自慢の彼女  後編

 


「ねえ?ちょっと時間がかかるから、後で待ち合わせしない?」

真剣に小物を選ぶナルトが二人を振り返った。

「待つぞ?」

シノはすかさず答えた。

「うん・・・一人で選びたいの。駄目?」

シノとシカマルへ視線を送れば二人は複雑な顔。
ナルトは何度も瞬きをして二人が答えるのを待った。


 後で待ち合わせって!
 自分がどれだけカモネギなのか分かってるのか〜!!


シカマルは心の中だけで思う存分叫び。
それからダルそうに呟く。


「変なヤツにホイホイ着いてくなよ?」

危惧するシカマルに、事態をよく理解していないナルト。

「大丈夫だって。痴漢なら撃退できるし」

笑顔で頓珍漢な答えを口にする。


 だーかーらー!!痴漢ならまだ可愛いがマジなナンパはどうすんだよ。
 相手は忍じゃなくて一般人だぞ!一般人!!


シカマルが苦い顔でシノを見やれば彼も同じ考えらしい。
肩に止まった濃紺色の蝶がフワリと飛び立ち、ナルトの頭に止まった。


「気をつけろ」

短く告げシノは姿を消す。
蝶をナルトへ付けたので居場所はいつでも把握できる。
そう踏んで姿を消した。

「ったく。めんどくせーな」

渋々シカマルも姿を消した。

「心配しすぎだよね、二人とも」

首を捻るナルトに。

「ふふふふふ。愛されてるのね、お嬢ちゃん」

楽しそうに笑う女主の顔。対照的な顔の二人が屋台を挟んであった。

 





一人で小物を選んで購入。
ナルトの気持ちを察した小物屋の女主が値引きしてくれたりして、それなりに有意義な時間をすごしたナルト。
シカマルとシノの気配を追って移動を開始した。


「僕とお茶しませんか?」

柔和に微笑む少年が一人。
二人の居る場所に急ぐナルトの前へ立ちはだかる。

「わたし?」

咄嗟に俺と言いそうになって訂正。
ナルトは自分を指差す。
少年は人懐こそうにニコリと笑った。

「はい。不躾で失礼だとは思いますが」

パッと見良家の子息風。
忍の変化には見えない。
仮に忍が変化していたとしても、ナルトの体内に流れる天鳴(あまなり)の血がそれを見抜く。


 普通の男の子だ・・・。あ、俺も普通に女の子してるから当たり前か。


俗に言えば『ナンパ』だ。

悲しいかな、ナルト。

忍同士情報戦、任務前提のナンパの場数は数多けれど普通の『ナンパ』は未経験。
騙して裏を読んでかわす。
任務のナンパとは違って真っ向勝負。
真っ直ぐナルトを見詰める少年の瞳。


 困る!困る!だって・・・どう断るわけ?こいういう場合!!


「えっと、その・・・待ち合わせ!待ち合わせてるの」

態の良い断り文句。しかも嘘はついていない。
これからシノとシカマルと合流するのだ。
ナルトは半ば安堵しつつ少年へ遠まわしに拒絶の意思を伝える。

「そうですか、残念ですね」

気分を害した様子もなく少年は大人しく引き下がるかのように見えた。
ナルトには。

「ではその『待ち合わせ場所』までご一緒しませんか?少し貴女と喋りたいんです」

相手のほうが一枚上手。どうしてもナルトと近づきになりたいらしい。
しつこくはないが断りにくい雰囲気を持つ。

「あ・・・の・・・?」

困り果てるナルトだったが。
少年は明確に断らないナルトの態度を了承と。
好意的に受け止めナルトの手を引いて歩き出した。

「こちらで良いですか?」

「あ、はい」

完全に少年ペース。
ナルトは見知らぬ少年と並んで歩き出した。
願わくば二人の仲間が己を発見してくれる事を祈って。

「お名前は?」


 見合いか!?

第三者が聞いたら驚く切り口だが少年はごく当たり前のように尋ねた。


「秘密です。貴方の名前も聞かないのでそうして下さい」

笑顔でナルトは少年の探りを封じる。

「ではこの祭りの事でも話しましょう。貴女の街にも祭りはありますか?」

爽やかな笑顔と共に少年は話題を変えた。
不思議とナルトを飽きさせない少年。
ありきたりの会話を交わし二人は人目をめーいっぱい引きつつ通りを歩いた。


五分・・・いや。十五分くらいは歩きながら喋っただろうか?少年は徐に立ち止まる。


「結婚を前提にお付き合いしてください」

まるで中忍試験前のゲジ眉忍と似たような台詞。
サクラはあっさり断っていた。
脳裏に蘇る思い出では自分は第三者。

だけど今は当事者。


 サクラちゃんみたいに断れないよ〜。


拒絶ばかりされてきたナルトの生涯。
同意するのは簡単で拒否するのが難しい。

日頃シカマルに『嫌なものは嫌だといえ』と怒られ。

シノには『逃げるな』と諭される。


「えと・・・」

ナルトの目線が宙を泳ぐ。


 どうしよう。


正直な気持ちそのままに正面に立つ少年を見る。


「突然でご迷惑をかけているのは分かります。ですが人生一期一会!いついかなる時に出会いがあるか分かりません!!」

拳握り熱く語る。
人のなりは悪くない。
そう思える真摯な瞳と口調。

逃げようと思えば簡単だ。

如何せん人の目が多すぎて派手な忍術は使えない。
それに今はただの『ナル』が祭りを楽しんでいるのだ。


 忍術とか使うと。
 自分の立場を実感させられるから。
 今日だけは使いたくない。


小さな、小さな。些細な我侭。


「悪いな」

ナルトが心底困り果てているところへ。

すい、と差し出される腕。
気配に胸をなでおろしてナルトは腕を掴んだ。
見上げれば難しい顔つきのシノ。
眉間の皴がいつもより深く刻まれていた。
背後には腕組みしたシカマルも居る。


「ごめんさい」

ナルトはきちんと断れない自分を情けなく思いながら。
少年へ深々と頭を下げた。
ナルトなりに精一杯気持ちを込めて。

「待ってください!君達にとってのこの方は?」

諦めが悪いのか馬鹿正直なだけなのか。
育ちのよさそうな少年は食い下がった。


「「自慢の彼女」」

同時に振り返り、シノとシカマルは同じ台詞で答える。


「悪りーな。簡単に手放せない大切な彼女なんだ、俺にとっちゃな」

ニヤリ。意地悪く口角を持ち上げ自信たっぷりに言い切るシカマル。

「将来の嫁だ」

臆面もなく言い切るのはシノ。
とたんにシカマルと火花を散らすのは最早恒例か。

「ばか・・・」

顔を真っ赤にしたナルト。

こんな風に言って貰えて嬉しくないわけがない。
たとえ演技でも仲間に庇って貰う行為。
助けてもらう行為。
こんなにも嬉しい。

もっと他に言いたい事はあったけど。

恥ずかしいので二人に小さく抗議した。


「分かりました。僕も男です。こんな風に貴女を護る人がいるのなら。・・・残念ですが今回は身を引きましょう」

ナルトの手を取り甲へ口付けて。
少年は約束通りナルトの名を尋ねず。
また自らも名乗る事をせずに去っていった。


「フン。気障なヤツだな」

シカマルが悪態をつく。
シノも口元を引き結び不機嫌を表明。
少し子供じみた二人にナルトはクスクス笑った。

「笑い事か!」

当の本人は至って呑気。思わずシカマルは声を荒げた。

「だって・・・」

唇に指を押し当てて笑いながらナルトが口を開く。

「初めてだったの!ナンパされたのも、こんな風に助けてくれる男の子が現れたのも。なんだかカカシ先生が読んでるイチャパラの子供版みたいで」

表現はやや悪いが的は外れていない。
ナルトの言い訳に二人の少年は同時にため息。

少しは意識してくれているらしい少女の、ちょっと成長したお言葉に。
今回は。


 喜ぶべきなんだろう。


同じ事を考える。


「あのね?」

幸せそうに目を細めて笑い、ナルトは懐から小さなマスコットを取り出した。

「これ、さっきの小物屋で売ってたの。前にサクラちゃんが七班の皆のマスコット人形作ってきてくれて。嬉しかったから、シノとシカマルと。お揃いのが欲しかったんだ」


シカマルへは鹿のマスコット。

シノへは蝶のマスコット。

自分には蛙のマスコット。

五センチ位の大きさの木のマスコット。

目立たない木目色だが、携帯するには丁度良い大きさである。
二人に手渡してナルトはもう一度笑う。


「この街で買った三人だけのお揃い。貰ってくれる?」

「ああ」

気恥ずかしさに耳まで真っ赤。
照れ隠しに明後日の方角を向きつつシカマルがぶっきらぼうに答えた。

「無論だ」

大切そうにマスコットを上着の内側。
胸ポケットに仕舞うシノ。
得意そうに笑うナルトの髪を何度も指で梳いた。


 ありがとう。


気持ちを込めればナルトは察する。
うっとりとした顔でシノのされるがまま。


「てめーら、勝手に世界を作るな」

低い声音でシカマル恨み節。
世界を構築した二人の肩を叩く。

「はあ?世界?」

ごくごく当然のスキンシップ。
ナルト的には兄妹感覚。
眉根を寄せシカマルを見れば怒り顔。ナルトは困惑した。


「気にするな」

「いーや、気にしろ」

シノ→シカマルの順に詰め寄られて。

 やっぱりこの二人は少し分からない事で揉めるんだな。

ナルトが心の中で思ったのはナルトだけの秘密。


「さ、食べ歩きしよう?折角のお祭りだもん」

口調も普段よりかはずいぶんと柔らかい。ナルトは賑やかな通りへ二人を誘う。

「それから」

ナルトはちょっぴり背伸び。素早く二人の少年の頬へ己の唇を押し当てた。

「これは助けてくれたお礼」

照れなくなったのは良い証拠?
ナルトは普通の女の子らしく小さく舌を出しておどける。


 ふ。

満足そうにシノは微笑み、シカマルも苦笑。
胸をよぎるは注連縄の言葉。



『いいかい?ナルちゃんがナンパされて、相手がいかにも駄目そうだったらすぐに助けちゃってね〜。
もし普通の男の子なら様子見ててご覧。少しはナルちゃんも女の子の自覚持たなきゃねv』



注連縄が二人の少年へこっそり耳打ちした指令。

その報酬。

少女からの頬へのキス。



自慢の彼女にするには道のり遠し。だけれど、いつかは。



 必ず!



やっぱり同じ事を固く胸に誓う二人の少年の姿があった。

楽しかった〜v普通のナンパをされて驚くナルコの話でしたっ。サイフエピソードも入れられてビバ!自己満足。ブラウザバックプリーズ