「綱手を捜す間、時間は無駄に使わん。お前の修行に充てる」

真顔で子供を見下ろす白髪頭のおっさん。
金糸の髪。子供は口角を持ち上げ笑う。


「しつもーん」

気だるげに挙手するのは目つきの悪い少年。
長い髪を頭の高い位置で結わいている。

「なんだ?」

白髪頭のおっさんは目つきの悪い少年へ目線を移す。

「俺等はフォローだけですか?」

任務は任務だが。伝説の三忍(仮?)と謳われた一人が目の前に居る。

あの子供だけ強くなっても小隊のバランスは取れない。筈。


「そのことか。それなら、ほれ。後ろに居るだろ、適任が」

『えっへん』

白髪頭のおっさんに遠まわしに名指しされた人物(?)が胸を張った。
金髪・碧眼。一見美青年風。スケスケ青年だ。


「「・・・」」

質問した目つきの悪い少年・先程から黙り込む丸黒眼鏡の少年。
互いに硬く口を引き結ぶ。
強張る二人の少年の表情にスケスケ青年はニコニコ笑った。

『こう見えてもお兄さんはカカシ君の先生してたんだよ?君たちもそれなりに鍛えてああげるから心配ご無用〜。ってあれ?シカマル君、シノ君?』

胸をたたいてアピールするスケスケ青年を無視。
二人の少年は密談を開始した。

「俺だったら・・・そうだな。まだ紅さんと幻術とか戦術の訓練した方がましかと思うぞ。それか暗部の仕事引き受けるか」

横目でスケスケ青年を捉えつつ目つきの悪い少年、シカマル発言。

「鍛えるという意味が言葉通りなら問題ないだろう」

シカマルの言葉に少し異を唱える丸黒眼鏡の少年、シノ。

「命がけだったりしてな」

あながち外れでもない答えを口にして、シカマルは乾いた笑みを浮かべた。

「おっさんはナルトに近づく輩を排除する。一応は俺等もリストの上位にいるみてーだからよ」

金糸の子供。
ナルトにちょっかいだして怒られているスケスケ青年。
矢張り横目で眺めシカマルは言葉を続ける。

「注連縄がしたくとも出来ない」

妙に冷静なシノがポツリと言葉を漏らした。

「?」

「ナルトが注連縄を絶対に許さないだろう。俺達がどうにかなったら」


 フッ。

スケスケ青年、注連縄に挑発的笑みを見せつけシノは結論付けた。


「確かにな・・・」

最低限の無事は保障されるだろうが。
その過程が問題。

どんなデンジャラスな修行が待っているかと思うと・・・。
不慮の事故といって上忍や特別上忍の一人や二人。簡単に闇に葬るだろう。
あのストーカー背後霊はそういう男だ。

「俺は極力五体満足でいてーんだよ」

ぼやくシカマルの。
ささやかな望みを叶えてくれる神様はいそうにもなかった。



接点無い?ナルトにシノにシカマル。
ある共通項で括られた仲間である。

ナルトの本来の姿を知る数少ない仲間。
凄腕上忍であるナルトの。
数少ない仕事仲間でもあるのだ。


表向きの『ドタバタ忍者』とは正反対。クールで鋭利。
強さと弱さを内包する少女。
共に自来也の旅に同行する面子だ。


五代目火影候補・伝説の三人が一人綱手姫探索の道中。
自来也にナルト付属品の幽霊に、シノ・シカマルが合流。
一段と賑やかさを増した。


木々も疎らな殺風景な街道を歩くこと数時間。
巨大な穴・・・人為的にくりぬかれた穴と、穴の背後にある山。
穴のほうから人の活気に満ちた空気が伝わってくる。
のんびり歩く自来也・注連縄。

大人組を他所にナルトは穴の傍まで駆け出した。
つられてシノ・シカマルも走る。


「へぇ?穴の下に街が丸ごと入ってるんだ」

穴の手前。
柵が設けられていて、そこから下を覗き込んだナルトが思わず感嘆の声を漏らす。
シカマルも下の町を見下ろした。

「街の防衛とかと関係あるんだろ。この街は始めてか?」

隣で身を乗り出して街へ視線を送るナルト。
珍しく真剣かつ興味深そうに街を見ている。
シカマルは顔だけ横へ動かしナルトへ尋ねた。

「分からない。夜や早朝に動く任務がほとんどだったから。俺は昼間の街をあまり知らないしね」

町から吹き上がる風に乱れる髪を押さえ、ナルトは表情を変えずに答えた。
淡々と。

「じゃ今回は楽しめるな」

一年前なら重すぎるナルトの荷物に絶句していたシカマル。
時は人を成長させる。
シカマルとて無駄に一年ナルトの傍にいたわけじゃない。
さらりと流して話題を変える。

「そうだな」

ナルトの顔の表情が戻る。

笑顔をシカマルに向けるナルト。

シカマルへ殺気を向けるシノ。

自来也は嘆息。


「わしは遠足の引率か・・・」

両肩を落とす自来也に注連縄は呑気に『先生、頑張って下さいね』なんて。
まるっきり他人事。
弟子の性格を熟知する師匠としては。
もう一度ため息をつきそれから気持ちを切り替えた。

「綱手の情報収集もしながら、ナルトを鍛える。この街でな」

自来也がナルトとシカマルの間に割って入る。
眼下に広がる街並みは、木の葉の里の活気とはまた違った喧騒に包まれ。

 不思議と気分が高揚するのはナゼだろう。

ナルトは気もそぞろに自来也を見上げたまま考えた。


「さ、行くか」

遠足の引率(?)責任者自来也。


 あーあ。
 忍としては冷静で優秀なのに、先生ってあーゆーとこで保護者役を引き受けるからな〜。
 貧乏くじ引くのは上手い!
 ま、僕としてはナルちゃんとイチャパラ出来ればオッケーだしv
 それにある程度二人を鍛えて上げないとね。
 ナルちゃんの負担になっちゃうでしょ。


なんだかんだいって面倒見は良い師匠の背中。
ニマニマ笑いながら注連縄が見ていたのは誰も知らない。

 





活気立つ街。理由は簡単だった。

「祭り?」

色とりどりの衣装。
人で賑わう大通り。
露天が立ち並び子供達がゲームへ興じている。
大人達はそれぞれ思い思いのお菓子や食べ物・小物を物色。
街の浮かれた雰囲気を観察したシノがボソリと言葉を零した。

「うっわー!すっげー!!俺ってばこういう・・・」

ナルトが無意識にドベのナルトへ戻りかけるが、自来也に制される。
慌てて口を噤むナルト。

件の暁の例もある。
怪しい気配でもするのかと探ってみるが、らしきものはない。
思わず眉間に皺を寄せたナルトへ自来也は喉奥で笑った。


「ココでは隠すな。遊ぶことも時には必要だ。ナル、お前がな?ゆっくり休んだら修行に入るぞ。当分祭りは続くからな」

前半はナルトへ向けて。
後半部分はシノとシカマルへ向けて。

目を大きくして驚くナルトと訳知り顔で笑うシノ&シカマル。
いつもとはまったく逆の反応を示す子供達。

注連縄は傍観しつつ噴き出しそうになるのを堪えていた。


 か、可愛い!!あのナルちゃんの愛くるしい瞳がまん丸だよ!!


完全に固まったナルトが可愛らしくて、思わず注連縄は抱きついた。


『ナルちゃーんvvv可愛い!!可愛いよ!!可愛すぎて犯罪』

「ちょ・・・」

注連縄の抱擁に頬を引き攣らせるナルト。
もがこうにもガッチリ抱き締められていて逃げ出せそうに無い。

「いい加減にしろ」


 ギロリ。

静かな殺気に満ちた蒼き双眸。
睨まれて注連縄は抱き締める腕の力を弱めた。


『ココじゃ無理してナルトを演じる必要は無いよ?
お兄さんの幻術がかかってるから、その他大勢にはナルちゃんを感知できない。
つまり印象には残るけど、記憶できない。強制的に忘れるってわけ♪』


 ね?

おでこをこつんと触れ合わせて。
普通の忍なら脱兎の如く逃げ出す殺気を受け流す。
注連縄の額の感触に納得いかないものの、ナルトは目線で話の先を促した。


『そりゃ忍・・・ナルちゃんの抱える事情からいったら、本来の姿は極力晒さない方が身の為だよ。だけどね、ナルちゃん自身に楽しんで欲しいからねv』

頬にくっきり浮かぶ三本の筋。
指でなぞって心底楽しそうに注連縄が囁く。


『今までのお祭りは任務絡みだったり、ナルトとして参加したりしてたでしょ?
ナルトである事が無駄だと、お兄さんは思わない。だけどナルトと同じ位ナルも大事にしないとね?
ナルトが仲間に囲まれて笑ってるのと同じくらい、ナルも仲間に囲まれて笑ってないと・・・だって同じじゃない?ナルトもナルも』


「同じだよ、ナルトも俺も」


悪戯っぽく輝く己と同じ蒼玉。
間近で見すぎてぼやける蒼。
ナルトは蒼に向けて答えた。


 どっちも大切な俺の一部。
 ナルトである時間は無駄じゃない。


最初は無駄で愚かしい行為だと。
皆を騙して生き延びるためだけの手段だと思っていた。


どれも無駄ではないと。
悟らせてくれた狸はこの世にいない。

 ・・・狙ってたんだろうな、俺が悟るのを。
 無論ナルの部分も俺を形成する大切な根幹。
 性質が逆だからといって相反するわけじゃない。
 俺という人格を成す上で重要な経験を積めた。
 ナルトの時には諦めの悪い粘り強さを。
 ナルの時には刹那に過ぎる儚き事象を。
 異なる二つを経験したから視野を広く出来る。
 凝り固まってはいけない。


 俺自身の狭義で誰かを犠牲にしない為に。


確信を持って即座に言い返したナルト。
ナルトの放つ無意識の眩さに注連縄は目を細めた。


『うん。お兄さん自慢のナルちゃんだもんね。分かってくれてるとは思ってたけど』


 ぼそぼそぼそぼそ。


これみよがしにナルトの耳元で囁きトークを展開する注連縄。
ナルトは目線の端に。
心配顔でナルトを見るシノと。
笑っているようで目がまったく笑っていないシカマルを捕らえ。


 たまにはいいのかな?


注連縄だけに小さく囁き返した。
二人に聞かれたらちょっと恥ずかしい。


 子供じみてる?かもしれないけど。
 祭りとかそいういうの、普通に参加してみたいって思ってみたりして・・・。
 ああ、もう!注連縄がいけないんだ。
 絶対にずるい。
 俺の弱いところ突くし。
 普通を体験させたがるし。


『ナルちゃんが大切だと想える友達と、楽しく遊んでおいで。自由になる時間は少しだけだけど。思う存分笑っておいで』

ナルトの耳元で囁く注連縄。
くすぐったさに身を捩るナルトと。
大人気ない注連縄の挑発に乗って殺気立つ少年二人。
注連縄はナルトを抱き竦め背中をポンポンと叩いた。


 まだまだナルちゃんは渡さないよ?


ニュアンス含ませて、シノとシカマルを交互に見渡す。
ナルトが文句を言っているけど少しばかり無視。
お小言は後で黙って聞くことにして、今は二人への牽制が先。


「おちょくられてる・・・だろーな、俺等」

めんどくせー。頭を掻き掻きシカマルは得意顔の注連縄へ視線を向ける。

「挑発か牽制か。あるいは両方だ」

シノは眼鏡を持ち上げなおす。

「相変わらず狭いんだか、広いんだか。分からんのォ」

木の葉を家族だと。
言い切って文字通り家族を護るために身を盾にした男。

成れの果ての姿。

なんとも狭い懐具合。
可愛い子供を盗られまいと、子供の仲間に圧力かけるのは大変大人気ない。



「ま、あれはあれで。平和か」

お茶らけた口調で少年二人を揶揄する注連縄と。
呆れた顔ながらもどこか楽しそうに見守るナルト。
少しずつ変わる人間関係。かつての己と仲間を思い出し。



遠足の引率の先生は無意識に口元を綻ばせたのだった。


このメンバーだとどうしても自来也さんが引率の先生に(ぐふっ)こうして一行はお祭りへ!ブラウザバックプリーズ