二転三転

 


窮地に立たされたナルトを助けに(?)遅まきながら登場する自来也。


 遅いんだよ!しかも『危なくなったら呼べ』とか捨て台詞残した割に。
 呼び方教えていかなかっただろう!!


怒り心頭。
怒髪天を突く。

ナルトは自来也へ飛び掛りたいのを堪え腹へ力を込めた。
そうでもしなければ体から力が抜けて倒れてしまうだろう。

普段の『ナルト』を知る木の葉の人間ならば。
こんなにも『落ち着きのある』ナルトに驚くだろう。
だろう、ではなく確実に驚く。


実はナルト。本性は素性・実力・性別すら正反対。
表向きの『ドタバタ忍者』とは対極の『クールかつ凄腕忍者』である。
裏のナルトを知るはごく一部の人間のみ。

五代目火影候補探索の旅に同行している自来也も素のナルトを知る一人である。
因みに昔ナルトを教示していたイタチもナルト本来の姿を知る数少ない一人。


この場でナルトを『知らない』のはサスケと巨漢のお供・霧隠れの抜忍鬼鮫の二人のみ。


自来也が登場するまでサスケを庇う。
最終手段とも言える自己犠牲。
ナルトはイタチの万華鏡写輪眼攻撃を享受した訳で。
体が思うように動かせない。

よってナルトが繰り出すのは「影分身の術」で。元気なナルトを作り出す。
本体は廊下の影に身を潜め。


女の人のウインクなんてベタな攻撃で興奮してたくせに!!カッコつけてるバヤイかぁー!!このエロ仙人!!

影分身に思いの丈を代弁させる。


廊下に響き渡る大声で怒鳴れば、気絶していたサスケもおぼろげに意識を取り戻す。
イタチと同じ写輪眼の持ち主。
精神攻撃に免疫はないだろうが瞳術自体にはそれなりに耐性があるのだろう。

「だから人前でその呼び方はやめろっての!」

気難しい顔で影分身を見下ろす自来也。
肩に担いだ女性をそのままにしているので、お世辞にも説得力がない。
欠片もない。

「そんなことより、こいつら。ただ者じゃねーってばよ!エロ仙人!!

わざと『エロ仙人』を強調。
ナルト流嫌味の口撃。

「くっ・・・」

小さな呻き声を発し身悶えするサスケ。
無事に意識は『こちら側』へ戻ってこれたらしい。
サスケを観察していた自来也とナルトはほぼ同時に安堵の息を吐き出した。

「・・・・・」

ガラリと場の空気が変わる。
自来也の出現にイタチは動揺することなく、事の成り行きを見守るかのように。
静観の構えを取る。

「クク・・・。伝説の三忍と謳い称された自来也様ですからね。アナタが幾ら無類の女好きでも、そう簡単に足止めが成功するとは思えませんでしたが・・・」

巨漢の男・鬼鮫がさして慌てもせずに自来也へ言った。

エロ仙人の正体まで知ってんのか?」

ナルト(影分身)はトドメと謂わんばかりに上半身を仰け反らせ、エロ仙人を連呼。
自来也もナルトから伝わる怒りに腰が引け。

「・・・いや、別にそーゆーのが正体とか・・・そういう・・・」

やや気弱な言葉でナルト(影分身)へ突っ込む。

「どうやらその女にかけていた幻術は解いたようですね」

続けて言った鬼鮫の言葉に自来也の顔が引き締まる。

「・・・」

基本的にフェミニストらしい(これは弟子の注連縄と孫弟子のカカシへもしっかり受け継がれている、有難いのか?傍迷惑なのか?判断に迷う気質でもある)自来也の『地雷』を踏む行為。
自来也から漂いだす殺気にナルト(本体)は天井を仰いだ。


 弱きを助けるなら。
 もっと早くに助けに来いって。


 「ナルトからわしを引き離す為に。女を催眠眼で幻術をかけるたァ・・・。男の風上にもおけねェ、やり方だのォ」

意識のない女性を廊下の壁に寄りかからせ、自来也は眼光鋭くイタチを刺す。

「・・・」


 ちゃっかり罠に乗っかって様子見したくせに。
 偉そうに言える立場か!


サスケの意識がなく。
且。
ナルト(本体)自身が満身創痍でなければ確実に自来也へ鉄拳が飛んでいたに違いない。
ナルト(本体)は心の中で毒づくも、口を挟む立場でもないと考え直して大人しく自来也とイタチの遣り取りを静観することにした。

「目当てはやはりナルトか」

自来也が言い、やや下方からねめつけるようにイタチの顔色を見る。
ナルト(影分身)は大きく目を見張り、サスケは怪訝そうに眉を顰めた。

「・・・」

イタチは数秒間だけ無言で自来也の視線を受け止める。

「・・・道理でカカシさんも知っていた筈だ。なるほど・・・情報源はアナタか」

緊迫する場の空気とは少々場違いに感じる位に。
己のペースを崩さぬイタチ。
自来也の言葉端から的確に情報の流れをつかみ取る。


 イタチの落ち着き様から考えて。
 エロ仙人から情報が漏れているかもしれない、とは。
 既に予想済みみたいだな。
 エロ仙人が大蛇丸を追っていたと知っていたなら。当然か。


鼻から空気を吸い大きく深呼吸。
ナルト(本体)は壁へ背を凭れ掛けさせ、口からゆっくり息を吐き出した。
外から『九尾』を狙う輩。
いずれは遭遇するだろうと思ってはいても実際に遭遇するのは気分がよろしくない。
覚悟しているのと実際に体感する違いだ。


 俺も色々な面で経験が足りないんだな。


飄々としている注連縄・自来也師弟コンビ。
それに担任のカカシ。
保護者の紅。
ナルトが知る大人達を見るにつれ感じる小さなギャップ。
こればかりは長生きしないと埋められそうにも無い溝だ。


「ナルト君を連れて行くのが。我が組織“暁”から下された、我々への至上命令」

イタチの目線がナルト(影分身)を素通りしてナルト(本体)へ向く。
憂鬱な表情でナルト(本体)はイタチの赤いままの瞳と暫し目線を合わせた。

(非ボランティア組織が堂々と九尾狙い宣言か?)

薄く唇を動かせば、

(“ナルト君自身の協力”が得られぬのなら仕方のない事)

素早くイタチはいけしゃぁしゃぁと答える。

糠に釘。暖簾に腕押し。

求める将来へのベクトルがイタチとは異なる以上。
この軋轢は埋められず、広がりこそすれ縮まりはしない。
改めて認識したナルト(本体)。
イタチへ迫る力を持たぬ身の上としては黙って隠れるしかない。
歯がゆいが自来也へ頼るしかないのが実情だ。


「ナルトはやれんのォ」

ドスの利いた声でイタチを牽制する自来也。

「どうですかね」

涼しい顔つきで自来也へ視線を戻すイタチ。二人の間に火花が散る。

「ちょうどいい。お前ら二人はここで、わしが始末する!」


 一応、ヤル時はやるんだな。

自来也の明言(迷言?)にナルトは思った。


「・・・手ェ出すな・・・」

術(すべ)などない。
明らかに全身ボロボロのサスケが気力のみで立ち上がる。

「・・・こいつを殺すのは・・・俺だ・・・!!」

震える四肢に鞭打ち立ち上がり、痛めた左手首が力なく垂れ下がっていた。
見た目にも本人も痛々しい限り。
ナルト(本体)は横目で自来也へ合図を送る。

(どうする?万が一の確立でもサスケが一矢報いるのは無理だ。手痛く攻撃されて打ち捨てられるのがオチだぞ)

(・・・黙って見ておれ)

思うところアリか。自来也の返答はにべもない。

「・・・今・・・お前になど興味はない・・・!」

言い放ちサスケに足を一蹴。
兄に蹴り飛ばされ壁へ激突するサスケ。
兄弟の確執(?)を見守り感じる。


 潜在的な才で測るならイタチ・サスケは同等。
 だからイタチはサスケを生かした。
 理由は同あれ『今』は興味がないと。
 言い切る以上『いずれ』は。
 対等の位置でぶつかりあう時もあるって意味だね。

 サスケは頭に血が上っているから全然気がついてないけど。


「ぐぁ!」

「サスケ!!」

ナルト(影分身)は叫びイタチへ駆け寄ろうとする。しかし。

「ナルトォ!・・・手ェ出すなっていってんだろが!!」


激情。
憤怒。
執念。
義務。
焦燥。
慟哭。

サスケ顔に表れては消える数々の『想い』。

いくらドベでも理解できる。
ナルト(影分身)は身体を震わせてその場に踏みとどまった。


 分かっているよ。俺が手出し出来る立場じゃない・・・。


イタチは座り込むサスケに歩み寄り立ちはだかる。


「上等だァァァ!」

己を鼓舞する雄たけびを上げるがサスケに攻撃の手立ては無い。
ナルトのカカシ人形のようにボロボロにされるだけ。
蹴り上げられ、腹に拳を喰らう。
口から零れるサスケの血。生臭い匂いが廊下に漂い出した。


「容赦ないですね」

鬼鮫が淡々と呟く。苛立ってナルト(本体)が自来也を睨むも自来也が動く気配も無い。
とうとう動けなくなったサスケの首を掴み。
イタチは写輪眼の紅色を一層深く赤く染める。

「ぐああああああ」

廊下に轟くサスケの絶叫。
ナルト(本体)は影分身を消し去り、鬼鮫を追い抜きイタチへ迫った。

「いいかげんにしやがれ!てめぇぇぇ」

ナルト咆哮。
偽らざる本音である。

一族云々の確執やイタチ個人の望み等知ったことではない。
悪戯に肉親を翻弄し更に修羅への道に誘う。

あざとい。

サスケを生かすことによって達成する望みなら今直ぐにでも潰してやりたい。
生まれながらに足枷がついていた己とは違い、サスケはごく普通の子供だったのだ。
兄によって一族が全滅するまでは。


虚ろなサスケの黒い瞳が視野に入った瞬間。廊下が一変した。


「忍法・蝦蟇口縛り」

両手を廊下へ押し付けたまま。
自来也は表情一つ変えずに口を開く。
柔らかな肉片に覆われ囲まれた空間。
場の支配権が自来也へ傾いた。

「残念だのォ。イタチ・キサメ。お前らはもうわしの腹の中」

イタチと鬼鮫だけに限定して飲み込む肉片の壁。
自来也の冷静すぎるほどの手際に呆れつつもナルトの耳は「何故弱いか・・・足りないからだ・・・憎しみが」という。
イタチの呟きを正確に拾い上げていた。

「妙木山・岩宿の大蝦蟇の食道を口寄せした。お前らはどーせお尋ね者だ。このまま岩蝦蟇の餌にしてやるからのォ」

「鬼鮫来い!」

サスケから手を離し、ある一点を目指し走り始めたイタチ。
イタチの命に従い鬼鮫も刀を肉片から引き抜き走り出した。

「これまでココから抜け出せた奴はおらんのォ」

走り去る二つの背に自来也は静かに告げる。

「格好よくキメてる暇があるなら、さっさと動け。エロ仙人

対して自来也へ白い目を向けるナルト。
意識を手放してしまったサスケの瞳を覗き込み心配そうに表情を曇らせる。
恐らくイタチの瞳術攻撃を受けたのだろうが・・・サスケがここまで精神を侵される攻撃。


 家族を惨殺された時の記憶だろうな。


イタチ・鬼鮫は自来也に任せておけばなんとかなるので、仲間の心配をする。
ストーカー幽霊(自称守護霊)注連縄の教育(?)の賜物か。
気持ちの切り替えが早くなったナルトである。


「!」

弾かれたように顔を上げ両手を床から離し。
自来也は二人が消えた方向へ駆け出した。

「どうした?」

サスケを床に下ろしナルトも自来也の後を追う。
自来也自慢の岩蝦蟇の食道は無残にも黒い残り火がちらつく炎に焼かれ。穴が開いていた。


「「・・・」」

自来也とナルト。

お互いに難しい顔をし黒い残り火を睨む。

同じ仕草で腕組みし沈黙。


「封印術で封印しておく。お前はサスケを見てやれ」

巻物を懐から取り出し自来也はナルトへ指示を出した。

「一々指図するな。大体、エロ仙人がもたついてるからいけないんだぞ。天罰が下るからな」

べぇ。
舌を出してナルトは嫌味を一つ。
それからサスケが倒れているほうへ歩き去る。

「下るか」

対する自来也も負けじと言い返した。

 

ナルトの予言(?)が的中するまであと三分。

青春の熱き塊・若しくは珍獣が超高速で宿へ近づいていた。

うちは強化期間終了〜。イエー(やっぱりなげやり)そして次回は『あの御方』が!!個人的には好きですよ〜。弟子になって一緒に青春したい(爆笑)ブラウザバックプリーズ