功罪



一頻り騒いでから綱手姫が滞在するという『短冊街』へ急ぐ自来也一行。
唯一自来也に同行を許された木の葉の里の『うずまき ナルト』
風船片手に何処か遠くを見つめる。

『どうしたの〜?』
ナルトと並んで歩くスケスケ青年。
金髪・碧眼。
一見美青年風。

先ほどまで風船を割られて音に驚いていたが、ナルトが急に大人しくなったので思わず口を開く。

(来た)
ナルトは無意識に唇の形だけで言葉を紡いだ。

薄水色の空の彼方。
小さい点がナルト目指して徐々に近づいてくる。
右手で風船を持ち、ナルトは真っ直ぐ前を向き小さい点には無関心を装い歩く。

 チィチィ・・・。

小さい点は鳥の形を取り、事もあろうにナルトの頭の天辺に着地した。

『!?』

 チィチィ。

この周囲では見かけぬ小鳥。
薄茶色の羽を数回羽ばたかせ、こげ茶の嘴を開き囀る。
ナルトは驚きも、困惑もせず頭に小鳥をのせ歩き続ける。

『成る程ね。ナルちゃん抜かりないねぇ〜』
スケスケ青年はナルトそっくりの蒼い瞳を丸くして。
それから目を細め笑う。

一癖もニ癖もある大人達。
信頼しているからこそ自力で『確認』しなければならない事も多々ある。
ナルトは昨日木の葉の保護者に向け、ある『お願い』をしていた。
結果、保護者からの返事が届いたというわけだ。

ただの小鳥の囀りにしか聞こえないが、ナルトの血筋は明確に小鳥の言葉を『理解』している。
無論木の葉に残る保護者もそれを踏まえた上で小鳥をナルトへ送り出したのだ。

ナルトの血筋で『小鳥』の言葉が出来るのだろうか?
木の葉の忍。
ナルトを知る人間へ尋ねたなら殆どの人間は否と答えるだろう。

『意外性NO.1』とか、『ドタバタ忍者』と称される下忍『うずまき ナルト』
到底下忍レベルで出来る芸当でもない。

本来のナルト。
素性・性別・実力。

この三つを隠して木の葉に貢献している凄腕忍者。
九尾の器としての重圧。
木の葉に秘密裏に伝わる血継限界を受け継ぐただ一人の子供。
なるべくして忍となった子供。

『ねぇ?なんで今更綱手さんの情報を強請ったりしたの?』
実は隣のスケスケ青年(人外)あの世から舞い戻ったストーカー幽霊も、ナルトと同じ血筋を引く者。
成仏しそこないとはいえ強い。
当然、ナルトが所有する血筋の力を(状況限定で)発揮できるスーパー幽霊でもあるのだ。

小鳥の情報を一通り聞き、こっそりナルトに問いかける。
(功罪)
頭に小鳥を乗せたままナルトは小さくスケスケ青年に答えた。
『ああ・・・綱手さんの、ね』
複雑な顔つきでスケスケ青年は一人心地に呟く。

《いい、ナル?

綱手様は伝説の三忍として、数多の戦争を潜り抜けた医療のスペシャリスト。
木の葉の里、特に医療班の連中が今でも綱手様を崇拝してるわ。
恐らく例の『カブト』という名の音のスパイも医療班のはしくれ。
わたしが掴んだ情報くらいは掴んでると思う。

あ、話が横道に逸れたね。

綱手様は『今』じゃ常識とされている『四人一組』の小隊の中に、医療のスペシャリストを一人加えるスタイルを考案した最初の方よ。
ナルなら分かると思うけど。これはとても画期的な事なの。
応急医療技術を持たない、ただの戦闘小隊が戦場でどうなるか。容易く想像が付くでしょう?
綱手様は今の木の葉の『四人一組』体制の応用及び発展に尽力された方なの。・・・戦争における綱手様の経歴は・・・》

ただの人間。
忍であっても大抵の人間が聞けばそれは小鳥の囀り。
小鳥の伝言を正しく聞き取りナルトは先ほど『功罪』と呟いたのだ。

同じく小鳥の伝言を聞いていたスケスケ青年が、ナルトの言葉に反応して複雑な顔に。
(注連縄。多分、気のせいじゃないと思うんだけど)
ナルトが傍らのスケスケ青年、注連縄の名を呼び語り始める。
(俺の脳裏にいやーなヤツの顔が浮かぶんだ。気が進まないけど、きっとこれからソレに遭遇するんだろう。アイツが喋る言葉が伝わる)
誰、とは明言せずに下唇を噛み締めるナルト。
注連縄も誰なんて尋ねる愚行はおかさず、黙ってナルトの呟きに。
音もなく動く唇を注視する。

普段なら『ウザ』とか斬り捨てられる行為だが、ナルトが注連縄を咎める気配はない。
(綱手姫が伝説の三忍になったのは。数多の戦争経験が彼女の提案を作り上げる土台となったからだと。そのスタイルを確立させるにあたり、幾人もの犠牲を払ったからだと)
ナルトの抱える血継限界『天鳴(あまなり)』
自然にこよなく愛される血筋でもある天鳴の力。
ナルトが無意識に危惧する事柄を、まるでナルトの為に覗き見したかのよう。
相手に気取られぬよう密かに探り、ナルトへ伝える。

血に目覚めたばかりの幼いナルトに伝えられた『負』の感情。
お陰でナルトは天鳴の力を封印しなければならなかった程だ。

今なら幾分冷静に己に飛び込む情報を整理できる。
ナルトは落ち着き払った態度で、自然がナルトへ伝える映像を口に出す。
音なしで。
(人は何かを失って初めてその物事の本質に気づく)
伏し目がちにナルトは目線を地面に落とし最後に唇を動かす。
最後の言葉に注連縄も口を噤み大きく深呼吸。

誰も彼も何かを失いすぎている。

 ナルちゃん、天鳴のソノ力はもう怖くないんだね。

頭にのった小鳥は、更に保護者の伝言を伝えている。

元気でやっているか、とか。
木の葉の里の近況とか。様々に。
姉御肌だと云われる彼女らしい言葉と気遣いでナルトを慮っている。

 お兄さんにしても。
 耳に痛い台詞だな〜、誰の発言かは薄々分かるけどねぇ〜。

躊躇いがないわけじゃない。
功罪、という点では己だって綱手姫を責められたモンじゃない。
オマケに彼女の絶望をより深くしてしまった一因も担っている。

 事前に相対するターゲットの情報を、自分から探すのは良い傾向と思っておきますか。

沈みがちになる己の心を叱咤して。
注連縄は、この話題に思いを馳せるのを中止した。
『ね・・・』
(カカシ先生もそうなのかな?)
心持ち注連縄を見上げる様に顔を持ち上げ、ナルトは唐突に尋ねる。
『カカシ君?』

 はて?そんなに繊細な子供だったっけ!?

さり気にかつての教え子に対する認識が酷いのは、きっと大切なナルトの口から名前が飛び出してきたせい。
注連縄は低く唸って腕組みした。
(サスケも。エロ仙人も。ジジイも)
顔を真っ直ぐ進行方向に向けなおして、ナルトは一人心地に呟く。
(大切だと思う何かを潰してきたから。潰されたから。忍で在り続けるのかな?在り続けたのかな)
注連縄は瞠目した。

里の功罪。
忍は因果な商売である。
人の命を容易く奪い里を維持し、里を繁栄させる。

一方でごく当たり前の生活が里で営まれ。
第三者を助ける依頼も請け負う。
正義の味方であり闇に潜む死神でもある。

『難しい質問だね』
実際自分が在りし日は。
表立った争いはなかったものの、それなりに里同士の『権力争い』は存在したし。
注連縄自身も戦った記憶がある。
大切なもの等両手を使っても数え切れないほど『失った』
『空気みたいにあると、それが当たり前だって思っちゃうのは忍だけじゃない。人は皆、そういう錯覚を抱いて生きているんだと思うよ』
真摯に考え注連縄はナルトの疑問に応じる。
『知り合いが皆無事で忍やってる。なんて言える忍、木の葉には居ないんじゃないかな?お兄さんもそうだし、ナルちゃんが知ってる忍。皆そうだと思うよ』
ナルトは沈黙を守り注連縄の言葉に耳を傾ける。
『痛みは人それぞれ。大なり小なり、皆『何か』を失ってそれでも尚忍をしてる。
失って胸は痛むけど・・・痛むから今度は失わないように。今度は守れるように。
光に向って身を広げる木の葉のように真っ直ぐに。自分を励ましてるんだよ』

 きっとカカシ君もね?

最後の言葉は口の中に押し込み、注連縄は言葉を締めくくった。
別に自分が愛し子の先生(つまりは己の弟子だが)の評価を上げてやる義理はない。
寧ろ貶めたい位だ。

 飄々としてて自分だけ大人ぶってるからね〜、カカシ君。

所謂注連縄も『同類』だったりするが、注連縄自身絶対に認めないだろう。
(じゃあ・・・大蛇丸も?カブトも?何かを失い、それを埋めようと躍起になってるのかな?あの二人の失くしモノには興味ないけど)
『多分。想像するだけ怖いけど、彼等にも失くし物はあると思うよ。イタチ君にも』
大蛇丸とカブトを思い出して鳥肌立てるナルトに、苦笑しながら注連縄はすぐに返事をする。

滅多に話題にしない内面的な精神的な会話。
今までのナルトなら全部自分の裡側に隠して溜め込んだ疑問。
口に出せるようになっただけマシ。

(白も白が守ったアイツも。誰もが失くしたモノを捜してたのかも)
今までナルトは自分は消えていく立場の忍だと思っていた。
用が済み役割を終えて道具のように廃棄される。
そんな立場の忍だと考え、弁えていた。
それなのに。

 ジジイは里を守り逝き。
 ご意見番達は俺の立場を保留にした。
 絶対俺の方が先に死んでお終いになると思ってた・・・でも。

 置いていかれたのは俺の方だった。

『ナルちゃんにはもう分かっちゃったね?ナルちゃんが無意識に失くしたくない、って思ってる者達。そして失くしてしまったモノ。価値をきちんと理解してるね』
断定口調で注連縄が言う。
ナルトは小さく微かに首を縦に振った。

 くだらないと決め付けてきた毎日。
 案外そっちの方が楽しくて。
 下忍なんて馬鹿にしてたけど学ぶ事は多い。
 失えない俺の日常。


 失った放浪の綱手姫。
 どんな人なんだろう?
 賭け事好きの綱手姫・・・それから、失ったものの大きさに今も後悔しているらしい彼女。
 里の勝利に大きく貢献しながら里を去った彼女。

ナルトの中で興味の針が綱手姫の方へ傾く。

綱手は同性だから。
自来也は、剥いてもラッキョウの様に本性が出てこないから詰まらない。
余談で大蛇丸は不気味すぎて近づきたくない。
ナルトの本音だったりする。

『功罪なんて気にせずに、ナルちゃんは真っ直ぐスクスク育ってねv』
ともすれば影を歩く事を好むこの子は。
いつまでたっても太陽には無関心で。
見ている大人がハラハラし通しだ。
「自分の言葉は真っ直ぐ曲げない。それが俺の忍道だってばよ」
囁くような声音でひっそり告げたナルトに。
『そうだね〜vvvナルちゃんvv』
重い空気を振り払うようにのんびり応じつつも。

 もっと大きな声で宣言できるようになってねv
 あ?
 お兄さんが宣言させちゃえばいいのかなぁ〜?
 それも楽しいかも♪

新たに『ナルちゃんにコレを言わせたい』台詞集に、今の言葉を加え。
ホクホク顔で注連縄は歩き出した。
己の危機を感じ取ったのか、ナルトには身構えられたけど。

 チィチィ。

ナルトと注連縄の思惑を知る唯一の生き物は。
困惑した調子で二度ほど囀った。


重いっ!しかもシリアスすぎだあぁ〜(涙)これからナルコが最凶を極めるに当たっての、余計なお世話的な前フリでした。シリアスは好きだけど私には向いてないです(しみじみ)ブラウザバックプリーズ