波乱

 


カカシの目配せで謎の訪問者を追う紅・アスマ。
二人の目の前に現れた訪問者とは。


「うちは イタチ・・・」

アスマが半ば呆然とした口調で呟いた。

「お久しぶりです」

笠を脱ぎ捨て表面上は丁寧な口調で挨拶するイタチに。
紅は『内なる紅』を発動させていた。


 なによ!なによ!もったいぶって登場して!!
 アンタの狙いは分かってるんだ。わたしのナルに手を出そうとするなんて言語道断だよ。
 とはいっても。イタチはナルより強いからね。
 自来也様だってそう言っていたし。


表向きは驚いた顔でイタチを見る紅の脳裏に昨日の出来事が思い起こされていた。

 





三代目逝去から二週間後。
平常を取り戻しつつある木の葉の里。

本来うずまき ナルトと称される子供の住む家では無く、一般の家屋の平屋建て。
天鳴(あまなり)の表札が下がる小ぢんまりとした家であるが・・・ここが『本来』のナルトの家である。


実はうずまきナルト、素性も性別も隠して『ドベ』を演じる凄腕上忍。
クールな性格でおおよそ『表』のナルトとは逆タイプの忍だ。
本来のナルトの相棒がシノとシカマル。
共に任務をこなす『仲間』でもある。



 良くない噂を聞いた。



手土産(?)を引き下げて姿をくらませていた自来也がナルトの前に姿を見せたのは昨日の昼時である。

「いらっしゃいませ。自来也様」

事あるごとにナルトの本来の家に入り浸る紅。
その日も朝からナルトと色々(紅の一方的おしゃれ教室・くの一バージョン等)と学んでいた。
なれた調子で座る自来也に微苦笑し食器棚から来客用の湯飲みを取り出す。
勝手知ったるなんとやら。
手慣れた様子でお茶を淹れる。


ちなみに玄関先で自来也を出迎えたナルト。
ストーカー幽霊注連縄と玄関先でバトル(一種のいちゃつき)真っ最中。


「まったく、相変わらず進歩が無いのォ」

玄関近くで轟き渡る騒音と暴走気味のチャクラ。
感じ取り自来也はこう評した。

「アンタ(エロ仙人)ほどじゃねーでしょ」

しれっとした顔でシカマルはさり気に嫌味を放つ。

狙い済ましてナルトをおちょくる心優しい(?)師匠・伝説の三忍自来也。
破天荒な性格は好ましいが、ナルトをからかい倒すお茶目(物好き)加減は如何なものか。
曲がりなりにも五十過ぎの良い歳したおっさんである。
大人の余裕という奴でナルトを刺激しないでおいて欲しい。


ずずず。

お茶を啜るシカマルに自来也は小さく口許を綻ばせた。


「そう尖るな。今回の噂はお前らにも係わりがある。知っておいた方が得だ」

「ではお伺いしますわ」

間髪いれずに紅は椅子に座った。自来也の真正面に。

「自来也様直々のお話しということは、ナルにも係わりがあるのでしょう?」

ナルトを妹のように可愛がる紅の行動は素早い。
忍としての経験と勘も上々で、相手の意図を察するのは得意中の得意。
自来也の訪問の意図を察して核心を突く問いを発する。

「中忍選抜試験第三の試験前に、わしはカカシを呼び出した」

自来也は前置きし、居間に集った人間の視線が己に集まったことを確かめる。

無意識に上半身を乗り出した紅と一瞬だけ動きの止まるシカマル・眼鏡の位置を少し直したシノ。
それぞれの反応を確かめ改めて口を開く。


「本戦出場を果たしたナルトとサスケの処遇を話し合うためだ。同じ写輪眼を持つカカシがサスケを見るのが妥当だからな。わしがナルトを預かるということで話をつけた」

「まったく。フォローに走るのは構わないが、俺の知らないところで勝手に話をつけるなよ」

声と同時に椅子の上に姿を見せるナルト。
やや疲れた調子で自来也を睨んだ。

「仕方ないだろォ。わしだって取材に精を出したかったが三代目のたっての頼み。それにお前がどれ程成長したかこの目で確かめたかったしな」

「嘘臭い」

不信感丸出ししにしたナルトの顔。
横でシノとシカマルがうなずく。自来也は尤もらしく咳払いを一つ。
ナルトのコメントとシノ・シカマルの行動を無視して話を続ける。

「わしは大蛇丸が里を抜けてから、それとなくアイツの行動を追っていた。つい最近まで大蛇丸はある『組織』に属していてのォ。中忍選抜試験前に組織を抜けた。
そして組織は最近になってツーマンセルで各地に出没。様々に術や道具やらを収集しておってな」

自来也だって闇雲に姿を消していたのではない。
忍として彼自身のライフワークも兼ねて。
里のことも考え大蛇丸を追っていた・・・ようだ。

「嫌な予感するぜ」

話題の出だしは『良くない噂』だ。そこから考えれば自来也の話は木の葉に都合の悪い話なのだろう。
容易に想像できたシカマルはげんなり。
投げやりにぼやく。

「組織には『うちは イタチ』の外、Sクラス犯罪者も属している。一筋縄ではいかない連中が揃っているというわけだ」

ナルトとシノの顔が一瞬強張った。

『イタチ君はかつての教師だね?ナルちゃんとシノ君の』

何故か痛々しい包帯グルグル姿で登場するストーカー幽霊・注連縄。
壁から上半身を出した格好で会話に割ってはいる。

「一応。ジジイが指名した教師役。半ば任務って感じだな。内容を誰にも明かさないという前提条件のね」

ナルトの幼少期を知らないシカマルはポカンとした顔でナルトを見る。

「だから俺は七班所属なんだ。サスケのフォロー役も含まれてるんだよ」

複雑な顔でナルトはシカマルを見返す。

「俺も詳しくは知らないが・・・イタチは一族を皆殺しにして里を抜けたんだろ?唯一生き残ったのが幼いサスケだけ。そのイタチが小さい頃のナルトの教師。少し前までは大蛇丸と一緒の組織に居た。今はツーマンセルを組みあちらこちらに出没中・・・」

ブツブツ呟いて脳をフル回転させるシカマル。

バラバラのピースが一つへ向かって繋がっていくような。
中忍試験に端を発した事件は大きな波乱を巻き起こし、更なる波乱を呼び起こす。


「様々な術や道具を収集した。そして次の狙いは人材か、封印物か。・・・狙いはさしづめ四代目の遺産ってトコか?」

探る目つきで自来也を見つめシカマルは口を開く。

「フン。三代目の爺が見込んだだけはある。頭の回転は一番いいようだのォ」

自来也が顎を手で擦る。

『お兄さんの遺産?』

逆に注連縄は狙ってボケているのか首を傾げた。

「ナルトのことだよ、ナ ル ト」

ややうんざりした調子でシカマルがナルトを指差す。

自来也は肯定も否定もしない。
が、態度から見てシカマルの答えが正解なのは間違いないだろう。


「わたしのナルを狙ってるですってぇぇぇぇぇ」

紅の目つきが変わる。自来也は面白がってニヤニヤ笑い、ナルトは額に手を当ててため息。
シカマルとシノは祈るかのように天を仰いだ。

「仕方ないのォ。九尾は最強のチャクラを持つ妖だからな」

疲れた顔のナルトを覗き込み自来也は楽しそうだ。他人事のような発言で紅を煽る。

「うちはイタチと大蛇丸の接点は分かった。それでその『暁』という組織は一体なにを目的に動いている?」

ナルトは気持ちを切り替え自来也へ尋ねた。

「ボランティア団体じゃないのは確かだ」

腕組み。
数秒間たっぷり間を空け言い放った自来也へクナイが四本投げ放たれたのはご愛嬌。
自来也は余裕で避け相変わらずニヤニヤ笑っている。

「当たり前だろっ。兎に角。目的が不明な以上、俺達は相手の出方を待つしかないな。それに?」

どちらかといえば傍観者を決め込む自来也をナルトは一瞥した。

「どっかのエロ仙人は『五代目火影就任』を拒んだようだし?今の木の葉は脆いままだ」

含みを持たせたナルトの台詞。
自来也へ集まる視線。
紅とシノ・シカマルが一斉に自来也の方を向く。

「火影なんぞわしは柄じゃない。他に心当たりがあるからな。そっちを当ってみようと思っている」

呑気に笑っているが追求は認めない。表情へ出し自来也は謙遜した。

「別にエロ仙人が就任しないことを問題にしてるんじゃない。恐らく俺狙いって事は。イタチは里に潜入するって事で、サスケと遭遇する確率も上がるということだな」

「ナルトの読み通りだろ?大方そんなもんだな。カカシ上忍も絡むと厄介だぞ」

シカマルが締めくくる。分かりきった結果にナルトはうんざりした顔で息を吐き出した。

「サスケの保護役がカカシ先生だからな〜」

天井を見上げナルト、ぼやく。中忍試験中止後は。


サスケに施された呪印の影響を考慮し、また音の襲撃を考えサスケに保護役がつくことになったのだ。
よってカカシは監視役を解かれサスケの保護の任についている。


『お兄さんは棚ボタラッキー』

妙に探ってくるカカシがいなくなり、スッキリしていたナルトの次なる監視役。

それが自来也だ。

実際の監視役は注連縄で自来也自身が監視している訳ではないが。
将来有望であることには変わりないナルトを保護するのが主な目的。
ナルト自身が納得している訳でもなかったりする。


はしゃぐ注連縄とブーたれるナルトの対照的姿に自来也は失笑する。


「当面、ナルトはわしと同じ任務についてもらう。修行を兼ねて五代目に値する『心当たり』を探す。里に居なければナルトが暴れようがそうそうバレはしないだろうしな?一石二鳥だろう」

既に決定事項らしい任務の巻物。
ナルトへ突きつけて自来也はお茶を飲む。

「拒否権もナシか」

面倒ごとよりかは里外任務の方が気楽なもの。

遠まわしにナルトを気遣う(本当は里から逃げ出したいだけ?)自来也の狸ぶりは。
矢張り三代目に会い通じるものがあり、この師匠(三代目)にしてこの弟子(自来也)だとナルトが実感した瞬間でもあった。

 





アスマと並んで紅はオマケを見る。
オマケといっても『暁』に属しているSクラスの犯罪者だ。
大きな刀を布に包み片手で柄を持っている。ご丁寧にも。

「干柿 鬼鮫。以後お見知りおきを」

笠を外し大男が自己紹介。

アスマが紅の横で口許を引き締めるが紅はそれどころではなかった。

イタチの唇が。

あの独特の。
ナルトと口だけで会話する時の動きとなる。


(あの子にこの里は狭すぎるとは思いませんか?同じ教師として)

口火を切るイタチ。
片眉だけを器用に持ち上げて紅は目の前のイタチをねめつけた。

(それを決めるのはあの子よ。外野や・・・特にわたし達大人がとやかく言えた立場じゃないでしょう。同じ教師として言わせてもらうなら)

教え子の抱える孤独・憎悪・安堵・将来・仲間。

数え切れないほどの気持ちを抱えてそれでも笑っていられるあの子から。
これ以上居場所を奪わせたくない。
たとえ大人である己の我儘だとしても。


(誰にもあの子の生き方を・・・違うわね、逝き方を強制なんて出来ないのよ。いえ、させないわ。
誰よりも自由に誇らしく生きているあの子を波乱に巻き込むなんて。絶対に許容できない。
行きたければわたしとアスマを撃退していきなさい)

赤く染まるイタチの写輪眼を見つめ紅の胸にも決意が固まった。

いくら上忍に昇格したとはいえ紅の実力では足止めが精一杯。
後は自来也頼みとなってしまうのが悔しいが、サスケがこの場にいないのがせめてもの救いだ。
ナルトに余計な心配をかける必要がなくなる。


(やれやれ。噂には聞いていましたが紅さんも強情ですね)

ふっ。口許を緩ませたイタチの発言に紅は眉間に皺を寄せる。

(わたし『も』?この里で誰かに接触したの?)

(・・・機会があったらお話しましょう)

イタチは明言せずに黙って笑った。

「この方けっこーウルサイですね。殺しますか?」

鬼鮫が肩に担いだ大剣を地面へ降ろす。

逡巡。
数秒間だけイタチは何事かを考え。そして鬼鮫へ言った。


「・・・だが派手にやり過ぎるな。お前の技は目立つ」

「決まりですね」

イタチの許しを得て鬼鮫は不気味に微笑む。

勝てる見込みはない。
敵わないと分かっていても己の大切な『家族』の為なら命を張って戦える。
木の葉の里の忍として。
あの子の教師・保護者として。

 



苦戦する紅とアスマの応援に駆けつけたカカシですら、イタチの瞳術に倒れ。
ガイがフォローに走りサスケが兄の後を追って木の葉を後にしたのはこの接触から約一時間後のコトである。


つ、ついにうちでもイタ兄登場〜。でも本当のトコイタ兄はどういう思考の持ち主なんでしょう?話がコレから少し連作気味になります(すみません)ブラウザバックプリーズ