始まり

 

後ろ髪引かれる想いの元教師を木の葉の里へ送り返して。

「さて、始めるかのォ」
カレーダメージ(詳しくは味覚に挑め参照)から完全復活した白髪頭のおっさん。
金色頭のヒヨコを見下ろして宣言した。
「やっとか」
素っ気無い金色ヒヨコの返事。
持参していた高等忍術書を閉じる。

「・・・」
見た目は美少女なのにこの極寒を思わせる冷たさ。
人外と成り果てた弟子ではないが、もう少し愛想があってもよいと思う。
白髪頭のおっさんは無言で金色ヒヨコを見た。
「可愛げないとか思われても?これが俺の性格だから直しようないけど?エロ仙人の覗き癖が治らないのと同じで」
薄く笑って金色ヒヨコは懐から取り出す。

白髪頭のおっさんが川で遊ぶ水着姿の若い女性を覗き見している場面の写真を一枚。

無言で奪い取ろうと腕を伸ばす白髪頭のおっさんをヒラリとかわして金色ヒヨコは写真を懐へ仕舞った。

この間財布を預かると称して勝手に金色ヒヨコのお金を使った白髪頭のおっさん。
金色ヒヨコなりの意趣返しなのだろう。

「この街で木の葉の人間に出会う確立は下げておいた。紅に親書をもたせてな」
先日バッタリ木の葉の里の人間に出会ってしまった金色ヒヨコ。
無意識に神経を張り詰めていて『修行しよう』等という雰囲気からは程遠い。
察して白髪頭のおっさんはご意見番宛に親書を認(したた)めた。

「暫くはその姿で修行しろ。
今回の修行の為にも、変化に余計なチャクラを使うわけにもいかんからのォ」
「了解」
金色ヒヨコ、美しい蒼き双眸を細めて白髪頭のおっさんへ返事。
「ところで・・・?」
見知った顔が三つ消えている。
白髪頭のおっさんは首を捻った。
「ああ。シノとシカマルは注連縄と訓練。
なんでも里から帰還命令が下って後二日で帰らなくちゃならないらしい。その二日間たっぷり注連縄に苛めたおされるんだろ・・・。心配だけど、三人は『来るな』って言ってたし」
金色ヒヨコ不安そうに呟けば、頭に乗っていた濃紺色の蝶がヒヨコの目の前を飛ぶ。

 心配するな。

蝶の主である寡黙な少年がするかのように。
ただ目の前を飛ぶ。

「愛されとるのォ」
蝶の動きを目の端で追い、白髪頭のおっさんはしみじみ言った。
「なんで?」
真顔で問い直す金色ヒヨコ。苦い顔をした白髪頭のおっさんは言葉に詰まって明後日の方角を向く。

 言われなくたっていい加減俺でも気づくって!
 馬鹿にするなよ。

だから白髪頭のおっさんは、金色ヒヨコが小さく舌を出していたのを見過ごしていた。

なんのかんの言ってもこの不思議師弟コンビは中々仲良しである。

平和な二人を他所に地獄組(金色ヒヨコが告げた注連縄&シノ・シカマル組)はまさに地獄を見ていたのだが。
この詳細については伏せておく。(少年二人の名誉のため)

「まずは必要な小道具でも探しに行くか」
気を取り直して白髪頭のおっさんは外出の支度。
「エロ仙人が言うと胡散臭いね」
金色ヒヨコも上着を羽織って準備完了。
額当ては邪魔になるので首下にぶらさげている。
「・・・ほっとけ」
子供とは時として残酷である。
ピンポイントで繰り出される金色ヒヨコの嫌味に、白髪頭のおっさんは投げやりに答えた。

二人は連れ立って宿を出る。

白髪頭のおっさんはしきりと左右を見回し『小道具』とやらを探している。
金色ヒヨコ自身はなにが『小道具』なのか分からないので白髪頭のおっさんにまかせっきり。
肩に乗せた濃紺色の蝶を指先に移して眺めている。
そんな幼い仕草に白髪頭のおっさんはニヤリと笑った。

 企んでます。

そんな笑顔だ。

 ドンッ。

金色ヒヨコ背中を押されて不意を付かれる。
気配を完全に殺した白髪頭のおっさんに背中を押されヨロめいた。
完全なる不意打ち。

「くおらああああ!なにしてくれとんじゃ、ガキ!」
誰かにぶつかった感触と己に向かって飛ぶ怒声。
金色ヒヨコが顔を上げると、目の前には柄の悪そうな男二人連れ。
「?」
金色ヒヨコは首を傾げた。
ぶつかった如きで怒り出すなど大人気ない。

そう思った瞬間、己の手が泥だらけになっているのと、柄の悪い男の一人。
服の上に己の手形がくっきりついているのが見えた。

 こんの〜!!エロ仙人!!!

金色ヒヨコが殺気を込めて白髪頭のおっさんを睨む。
しかし白髪頭のおっさんは黙って肩を竦めるだけ。
いかにも『中途半端に強そう』なだけの眼前の雑魚。
白髪頭のおっさんに含むところがあるらしい。
察して金色ヒヨコは口を噤んだ。

「兄貴のブランド服にシミつけてからにィ!この服が幾らするのか知っとんのか?弁償じゃ!十万両出さんかい」
最初に金色ヒヨコを怒鳴りつけた男が金色ヒヨコへ詰め寄った。
「・・・それが?」

 ちゃっちー服。
 俺だってそんなに知識あるほうじゃないけど、十万両は高すぎだろ。

驚いた風に金色ヒヨコが答える。

「いくらなんでも、そんなダサイ服が十万両はちとやりすぎだのォ・・・」
金色ヒヨコの頭に手を置きポーズを決める白髪頭のおっさん。

  ・・・遊ぶな、この状況を!!

面白がっている白髪頭のおっさんに、金色ヒヨコは苦虫を潰した顔になる。
つくづく人生楽しまないと気がすまないらしい。
この仙人は。

「何だ、やろうってのか!?アン!?やめといた方が身のためだぜ。兄貴は元岩隠れの中忍で伝説の闇忍と恐れられたスゴ腕忍者だぜぇ」
心持ち胸を張る服を汚された男と、その横で解説する男。

  不毛だな。ってゆーか見世物か?

知らないとはいえ伝説の三忍・蝦蟇使いの自来也へ向けてここまで自慢する馬鹿も珍しい。
考えて金色ヒヨコは白髪頭のおっさん=自来也の横顔を盗み見た。

「は?伝説の・・・なんだって?」
案の定とぼけた顔で二人の男を挑発する自来也。
予想通りの?最早(もはや)お約束か?型通りの展開に泣けてきそうだ。
金色ヒヨコはつまらなくなって欠伸を漏らす。

 ったく。注連縄といい自来也といい。
 しかもカカシ先生といい!!
 どいつもこいつも、いっつもこーゆう風にふざけるんだよな。
 伝統なのか?
 こいつら師弟の・・・ということは、俺もその分類(たぐい)に入れられるのか?

 それは嫌だな。

いきり立つ二人の男と飄々とした態度の自来也。
一触即発。往来を行く人は足を止め、好奇や不安の入り混じった顔で事の成り行きを見守っている。

「どうやら痛い目に遭いてーよーだなァ!」
額に青筋浮かべた『岩隠れの元伝説の中忍』が自来也向けて動いた。
「ナルト・・・」
状況を楽しんでいる割に真剣な声音と顔つき。
自来也は金色ヒヨコ・・・ナルトという名の子供へ声をかける。
「なに?」
怒った男がこちらへ来るというのに冷静そのもの。
ナルトは自来也へ悠長に問い直している。
逆に見物人達の緊張感が一気に高まっていた。

「ちょうどいい・・・。今からお前に教える術を見せてやる。よく見てろのォ」

 フ。

口角を持ち上げ意味ありげに笑う自来也へ女達の視線が集まる。

 自分で状況作っておいて台詞はそれか。

面倒に思えたのでナルトは手短に「はいはい」と生返事を返しておく。
言葉ほど無関心なわけではなく、全神経を集中させて自来也の行動を網膜に焼き付ける。

自来也の右手のひら。
膨大なチャクラが集まり空気が乱れた。
そのまま手のひらを向かってきた『岩隠れの元伝説の中忍』の腹部へ押し当てる。

「!!」
『岩隠れの元伝説の中忍』の表情が驚きに変化した。
誰もがその顔の変化を認めた瞬間には、『岩隠れの元伝説の中忍』の身体は上下に半回転しながら道向こうの屋台へ激突。
一瞬のうちにケリはついた。

「すごい、すごい」
自分がダシにされたので正直に感動できない。
超棒読みのまま、お愛想程度に自来也へ賛辞を送るナルト。
気だるげな動作で小さく拍手をするオマケつきで。

何故なら。

『岩隠れの元伝説の中忍』から抜き取ったと思われる財布を右手に持っていたから、だ。
大方その財布から壊した屋台の修理代なんか払ったりするのだろう。見え見えなのだ。

「格好つけすぎ・・・一々目立って・・・」
小さく悪態つきつつも、ナルトはアレがなんだか理解はした。

 多分。
 印を組まずに繰り出した事を考えれば。
 『うずまき ナルト』時に使用しても怪しまれない術という事。
 最も『口寄せ』自体も下忍実力からすれば枠をはみ出して使用している術となるけどな。
 パワーで押すタイプの『うずまき』仕様にはもってこい。
 しかも。あれはきっとアイツが考えた術だな。
 俺に受け継がせて狙う事といえば唯一つ。・・・回りくどい事をする。

壊れた屋台の水風船。
一つが跳ねて自来也の左手に収まった。

「フム・・・」
偶然手に収まった水風船。
眺めて自来也は唇の端を持ち上げる。
固唾を呑んで成り行きを見守っていた通行人達からはどよめきと感嘆の声。
因みに女からは熱い視線。
ナルトからは白い視線を。
自来也は頂戴していた。

「これ修理代だ。悪いのォ・・・屋台を目茶目茶にして」
自来也は屋台の主人に歩み寄り、抜き取った財布から札束を抜き渡した。
「・・・お、お前さん一体・・・」
立ち上がれずに倒れたまま。
『岩隠れの元伝説の中忍』とその弟分らしき二人の男は仰向けに倒れたまま呻く。
兄貴分『岩隠れの元伝説の中忍』は痛む身体に鞭打ち自来也へ声をかけた。
「かなりセーブしたんだがのォ・・・。お前ら弱いのォ」
伝説の三忍から見れば大抵の忍は『弱い』筈。そうそう簡単に。
伝説の三忍に敵う相手が転がっていては忍としての商売上がったりだ。
木の葉の里の忍が聞いたら複雑な気持ちになる一言。

 エロ仙人が言うな。

ナルトも複雑な気分でこう思った。

 ただの掌底じゃないってだけで、もう決定的だし。
 とりあえずここで解説しても人の目がありすぎる。
 暗示をかけてあるとはいえ俺は今本来の姿。用心するに越した事はない。
 さてエロ仙人の演出にもう少し付き合いますか。

「オヤジ!ついでに水風船と風船全部貰っていくがいいか?」
札束を差し出したまま自来也が屋台の主へ問う。
「・・・別に構わんが・・・」
半ば腰を抜かしたまま地面へ座り込んだ主は驚いた顔のまま自来也へ答える。
「ナルト!ついて来いのォ。修行だ!」
背後に居るナルトを振り返って自来也は告げた。

「はーい」
まったく気のない返事。
ナルトは半分どうでもよかったので適当に返事を返す。
「返事に気合が入っとらん」
女性達の手前か?尤もらしく尤もらしい事を言う自来也に。
「こんな手の込んだ修行の始まりなんか作って楽しいのか?」

手の間に滑り込ませた件の写真をちらつかせ、ナルトが小声で自来也を脅しにかかったとしても。
それはそれで当然の成り行きである。


凸凹師弟の修行開始。



口寄せに続き始まる二回目修行の開幕〜。な(汗)ブラウザバックプリーズ