原理

 


「部屋を出ようか・・・」

最早選択権もない状況。
イタチが告げる言葉にナルトは大人しく従った。

今ココで不用意に抵抗の素振りを見せるのは得策じゃない。


顔見知りではない筈のイタチ・ナルト。


うちはのエリートであったイタチ。


意外性NO.1のドタバタ忍者ナルト。


圧倒的な強さと威圧感を持つイタチを前に。
こうもナルトが冷静なのには理由がある。

実はナルト。
素性も性別も実力も。
うずまき ナルトとは全く反対の上忍で。
クールな性格をしている。
かつて三代目火影の計らいで、イタチに師事していたこともあり。
抜け忍となって行方をくらましたイタチとは面識がある。


ナルトの持ちうる血統。天鳴(あまなり)という知られざる極秘の血継限界。
うちはの持つ血継限界。
相乗効果でお互いの力を高められたら。位にしか三代目火影は考えていなかったに違いない。


事件を起こし里を去ったイタチとこうして相対する時がこようとは。
何時かは通らねばならぬ事態であったにしても。
ナルトにとっては早すぎた。


 あのデカイの。
 確か鬼鮫とかいうSランクの犯罪人だったような気がするけど。
 不確かな情報に基づいて動くのは迂闊。


己の実力から考慮してもイタチには敵わない。
現実は直視しているつもりだ。
開け放たれた部屋の扉から廊下へ一歩を踏み出す。


「・・・う〜ん・・・。イタチさん。チョロチョロされるとめんどいですし・・・」

言いながらお供は肩に下げた巨大な刀の柄に手をかける。

「足の一本でもぶった斬っておいた方が・・・」

案外真面目にナルトを捕獲しようと考えている。のか?
真剣な顔つきでイタチに提案するお供。


 おい。いくら九尾の回復力があるからって・・・なぁ。
 人様の足をぶった斬ってなんて、平然と話題にするなよ。
 あの刀から厭な気配がする。
 只の刀じゃなさそうだな。
 こーゆう時に限ってエロ仙人は居ないし。


 あれ?危なくなったら呼べって。
 言ってたけど、どーやって『呼ぶ』んだよっ!!


遅まきながら気づく己の失態にナルト驚愕。
心の中で消えうせた師(?)に対する呪詛を撒き散らしたのは記すまでもない。


「・・・」

イタチは無言で肯定の意をお供に伝える。

「じゃぁ・・・」

釣りあがった目を細めお供がナルトへ近づく。


 じょ、冗談じゃない。・・・?


思わず逃げようと軽く身構えた瞬間にナルトが感知したのは見知った人物の気配。
迷わずこちらに高速で近づいてくる。

「・・・!」


 サスケェ!?

声を出しても差し支えない状況だったなら、ナルトは裏返った素っ頓狂な声で盛大に驚けただろう。
今迄で一番殺気だったサスケのチャクラは肌をチクチク刺す。
爆発しそうな火の玉のような塊。
ナルトは目線を左右に泳がせ改めて宿の構造を確認した。
左右に長く伸びた廊下。一つしかない外への通路に。
奥に行けば廊下の突き当たりに小窓もついていた。
部屋に逃げ込んで窓を破る手もあるが。


 サスケが来た以上。見捨てて逃げる訳にはいかない。
 にしても!
 木の葉の連中はナニやってんだよ!
 イタチの情報をみすみすサスケに漏らすなんて。


「久しぶりだな・・・サスケ」

背後に感じる殺気。
膨れ上がるチャクラ。
察してイタチは振り返らずに声を発した。
ナルトは丁度イタチと相対する位置にいたので、サスケの顔を真正面から見ていた。


憤怒・憎悪・恐怖・絶望。
怒りと悲しみが最大限まで高まり混ざり合った複雑な感情を秘めたサスケ。

 初めて見る顔だ。

ナルトは一人心地に思う。
最初に三人一組(スリーマンセル)として顔合わせをし、カカシ先生に自己紹介をした時。
サスケは仄暗い闇を胸中に抱え言い切った。



 あ る 男 を 必 ず 殺 す こ と だ 



 聴いた瞬間は裡で小馬鹿にしたものだ。
 還らぬ時を求め足掻く弱者の戯言だと。
 常に『無い』状態で極限を強いられた己と比べ。
 なんと『脆い』復讐心かと。


全てを失う。


 果たして。手にしていた『日常』が崩された瞬間。
 どれだけの人間が平静を保っていられるのだろうか?
 平静を保ったつもりでも『失ったモノ』は見えない棘になって心に突き刺さりいつまでも抜けることが無い。
 棘で傷ついた心は止めどなく血を流し続け尽きることも無い。
 無限の苦しみ。


サスケの写輪眼をぼんやり眺め。
心に澱のように溜まる不快な黒い靄。
かつて抱いていた木の葉への不信。
振り払うかのように頭を左右に振りナルトは床へ目線を落とした。


 こんな形で、こんなタイミングでサスケを理解(わ)かるのも。
 気分良いものじゃない。

 人と距離を保つのは失わない為。

 強さを求めるのは心の脆さを隠す為。

 上を向くのは下を向いて深みに嵌らない為。

 常に己の感情を律し掲げた目標目掛け走る・走る・走る。


これら全ての行為が己を弱くしているとも気がつかずに。



我武者羅に暗部の仕事をこなしてきた自分。



ひたむきに強さに焦がれ下忍となってから一層修行に打ち込んだサスケ。



光と影というものが在るのなら。
きっとサスケと己は合わせ鏡のように真逆の性質を持った忍。
だからこそ許容できるが相容れない。
無意識に互いに反発しあうのは。
強さの求め方と性質が全く同じでありながら、使い道が違う所にある。


 俺は我愛羅と拳を交えておぼろげに気づいたんだ。
 俺が俺たる所以を齎す行動原理。
 俺という存在を形作る原理。
 原理を生み出す感情。


「!」

イタチのお供は少々驚いたようで小さな目を見張る。

「・・・・・うちはイタチ」

憎しみしか篭らないサスケの声がイタチの名を形作った。

「え!?」

表向き。
ナルトとイタチに接点は無い。
素早く顔を上げナルトは驚いた顔でサスケを見る。

本当ならサスケをひっ捕まえてガツンと殴りつけたいところだ。
むざむざ返り討ちにされるのを承知で追ってくるなんて。
底は熱血漢であるサスケが。
ナルトを心配して追いかけてきた可能性もある。


「おやおや。今日は珍しい日ですねェ。二度も他の写輪眼が見れるとは」

お供の大男は揶揄するようにサスケの燃え滾る赤い瞳を一瞥した。

アンタを・・・殺す

怒りが頂点に達したのか、感情さえサスケの顔から消え去る。
逃げるタイミング。
サスケを捉えて隠れるタイミングを逸したナルトは傍観者となるしかない。
この兄弟を縛り付ける『復讐』とやらの行方を見守る傍観者に。


 サスケの原理。今のサスケを支える全て。
 恨みと憎しみによって構成される強さへの憧憬。
 渇望。
 七班の影響もあってナリを潜めていたものの、殺したい男を目の前にして箍が外れてしまった。
 根底を流れ続けるサスケの復讐心。


 だから大蛇丸はサスケを縛った。
 サスケの身体を食い破ろうとする復讐心に目をつけて。


瞬きさえ忘れてナルトは真正面のサスケを見る。
正しくは真紅の瞳を。
不条理に振り回されて望みもしない『役割』を与えられた早熟な忍。
思いの外サスケとは境遇が似通っているらしい。
非常時のこの小さな発見にナルトは自分で苦笑した。


「ほう・・・写輪眼。しかもアナタに良く・・・一体何者です?」

お供の方はサスケがイタチの弟だと知らない。
イタチへサスケ・・・突然の乱入者の素性を問うた。


 イタチの性格からして弟が居るなんて触れ回って歩くなんて。
 酔狂な真似はしない。
 デカイのの興味が今はサスケに移っている。
 イタチも俺を警戒しつつもサスケの方を向いている・・・さて、どうするか。


「オレの弟だ・・・」

感慨も。何もかもを悟らせないイタチのコメント。

「・・・うちは一族は皆殺しにされたと聞きましたが・・・」

少し拍子抜けした感じでお供はイタチへ言う。
イタチの実力を間近に見てきただろう男にしてみれば。
家族愛などとは無縁のイタチが幼い弟を生かしておいた事実の方が。
寧ろ新鮮な驚きとして感じられるのだ。


お供の目に浮かぶ微かな驚きの感情をナルトは的確に読みとる。


「アナタに」

静まり返った廊下。
お供の声だけがやけに大きく響く。

サスケの怒りを煽るには十分すぎる舞台演出。

 まさかエロ仙人が仕組んだんじゃないだろうな。

訝しんでしまうナルトはエロ仙人の気配を探るがソレらしきものはない。


 これだけ煽られたサスケを冷静にさせるなんて。
 俺には出来ないぞ。
 多分千鳥あたりで攻撃するんだろうけどスピードがな。
 イタチの実力はサスケが考えてるくらいのものじゃない。
 あの当時でかなりのものだった。
 あのままダラダラ過ごしてきた訳じゃないだろうし、更に腕に磨きをかけたと考えるのが妥当だ。


お互いの写輪眼を睨み合う兄弟。
奇妙な静寂に支配された安宿の廊下。


ナルトは腰から下げたポーチに手を沿える。
ナルト本来の家に代々伝わる宝刀の一つ。
全てを浄化する作用を持つ『照日(てるひ)』密かに腰に下げ、ポーチのふくらみに隠すように忍ばせていた。
相手は何もかもを『コピー』する写輪眼。
おいそれと手の内を明かして全てを写されては元も子もない。


「アンタの言った通り・・・アンタを恨み憎みそして・・・アンタを殺す為だけに俺は・・・」


バチイィィィィィ。

練り上げられたチャクラは具現化し、鳥のさえずりのようなチチチチという効果音と共に姿を見せる。
サスケの左腕に集中するチャクラの流れ。


 こいつ・・・やっぱ千鳥か。
 千鳥は屋外戦闘向きなのに・・・しかもまだ不安定な状態で使ってみろ。
 腕が焼け焦げそうな勢いで危なっかしい。
 カカシ先生みたいに千鳥の力を集束する術を持たないサスケの攻撃なんか。
 イタチには。


「生きてきた!」

左に集めたチャクラを持ってしてイタチへ攻撃を仕掛けるサスケ。
しかしサスケの左手首は簡単にイタチによって捕らえられた。


 ヤバイ。エロ仙人なんかあてにしている場合じゃない。


素早く印を組みナルトはチャクラを発動させる。
廊下を満ち尽くすナルトのチャクラ。
興味深そうにナルトを見るイタチとお供。
想像以上の『九尾』のチャクラに驚いているのだ。


 まったく。俺自身の持って生まれたチャクラ量までも。
 九尾の影響だと決め付けないで欲しいけどね。


「このっ・・・」

低く呻くサスケ。イタチは冷たく「邪魔だ・・・」と。躊躇いもないまま弟の左手首を折った。

「ぐああああ」

予想していた痛みより。
突然襲われる痛みのほうが何倍も痛い。
サスケは顔を歪ませ叫んだ。
痛みに姿勢が崩れ廊下に両膝を突く。

「ちっくしょぉぉ」

イタチの口ぶりから総合的に判断。
ナルトが実は実力者であることは。
このお供は知らない。
だったら逆手に取るしかない。ドベの振りしてナルトはチャクラを身体に溜め込んだ。

「遅い!」

一閃するお供の刀。不意に消失するチャクラ。

「なんでだってばよ!」

形だけ焦って見せるナルトの姿にお供は勝ち誇ったように告げた。

「私の鮫肌は・・・チャクラも削り・・・喰う」

印を組んだままお供を見上げる。
冷酷な殺意を滲ませたお供の瞳がナルトとかち合った。


 サスケの原理は復讐。じゃぁ、俺の原理は。


 「守りたい・・・なんだよね。柄にも無く」


不敵にナルトは口角を持ち上げた。


 守りに徹するくらいなら死んでもいいと思っていたけど。
 守るのは逃げじゃない。
 護り守って。
 大切な誰かと時間を分かち合うことがどれだけ幸せか。
 感じてしまった以上は守り抜くしかない。
 守りたいかけがえのない気持ち。
 だからこそ戦える。

 中忍試験を境に己が新しく学んだこと。
 無駄じゃない。愚かじゃない。
 当たり前でとても大切なこと。


眼前に迫るお供。

真っ直ぐ睨みつけてナルトはもう一度不敵にニヤリと微笑んだ。


イエー(なんかナゲヤリ)うちは強化期間続行中〜。サスケには、うちのナルコと友になって欲しい(しかもサスケ無自覚失恋で・笑)微妙に続いてて申し訳ないです。待て次回!←をい!ブラウザバックプリーズ