伝説の・・・

 

太陽の光弱い午後。
雨こそ降らないがここ数日続いた晴天よりは、少し悪い天気。
人気の少ない街道で。


『ああああああ!あんなに密着して!!』


しっかり抱き合って笑顔をかわす金糸の子供と。丸黒眼鏡長身の少年。

遠巻きに眺めつつスケスケ青年は盛大な悲鳴を上げた。
金髪・碧眼。
一見美青年風だが大口開けて叫ぶ様は間抜けである。


「五月蝿いぞ、お前」

スケスケ青年の傍らに立つ白髪のおっさん。両手で耳を押さえ呻いた。


『ああああああああああああ・・・』

壊れたCDプレーヤーのように耳障りな音を発するスケスケ青年。


『あああああぁぁあああぁああぁああああぁあああああ』


「いい加減にしないか」

ついに切れたか白髪のおっさん。
印を結びスケスケ青年を封印。
口に札を張られた青年はフガフガ閉ざされた口内で何かを叫ぶ。
足掻いていた。

次に抱き合う目つきの悪い少年と金糸の子供。
目撃したスケスケ青年滝のような涙を流し・・・。


「おい、おっさん危なくねーか?」

金糸の子供と抱き合いつつ己の生命の危機を感じる。
目つきの悪い少年は目配せした。

「問題ない」

キッパリ否定する丸黒眼鏡の少年。

「?」

思わず丸黒眼鏡の少年を凝視してしまう目つきの悪い少年。
丸黒眼鏡の少年は口角を緩やかに持ち上げた。

「ナルトがいる。それにオマケもいる」

金糸の子供、ナルトの頭を撫で撫でして。
丸黒眼鏡の少年が顎先で白髪のおっさんを示した。
ナルトは丸黒眼鏡の少年の言葉にクスクス忍び笑い。

「オマケってまさか・・・」

片手でしっかりナルトを抱き寄せ。
もう片方の手で首筋を撫で上げ、目つきの悪い少年は絶句した。


 自来也のことか?仮にも伝説の三忍だろ?
 イチャパラ作家のエロ仙人だけどさ。
 まずくねーの?オマケ呼ばわりってのは。


咄嗟に考えて目つきの悪い少年は顔を顰める。


「いいんじゃないの?シカマル」

腕の中。
察したナルトは美しい青い瞳で目つきの悪い少年、シカマルを見上げた。
ひたりと見据えられシカマルは頬を少しばかり赤くする。

三日ぶりとはいえ久しぶりの再会。
シカマルだって、隣にいる丸黒眼鏡、シノだって。
心の底から喜んでいるのだ。


大切な人との再会を。


「シノ、シカマル。追いかけてきてくれてありがとう」

満面の笑みでシノ・シカマルへ礼を言うナルト。
生憎の薄曇であるが、ナルトの動きにあわせて金色の髪が揺れた。

「うむ」

ふにふに。ナルトの頬を触り返事をしたのはシノ。

「そっちも大変だったみてーだし?早く合流してやりたかったんだよ」

シノの分まで代弁してしまうのはシカマル。

「んー。大変といえば大変だったけどね。エロ仙人のお蔭で」

エロ仙人をこれみよがしに強調するナルト。

とたんに白髪のおっさん、自来也へ突き刺さるシノとシカマルの殺気。
自来也は乾いた笑みを浮かべた。


「感動の再会はそれくらいにしろ。移動するぞ」

今回の旅の目的。
五代目火影候補を捜す旅。名目上(?)引率者である自来也の号令に従って子供達は集合。


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口に札を張られたままのスケスケ青年はまだフガフガ叫んでいた。

「・・・行くか」

冷めた目でスケスケ青年を見やりナルトは歩き出す。
シノは無言でナルトの右隣へ陣取る。

「時は金なり。だしな」

鬼気迫る顔で涙するスケスケ青年を気の毒には思いながら。
助ける事無くシカマルはナルトの左隣へ陣取った。

「正直だのォ。お前ら」

自来也がしみじみ呟いた言葉は誰の耳にも入っていなかった。

 





てくてくてくてく。

自来也を先頭に、後ろを子供達三人。

殿をスケスケ青年。奇妙な一行が街道を歩く。


「へぇ?修行は未だなのか」

シカマルは意外そうにナルトを見下ろす。

欠陥があろうが、あるまいが。
自来也が凄腕忍者であることに変わりない。
ナルトのことだから多少の修行はつけて貰っていたのかと。シカマルは思っていた。


「修行どころじゃなかったから、仕方ないよ。イタチは来るし、サスケはイタチ追っかけてくるし。ところで里は?」

「カカシ上忍とサスケが撃沈されただけだ。被害はない」

すかさずシノが疑問に答える。

「そっか」


 フイ。

どこかはかない表情で目線を下へ落とすナルト。
思わせぶりな態度にシノとシカマルはナルトを凝視。


「紅先生が無事でよかった・・・。カカシ先生は仕方ないにしても」

ナルトなりに案じていた。

紅の安否をちらつかせた、イタチの含みある言葉に腹を立てていたのも事実。
もしイタチが嘘をついていたなら。
より強くなり、暁だろうがなんだろうが壊滅。
心に決めていたナルトであった。


「「・・・・」」

保護者のみを案じるのは良いことだ。
しかし。
あっさり『仕方ない』で片付く里の実力者(凄腕忍)の存在って!?

 もしかしなくても俺達の場合もそうなのか?


ほぼ同時に同じことを考え、二人の少年は僅かに肩を落とした。

 
五代目候補さえ確保できれば、カカシ先生もサスケも治療してもらえるからな」

二人の少年の落胆を感じ取ってナルトはこう付け足す。

「一つ質問」

シカマルが片手を上げる。

「天鳴(あまなり)の能力で治癒すれば簡単なんじゃないか?その綱手姫って三忍を捜すまでもなく」

シカマルの質問にナルトが自嘲気味に笑う。

「外傷だけならそうしてる。
ただ二人は精神攻撃を受けた。
天鳴は全てを癒す。
良くも悪くも治癒してしまうから、問題があるんだ。
だから下手すると、品行方正なカカシや無邪気なサスケなんてのが目覚める可能性もある。
俺自身完全に力をあつかえてる訳じゃないしね」


 生き延びる術としての医療なら学んだ。
 『誰か』を助ける為の医療を知らない。


揺れるナルトの瞳。


「人格まで癒せるのか。今度アスマに頼むぜ。タバコやめたがってたからな」


ニヤリ。

ナルトの不安を意に介さずシカマルが耳打ち。
シカマルらしいジョークにナルトは失笑した。


「アスマ先生からタバコ取ったらまずくない?トレードマークだし」

ナルトの台詞にシカマルは無言で肩を竦める。
くすくす一頻り笑い、小さな声で「ありがとう」と。ナルトはシカマルへ言った。
ナルトとシカマルに漂うほんわか空気。
シノは指先にとめた蜂をシカマルへ届けようか思案の真っ最中。


三者三様を傍観していた自来也。わざとらしく咳払いした。


「今回の探索、表立ってはわしとナルトの二人。お前らにはサポートを頼む。綱手姫に関する情報を入手したらわしへ連絡してくれ」

自来也の言葉に顔を引き締める子供達。

先ほどまでのピクニック感覚のような雰囲気は吹き飛び。
任務を負う忍の顔。
真顔で自来也の顔を見上げる。


 変わり身は早いのォ。


子供達の顔を順に見つめ自来也はぼんやりと思った。

トントン。

自来也の右肩を叩くヒンヤリとした物体。不思議に思って自来也が右を向けば。

『・・・』

「うおっ」

自来也仰け反る。
口を封印された状態のスケスケ青年が必死の形相で自来也を見つめていた。
すっかりスケスケ青年を忘れていた。
自来也は額の汗を拭い封印を解く。


『ふは――。死ぬかと思いましたよ〜、先生』

口から札を引き剥がしスケスケ青年は大きく深呼吸。

ベタな一言に『アンタ死んでんだよ』とは。誰もつっ込まない。


『ここでマメ知識。顔を知っていても綱手さんの情報知らないでしょう?』

ね?スケスケ青年が愛想の良い笑みを浮かべる。

話せば?言いたそうにナルトが目線をスケスケ青年に向けた。


『先生の言葉を借りれば。“すっごい嫌な奴。賭け事が死ぬほど好きで、顔は国々に知れ渡っている”でしたよね?』

スケスケ青年の隣で。自来也が腕組みして何度もうなずく。

「確かにアイツは有名だのォ。なんせ伝説の・・・」

重々しい口調で自来也がスケスケ青年の言葉を引き継ぐ。
固唾を飲み自来也の言葉を待つ子供達。

「伝説の?」

代表してシカマルが話の先を促した。

「伝説の・・・」

バラエティーのリプレイか?自来也はもう一度繰り返す。

うんうん。僅かに身を乗り出す子供達。


「伝説の・・・カモだ」

「「「・・・はい?」」」

驚愕よりかは呆れ。固まる子供達の声は綺麗に揃っていた。

『そうなんだよ〜。三度の飯より賭け事好きでね?着ている上着の背中には賭の文字があるんだよ♪』

楽しそうに綱手姫について語るスケスケ青年。


 そういう問題?


頭一杯に疑問符を飛ばし子供達は揃って首を傾げる。
自来也は思い出でも蘇っているのか少々渋い顔。
一人心地に語り始める。


「有名は有名だが捜し出すのは難しいのォ。あやつは老けるのが嫌で、今も多分特別な術で容姿を変えとる。実際は50歳でも20歳の頃の姿だからのォ」

誰に言うとはなしに自来也が言う。

「それどころか、最近聞いた話じゃ・・・。臨機応変に10代・30代・40代にも変化して金貸しから逃げ通しているらしいのォ」

「そんなんでいいの?伝説の三忍って・・・」

ナルトがシノの顔を見上げる。

さあ?

シノも返答に困った顔で眉根を寄せる。


「綱手はガキの頃から何よりも賭け事が好きでの。けど運も実力も最悪でのォ。皆にカモられっぱなしでその名が付いた。んで、いつも金借りたまま逃げたのォ・・・あー懐かしい」

在りし日(?)を偲ぶ自来也。

「ダメダメ三忍組?」

ナルトが二人の少年に囁けば二人は大爆笑。
シノでさえクツクツ喉奥で笑っている。

『ダメでも三忍だからね。伝説の』

やんわりスケスケ青年がナルトの暴言を諫めた。

「じゃ、色んな意味で伝説の三忍」

悪びれせずにナルトは訂正。
スケスケ青年は逡巡した後、『それなら当たってるかも』なんて呑気に笑った。


「ほっとけ」

苦い顔で自来也がスケスケ青年へ言ったのは。
思い当たる節があるからだろう。

伝説(良くも悪くも)の一翼を担う自来也を見上げ、子供達は思ったのだった。

2人の合流話と何故ナルがサスケを癒せなかったか〜話です。オマケとして口を封印された注連縄さんって事で(笑)ブラウザバックプリーズ