奇々

 


五代目火影候補を捜して旅を続ける三人。
次の目的地である町を目指して徒歩で移動。

今日で二日目になる。

白髪見事なおっさんは目の前で展開される『ベッタリ(?)』に顎を抜かす勢いで驚愕していた。
あくまでも胸中で。


事態は二日前に遡る。


『スヤスヤですね〜vvv』

背中に子供をおぶってご満悦のスケスケ青年。
金髪・碧眼。一見美青年風。
だらしがなく伸びきった鼻の下を除けば。

「そうじゃの」

白髪のおっさんは小さな声で答えた。
青年におんぶされている子供を起こさないように。
子供の金糸が青年の歩くリズムに合わせて揺れる。

『ナルちゃん、緊張してたんですね。イタチ君と遭遇して』

肩に当たる子供の頬の感触。目を細めて青年は呟く。

「仕方ないのォ。今のナルトレベルではイタチには敵わん。お前だって分かっているだろう」

ひくりとも動かない子供・・・ナルトの瞼を眺め、おっさんは評した。

『伸び盛りとはいえ、イタチ君には勝てないですね。ナルちゃんには自覚が足りないし、覚えることも沢山ある』

木の葉の忍が聞いたなら。
仰天するコメントを青年は発した。


『ドタバタ忍者』と名高いうずまき ナルト。
実は素性・性別・実力がまったく逆のクールな凄腕上忍。
理由あって下忍などしている。
ともすれば一匹狼風だったナルト。
下忍仲間やナルトの素を知る協力者達に囲まれ、気質的に落ち着いてきていた。


つい数刻前に遭遇した『うちは イタチ』
かつてナルトの忍術指導を行っていた教師であったが、一族惨殺後(弟の除く)里抜け中。
に攻撃を受け、青年の背中で一休み中。


「天鳴(あまなり)の力か?」

ナルトが抱える秘密の素性。
血継限界の中でも特殊である天鳴の血筋。
うちはの末裔が唯一の写輪眼継承者であるのと同様。ナルトも天鳴の血を引く末裔である。


おっさんは探る目つきで青年を見た。


『いえ。己に与えられた力をどう使いたいか。ナルちゃん自身が望む力のあり方ですよ。大切なものを守るためって限定しても、ケースバイケースですから』

現実は甘くないですもんね。続けて言い青年は淡く笑う。

「そうか」

短く答えてその場は会話終了。
疲れきったナルトを慮って、二人の大人は目指す町の中継点にある宿へ足を運んだ。


宿屋にて。


ナルトが熟睡しているのをちゃっかり利用し、添い寝をしている青年の姿があった。


「知らんぞ、わしは」

おっさんは忠告だけして部屋を後にする。

情報収集と今後の見通しを立てるべく夜の街へ姿を消した。
パッと見白髪頭のおっさん。
実は五代目火影候補を捜す旅に出た伝説の三忍自来也である。
余談だがスケスケ青年・注連縄の師匠でもある。


『先生も素直じゃないな〜』

音もせずに閉まる扉。眺めて注連縄は微苦笑した。


自来也、おそらく五代目火影候補の行方も気にしている。
しかし、木の葉を巡る状況は思ったより穏やかではない。
不可思議な組織といい、他里の動向といい。
里を離れているが木の葉の忍までは廃業していない。
自来也なりに木の葉を心配しているのだ。


『ナルちゃんはあんな大人に成らないでねv』

柔らかいナルトの頬。
部屋に張った結界がナルトを守るため、現在は本来の少女の姿。
フニフニほっぺを指先で堪能しつつ、注連縄はナルトの寝顔を飽きる事無く見つめていた。

「・・・」

数十分。いや、小一時間ほど経っただろうか。
ナルトの金色睫毛に彩られた瞼が揺れる。


注連縄、咄嗟に身構えた。


 ナルちゃん、怒ってるかな。
 怒ってたらクナイが五本と術とそれから・・・。


普段からナルトにセクハラまがいのスキンシップをかましている注連縄。
今までナルトから受けた攻撃を思い出し、ナルト覚醒時の攻撃に備える。


「・・・注連縄?」

薄蒼から濃い蒼色へ色合いを移すナルトの瞳。
ぼんやり結んでいた焦点が徐々にピントを注連縄へ合わせた。

『オハヨvナルちゃん』

逃げ出す準備だけはしっかりしておき。
注連縄はナルトの額にかかった髪を優しく払う。

「ん・・・」

曖昧にナルトは口内で呟き小さく欠伸を漏らす。

それから信じがたいことに!


『うわっ・・・って、ナルちゃん?』

注連縄の上着を掴み再度夢の国へ。

注連縄の添い寝に対する文句もお小言も一切なし。
仮にも上忍のナルト。
起き抜けに状況判断が出来ていないとは考えられない。

注連縄も本気で驚いた。


そのままナルトは丸一日眠り込み。
次の日の出発時も注連縄におんぶを強要。
自来也の寿命を半月ほど縮め、ベッタリ状態を継続。


現在に至る。


『お兄さん棚ボタラッキーvvv』

鼻歌交じりの注連縄は。上機嫌でナルトをおんぶ。
宿の外には他里の忍の目もあり、ナルトはいつもの『うずまき ナルト』仕様であるが。
注連縄にとってはどっちでも関係ない。
至極楽しそうに歩く。

「・・・」

自来也は何度かナルトへ口を開きかけ止めている。


万華鏡写輪眼の悪影響で頭がおかしくなったのか?とか。
親子の愛に目覚めた(これは流石に自来也も疑問に思う)のか?等。
尋ねてみたいが一種異様な光景に唖然。


やきもきする自来也。
嬉しそうな注連縄。
黙ったまま運ばれるナルト。
東の太陽が南へ指しかかろうとしていたお昼時。


「そろそろかな」

一人心地に呟いて。ナルトは徐に注連縄の後頭部を強打した。

『〜!?』

突然の攻撃に反応できない注連縄を尻目に、ナルトは地面に着地。
大きく伸びをして身体をほぐしだした。

「よし。ほぼ完全に戻ったな」

頭の後ろで両手を組み、ナルトが満面の笑みを浮かべる。
注連縄は頭を抑えつつ情けない顔でナルトを見下ろした。
自来也はもの問いたげにナルトへ目線を向ける。

「流石はうちはだな。あの瞳術の威力は並みじゃない。カカシ先生ですら意識不明だしね。俺は先手を打って瞳術の影響を身体から抜いた」

「どうやって?」

自来也は興味津々。ナルトの顔を覗きこむ。

「天鳴(あまなり)の相乗効果で万華鏡写輪眼の催眠効果を浄化する。
注連縄にひっついて眠ってたりすれば自動的に浄化作用が働く。
いうなれば注連縄はダシだな」

『!?』

「ダシ・・・か」

自来也はショックを受けて固まっている注連縄を横目で見た。

『お兄さんはコブじゃないー!!』


うがー。

両腕を天へ振り上げ注連縄力説。
あの注連縄を『ダシ』呼ばわりできるのはこの地上でただ一人。
ナルトだけ。
賢明な師匠・自来也は喉奥で笑いつつも口はしっかり噤んでいた。


「は?昆布?注連縄はさしずめ即席出汁の元。しかもちゃちいやつ」


にこり。

笑顔でナルトは注連縄に言い放った。
本気というわけでもない。
ナルトなりの言葉遊び。キツイ冗談ではあるが相手が冗談だと理解できるからこそはける悪態。

『はう』

ナルトの冷たい返答に注連縄は胸を押さえる。
芝居がかった動作なので胡散臭さも通常比1.5倍。
ナルトに止めを刺されて撃沈した、というのを表現したいらしい。


注連縄とてナルトの悪態の影に隠された冗談の本質を見抜いている。


「大袈裟だ」

自来也までもが短く注連縄につっ込んだ。

『酷い!お兄さんを弄んだんだね!!』

よよよよ。これみよがしに絶望の表情を浮かべる注連縄。

「弄ぶって・・・俺は何もしてないぞ。ずっと傍にはいたけど」

ドラマにでも出てきそうな台詞にナルト困惑。少し弱気に弁解した。

「あのノリだけは死んでも直らんのォ」

死人に対して言うのもなんだが。
自来也は昔から変わらない・・・基、益々パワーアップした注連縄のキャラに頭痛。
こめかみを指先で押している。
己のことは棚に上げつつもう少しまともに情緒面を見ておけばよかったか?と自問自答。

『いたいけなお兄さんの純愛を返して〜』


 純愛?そして、いたいけ?


ナルトと自来也は注連縄の叫びに、ほぼ同時に首を傾げた。


「馬鹿は死ななきゃ直らないらしいけど。注連縄見てるとそうでもない気がする」

無駄に元気。
注連縄の尽きることない元気にあてられナルトはげんなり。
自分は死んだら死んだままで未練を残したくない。
未練たっぷりの見本が目の前にいるせいで。


 ある意味愛情っていえば、愛情なんだろうけど。いらない。


レースのハンカチで目尻を拭う注連縄。
お茶目なのは本人の性格が元々そうなのだろう。
残念ながらナルトにはついていけない部分、多多有り。


「それよりエロ仙人」

いじけモードの注連縄は放置。ナルトは自来也に向き直った。

「暁は九尾狙いだ。天鳴を発動できない俺は問題にしていないと思う。俺自身も一時期は調べまわってみたけど九尾の資料が少ない。何か知っているか?」

手のひらで腹を抑えナルトは自来也を見上げる。

「十三年前木の葉の里を襲った」

ありきたりに答える自来也にナルトはクナイを投げつけた。

パシ。

自来也はクナイの輪の部分に指先を入れ見事にキャッチ。
ナルトは頬を膨らませてそっぽを向いた。


「焦るな」

額に青筋浮かべるナルトの頭。自来也は二度三度ポフポフ撫でる。

「九尾は木の葉の里を襲ったバケモノだ。だからあんなに恐れられているのに暁は九尾を欲している。矛盾を感じるんだ」

自来也の手を頭から払いのけ、頬から空気を抜いたナルトが喋った。

「確かに。九尾は昔から時代時代の節目に現れ、あらゆる物を破壊しつくしてきた妖魔。だから昔の人々は天災の一つとして九尾を恐れた」

何度か瞬きをし、ナルトは自来也の口を注視する。

「奴等がどうしてそんなものを欲しがるのか。正直その目的までは、わしにも掴みきれとらん。
ただナルトに九尾が封印されている以上、奴等は『その力』を自分達の支配下に置きたいと考えているのかもしれん」

推測だがな。
最後にキチンと付け加え自来也は締めくくった。

「あんな奴等に狙われ続けるのは酷な話だがのォ。これも運命。まぁわしが・・・」

「だったらさっさと。強くならなきゃね、俺」

自来也の言葉を遮りナルトはニヤリと笑った。

悪戯っぽく瞳を輝かせるあたり、道端でまだ拗ねている注連縄に似ているような。

似ていないような。


「フン。一人前気取りか?」

からかいつつ、自来也はナルトの頭のつむじを指先で突く。

「いや。本音」


 世界は広い。
 己の知らない忍もいる。
 術もある。

ナルトは心の底からそう感じていた。
歩き出した自来也について歩くナルト。



『うっうっうっうっ・・・』

さめざめ泣く注連縄をそのままに。




運悪くその道を通りかかった人々から『柳の幽霊』ならぬ『真昼の幽霊』として。

奇々怪々な現象が起きたと。

噂に上ったのもご愛嬌であろう。


レースのハンカチ噛み締めて真昼にすすり泣く幽霊(しかも男)・・・我ながら違った意味で怖い(笑)ブラウザバックプリーズ