自慢の彼女

 


なるとサイフ。


ぱんぱんに膨れ上がったカエルのサイフ。
持ち出した金糸の髪を持つ少女。

薄水色の布地で裾部分に赤い金魚が泳ぐ涼しげな浴衣姿。
帯は濃紺色。
やや長く伸びてしまった前髪を、同じ赤い金魚のピンで留めている。
ご丁寧にそろえた草履は鼻緒が赤いものだった。


「おー!お前結構金持ってるのォ。御大尽じゃのォ」

白髪頭のおっさんは目を見張った。

「使い道がなかったし」


実際。

少女が『女の子らしいもの』とはまったく無縁の暮らしをしていたし。
欲しいものといえば園芸用の用品くらいか?
食費だってそんなにかかるわけじゃない。
服は興味が無いしアクセサリーも同様。

しかも日々忙しいのでお金を使う暇が無い。
任務は難易度の高いものばかり。比例して報酬が上がるのも当然。
悪循環でお金が余るのも致し方ない。


なるとサイフの持ち主、ナルトの素っ気無い返答。


「そうか」

もっと子供らしい返事を・・・期待してはいないが。
それなりに年頃らしくあるべきだとは。
流石の白髪頭のおっさんも思う。
ガッカリして目を泳がせ。


「おい、シノ。お前のサイフは・・・」

白髪頭のおっさん絶句。
『なるとサイフ』とまったく同じデザインのカエルサイフ。
ナルトが持つのと同じくらい膨らんでいた。


「使い道が無い」

矢張りナルトと同じ返答。
丸黒眼鏡。ちょっと背の高い少年は簡潔に答えた。

「そうなんだ?」

普段報酬の使い道は会話にのぼらないため。
ナルトは珍しそうな顔つきでシノを見る。

「使い道が限られているとも言う」

ナルトの問いに、言い方を変えて答えるシノ。

ちなみに『なるとサイフ』に『うずまき なると』と書かれているように、シノのサイフには『油女 シノ』と。

丁寧な字で持ち主の名が記されていた。


「これお揃いなんだよね。ジジイが初任務終了の時にくれた。これからも無事に帰ってきて報酬を貯められるようにだって」

シノのサイフを突いて笑顔になるナルト。


 んな経緯があったのかよ。さり気にお揃いとかってセコイぞ。


静観していた目つきの悪い少年。シノを睨めばシノは無言で笑った。


 羨ましいか?


口元が如実に語っていて。目つきの悪い少年としては腹立たしい。


「ん?シカマルは持ってないのか?」

白髪頭のおっさんの興味の対象が目つきの悪い少年、シカマルへと移る。
シカマルは無言で折りたたみサイフを白髪頭のおっさんへ広げて見せた。

「・・・御大尽じゃのォ」

札束を前に白髪頭のおっさん完敗。

散財を知らない堅実な子供達を頼もしいと思う反面。

少しはハメを外せと。

老婆心(?)なのかやっかみなのか。
微妙なラインの感想を漏らした。

対照的に三人の子供達は「アンタには言われたくない」と。異口同音。


『先生は常にハメ外してますからね〜』

無邪気に止めを刺す弟子。

反論する気も起きない白髪頭のおっさん。
子供達のサイフのチェックを始めた。

 





数刻前に遡る。


小柄な少女は両脇の少年二人の沈黙にやや引き気味。

何故か不機嫌そうに黙り込んでしまっている少年達。

街へ入ってからずっとこんな調子で。

さっぱり理由が分からない。

意味不明瞭な言葉を発して少女は唸る。
首を傾げれば金糸が揺れた。
深き湖面を連想させる蒼き双眸に戸惑いの色。


『本来の姿だからね〜』

少女の手前を後ろ向きに歩きつつ、少女と向かい合って喋るスケスケ青年。
金髪・碧眼一見美青年風。
街行く女性の熱い視線を浴びて飄々としたもの。
いつもと変わらぬ調子で少女へ語りかけた。

「俺が?」

顔立ち整った少女が眉根を寄せる。
スケスケ青年へ向けられるのとはまた違った視線。
少女に集まれば二人の少年の不快指数も急上昇。
ついつい口数が少なくなってしまう。

『まずはその無粋な忍者コスチュームを変えないとね。紅から荷物預かってきたからまずは着替えちゃってv』


はい。と。

どこから取り出したのか紙袋を少女へ押し付けるスケスケ青年。
思わず受け取ってから『しまった』と。顔を顰める少女。
不安そうな顔つきで二人の少年を交互に見る。


「・・・まぁ、なんだ。紅さんが見立てたから普通だと思うぜ」

少女の背負ったリュックを無理矢理取り上げ。目つきの悪い少年が言った。

「恐らく」

言葉少なく目つきの悪い少年に同意する、丸黒眼鏡の少年。
少女を宥める様に柔らかな髪を指で梳く。二度三度。


『ほらほら。お祭り用の浴衣だから。早く着替えておいで』

ナルトの頬に唇押し当て、もごもご喋れば柔らかい感触の持ち主は風と共に消えた。

「煽るな」

呆れた調子の丸黒眼鏡。背の高い少年。

『ご免ね?でもさ〜、折角だからそれなりに女の子するべきじゃない?勿論シノ君とシカマル君は壁役で』


 残念。

思っても無いくせに呟いて。
それから二人の少年へ策を提案するスケスケ青年。


『普通にしてたらかなりモテるよ。お兄さんのナルちゃんはね。そんな時はナルちゃんがキレないうちに相手を成敗しちゃって』

「物騒なんだよ、おっさんの思考回路は。フォローはするに決まってんだろ」

腰に手を当て気だるげに答えた目つきの悪い少年。

『今回ばかりは二人に頑張ってもらわないと。これ、頼むね』

スケスケ青年。
策士の顔つきで二人の少年に何事か耳打ちした。

 





冒頭へ戻り。

「お前らのサイフはわしが預かる」

三人の子供のサイフチェックを終えた白髪頭のおっさんは宣言した。

「自来也・・・金に困ってるのか?」

白髪頭のおっさん。
伝説の三忍を敬称抜きで呼び捨て。
尚且つ哀れみが滲み出る口調で尋ねるシノ。

大物かもしれない。

ビシ。

白髪頭のおっさん・・・自来也の顔が固まった。


「忍には忍の『三禁』というものがあるのを、お前も知っとるのォ?
忍を駄目にする三つの欲の事だ。酒・女・金の三つをさす」

ひったくるようにシノのサイフを取り上げ講釈。
自来也の言葉にシカマルが怪訝そうな顔をして指摘した。

「まんまアンタに当て嵌まるんじゃねぇ?」

自来也は無言でシカマルの財布を取り上げる。
ナルトはクスクス笑いながら自来也へサイフを差し出した。
自来也が抜き取ったのは一人当たりそれぞれ三百両。

「金欲を馬鹿にしてはいかん」

誰も馬鹿にしていないのだが。
咳払い一つして自来也は話の流れを元に戻す。

「使い出せばどんどん行くぞ!金の魔力とは恐ろしく、今から捜す綱手もそれで身を滅ぼしかけとるんだからのォ!」

「「「・・・・」」」

白々しい説教に子供達は無言で自来也の顔を凝視。

穴を開けてみよう!と謂わんばかりにジーっと見つめる。


『先生。バレバレのお説教は駄目ですよ♪白けちゃいますよ?』

三対一では不利。
察した注連縄がボフンと煙を巻き起こして登場。
微苦笑しつつ自来也と子供達の間に入る。

「なんだ、ほれ。一応の注意だ」

恥ずかしいと自覚は在る。
自来也は少し顔を赤くして弁解した。
注連縄が子供達へ向け分かるように片目を瞑る。


 大人はきちんと敬わなきゃ駄目だよ?


無音で伝えられる言葉に子供達は小さく笑って首を縦に振った。


「じゃ行ってくる。集合場所はアソコでいい?」

飲み屋の暖簾を顎先で示しナルトがさり気なく話題を変える。
自来也の説教内容が面白かったので顔が笑いっぱなしのままだが。
苦い顔で自来也は己の荷物をシノとシカマルへ持たせた。

「ほれ、お前らはわしの荷物を持って行け。迷っても追跡用の口寄せ蝦蟇がわしの居る場所まで案内してくれる。とりあえずわしも情報収集に入るからな」

「「承知」」

一応の礼儀にのっとって頭を下げるシノとシカマル。

「じゃーな」

自来也は片手を上げると姿を消した。
瞬きする間に消えた自来也に気づく者はいない。
子供達とスケスケ青年の間を人々は通り過ぎる。

『じゃ、お兄さんも休憩入ってまーすv』

どこかのカフェのウエイトレス?
先輩に断りを入れて休憩に向かうウエイトレスのような口調で注連縄も姿を消す。
妙に様になった口調が不気味さを煽る。

「行くか」

余計な退場シーンを見せられて少し気分が悪い。
が、今は目の前に居る彼女との思い出作りが大切。
気持ちを切り替えてシカマルがナルトへ手を差し出した。

「うん」

ナルトがシカマルの手をとる。
相変わらずというか、自然な動作でもう片方の手をシノへ差し出していた。
シノも当然といった態でナルトと手を握る。

「なんか不謹慎だけどワクワクする」

シノ・シカマルと手を繋ぎ楽しそうにナルトは口元を綻ばせた。

「不謹慎?んー、エロ仙人だって遊んできて良いって言ったんだ。大方エロ仙人だって『遊ぶ』んだろ?」

含みを持たせてシカマル、自来也が消えた方角へ目線をやる。

「否定できないかも」

遠慮ないシカマルの言葉にナルトが小さく笑う。
はにかむように笑えば道行く少年・男供の注目を浴びてしまい?
突き刺さる視線にナルトにしては珍しく俯く。
サラサラの金糸が動きにあわせて揺れて、それはそれでまた絵になる。

「これはどうだ?」


 近寄るな。

元忍がいたならば失神してしまう位ドス黒いチャクラ発動。
シノはさり気なく屋台の一つへナルトを誘導した。

「小物屋さんだね」

木の葉の里に在るものとは少し違った色使い。

携帯に便利な小さな手鏡や、鈴に櫛。
ヘアピンにキーホルダー。小さな木彫り。
カラフルなものからシックなものまで。
様々な小さな小物が並べられていた。


里では何かと気を遣うナルト。
本来の姿を隠して生活している為、本来の姿で里を歩いていると余計に疲れてしまうのだ。
気を張りすぎて。

ここでは本来の姿で歩いていても誰の目にも留まらない。(違った意味では目に留まっている)

ナルトの姿で負の視線を浴びて買い物なんてする必要もない。

まったく本来の自分でいられる。気分的にも気楽なのだ。

ナルトはしげしげ小物を見詰め、なにかを物色し始めた。


「可愛い彼女だねぇ」

小物屋の年配の女主がシノへ声をかける。

「おばさんハズレ。婚約者」


 にこり。

笑顔のままナルトが答える。
ナルトにしては本当に珍しい。
ある種ここまで素でいられてしまうと、嬉しい反面困る。
シノは咄嗟に対処できず相槌一つ打てなかった。彼にしては珍しい失態である。


「仮婚約だぜ?家同士の」

すかさずシカマルが訂正。微妙な三角模様に気づいたか。


「そうかい」

女主は皴だらけの顔をくしゃくしゃにして笑った。→後編へ続く


うちは兄弟がシリアスだったので反動です。やっぱりこんな話の内容も好きさー(表現下手だけど)後編へ続きますっ。ブラウザバックプリーズ