類似点

 


里を少し離れた歓楽街にある宿場町。
大きな通りを中心に左右にひしめきあう店々。
怪しいネオンが灯りそうな看板や歓楽街特有の活気。
二階部分にかかった糸に釣り下がった提灯。

どれをみても。


「なんか怪しい町だよなァ・・・」

仕事柄夜にこのような場所で任務をすることはあっても。
表立って堂々と町に入り込むのは初めてで、子供は素直に感想を口にした。

「ナルト・・・・・今日はココに泊るぞ」

子供をクイクイ手招きをするおっさん。
子供=ナルトは鍵を手にしたおっさんを見ようとして?


「「おぉおおっ」」

おっさんと二人してハモった。


宿の入口に佇む黒髪美女。
スタイル抜群。
髪をかきあげウインク一つ。
意味深な笑顔と共に宿から遠ざかる。

すっかり鼻の下を伸ばしたおっさんは足早にナルトへ歩み寄った。


「ナルトォー!」

「んー?」

もう少しまともに返事を返そうと思ったのだが、ナルトは喜色満面のおっさんの顔に引いた。


 ・・・お約束な展開にお約束通りに『乗る』つもりか。
 というか面白がってるなぁ〜。


心うちで考えていることは目の前のおっさんに勝るとも劣らず豪胆。
かつ冷静で大胆だ。

通常『木の葉のうずまき ナルト』を知る人間がナルトの考えを読めたのなら驚愕どころでなく驚いて腰を抜かすだろう。


『ドタバタ忍者・意外性NO.1』と称されるうずまき ナルト。
実は素性・実力・性別を偽り下忍を演じ続けるクールな上忍。
特殊な血筋を残す生き残りでもありナルトの裏を知る人間は少ない。

目の前のおっさんは自来也。
伝説の三忍と謳われる天才忍者で現在のナルトの師(?)にあたる。
五代目火影候補を捜索すべく二人は木の葉の里を旅立ったばかりであった。


「お前コレ部屋の鍵!先に部屋へ行ってチャクラを練って修行してろ!のォ!」

パシィ。小気味良い音とナルトの手のひらに乗せられた鍵。
ナルトは露骨に嫌そうな顔をした。

「えー!!」

一先ず不服の叫びを上げ。

「こっからは大人の世界だ!とかいう、そういうノリなのか!このエロ仙人!!」

あいた片手でとりあえずつっ込みの形を取る。

(仕方ないだろォ。招待されたんだ、応じないとな)

ニヒヒヒ。
自来也が笑いつつ密かにナルトへ告げた。

(尤もらしいこと言ってる割には鼻の下伸びきってる。なんか楽しそうだね)

ムスッ。
口許をへの字に曲げたナルトに自来也はにやけた笑いをやめず、そのまま無理矢理鍵をナルトに押し付けた。

(危なくなりそうだったら呼べ)

一方的に会話を終了させ、黒髪の美女の後をいそいそと追い始める自来也の後姿。
見ていてナルトは少しばかり羨ましいと思う。


 俺にはない強引さと。なんだかんだいって自分の主張を必ず押し通す手腕。
 本能に正直すぎるところはいただけないけど、自由を満喫してるよな。
 エロ仙人って。

 ところで。


 危なくなりそうだったら呼べ?


去り際の自来也の言葉にはてと小首を傾げ。
以前に感じたコトのある気配ともう一つの気配に怒りがこみあげる。
出来ることならあまりお目にかかりたくない部類に入る懐かしい人物の気配。


かつて。ナルトの忍術指南役を、一時期ではあるが務めた忍。
詳しいいきさつは知らないが弟を残し一族を殺戮。
Sクラスの犯罪人としてビンゴブックにも名を馳せた男。



うちは イタチ。



 エロ仙人!!俺がどうにかできる相手だと考えてるのか!?本能優先のエロエロ男!


ナルトはひくつく頬の痙攣を何とか宥め鍵を片手に部屋へ向かう。


 一度だけ。あのイタチという男は俺と類似点があると感じた忍。
 ナニを隠し抱え一族を殺したか判らないけれど。
 俺と似たような瞳をしていたっけ。
 ありきたりの日々に身を窶しながらもナニかに渇望し追い求める。
 ああいうの、昔なら同類みたいに感じられたかもしれないけど。


 今は正直苦手だ。


 エロ仙人なら楽勝相手でも俺は微妙だしね。
 それにイタチの連れは妙な感じもする。
 いつも通りにナルトとして会っておいた方が断然無難かな。


フロントの背後にある渡り廊下を通りつつ、ナルトはツラツラ考える。


離れになっている一階のほぼ真ん中位にある部屋。
鍵についた部屋番号と扉につけられた番号を確認しナルトは部屋を開けた。
質素なツインの部屋でベットが二つ。
ベットの上に背負っていたリュックを無造作に放り投げ、ナルト自身はベットの脇に腰掛けた。
欠伸交じりに深呼吸を繰り返し来るべき小競り合いに想いを馳せる。


 馳せたくないけど。

 

コンコン。規則正しいノックの音。


 来た来た来た来た来たぁ。

本音で言えば窓から逃走なんてのもアリなのだろうが、ここはセオリー通りにうずまきの顔をして対面しなくてはいけない。
イタチの情報は紅先生も知っていたはずなので彼女が暴走していないかも。
イタチに会い直接確かめなくては。

うちは一族絡みで考えるならカカシ先生やサスケなんかも、無事かどうか。
この眼で確認しておいた方が安心するというもの。


 落ち着いて。


コンコン。
再度規則正しい・・・何処か部屋に居る人間を急かすようなノックの音。


 催促!?
ナルトは頭の片隅で考え身構え・悩み・少しばかり部屋をウロウロし。諦めた。


 自分でも情けなくなるけど師匠運は無い方かも?
 人間諦めが肝心だよね。
 注連縄は完全にこの場には出て来れないし。
 今までも何とか切り抜けてこれた。イザとなったら、ま、逃げればいいか。


気楽に考え直してナルトは面倒臭そうにドアを開けた。


 ・・・サスケもこの先苦労しそうだな。
 そーしたらこんな風に老けるのかな?将来。


ファーストインスピレーション。
某ストーカー幽霊が聞いたなら身体を折り曲げて笑い転げただろう。
『ナルちゃんナイスつっ込み』とかなんとか言いながら。
生憎今はナルト一人である。
しかも、このような微妙な場でそんなにおちゃらけおけられる程。
ナルトも神経は図太くない。


ナルトを射抜く真紅の瞳。
怪しいマントを羽織ったイタチとお供がナルトの目の前に姿を見せる。
ナルトはドアの手前で呆然とした顔を作り佇んだ。


「しかし・・・・・こんなお子さんにあの九尾がねェ・・・・」

お供の挑発ともとれる発言に目を見開くナルト。


 九尾を知っているのは仕方ないか?
 それにしても『今頃』になって俺の中の九尾を狙い出すとは一体どういう了見しているんだ。
 三代目が亡き後。
 木の葉の守りが薄くなっているのは事実だが。
 それがキッカケと言うにはお粗末過ぎる。
 裏があるとしか思えないな。


慎重に相手を値踏みしたナルトは無言で相手の出方を待った。

 
ナルト君、一緒に来てもらおう」

(君もカカシさんの様にはなりたくないだろう?)

感情の欠片すら篭らぬイタチの声音。昔から比べれば少しばかり低くなった。

「!」

(カカシ先生に・・・ナニをした?)

すう。ナルトの眉間に皺がよる。
殺気さえ漂わせないがナルトとて木の葉の上忍。
しかも現在は暗部向きの仕事ばかりこなす実力者だ。
嘗められっ放しで大人しく引き下がる物分りのいい良い子ではない。

(争いをしに木の葉に行った訳ではない。君の動向を探る必要があってね・・・まさかお守が三忍の自来也さんだとは思わなかったよ)

イタチの静かなる返答。
アノ雰囲気は変わらず一見穏やかでいて、それでいて恐ろしいまでの腹積もりを抱えたイタチ。
底知れぬ心裡は誰であっても垣間見る事は叶わないだろう。


 かつての俺のようにな。


苦々しい想いで下唇を噛み締める。やや俯き加減のまま。
ナルトは己の器というモノをまざまざと見せ付けられた気分に陥った。

檻に閉じ込められたまま目を頑なに閉じて外界を拒絶していたかつての自分。
なんと矮小で未熟だったことか。
実力が全てで己の存在意義は『忍として如何に動くか』が前提で。
計算し尽された動きと反応は忍としては好ましいものだったのだろう。
里での評判も上々だった。


 ジジイは良い顔をしなかったけど。


 感情に多くの欠陥を抱えた俺はそれなりには強かった。
 だが真の強さを理解出来なかった。

 シノを受け入れたつもりで・・・本当は数年前まで受け入れられていなかったように。

 シカマルにだって結構馴染むのに時間もかかった。って。

 今はそんなことを思い出している場合じゃないか。


 兎も角だ。イタチに連行されるってゆう不測の事態は避けなければならない。
 エロ仙人はどこまでアテになるのか微妙なラインだし。


(紅さんにも挨拶したかったからね。同じ教師として)

少しだけ愉快そうな口ぶりを含ませイタチが言葉を続ける。

ナルトは胸に引っかかっていた不安が現実化した感触に身体を固くした。
最悪の事態には陥っていないようだが。
内臓に鉛を押し込められたように重く感じる。

孤立のナルトには、これが罪悪感だとか漠然とした嫌悪感だ等と客観的に判断できなかった。


(同じ?)

お供はイタチが目線で制している為動く気配はない。
恐らくイタチの指示さえあれば直ぐにでもナルトを捕獲するのだろう。
どのような手段を講じてくるかまでは見当もつかないけれど。


 時間稼ぎなのは百も承知。ナルトはイタチの言葉尻を捕らえ疑問とした。


(彼女は現在君の保護者をしている人だ。挨拶くらいは当然だろう。大丈夫。木の葉には戦争をしに行ったのではない。無用な争いは極力避けてきたつもりだ)

遠まわしながらも答えるイタチ。

(どのような理由であったとしても。己の主張だけに基づく諍いには同意しかねる)

対してナルトも慎重に言葉を選んで反論した。


暁という組織。自来也はカカシにも説明はしておいたと言っていた。
ならばカカシが重点的に狙われてしまったのも納得がいく。
紅を敢えて狙わなかったのは。

こうしてナルトに相対した時牽制として話題にする為だ。


いつか。
カカシのように紅だって命の危険にさらされるかもしれない。
それはナルトの判断一つで回避できるのだと。


 つくづく冷静かつ嫌味な男だと。

ナルトは心の底から思った。
鋭利な刃物のような剣呑な性格は昔も今も変わらずらしい。


(木の葉の里は狭すぎる)

イタチが謂わんとしている言葉は重々理解しているつもりだ。
重く感じる身体を一層重く感じる。
無意識にナルトはため息をついてしまう。

(・・・生憎俺にはアンタほど思い切りの良い性格してないんでね。悪いけど九尾は渡せないし、俺自身も器を試す為に全てを捨てるほど悟ってもいない)

(どうかな?本当は全てが煩わしい足かせとなって、君を木の葉という檻に閉じ込めているだけじゃないのかな?)

ナルトの否定を切り返すイタチの台詞。

(君は僕に似ている)

断定的に告げられる。
正にナルトの気持ちを揺さぶるような簡潔な物言い。

(似てる?少なくとも弟一人残して一族惨殺なんか俺はしない)

経緯さえもトップシークレットである為。
ナルトもイタチがどうして事件を起こしたかまでは知らない。
吐き捨てるように答えたナルト。

(でも矢張り君は僕に似ている)

薄く開いたイタチの唇は嘲るかのように言葉を紡ぎ出す。

(かもね?だけれど違うって事もこの場で証明できるかもよ)

動じずにナルトは真剣な顔つきでイタチへ答えた。



似て非なるもの。類似点は=ではないと。

教えてくれる仲間がいる。

迷っている場合じゃない。

ナルトの言う『証明』が到達するまであと数分。
ナルトもイタチもお供も。
未だそれを知らないでいた。

ええと。反応が怖い気もしますが(笑)こんな感じで淡々と遭遇話は続く〜。うちは家強化期間?ブラウザバックプリーズ