先生の先生の先生

 


木の葉の里。天鳴(あまなり)と表札のかかった家にて。


『ナルちゃーん。カムバーック』

何処かで見た映画の一コマを熱演するスケスケ青年。
金髪・碧眼。一見美青年風。
唇で噛み締めたレースのハンカチが微妙なライン。


「見送り如きでうだうだ騒ぐなよ。どうせ俺らも後で合流するんだしよ」

隣のスケスケ青年の大声に耳を両手で押さえ。目つきの悪い少年は小さく言った。

「・・・」

青年を挟んで隣に居る丸黒眼鏡の少年も迷惑顔で耳を両手で押さえている。


「五代目が決まらなければ里も落ち着かない。暁の事もあるし、消えた大蛇丸の行方も気にかかる。鍛え直すにはいい機会だと思っている。後処理や残った任務はシノとシカマルに任せた形になるけど、頼む」

リュックを背にした子供は二人の子供に深々と頭を下げた。

「ナルト自身も強くならなきゃ駄目ってのは。ハァ。俺は後どれくらい修行すればいーんだろーな」

頼まれる=頼りにされるのは結構だが。
実力差が更にひらくのはいただけない。
ついつい愚痴モードに入ってしまう。

「道を究めるのに終わりはない」

こぼす子供にさり気に容赦ないツッコミを入れる丸黒眼鏡の少年。
目つきの悪い少年の額に青筋が立った。

「シノ、てめーさり気に俺に喧嘩ふっかけてんだろ」

怒りに半ば高くなる声音。目つきの悪い少年は努めて冷静に尋ねる。

「いや」

丸黒眼鏡の少年・シノは即座に否定した。

『単に仲が悪いだけでしょ。シノ君とシカマル君って』

スケスケ青年の無邪気な言い方だけど悪意がヒシヒシ感じられるコメントに、「「お前に言われたくはない」」と。
シノ・シカマル仲良く言い返したのは。
仲間としてのキャリアがモノをいっているのか。

それとも。


「呼吸は相変わらずぴったりだよな、二人とも」

呑気に二人の胸中も知らずに笑っている目の前の子供・ナルトが原因のどちらかだろう。


いかにも接点なさそうなこの子供達。
実は実力・素性・性別をかくして忍生活を続ける『うずまき ナルト』の秘密を知る数少ない協力者。


ナルトとは幼き頃からの任務の相棒・油女シノと。
アカデミー時代に仲間入りを果たした頭脳派・奈良シカマル。
ナルトの十二の誕生日にあの世から禁術で復活(?)を遂げた自称ナルトの守護霊様・注連縄。

この面子に見送られ。
ナルトは更なる飛躍を求め自来也の『取材旅行』へ同行することになった。


「じゃ、行ってくる」

シノとシカマルにだけ笑顔を向けナルトは天鳴の家を後にした。

『ナールーちゃーんー!』

未練がましく絶叫する注連縄の声が無様に響き渡るコントのような旅立ちとなってしまったのは致し方ないだろう。

「ナルトの残して行った任務は四件。Aランク任務だが急いで片付けよう」

小さくなるナルトの後姿を視野におさめシノがポツリと呟く。

「めんどくせーけど、ま、やるか。エロ仙人にだけナルトを独占させんのも癪だしな」

右手で作った拳を左手手のひらで受け止めシカマルもニヤリと笑う。

『あ、お兄さんは任務手伝えないからね。お兄さんのチャクラはナルちゃんのためだけに・・・』

我にかえった注連縄の予想範囲内のコメントを二人の少年が無視したのも。
無言で任務に赴いたのも。
至極当然な行動なのであった。

 





天鳴の家から離れ、人気のない細道で自来也と待ち合わせたナルト。
自来也の顔を見るなり「一楽のラーメン食べてから出かける」と唐突に宣言する。

「一楽?」

自来也は怪訝そうにナルトを見た。

「いきなり連れ立って歩けば里で目立つだろ。だいたい俺は昼飯がまだなの。暫く里を出るならあの味を食べておかないとね」

真顔で言い切るナルトに自来也は失笑する。

「なんだ。ラーメン好きは演技じゃなかったのか?」

口寄せを教えるにあたり里の資料から調べ上げた『表のナルト』
まさか『素のナルト』がラーメン好きとは思いもよらずついつい確かめる。

「は?元々なんでも食べるけど外食つったらあそこが一番好きなんだよ。ラーメンは基本的に好きな部類に入るし」

不思議そうに言うナルト。
が、次の瞬間に察したようでニヤリと口角を持ち上げた。

「ああ。アレね。基本的に演技だけで貫き通すのは難しいんだよ、どんなに演技力があっても。
嘘にリアリティーを持たせるなら少しの真実を織り交ぜた方がより確実だって事だけの話だ。
それに実際、イルカ先生と食べた一楽のラーメンは上手かったけど?」

人目につかぬよう小声で呟き。

「じゃ、一楽でな。偶然出会ったみたいにしとけよ。俺の情報を極秘扱いにしたいのなら」

不敵に笑って見せナルトは姿を消した。

「・・・ヤレヤレ。あれだけクールだと嫁の貰い手に困るぞ」

こっそりナルトと自来也の後を尾行けるストーカーに自来也は告げる。

『ヤダな〜。ナルちゃんってモテモテなんですよ?数年も育てば先生好みになる筈ですけど、手は出さないで下さいね♪』

笑顔を振りまきながらも師匠を脅す注連縄。

自来也は嘆息し取り敢えずは、

「出すか」

今のところは。を省いて答えた。


『ツナデ様に会うのならナルちゃんにとっても良い刺激となるでしょうし。イタチ君には遅かれ早かれ狙われるのも確実ですしね。僕としては先生の手腕に期待しています』

神妙な面持ちで注連縄が深々と自来也へお辞儀。
らしくもないかつての教え子の愁傷な態度に自来也は笑みを深くする。

「四代目・親としての頼みなら、頼まれんぞ。ナルトはナルト。保護者に見送られて一人立ちするような子供でもないだろ?黙って隣に立っていてやれ」

イチャパラ作家に落ち着いたとはいえ、自来也は三忍の一人。
人物観察眼は伊達に養ってはいない。
これまでのナルトをそれとなく観察して出した結論だ。

『なんだかな〜。先生はそうやって計算高いんだから参っちゃいますよ』

一見豪快な性格とオープンスケベが幸いしてコミカルな印象を受ける自来也だが、その実は冷静沈着・容赦がない。


長年忍として生き抜くべく。
綺麗事だけでは済まされない修羅場とて何度も潜っている。
もしナルトが九尾に乗っ取られた事態が発生したなら。
躊躇わずにナルトを屠れる非情さも持ち合わせる実力者。
弟子だからこそこの師匠の醒めた部分は厭というほど知っている。


注連縄としてはただただ苦笑するしかない。


「ナルトはまだ卵だ。孵化する間もなく凍りに閉じ込められた、な?氷を溶かし真に孵化したナルトを見たいだろのォ?」

わざと屈み顔を覗きこむ自来也に注連縄は目を丸くする。

『・・・』

この世で注連縄を絶句させることの出来る人間が居るとしたら。
それはこの自来也一人かもしれない。
ナルトが姿を消した後に師に会ってよかったと、注連縄は思う。


『先生から見たら・・・卵なんですね、ナルちゃんって』

昔から豪快だとは思っていたけれど。
年々パワーアップし続ける師匠の目に映るナルトはスタートラインにすら立てていないらしい。

参ったなぁ。独り言のように呟けば自来也は喉奥で笑った。


「今回の取材旅行でもうちっとマシになるだろ。心配はいらん」

『はぁ・・・』

何時ものペースを崩された注連縄。間の抜けた調子で相槌を打つ。

「そろそろ頃合的にもいいな。お互い背中には気をつけたほうがいいぞ」

太陽を一瞥し自来也は一楽へ向け歩き出した。

『なんかねぇ〜。先生には敵わないな』

不思議と悔しい気持ちはない。
師としても優秀な自来也の手腕を疑うつもりは微塵もない。
けれど不安が増すのは何故だろう?

『そうやってお兄さんの背後で殺気立つのはやめてね?』

さしあたっては。
背後に怒りのオーラをバックに立ち尽くす二人の少年へ警告することにしよう。
注連縄は思いなおして後ろを振り返る。
シカマルとシノは視線だけで怒りを顕にし注連縄を睨みつけていた。



数分後凄まじい轟音と共に資材置き場が崩壊したのは。
偶然ではない・・・筈だ。

 





一楽で偶然を装いナルトに出会った自来也。

ナルトは口いっぱいに麺を頬張り「バァ、べぼぜんびん!」とナルトらしい驚き顔を披露。

苦笑しそうになった自来也だがナルトの目の奥がまったく笑っていないので止めておいた。
一楽店主テウチのラーメンを堪能した二人。
自来也のごく自然な(?)提案により『取材旅行』へ旅立つことに決定。
ナルトは駆け足でうずまき家へ戻り荷物をまとめ、待ち合わせ場所の里から外へ出る門へ向かう。


「しゅっぱーつ」

元気は元気だがどこか投げやりなナルトの掛け声。

 捻た性格の割には正直だのォ。

思いながら自来也はナルトの頭のてっぺんを見下ろした。
無難な世間話やらなにやら交わしつつ二人は里からどんどん遠ざかる。


「ここらでよいか」

コホン。自来也は尤もらしく咳払いをしてから徐にポーズを決める。
片やナルトはキョトンとした顔つきのまま立ち止まる。


「蝦蟇仙人とは仮の姿。何を隠そうこのワシこそが!北に南に西東。斉天敵わぬ三忍の白髪童子蝦蟇使い!泣く子も黙る色男!“自来也様”たぁ〜ワシのことよ」


ポーズ付きで口上を言った白髪のおっさん、自来也。
対するナルトは呆れ顔。


「てか。往来で堂々と改めて名乗られても困るんだけど」


どこらへんが泣く子も黙る色男なのかはこの際聞かないことにしよう。

頭で考えてナルトはリュックを背負いなおす。
息を吐き出してこれからの道中を考えると気が滅入っていく。


「なんだナルト。これからはわしが先生だぞ?ちっとは敬え」


どこをポイントに敬うのかもこの際胸のうちに収めておこう。

ナルトは固く誓い再度息を吐き出した。


「俺の直接のセンセイはカカシ。んでカカシのセンセイは注連縄。んでオマケに注連縄のセンセイが自来也だろ?なーんか作為的だな」

ナルトがぼやけば自来也はニヤリと笑う。

「偶然だろ。流石にわしとてそこまで三代目に頼まれてはおらん。お前は見込みもあるしまだ強くならなきゃならん。遅かれ早かれ。お前は今以上に背中に気をつけて生きていかなくちゃいけなくなる」

ナルトのこめかみを指先でつついて自来也は小声で答えた。

「わかってるさ。だからこうして『お供』してんだろ。口寄せ以外の術をきちんと教えてくれるんだろうな?」

まるっきり信用していない口ぶりのナルトに。

 かつての弟子注連縄によく似た子供に育ったな。

とは思いつつも。ナルトの自尊心の為にも黙っておいてやろうと。
自来也が考えたのも秘密だ。


その一方でナルトも。


 俺をダシにしてイタチをおびき寄せようとするなんざセコ過ぎなんだよ!
 エロ仙人。

とかなんとか。悪態をついていたことも内緒なのである。


「ま、短い間だけどエロ仙人と一緒の時以外は『うずまき』仕様でいくから。笑ったりするなよ?」

対外的にこの素を晒すのはまだ早すぎる。
ナルトは自来也に釘を刺した。

「さてな」

すっとぼけた口調ではぐらかす自来也。

「・・・」

先生(カカシ)の先生(注連縄)の先生=自来也=性格に難アリ?

図らずも己とて将来その図式に入ってしまうかもしれない可能性は考えに入れず。
三代続く師弟系図の共通項を発見してしまったナルトであった。

 


上記の図式に自来也の師である三代目を入れなかったのは、ナルトなりの三代目に対する親愛の情からきたものだということも明記しておく。


あの旅立ち後の自来也さんの自己紹介がすっごく面白かったので。無理矢理入れたくて作っちゃいました(馬鹿)ブラウザバックプリーズ