲間だからこそ言える言葉。
 云えない言葉。
 非情になりきれない部分・・・?

果たしてエロ仙人に、そんな感傷じみた感情が残っているかは不明である。
けれど自来也の横顔を見てナルトは直感的に感じ取り。
大人しく口を噤む。

「少し時間を潰すか」
ケバケバしいネオンが光る『ぱちんこ屋』
入り口は閉じられているのに、漏れ出す耳を付く音楽。
自来也は感情を表に出さず、ナルトの襟首を掴んだまま『ぱちんこ屋』へ。

 忍は道具になりきれない、か。

スロット台へ向った自来也を見送りナルトは小さく息を吐いた。

遥か遠い昔、もう何年も前の出来事に感じる波の国でのザブザの捨て台詞(戒め)。
心がある以上、感じる気持ちがある以上。
どんなに硬く蓋をしても道具にはなりきれない。

 痛みを無視して平気なフリして誇り抱いた錯覚を胸に、人殺し。
 ね。


なんてことはない。
自分と里の忍達・・・特に大人達とを隔てる壁は案外脆く。
儚く。
ナルト自身が己の立ち位置さえ見失わなければ、大人達はナルト側には入ってこれない。

 アレ?

そこまで考え、ナルトは目線を下へ落とした。
パチンコ台の下にニコちゃんマークのコインが一枚。
ナルトの発見を待ちわびていたかのようにキラリと光る。

 ココにコインを入れるのかなぁ・・・?

暇をもてあましているのはナルトも同じ。
拾い上げたコインを持ち上げ、投入口へ。

 ま、ゲームだしな。

シリアスする自来也は頭の片隅に追いやって。
ナルトは好奇心が命じるままパチンコ台へ座った。

ジャラジャラ〜♪なんて効果音が鳴り響きゲームが始まる。

 せいぜい遅い青春してろよ?

師匠想いのようなそうじゃないような。
ナルトは目まぐるしく動く画面をひたりと見据え、右手で丸い持ち手を握った。





これ以上はないくらいギチギチに膨れ上がったカエル財布。
ナルトは満面の笑みを湛えカエルに頬ずり。
「やっぱお前は太ってる方が可愛いってばよv」
さり気にエロ仙人へ嫌味を言い、ナルトはカエル財布に頬擦りする。
暇つぶしのスロットで負けこんだ自来也は渋い顔だ。
「まさかコイン一枚であれほどフィーバーするとはのォ。ナルトは結構こっちの才能はあるのォ・・・」
「欲がないからな」
口角を持ち上げナルトはニヤリと哂う。
ぐっと自来也は言葉に詰まった。
「・・・と、そんな事より。行くぞ、『ナルト』」
ナルト、の部分を強調して自来也はナルトに注意を促す。

大蛇丸の気配も完全に消え去って。
綱手姫の気配もどこかへ消えている。
けれど綱手姫が、大蛇丸と接触した綱手姫が早々簡単に街から立ち去るとは思えない。

よって綱手姫はまだこの街に居る。

長年の忍としての勘というよりか。
あの二人を知る戦友だからこそ断言できる。

「ほ―――い!」
察したナルトはすぐさま『うずまき仕様』に舞い戻って。
元気良く返事。
自来也は綱手の心境なら必ず立ち寄るだろう。
そう踏んで居酒屋へ足を向けた。


居酒屋・百薬。
「親父ィ!もう一本!」
お銚子を指でつまみ左右に振り。
外見は美丈夫の女性が酒の追加を要求する。
「綱手様・・・飲み過ぎです」
黒い服を見に着けた隣の女性が、酒の追加を要求した女性・・・綱手姫を咎めた。
「う―――」
ほろ酔い加減。
綱手姫は頬を赤くして口先を尖らせる。

そんな居酒屋の入り口向こう。
正に波乱の渦に飛び込まんとする挑戦者二人。

「エロ仙人に任せるから、ま、頑張れよな?」
棘のある励ましと目を細めた独特の笑み。
ナルトの小さな囁きに、自来也は眉間の皴を深めたが勢いをつけて居酒屋の扉を開けた。
暖簾を腕で掻き分け、そらから。
「ん!」
偶然出会いました。
そんな顔で居酒屋の奥に座る綱手姫を凝視する自来也。

結構演技派らしい。

「!」
本当に驚いているのは居酒屋奥に陣取った綱手姫。
「綱手!」
親しげに名を呼ぶ自来也と、「自来也・・・!?」困惑を隠せない綱手の声音。
ナルトも表面上は驚いた顔つきのまま綱手を見た。
「何で・・・お前がここに・・・・?」
ほろ酔い加減の赤い顔を自来也に向け綱手は小さく呟く。
「やっと見つけたぞ」

 はぁ。

大袈裟に息を吐き出し自来也は安堵の表情。
実際に綱手と対面して安心している部分はある。
ナルトといえば初めて見る綱手姫の容姿に興味津々。

 あれが綱手姫、ね。
 術で姿を変えてるって言ってたよな?
 でも本来はエロ仙人と同じ50歳だろ?

 サギじゃん。

綱手を観察しつつも、シズネという名の。
綱手姫に付き従う連れの表情が曇ったのをナルトは見逃さなかった。

「・・・今日は懐かしい顔によく会う日だ」
綱手は両手を組み一人心地に喋る。
「・・・・・大蛇丸だな?何があった?」
途中から慌てて短冊街へ移動を開始したので、仔細までは自来也も知らない。
果たして大蛇丸が持ちかけた『取引』とは如何なるものか。
綱手が自ら語るようなら把握しておきたい。

自来也はカマをかける。

黙りこむ綱手に、何かを訴えかけるようなシズネの顔。
綱手は一瞬シズネを睨みつけ、彼女が口を開こうとするのを止めた。

「別に何も・・・挨拶程度だよ」
素っ気無く綱手は答える。
ナルトは大人の会話についていけない子供そのもの貫き。
運ばれてきた魚を食べていた。

 大蛇丸の取引か。
 あいつ、腕を綱手姫に治して欲しいんだよな。
 腕を治したらやっぱサスケ狙いで木の葉に牙を剥くだろうな、捻りのないヤツ。

もぐもぐ口を動かしナルトは、頭の回転を早くして思案する。
外見こそは『うずまき ナルト』だが観察眼まではナルト仕様ではない。
気取られぬように密やかに。

 でも木の葉としてはカカシ先生を始めとした怪我人を治したい。
 ひいては里の火影として里を守って欲しいと言う『お願い』をする。

 別にいいけどね、俺の人生じゃないし?

 俺からしたら。
 彼女は『俺』を知らないし、俺も『彼女』を知らない。
 エロ仙人や注連縄の情報だけを信頼したくもない。
 俺自身が会って感じた第一印象を大事にすべきだ。

 あいつら肝心な部分説明してないし。

 そもそも、なんで綱手姫ともあろう実力者が木の葉の里にいないのか、とか?
 これはエロ仙人にも言える。
 自身が握る情報が少なすぎる。

ツラツラ考えて自分の未熟さに突き当たって、ナルトは柄にもなく数秒間だけ己の未熟さを痛感した。
今は凹んでいられるような悠長な状況ではないので、すぐに感情を建て直し湖面の表のように感情を沈めたが。

 本当は。カカシ先生やサスケ。
 それに大蛇丸襲撃なんかで怪我した奴らを治療してやって欲しい。
 木の葉の里を『背負う』のとは別に。

これが大人の世界なのか判断に苦しい。
ナルトは自嘲気味に考え、口の中のご飯を飲み込んだ。

「・・・」
綱手のはぐらかせた返答に自来也は沈黙する。
「お前こそ・・・私に何の用?」
綱手は静かに自来也へ問うた。
「率直に言う。綱手・・・里からお前に五代目火影就任の要請が出た」
自来也の落とす爆弾にナルトは器用に食べ物を喉に詰まらせ。
綱手とシズネは同時に目を見張って驚愕した。
「ゴホッ・・・グホッ・・・」
胸をドンドン叩いて驚くフリ。
ナルトは大きく息を吸い込み目尻に溜まった涙を拭う。

 彼女もまた俺みたいに『生贄』になるのか、否か。

相手が伝説だろうが違おうが。
ナルトの斜め前に座るのは人生の岐路に立たされた凄腕の忍。
彼女が選ぶ選択がナルトの将来をも変えるのは必至。

 どいつもこいつも腹に一物か!?

これがナルトの綱手姫に対する第一印象。
自分は半分蚊帳の外だと思っていたナルトが、実は渦中の人間になるのは後数分後。
まだ誰もそれを知らない。


ガ、ガマ財布エピソード無理矢理入れたらとんでもないことに(汗)漸く綱手姫登場〜。ブラウザバックプリーズ