完成形



「よぉーしィ!出ぱーつ!!」
妙に爽やかに『短冊街』方向を指差し号令をかける自来也。

白髪頭のおっさんだが、木の葉の里、伝説の三忍と謳われた忍者の一人でもある。
現在は『見込み』のある木の葉の忍を連れて、五代目火影候補を捜す探索の旅の途中。
漸く掴んだかつての仲間。
同じく三忍の綱手姫。
彼女が滞在しているはずの『短冊街』へ向けいざ行かん。

自来也の意気込みだけは。

「・・・」
最早ため息すら口にも上がらず、静かに鼻呼吸だけで沈黙を守る子供。
気だるげに金糸の髪をかきあげ胡散臭そうな視線を自来也に送る。
外見は腕白坊主を絵に描いたような容姿なのに落ち着きようは並じゃない。
「・・・元気良く子供みたいに『出ぱーつ』じゃねーってばよ」
不快そうに歪む蒼い瞳。
子供は抑揚の無い調子で自来也に突っ込んだ。
「アレ・・・?ご機嫌斜めだのォ?」
体は進行方向を向いたまま、頭だけ子供へ向け自来也は茶化す。
間髪いれずに放たれたクナイを上体を反らせ器用に避け。

 ちっ。

外見にそぐわない子供の舌打ち。
自来也は頭をかいた。
「ナルト・・・外見は『うずまき』仕様だが、中身が結構出とるぞ」
余計なお節介なのは重々承知。
自来也は不機嫌そのものの子供に小さい声で忠告した。

子供の眉間に皴が出来るが子供は口を閉ざし怒りを腹に納める。

木の葉の里の『うずまき ナルト』
里内では『意外性NO.1』だとか、『ドタバタ忍者』だとか。
本人が目指すところの『火影を超える忍者』には程遠い言葉で称される下忍。
生まれながらに九尾の器とされ、不遇の幼少期を過ごした割には『無邪気な男の子』

表向きは。

ナルトは性別・素性・実力。
この三つを隠し今も人の目を欺き生き続ける凄腕忍者。
今は亡き3代目の信頼も厚く特別部隊の一員として働いている。
現在はこの『伝説の三忍』自来也と共に『五代目火影』候補を探索する旅の途中。

捜す、捜すといいつつも。
ナルトの修行に難癖つけたり、祭りに遊びに行かせたり。
自来也は本当に綱手を捜す気があるのか?
ナルトとしても近頃は疑問を抱いていた。

この度漸く掴んだ綱手の居場所。
出発する自来也の姿に。

 やっと捜せたのかよ?遅い。

とかなんとか、ナルトが思ってしまったりするのも・・・無理はない?
冷静沈着・任務優先なナルトの素の性格を考えれば、自来也は少々、いや大分大味すぎるのだ。

「だってさ!だってさ!」
うずまき仕様で口を開きナルトは鋭い目線を自来也へ投げかける。
「修行、途中じゃん!修行は第三段階まであるんだろ?まだ、第二段階までしか終わってないってば!」
そうなのだ。
自来也がナルトに伝授しようとした技。

四代目火影が三年かけて産み出した会得難易度Aランク忍術。
ニ段階までを一日で会得したナルトに「興ざめした」とかいう、大層ふざけた理由で自来也が修行放棄。
忍術自体の噂は聞いていたが、実際に忍術を知る自来也に教えてもらわなければ完全に会得したとは言えない。

 はぐらかされた感じもするんだよね?
 俺が自身の血筋と向き合うように、微妙に話題を逸らせたし?
 あっちから先に会得させるし。

指を三本立てナルトは顔つきは『うずまき仕様』で。
自来也に詰め寄った。
「フフフ・・第三段階は歩きながらでも出来る」
懐から何かを取り出しつつ自来也は不敵に哂う。
「え!そうなの!?」
ギャラリーは居ないが、ナルトは律儀に『うずまき仕様』で相槌を打った。

 まさか?そんな理由で俺の修行放棄してたんじゃないだろうな。

冷たいナルトの目線を気にせず、自来也は風船を膨らませる。
「ホイ」
子供の手のひらに納まるくらいの小さな風船。
自来也はナルトへ風船を放り投げた。
戸惑いつつもナルトは風船を受け止める。

「第一段階は回転。第ニ段階は威力。そしていよいよ第三段階はコレだ」
ナルトと同じ柄の風船を手のひらに持ち、もったいぶった口調で自来也は解説を開始した。

風船に隠れて捉えにくいが自来也の練り上げたチャクラは威力ある回転を維持しつつ、風船内部に留まっている。
原理的には先に習得させられた『アレ』と同じ。
ただ少し違う部分もあるようだ。
ナルトは唇を真一文字に引き結び、少しの間自来也の手の風船を凝視する。

「見た目はただ風船を持っているようにしか見えないが、これと同じ事を左手でやってみせるぞ。風船の中は・・・一体どうなっているかのォ?」
自来也はあくまでも『うずまき ナルト』に術を伝授するように、教えるつもりらしい。
意図を察したナルトは瞳に込めた本当の感情を封印。
何度か瞬きをして空色の瞳から怒りの感情を追い出した。

チャクラの収束と激しい乱回転。
自来也の左手のひら上に出現するチャクラの『ボール』ナルトは目を見張った。

「小さな台風のようだろ!」
右手には風船を持ったまま自来也は左手のひらのボールを喩える。
「・・・」
呆然とした面持ちでナルトは自来也の左手のひらを見、それから口を開く。
「・・・その右手の風船の中も、左手と同じになってんの?」
同じになっていない訳がない。
分かっていてもナルトだって忍。
自来也が周囲を警戒してるようなので、芝居に付き合う。
「おお!」
物分りの悪い『うずまき』が察しよく気が付いた。
ナルトを見直した調子で自来也は短く答える。

 確かに。凄いのは認めないと。

ナルトは内心嘆息した。

 出せる限界までのチャクラを練り上げ乱回転を加え、尚且つ一定に留める。
 ゴムボールを割るよりか遥かに難易度が高い。
 抉るな、あれは。

「いいか。この第三段階はこれまでに覚えたものを100%出し切り、それを留める」
続けて喋る自来也。
目を丸くして自来也を見上げる事でナルトは話の先を促す。
「つまりチャクラの『回転』と『威力』を最大にしつつも、風船の内側に更に一枚膜を作りその中にチャクラを圧縮するイメージ」
一週間と少し前に本来なら習得するはずだった技。
ナルトが口を開こうとした正にその時。
『いや〜んvニ人とも、しんけーんー』

 ボフン。

派手に煙を巻き上げて登場するスケスケ青年。金髪・碧眼。
一見美青年風。
自来也とナルトはスケスケ青年を視界に入れず歩き出す。

「つまり第二段階までにやった回転の威力をキープしながら、逆にやわい風船を割らないようにする修行だな!」
自来也と並んで歩き今までの説明をナルトが要約する。
満足そうに何度かうなずき自来也はナルトの髪をクシャクシャに乱した。
「おー!今までで一番察しがいいのォ」
とかなんとか。さり気ない褒め言葉も付け加え。
「へへっ・・・」
目を細めナルトも得意そうに笑う。
完全に2人の世界。

スケスケ青年は差し出した己の手が中をさ迷うさまを呆然と眺める。
よもや己が見えないわけではないだろうに、ここまで綺麗さっぱり無視されてしまうと?
却って己の天邪鬼な性格がムクムク頭を出すわけで。
『ちょっとー!!無視する事ないでしょう』
大人げなく腕を振り回し、幽霊(?)の主張を背後でかます。
「この『小さな台風』を掌大に維持する事が出来れば力は分散しない。『回転』はどんどん速くなり『威力』はどんどん圧縮されて破壊力は究極に高まる」
歩く速度を緩めずに自来也は説明を続けた。
(あの時。お前に教えて理解させても、実感が湧かないだろのォ?)
不意に。
自来也は唇の動きだけの会話をナルトへ持ちかける。
(不安定な気持ちで技だけ習得しても。お前は『変われない』いや、強くなれん。己の不幸を土台とした力。強さは所詮幻だからの)
イタチを目の前に惨敗した。
いや、本当に恐ろしかったのは己が体に流れる稀有な血潮。
強大な力を有するが故に出し切れない。強大な力を有するが故に出し切る。
相反する矛盾した気持ちを抱えたまま。

 修行しても意味がないって事か。
 俺の血統に対する認識を改めさせ、それからコッチを教えようとしたのか。
 回りくどいって言うか。なんと言うか。

(精神面で成長しろ、か)
断定口調でナルトが声もなく呟けば自来也は口角を片方だけ持ち上げる。
精神的に大人であるつもりだった。
忍として働きうる資質は持っていると自負していた。
実際、忍としては優秀だし評価も高い。

だがナルトの精神は、ある意味とても未熟だった。

早熟故の過信・慢心。
不条理な生い立ち故の僻み・妬み。
達観した風を装っていても心の底から納得して生きてきたわけではない。
寧ろ逝きる為に生きていた様な毎日だった。
例えナルトを理解して共に歩もうという仲間が居たとしても。

肝心なのはナルトの気持ちだから。

(俺自身が天鳴であることを許容し、俺自身が心からこう在りたいと願う。
そうしなければ忍術だけを会得しても意味がない。コレは誰かを傷つけるための忍術じゃない。
誰かを守るために揮われるべき忍術だから・・・違うか?)
仮にも『火影』が残した忍術だ。
単に、印を覚える必要がない『破壊力』のある忍術等と軽々しく考えてはいけない。
里を守った里長の願いの篭った忍術。
(フム。察しがよくなってきたのォ)
背後で相変わらず成仏しそこないがギャーギャー喚いている。
自来也は眉間に皴を寄せつつももう一度ナルトの髪を乱した。
「よしっ」
ナルトは意気込み、風船に両手を宛がう。
体を小刻みに震わせ自来也に見せてもらったとおり、風船内部にチャクラの渦を作り上げる。
『お兄さんを無視しないでえええぇぇぇ〜』
悲痛な悲鳴なんかも耳に届くが無視。シカト。
ナルトは慎重に風船内部にチャクラを練り上げそして・・・。

 パァン。

背後のスケスケ青年が追いついてきたのを見計らい、わざと風船を割った。
『!!!』
胸を押さえて驚くスケスケ青年。
目の端で青年を見やりナルトは薄く笑う。
「手抜きは一切駄目だぞ。100%の『回転』と『威力』を出しそれを留める」
したり顔でナルトに注意を促し、自来也は己が持っていた風船をナルトへ投げた。
「さーて、『説明』は終わりだのォ」
自来也から貰った風船にチャクラを送り込むナルトに自来也が告げる。
ナルトは一瞬目を細めるがすぐに『うずまき』の顔で唇を尖らせた。
「俺ってば天才だから、すぐにマスターしてやるってばよ!」
言いながら慎重にチャクラを風船に送り込み、涙目になっているスケスケ青年の手前でわざと割る。
何が面白いのか風船を割っては新しい風船を自来也へ強請のだ。

 これが火影の編み出した忍術。か。
 会得の問題じゃない。この『力』を俺自身がどう使いたいと願うか、を試したいんだろ?
 試されてやるよ。

風船に自来也がした様にチャクラを練り上げ、小さな台風を作り上げ安定。
それから近寄ってくる注連縄に威嚇を込め、割る。
『それは反則〜!!!』
弾けとんだ風船の残骸が己の体を通過する。
その都度スケスケ青年は抗議の声を張り上げた。
見えないフリのナルトは無視。


 この二人の立位置もこんなもんなんだろうなぁ・・・距離のとり方は。

 これも正に『完成形』だのォ。


なんて自来也が考えていたのはまったくの蛇足である。


や、やっと綱手さん捜すよ〜。色々詰め込みすぎてだーいぶ時間がスローに流れてます(汗)繋がり的にはここで心の整理をしないと!!ブラウザバックプリーズ