未来想像図?



 暗い・・・。ああ、そうか。
 俺修行が終わって倒れたんだっけ。

子供は靄のかかった視界で天井を見上げぼんやり考えた。

「・・・へ?」
徐々に明確になる視野と天井の色。
見知った天井ではなく、それは見知らぬ天井だった。

慌てて起き上がる。

素早く部屋を見回すが見慣れぬ不思議な部屋。
十畳位の部屋で、本棚とベット。
それから化粧台。クローゼットに・・・。

「サクラちゃん!?」
居ない筈の人物が目の前にいる。
子供は素っ頓狂な声を発し、クローゼットから服を取り出す同僚の少女・・・にしては大人びたサクラを凝視した。
「あら、目が覚めたの?ナルト」
目線は洋服から逸らさず声だけでサクラは答える。

変な違和感。
上半身起こした己の目線が高い。
子供は・・・ナルトは事実に呆然とした。

「もう、昨日の会議が遅くなって辛いのは分かるけど。少しは実感持ちなさいね。ナルトは女なんだから。女性たるもの身だしなみは大切なの!火影といえどもね」
洋服と火影だけが身につける白い上着。
己のコーディネートを数歩離れて確認しつつ、サクラはナルトを嗜める。
「はぁ?俺が火影!?」
身に覚えがない。

火影になりたいのは『ドベなうずまき ナルト』であって。
しかもサクラは己の素性だって本来の性別だって知らない。
なのに今ナルトは本来の女の姿で、しかも『火影』ときたもんだ。

 夢か!?きっとこれは性質の悪い悪夢だ!!

「ちょっと・・・、なにやってんのよ」
神妙な顔つきで己の頬を抓るナルト。
そんなナルトの奇行に呆れ顔でサクラは近寄る。
近づくサクラにナルトは僅かに体を強張らせて身構えた。
「馬鹿ね」
苦笑しつつサクラは乱れたナルトの前髪を指で払いのける。

「古参の忍達が反感持ってるから、仕事をしにくいのは分かる。
でもナルトはナルトらしくいればいいのよ。ほら、そろそろ仕事の時間よ。
朝食はいのが職場に運んでくれるから。
書類整理しながらさっさと食べちゃって。
お昼は下忍同期でって約束でしょ?午後は受付業務をヒナタと紅さんとで処理して。夕方は暗部の打ち合わせ。了解?」

聡明なサクラの的確な言葉。
言葉の意味は理解できても事態そのものが『理解』できない。
ナルトは何度も瞬きをしてサクラの顔をただただ見つめた。

「優秀な参謀が立てた一日の予定。拒否権無しよ?さ、着替えて」
いつものサクラの微笑み。
サクラが見立てた服を押し付けられたまま、ナルトはどうしていいか分からず固まる。
「早く着替えてね。外で待ってるから」
壁にかかった時計を指差してサクラは部屋から出て行く。
服をつかまされた格好でナルトの脳は思考を完全に拒否していた。

 火影?悪いが俺はそんな夢もってないぞ。
 しかもなんでサクラちゃんが参謀?
 ってゆうか、俺が女として暮らしてる?
 そんな馬鹿な。あり得ない。

誰かが巧妙に仕組んだ悪戯か。
罠としか思えない『悪夢』
ナルトは一人頭を抱え、それからありとあらゆる幻術の解除印を組んでみた。

「・・・幻術じゃない?」
最終手段のように天鳴(あまなり)の浄化能力まで使用。
なのに己と周囲に変化なし。
ナルトは唖然とした。
「ちょっと〜!!ナルト!!遅刻するわよ!カカシ先生みたいな真似をしないのっ!」
ガンガンガン。
扉の向こうから手荒く扉を叩くサクラ。
「グズグスする気なら、わたしが着替えさせるからねっ!」
続けて言い放たれたサクラの言葉にナルトは渋々着替えを始めた。
この突拍子もない事態に首を捻りつつも。





着替えたナルトがサクラに急かされ向かう先。
微妙に見慣れた火影屋敷と造りの似た屋敷内部を通過。
歴代の火影の顔が彫られた火影岩の下方。

火影の執務屋。

「お早う、ナルト」
執務補佐席に座って弁当を広げたいのがいた。

ナルトが部屋に到着すれば顔を上げて、笑顔を向ける。
矢張りサクラと同じように成長した姿のいの。
昔ほどきつくなく、どこか丸くなった雰囲気で。
大人びていた。

 あ、あり得ない・・・。いのが俺に挨拶して弁当作って・・・。

入り口で今日何度目かの驚愕を味わうナルト。
思わず立ち止まったナルトの背中を背後のサクラがぐいぐい押した。
有無を言わせずナルトを執務席へ座らせて、自身はお茶の準備に取り掛かる。
「さっさと食べて。終わったらこの任務報告書の書類確認ね。早くしないと任務完了報告をココまで持ってくる馬鹿で溢れるんだから。とにかく早く」
野菜の煮びたしに、出汁巻き卵。
鮭にご飯。
手早くナルトの席に置くいの。

片やサクラはお茶とお味噌汁。
盆に乗せてナルトの席へ運ぶ。

「本当、物好きよね〜。ナルトの容姿を見たら、そりゃー、仕方ないっても思うけど。仕事に障害が出るほどだもん。なるべく撃退しないとね」
丁寧に手入れした爪。
マニキュアこそしていないが、いのの美しく磨かれた爪先。
いのは己の爪を窓から差し込む光に当てて眺め、一人心地に呟く。
「当然でしょ。しわ寄せがこっちの補佐役に来るのよ?
ただでさえ代理でシカマルが会議出張で補佐室は人が少ないんだから・・・。
あ、そうだ。臨時で誰か雇う?キバなら昨日帰ってきたし、サスケ君なら今日よ。ネジさんは明後日」
いのへお茶の入った小さな湯飲みを渡しサクラもぼやく。
「ん〜。そうだなぁ・・・。キバなら部屋へ入ってくる忍が誰か判別できるし。サスケ君もネジさんも同じだよね〜。どうせなら三人セットにすれば?」
半分どうでも良さそうないのの台詞。
朝食を口に運びつつナルトは聞き耳立てる。

 えっと?サクラちゃんといのが俺の補佐役?
 シカマルもそうみたいだけど、今は不在。なんだか、なぁ。

「ほら、噂をすれば。この気配はサスケ君ね。珍しい・・・キバも一緒みたい」
お茶を口に含んでから、いのは閉じた扉へ顔を向け口を開く。
つられてサクラも扉を見、ナルトも目線を向けた。
音もなく扉は開き幾分成長したサスケがキバと共に姿を見せる。
「サスケ君、ご苦労様」
サクラは近づき労いの言葉を一言。
無言で巻物を差し出すサスケから巻物を受け取るサクラ。
そのサクラから巻物を差し出され、ナルトは条件反射的に受け取った。
「ごめんね〜。ナルトはまだ朝ご飯中なの。もしナルトの仕事削減に協力してくれるならこのまま少し待っててよ」
いのが悪戯っぽく笑う。
サスケとキバは互いに顔を見合わせた。
「俺は構わないけど、サスケは任務帰りだぜ?一日休ませた方がいいんじゃねーか?」
キバらしい?
というより、随分理論的・・・いや、精神的な成長を垣間見ることのできる発言。
ナルトは飲みかけのお茶を気管支に入れた。

 キバが!!キバが!
 サスケを気遣うなんて信じられない。
 俺の知ってるキバじゃない〜。

「だ、大丈夫?ナルト」
いのが慌ててナルトの背中を擦る。
「だ・・・だい・・・じょうぶ」

 精神的にはこれっぽっちも大丈夫じゃないけど。

言いたい言葉は飲み込んでナルトはいのへ答えた。
残ったご飯を口へ運びつつ、仕方ないので巻物を開く。
コレをナルトが確認しなければサスケの任務が完了したとはいえないから。

 ふぅん?サスケの任務はAランクか。
 調査対象の屋敷の見取り図ね。
 それから人員配置に武器・戦力等等。
 ここまで調べれあれば十分。

「ふぁふふぇ、ふぉふふぉーふぁん」
「行儀が悪いぞ、お前」
口に物が入った状態でサスケに言えば、当の本人から苦笑で返される。

ナルトは少し目を見開いた。
大人びただけじゃない。サスケの雰囲気が丸くなっている。
あのギスギスした暗い影が彼の雰囲気から消えていた。
「サクラ、仮眠室借りるぞ。お前らは後を頼むな」
サスケは執務室から別部屋へ抜ける扉へ向かい、サクラ・いの・キバへ言葉を残す。
その姿はナルトの目には別人のようで。
「「「了解」」」
何処か楽しそうにサスケに応じる三人。
ナルトは新鮮な気持ちでサクラ達を見やる。
「俺が一応は警護役で外にいるぜ。赤丸はここへ置いてくからな」
まったく気がつかなかったが、成犬になった赤丸が気配を殺してナルトの席の横へ伏せていた。
キバに言われて初めて存在に気づく。
ナルトが見下ろせば赤丸は鼻を数回動かして得意そうに目を細める。
「ワン」
低い鳴き声。
簡潔に一声鳴いて赤丸は静かに尾を一回だけキバへ向け振った。
「さ、これで午前中は仕事もはかどるでしょう。頑張ってねv火影様」
ナルトの前。
机にドサドサ書類を置きサクラが不敵に微笑む。
内なる彼女発動時に似たオーラを纏いなんだか。

 怖いよ、サクラちゃん・・・。

手にしていた箸を思わず落としてしまったナルトだった。

着替え同様。
今度はいのも加わって急かされ書類処理に追われ。
途中仮眠を取ったサスケに手伝って貰い。

穏やかな空気の元必要書類の処理を済ませる。

集中力は元々あるほう。
ナルトが気がつけば、部屋の時計は十二時少し過ぎを差していた。

「お昼ね。・・・そうね、今日は火影岩のテラスを貸しきりましょう。シカマル以外は皆集まるし」
いのは両腕を上へ伸ばし椅子に座ったまま伸びをする。
時計へ目線を送り考えるような口ぶりで喋った。
「ここから?」
少し嫌そうな顔でナルトはいのを見る。
この場所から位置的に考えてテラスに出るには、忍が多く通る任務依頼所の前を通過しなくてはいけない。
人目にこの姿が触れるのは嫌だ。
「そうよ。文句言わないの」
いのはキバを扉向こうから呼び寄せ、部屋の片付け手伝いを指示。

成長しても変わらないいのの強引な手腕。

キバは仕方ないな、なんて言いたそうにサスケへ苦笑。
肩を竦めたサスケと共に書類整理。
サクラは手際よく湯飲みを片付ける。
ナルトが一人悩む間にすっかり部屋は片付いた。

「行きましょう」
サクラを先頭に火影様(?)一行はテラス目指し移動を開始。

「あ、火影様〜vこんにちは」
人の良さそうな青年がナルトへ頭を下げる。
遠くからナルトを見上げる下忍と思(おぼ)しき子供達からは歓声。
尊敬と感動の眼差しのオプションつき。
「お疲れ様です、火影様」
頬を赤らめたくの一がナルトを見つめてはにかむ。
ナルトが曖昧に笑って会釈すれば、くの一は顔を真っ赤にして俯く。
中にはナルトを不快そうに一瞥する忍もいたりしたが、概ね他の忍は好意的にナルトへ接する。
「ナルトが守り続けてきた里なんだから。気にしないの。もっと胸張りなさい。ナルトがどれだけ頑張ってるかなんて、皆は知ってるんだからね」
ナルトの戸惑う顔を見たサクラが、ナルトの肩をそっと叩いて耳元で囁く。

正直こんな風に注目されて、扱われて。
不思議に感じるし。

少しだけ嬉しかった。

己が火影になった事実にではなくて。
誰かに『受け入れられた現実』に。
ナルトはサクラへ小さく笑う。


そして、視界がぼやけた。


『ナルちゃんどうしたの?』
一気に浮上する思考。見慣れた天井。
覗き込んでくる見知った顔。
徐に印を組み、浄化のチャクラをフル発動させたナルト。
スケスケ青年は心配そうに声をかける。
「・・・夢を見てたみたいだ。嫌な夢を。二度と見ないように浄化する」
淡々と答えるナルト。
『そう・・・』
ナルトへ相槌を打ちつつも、スケスケ青年は壁に凭れた白髪頭のおっさんを睨んだ。

(先生のシナリオじゃ駄目だったじゃないですか!!嫌な夢だって言ってますよ!)
唇だけで伝えれば、白髪頭のおっさんは首を捻る。
(おかしいのォ・・・。アレでバッチリその気になる筈だが?)
(・・・今度は僕がチャレンジします!)
何やら企む二人の男を他所に。

ナルトは浄化の力を体に行き渡らせ大きく息を吐き出した。
理由は知らない夢だったけど。

 少しだけ楽しいと感じたのは。絶対に秘密だ。

心に固く誓いながら。ナルトは一回深呼吸した。
遠くにあるようで意外に近い未来想像図?


ありがち夢オチ(笑)でも仕掛けたのは注連縄さんと自来也さんってコトで♪ブラウザバックプリーズ