収束!?

 


イタチの連れ・鬼鮫によって集められたチャクラが消える。

ナルトは別段驚いてはいなかったが表向きは『うずまき ナルト』なので。
正直驚きの顔を張り付かせた。

目の前のサスケは兄によって折られた左手首を抱えるようにしてうずくまる。
ナルトの真正面には鬼鮫がいて。
小賢しい細工でもしようものなら。

間違いなく。


 返り討ち・・・まではいかないけど。
 それなりに不味いな。サスケがもう少し後方にいてくれればね。
 この際サスケの実力を信じてかましてみますか。


おおよそ。うずまき ナルトらしからぬ思考。

驚くなかれこの子供。
素性・性別・実力を隠して下忍を続けるクールな実力者。
本来は上忍であるが諸事情からそれらを隠して行動している。
現在は五代目火影候補を探すべく、伝説の三忍自来也と旅をする最中。

木の葉の里に現れた抜け忍イタチとお供がナルトを追いかけ。
事情を知ったサスケが兄を追いかけた結果。


木の葉近郊の繁華街宿において。
上記のような状況と相成ったのである。


ちなみに『ベタ』なブービートラップ(お色気罠?)にかかった自来也は戦線離脱。


二年前のナルトなら。
確実にこのような無謀な(ナルトからみれば考えなしな)行動は起こさなかっただろう。
サスケに悪いと思いながら見捨てていた。
いや。
事の成り行きを見守り客観的に判断しただろう。
ナルトが冷血だからではなく。
任務中の忍に私情は必要がないためだ。


今までのナルトはそうやって生き延びてきたし、実際それらの判断は正しかった。


「・・・」

ナルトは緩慢な動作で口角の端を持ち上げる。


 キイイィィィィィィィ。


場にある筈のない金属音の不快共鳴音。
イタチは微かに目を見張り、鬼鮫はすばやく周囲を見渡し、サスケは何度か瞬きをした。

「イタチさん・・・これは?」

四方八方から響き渡り脳を直接刺激する金属不快和音。鬼鮫は眉をしかめる。

「油断するな」

鬼鮫に告げた言葉なのか。
攻撃を仕掛けようと虎視眈々とチャンスを窺うナルトへ忠告したいのか。
イタチの短い言葉からその真意を推し量ることは出来ない。


 俺は俺が『守りたい』と願った。

 サクラちゃんが我愛羅の砂に攻撃された時。
 カカシ先生にサスケを追えと言われた時。
 ジジイが大蛇丸によって打ち倒された時。
 シノが自らの腕を切った時。
 シカマルの家族に会った時。
 紅先生が記憶を取り戻した時。

 全部全部護りたいと思った。


 皆の中にある俺の記憶。俺の中にある皆との思い出。


「不浄の刀はチャクラを喰う。ならば少しの間だけ眠ってもらおう」

ナルトは徐に言い、腰から下げたポーチへ隠しておいた小太刀を取り出す。
白銀に輝く浄化の気を放つ宝刀。
ナルト本来の家に代々伝わる『照日(てるひ)』と呼ばれる対の小太刀の一振りだ。
鬼鮫が反応するより早く鮫肌へ『照日』を宛がう。


不快和音はより激しい共鳴反応を引き起こし、不協和音となって直接脳髄を侵す。


「こ、これは・・・」

見る間に黒く変色する大刀鮫肌。
鮫肌を包んだ布の隙間から鈍色へと変貌した刀身がチラリと垣間見える。
ナルトは鮫肌へ『照日』を押し付けた格好のまま動きを止めた。

「邪刀に対する絶対防御。刀の能力は少しの間だけ封印させて貰う」

下から睨みあげるようにナルトは鬼鮫をねめつける。
と、鬼鮫は面白い玩具を見つけたように目元を緩ませた。

「成る程。中身も必要なら『外身』も必要だと。アナタが仰っていたのには理由があったんですね」

熱く激しいサスケの殺気に対し。
静かに浸透する水の様に冷ややかなナルトの殺気。
何も知らない下忍のフリをしながら。
客観的に反撃の機会を窺っていた子供。

「確かに。侮れない」

一人心地に呟く鬼鮫の巨体が傾ぐ。
ズルズルと地へ飲み込まれるように身を廊下へと沈めていく。
イタチは無言で見守り、サスケは呆然とその様を見送った。

「・・・こんなトコで役に立つなんてね」

倒れた鬼鮫を見下ろしナルトは感慨深く口の中で呟く。

ナルトのストーカー背後霊・自称守護霊注連縄がよく使っていた幻術。
(個人的な恨みでもあるのか?主にカカシ先生とサスケに)
幻術にかかった記憶も失せれば、幻術をかけた相手の記憶も残らない。
イタチが後でこの事実を鬼鮫には教えないだろう。
そう踏んでの仕掛けだ。


予想通りなのか。
イタチは倒れた鬼鮫をチラリと見やっただけで、自ら行動を起こすことはなかった。

「っ・・・」

空気の漏れる音ともにサスケが驚きの小さな声を発する。
ナルトが巨漢の男に差し向けた銀色の何かが。
男を撃退したまでは理解できた。しかし・・・。


 不思議と悪寒がとまらず、体の芯から沸き上がるこの『恐怖』は一体!?


残念ながら今のサスケに『それは某幽霊が君にかけた強烈な暗示と幻術のせいだ』と。
教えてくれる人物がいなかったのは。
幸か不幸か。

「サスケ、大丈夫か?」

イタチが身に着けた長いマント越しに、心配顔のナルトが見える。

「大丈夫だ」

震える体を叱咤してサスケは立ち上がった。
イタチは何を想うのか静かにナルトとサスケのやり取りを眺めているだけ。
動く気配はない。
左腕を押さえサスケは立ち上がると、再度兄を睨んだ。


サスケといえど。
謀らずも再会(?)してしまった『一族の仇』を前に、ナルトのはなった不思議な攻撃にまでは考えは及んでいない。

察したナルトは流れる動作で小太刀を懐へ仕舞った。


「・・・!?」

かくり。

今度はサスケの体が傾く。
音もなく倒れこむサスケの身体。
スローモーションのように見えるその動き。
ナルトは小さく舌打ちした。


「写輪眼の瞳術」

相手の戦略に乗るつもりが、既に相手の術中に嵌っていた訳だ。
紅く輝くイタチの写輪眼を盗み見てナルトは息を吐き出した。
忌々しそうに言い切れば、イタチが声も立てずに笑う。

「天鳴(あまなり)の人間に対しては・・・効果が半減するけれどね」

穏やかな口調とともに返される言葉。
咄嗟にナルトは口を真一文字に引き結び、ひたすら床を見る。


 天鳴の血を持ってすれば。
 ある程度は写輪眼の瞳術に対抗できる。
 一般人から比べたらの話なので完全に防げるわけではない。
 この場合は極力相手の目を見ずに動くことが重要だ。

 
そんな真似出来るの・・・激眉のガイ位なもんだろうし。


コピー忍者カカシの『自称・ライバル』の。
キラーンと光った歯を思い出して。意味もなくナルトのテンションが下がる。


里にいた当時から一流といわれる実力者。
イタチの攻撃を気配だけで察して避けるのは事実上不可能に近い。
広い野原などだったらともかく、このように狭い廊下だ。
絶対的に不利である。


「って考えているとでも?」

ナルト、伏せた顔を上げ真っ直ぐにイタチの目を見た。

「確かに。俺の血筋をもってしてもアンタの瞳術を防ぐ手立てはない。暗示にかけたければかけろ。俺は耐える」

詰まらぬ見栄など張る必要はない。
己がどれだけ正気でいられるかだけ。
ナルトの顔に浮かぶ感情にイタチは瞳の赤をいっそう深めた。

「万華鏡写輪眼」

360度。深遠の闇。暗闇の中佇む。背後に感じる気配は。

「イタチ」

振り返らずに名を呼べば、「これから48時間。狂気を体感しろ」と。

空間の支配者は手短に命令した。


頬に当たる熱風。
阿鼻叫喚の地獄絵図と化した木の葉の里。
倒壊する建物。
見下ろす己の目線ははるかに高く。
振り下ろしたる九つの金色の尾。
凪げば玩具の積み木のように壊れる大地。

叫ぶ。

狂気を孕んだ咆哮が里中を包み込む。
上げた前足から滴り落ちる赤。


「・・・」


赤の中心に居るのは。


幻影だとわかっている。ナルトが信頼する者達が九尾と化した己に屠られ。
骸となって横たわる。
獣となった己の本能の命ずるまま全てを葬る。
最強の妖狐と謳われた九尾そのままに。
金色の毛並みはあらゆる攻撃をはじき。
口を開き咆哮すれば空気の衝撃派が発生し抉られる街並み。


性質の悪い精神攻撃。


幾度となく仲間を己の手で葬り。
幾度となく里を滅ぼす。

儘にならない身体を持て余し精神は疲弊する。
目を背けたくとも眼差しは確実に凄惨な光景ばかりを映し出す。


 流石に。俺でも馬鹿になるかな・・・。

自嘲気味にナルトは薄く笑った。


サスケが倒れた瞬間に。
無駄に足掻き戦えばサスケ共々ボロボロにされて、倒されるだけだと悟った。
見捨てて置けない『仲間』が居る以上。
半ば無謀だが己が的になって救援が来るのを待つしかない。
器たる己だけならともかく。
将来を渇望されている『うちは』の末裔が居るのだ。
自来也が助けに来る・・・筈?
ナルトのチャクラが弱まったのを察すれば取りあえずは駆けつけるだろう。
サスケへの攻撃も防げる。
ナルトにしてもギリギリの状況下で考えた捨て身の作戦。


グニャリ。精神の疲労度にあわせて歪む視界。

幻の48時間は現実には数秒間のことで。
ナルトの身体は力なく廊下の壁に倒れこんだ。
チャクラの潜在量が高いナルトでも。
最終的には精神力に左右される変化の技。
いつもの少年の姿からナルト本来の姿へ戻ってしまっている。


「・・・嫌味だな」

掠れた声でイタチを非難するもののイタチは無言だ。
寧ろ気を失わなかった・・・辛うじて意識を保っているナルトに賞賛の感情を浮かべている。

「君に里は狭すぎる」

しゃがみ込み。
ナルトに目線をあわせイタチは考えを声に出す。
精神を荒らされ力の入らぬ肢体。
カタカタ震える身体を押し隠しナルトは笑う。

「断る」

重い瞼を持ち上げ懸命に言葉を紡ぐ。
ナルトの強固な拒絶にイタチは小さく息を吐き出し諦めた様だ。

「出来るなら同意の上で参加してほしかったが。致し方ない」

すっ。ナルトへ向け伸ばされるイタチの手。
ナルトに触れそうになった瞬間。
ナルトの身体は宙を浮いた。


「お前らわしの事を知らな過ぎるのォ・・・。男、自来也。女の誘いに乗るよりぁあ、口説き落とすが滅法得意・・・・・ってな」

自来也のトレードマーク。
忠の字の玉を首に巻いた蝦蟇が間一髪。
ナルトの身体を自来也のそばへと運んだのだ。
自来也の足元に着地したナルト。
バクバク鳴り響く心臓の音を他人事のように聞きつつも。

「おせーよ」

師(?)へしっかり悪態の一つはつけておいた。
イタチは倒れた鬼鮫へ何やら印を結び回復の術を施している。

「急場だ。我慢しろ」

自来也も手早く印を組みナルトへ差し向けた。

「?」

怪訝そうな眼差しをナルトが向ければ「お前の姿を眩ます幻術だ」と、自来也。
それなりには考慮しているらしい。
だが次の一言が不味かった。


「この男自来也!女の色香にホイホイとついていくよーにゃ、出来とらんのォ。わし位になれば己の色香で女がはしゃぐ」

例の決めポーズ付でお約束的な口上を口にした自来也。



「「「・・・・」」」



立ち尽くすイタチ。意識を取り戻した鬼鮫。
フラつく身体をなんとか奮い起こして上半身を起こしたナルト。
誰もが似たような感情を胸に押し黙った。


ここでナルトに体力が残っていたなら間違いなく。
拳付の突っ込みが入っただろうが。
気力で意識を保っているナルトに、そこまで器用な真似は出来なかった。


師匠がかけつけた事により事態は収束するのか?



 無理だろ。



自来也の登場に安堵した反面。
密かにナルトがこう考えたのは誰も知らない。



一件落着?


イエー(やっぱりナゲヤリ)うちは兄弟強化期間続行中〜。廊下って狭いです。あの廊下でどう戦えと!?(でもサスケ壁壊してましたね・笑)なんて考えつつ。ブラウザバックプリーズ