『いやぁ〜、ソレ面白いね』

金髪・碧眼。
一見好青年風の青年は愉快げに笑う。
青年の傍らに立つ金糸の髪を持つ子供。
複雑な表情でソレを広げてまじまじ眺める。


「余計な事を」

完全にソレを敵視している白髪頭のおっさん。
苦虫を潰したかの顔つき。
あからさまに『ソレ』を気に入ってません!と顔に出している。

『だって先生。機能面ではガイ君が言った通り、非常に良く出来た品ですよ?』

青年はキョトンとした顔でおっさんを見る。

「だったらお前が着ろ」

『えー?ほら、僕はそういう歳じゃないし。子供向けでしょ』

おっさんの口撃をあっさりかわし笑顔を崩さない青年。
子供はため息をつき背負ったリュックにソレを仕舞った。

『あれ?着てみないの?ナルちゃん』

「注連縄。俺に身体のラインがバッチリ見えるアレを着て欲しいって?」

青年=注連縄の疑問系に疑問系で応じる子供。
盲点を突かれた注連縄は顔を青ざめさせて悶絶。
両手を頬に沿え絶叫した。

『駄目に決まってるじゃない!!お兄さんのナルちゃんが〜!!下心満載の男共の目に晒されてしまう〜!!』


ギャ――!!

大袈裟に騒ぐ注連縄だが。往来に人気が無いのは幸いだろう。


 下心満載なのはお前だろ。


心で突っ込んで。子供はため息をつき青年に対しては他人の振りをした。
おっさんも付き合いきれないのか、子供と同じく他人の振り。

「・・・」

気懸かりなのは仲間。
九尾の回復力で体力は戻りつつあるが。
傷ついた精神まで癒えるものではない。
子供の網膜に焼きついて離れない朱。
引き裂かれる仲間と。
暴走する己の・・・成れの果てのような己の姿。


『ナルちゃん、大丈夫?顔色悪いよ』

一頻り騒いでから『こちら側』へ戻ってきた注連縄。
早速子供の傍をウロウロして話しかけたりしている。

「ナルトはサスケを庇って、イタチの瞳術を一時、その身に受けたんだ。辛いのは当然だろォ。のォ」

静かにしろ。目線で弟子を叱りおっさんは注連縄に教えた。

『嘘!?ナルちゃんどうしてサスケ君なんか庇ったのさ!?いくら天鳴(あまなり)の直系っていっても“うちは”の瞳術を完全には防げないんだよ?』

目をまん丸にして子供=ナルトへ詰め寄る注連縄。
ナルトは気だるげに手を左右に振った。
注連縄を蝿に見立てて追い払う仕草である。

「仕方ないだろ。俺だって好きで攻撃を受けたわけじゃない。エロ仙人が来るまでの時間稼ぎだったんだよ」

気まずい顔つきになるおっさんとは対照的に疲れきったナルトの顔。


ここまでの会話を不自然だと思うのは。
間違いなく木の葉の里の忍だけ。

ナルト・・・うずまき ナルトといえば『意外性NO.1』と名高いドタバタ忍者。
まかり間違ってもうちはの末裔を庇える器量持ちではない。筈。


なのだが、実はナルト。
素性・性別・実力を隠して下忍を続ける訳あり忍者。
実体はクールで凄腕の上忍だったりする。
五代目火影候補を捜す旅。
ナルトを知る側の人間自来也との二人旅。
途中ストーカー幽霊(自称守護霊)注連縄も加わりなかなか賑やかな?道中となっていた。


『先生!酷いじゃないですか!僕のナルちゃんを放って置いてナニしてたんですか』

おっさん=自来也(注連縄先生)を睨み注連縄は会話の矛先を再度自来也へ向ける。


 勝手に遊んでろ。


幻影の残像に気分を悪くしたナルトは自来也を見捨てることにした。


「いや。ふかぁーい理由があってな」

『どういうふかぁーい理由なんですか?先生』

言葉を濁す自来也に詰め寄る注連縄。

ナルト絡みとなると。
どうも大蛇丸より執念深くなる性分のようだ。
ジリジリ笑顔で師ににじり寄る注連縄に、自来也は身の危険を感じたのか頬を引きつらせる。

『いいですか?僕じゃ実体がないのでナルちゃんの教育役を出来ません。カカシ君にしてもナルちゃんとタイプが近いのでバランスが良くないんです。
で、この際仕方ないと思って目をつぶって先生の弟子にしてるのに・・・あんまりです』

微妙に自来也の手腕を買っているのだか。
貶めているのか。
注連縄は迷うような暴言を吐きつつ自来也へ力説する。


 この際仕方ないって・・・注連縄が俺の師匠役なんて。
 考えただけでも鳥肌もんだろ。


少しだけ注連縄先生を頭に描いて。
本当に血の気が引いて。
二の腕にたった鳥肌を無意識に擦ってしまったナルトである。

自来也の方がナルトへ一定距離保ち接してくれるので楽といえば楽だ。
注連縄が師匠役となったらセクハラレベルを遥かに凌駕する。


 俺ベッタリなのかな。


普段から何かにつけてナルトに触れたがる(無駄にチャクラを使い実体化する)のだ。
確実に『手取り足取りお兄さんが教えてあげるv』に近い状況で術を伝授される?


 それはイヤだ。


今は減った。

昔の話だ。

ナルトに触れる人、触れる人。

悪意と奇異の目の混じった大人達ばかり。
子供と触れ合える時間は少なく。
子供だって大人に『あの子と遊ぶな』と命ぜられれば近寄っては来ない。

触れる=暴力に近い図式。

ナルトは誰かに触れるのが苦手だったし触るのも苦手だった。


二人の言い合いを傍観しナルトは思い出す。

「あんまりってな。わしにだってわしなりの『教え方』があるんだぞ」

 数刻前にはべた褒めておいて。
 いざ我が子が傷つけば『教師失格』か!?


 親馬鹿は目を瞑ろう。なんだかんだいって火影になった男。
 里を家族と想い全てをかけた弟子。

 他人に対してもそうだったのだから、実子に対する愛情は並々ならぬものがある。
 だが、教育方針については口を挟むな。


ギロリ。

自来也にしては珍しい凄みのある睨み。


『教え方って・・・いくらナルちゃんが強くてもイタチレベルじゃないんですよ。
あんの忌々しい写輪眼・・・いずれ決着をつけなくては!
兄弟揃ってナルちゃんに手を出そうとするなんて言語道断!
害虫駆除は最初が肝心なんですから』

戦う気満々。背後に炎の闘志を背負い注連縄がガッツポーズをとった。

「決着って、な?お前が着けてどうするんだ・・・のォ」

凄みの顔さえ注連縄の滅茶苦茶な気合に掻き消され。
自来也はため息混じりに注連縄を横目で見る。

『弟君は知らないだろうけど。兄の方がナルちゃんの正体知ってるんですよ〜!危険じゃないですか。油断ならないじゃないですかっ!』

「分かったから。その・・・妙に気合を入れてわしに突っかかるのはヤメロ」


しっ。しっ。

犬を追い払うように手をヒラヒラ振る仕草の自来也。

半分本音だが本気で語っている注連縄ではない。
単にナルトを救えない己の立場に対するウサ晴らし。
対象がたまたま自来也(現在のナルト保護者)へ向いただけ。
そこらあたりの弟子の気持ちは自来也にだって分かるものの、これ以上は付き合いたくない。
コトの真相も有耶無耶に出来た。

自来也抜かりもない。


『ナルちゃーん!酷いと思わない?お兄さんの師匠』

師匠が注連縄の『だべり』に付き合わないと察したので、今度は少し疲れた顔のナルトへ絡む。

「俺に話を振るな」

予想通り。
ナルトは迷惑顔で注連縄を睨む。
少し足元がおぼつかないのは術のダメージが心に与える影響が大きいから。

 仕方ないね。

注連縄は師匠の『教え方』に目を瞑ることとした。

 アレをナルトへ伝授できるのは師匠だけだから。
 自分ではなく。


注連縄は柔らかく笑い印を組む。

ボフン。

派手な煙が立ち昇り注連縄は実体化した。


『一度でいいからしてあげたかったんだ』

ナルトに背を向けしゃがむ。

「「・・・」」

自来也とナルトはほぼ同時に立ち止まった。


 罠か?いや注連縄の場合罠ってよりは。よりは。


『ほら、ナルちゃん。次の目的地に着くまでおんぶしてあげるから。少し休むといい。ナルちゃん疲れてるでしょ』

「いや俺は」

口を開いたナルトの背を自来也は容赦なく押した。
予想範囲外の力にナルトはよろめき必然的に注連縄の背に手を置く形になる。

すい。

ナルトの重さなど重さのうちに入らない。
軽々と立ち上がる注連縄。


「うわっ」

バランスを崩しかけ。
でも注連縄がしっかりナルトの両足を固定。
逃げようがない。
ナルトは諦めて注連縄の首へ両腕を回す。
心持ち圧力を加え。

『ナールーぢゃーん。お兄さん一寸苦しいんですけど』

「幽霊だから死んだりしないだろう?心配ない」

一蹴。
注連縄の苦情を無視してナルトは腕に力を込めた。

ぐえっ。

注連縄が情けない声音で悲鳴を上げたが一切無視。
こっちだって注連縄におんぶされて緊張してるのだ。


 うわっ。俺がドキドキしてる。
 おんぶなんて数える程度しかしてもらってないもんな。
 緊張する。


数分もおぶられて歩けばナルトの緊張も和らぎ。
精神的疲労も相俟って瞼が重く感じる。
自来也も注連縄もナルトを気遣って黙々と歩を進めていた。


『お兄さんも緊張するな〜。ナルちゃんをこうしておんぶする日が来るなんて、夢みたいなんだもん』

ナルトが落ち着いた頃合を見計らい注連縄が囁く。

吹き抜ける柔らかな風が注連縄とナルトの色合いの似た髪を揺らす。
どこから見ても二人が肉親だと分かる雰囲気。
自来也は並んで歩きつつも弟子達の会話に耳を傾けた。

「じゃぁ夢ってことにしておけ」

眠気に誘われた掠れ声でナルトは答える。
正確に注連縄の言葉を聞き取れていない。
半分眠りに入る寸前の動かない思考回路で出した答え。

『夢でも嬉しいよ。お兄さんは』

肩口に当たるナルトの頬。
疲れに陥落寸前で。

注連縄は術でもかけてぐっすり眠らせてやりたいと考えるがソレは却下。
己と同じ、ナルトは木の葉の忍者だ。
だからきっと外的要因(術)で眠らされたら機嫌を悪くするだろう。
ナルト自身の未熟さを克服しようと今まで以上に頑張ってしまうだろう。


 僕からカカシ君。それからナルちゃんへ。
 人の想いが巡るように。
 ナルちゃんに巡ってくる様々な人の想い。
 全部受け止めなくてもいい。
 いつか分かってくれるよね。
 ナルちゃんなら。


『本当に巡ってきてくれて有難うね、ナルちゃん』

曖昧に誤魔化した注連縄の台詞。

「?」

ナルトには訳が分からないのも当然だ。
眠りに落ちる寸前に聞いた言葉は理解不能で。


 訳わかんない。


言い返したかったけれど身体は休息を求めて寝る体勢。
口だって重く感じて動きやしない。
面倒臭くなってナルトはそのまま眠りについた。


『ナルちゃんの寝顔って可愛いでしょうね〜vvあ、先生。写真お願いします!僕がナルちゃんをおんぶできるなんて最初で最後かもしれない』

背中の重みが一層重くなる。
ナルトが四体の緊張を解いて深い眠りに入ったためだ。
注連縄はとろけそうな笑顔で自来也へカメラを渡した。

「それはいいが・・・。お前等の場合は堂々巡りだの」

こんな写真撮ろうものなら二度とおんぶなんてされてくれないぞ。
言外に含んだ物言いで自来也は呟き、注連縄のカメラで二三枚写真を撮った。

『そ、それって進歩がないって言いたいんですか!?』

注連縄驚愕。

「さてな」

手っ取り早く自来也はすっとぼけた。

巡るものは人の気持ち?それとも?



気を取り直した注連縄が、ナルトの惚気に花を咲かせたのは特筆すべき事項でもなく。

自来也が閉口したのも言わずもがなであろう。

しっとり三人旅(笑)の一コマってことで・・・(汗)ブラウザバックプリーズ