名もなき恋文

 

その日。


木の葉の里では非常に珍しい光景を拝むことが出来た。

里一番のドタバタ忍者が顔を真っ青にして何処(いずこ)かへ走っている姿である。
特徴的なオレンジ色の上下の忍服。
外にはねる金色の髪。
動揺の色濃い深い蒼い瞳。


胸に何かしまいこんでいるのか手をしっかりと胸に沿え。


超高速(とはいっても下忍レベル)である場所目指して走る・走る。




「あれ?」

買い物帰りの少女は立ち止まり。
目の端をかすめ去っていった同班の子供を見た。

「ナルト・・・?だよね?」

別の班のライバルの少女も驚いて足を止める。

「サクラに気がつかないなんて珍しい〜。いつも『サクラちゃ〜んv』とかって近寄ってくるじゃない?」

買い物袋を持ち直し、ライバルの少女が子供の口調で少女・サクラの名を呼んだ。

「いの!・・・確かに。多分サスケ君相手でもカカシ先生相手でも立ち止まって挨拶くらいはするんじゃないの?ナルトって結構マメだから」

ライバルの少女・いののからかい口調を叱咤して、それからサクラは首を傾げた。

「どうみても普通じゃないよね。なにかに怯えた感じでさ。もしかして誰かに追われていたりして」

いのは冗談半分でサクラに言った。

「!?」

ところが、いのの意に反してサクラは顔色を悪くして黙り込む。
急に元気をなくしたサクラに逆にいのが慌てた。

「ちょっとサクラ、冗談よ?冗談!」

誤魔化すように笑いサクラの肩を叩くが、サクラは無反応。

「サクラってば〜、冗談だって!」

「ごめん!わたしの荷物家まで運んでおいて!」

決意を固めた顔でサクラはいのへ荷物を押し付ける。
そのままナルトが消えた方角へ自身も走り出す。

「・・・サクラがナルトを追いかけるなんて天変地異の前触れ?」

人込みに消えるサクラを最後まで見送り、いのは一人心地に言った。

 



七班の・・・里で将来を渇望されているうちはの末裔は、丁度修行を終え自宅へ戻る途中であった。
早朝の修行メニューをこなし、午前中は家で巻物の復習。
午後にまた外へ出て体力づくりの修行。
外見のクールさに似合わず『努力の子』であったりする事実を知る人間は少ない。
演習場から里の中心部へと抜ける道へ出た瞬間。


どすっ。


衝撃を受けてまともに転んだ。


「前見て歩け!」


 誰だか知らないが危ないじゃないか。


ごくごく常識的に考えてつい怒鳴った。


「・・・ごめんなさいっ!・・・て?サスケェ?」

裏声で驚く三人一組の仲間。

「ナルトか・・・このドベ!忍なら前くらい見て走れ」

忍じゃなくても前くらい見て走るもんだ。
言いたいのをぐっと堪え簡潔に文句を言うサスケ。
ナルトとの付き合いに大分慣れてきたようだ。

「わ、悪い。俺ってば急ぐから!」

今にも泣き出しそうに情けない顔つきのまま、サスケと入れ違いに演習場方向へ姿を消すナルト。

ぶつかったことが『悪い』のか、立ち去ることが『悪い』のか。
どちらともつきかねる発言だが、ナルトは急いでいる様子で走り去ってしまう。


「・・・?」

サスケの嘲笑(といっても挨拶程度だが)に一々反応して突っかかってくるナルトにしては珍しい。
『ドベ』と呼ばれることを嫌うナルトが無反応で姿を消したのだ。
サスケが訝しく思っても致し方ないのである。

「変なモンでも喰ったか?」

乏しい知識から拾い上げるナルトデータ。サスケが一人納得して完結したところへ。

「あれ?サスケ君」

ナルトがやって来たのと同方向から走ってきたサクラ。

紅潮する頬。浅い呼吸を繰り返す唇。
頬にかかる髪を払う仕草。
(実はこの目の前の彼のために意識して女の子らしく振舞おうという涙ぐましい努力の一端。しかしながらこの少年が気づく確立は低い)サクラは大きく目を見開いた。

「サクラか。どうした?」

「ナルトがこっちに来たみたいだから。さっき繁華街の方でナルトを見たの。ほら、ナルトって案外マメでしょう?イルカ先生の影響もあるのか挨拶なんかはきちんとするほうじゃない?
わたし、ナルトから見える位置にいたんだけど。ナルトったら思いつめた表情で走って行っちゃって。
・・・あ、サスケ君ナルト見なかった?」

深呼吸してから一気に言ってのけたサクラ。

「ナルトなら奥へ行ったぞ」

凄い肺活量だと、ズレた感心を抱きつつサスケは親指で背後の演習場を指した。

「ありがとう、サスケ君」

サクラは微笑んでサスケの腕を掴み走り出す。

「・・・サクラ?」

怪訝な顔つきでサスケはサクラを見た。

「だって心配じゃない。いつもは五月蝿いくらい明るいナルトがあんな風に思いつめるなんて・・・同じ班の仲間として見捨てては置けないわ」

決意を固くしたサクラの断固たる口調。


 きゃー!!ラッキ〜vv偶然とはいえサスケ君とここで会えるなんて。
 こうなったら二人っきりで・・・二人っきりでv
 ガッツよサクラ。しゃーんなろっ!


とは裏腹に内なるサクラ発動中。
サスケとしては内なるサクラを感じ取ってか大人しくなった。
この状態の彼女は押しが強く逆らうだけ疲れるのだ。
ある意味悟っているサスケである。
こうして二人はナルトの後を追い始めた。

 




 どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どーしようっ!!


ナルトは金色の髪を振り乱しダッシュ。
瞬身の術で駆け抜けたい心境だが、今は表のナルト。
下忍程度が出せる速度を守り律儀に駆け抜ける。


「ああああああああ〜!!」

口から飛び出すのは意味不明瞭な絶叫。
両手で頭を抱えて絶叫し、それから泣き出したいのを我慢して猛ダッシュ(あくまで下忍が走れる速度)


実はナルト。出自も性別も実力も偽る凄腕忍者である。
表向き。
普段の底抜けに明るいナルトとは正反対のクールでそつのない性格と所作。
それが本来のナルトであり、素のナルトを知る人間は少ない。


そのナルトが恥も外聞もなく取り乱しているのだから本当に珍事といえよう。
震える指先で胸に仕舞ったブツを取り出し、出来るだけ遠くに投げ捨てる。
直ぐに地へ伏せる。
ブツに危険がないか蛙のように這いつくばって様子を窺う。


「・・・衝撃による危険は無し」

たっぷり十数秒はかけてブツを確かめ、ナルトは胸をなでおろした。

「なにやってんのよ、ナルト」


ゴス。


鈍い音。ほぼ時同じくして頭を抑えるナルト。


「???」

ブツにばかり意識が集中していてまったく気がつかなかったナルトは、脳天の痛みに涙ぐんで背後を振り返った。

「サクラ・・・ちゃん?それからサスケ」

オマケのようにサスケを呼ぶのはちょっとした嫌味だが、サスケも慣れたもので無反応。
サクラは用件を済ませるべくナルトを立たせて詰問を開始する。

「あんなところに封筒なんか投げてなにしてるのよ。『衝撃による危険は無し』だなんてスパイ映画の観すぎ!」


びしぃっ!
効果音がつきそうな勢いで人差し指をナルトへ突きつけるサクラ。


 俺の場合スパイ映画観すぎてなくても警戒しなきゃいけないんだよ。


到底真実は告げられずにナルトは口をへの字に曲げる。

怪しげな郵便物は特定のルートを通ってナルトの元に届く。
九尾の器たるナルトへの危害を最小限に抑える措置だ。
郵便受けに直接投げ入れる事は出来るが特殊な術のかかった郵便受けに、投げ込める郵便物を作り上げられる忍&一般人は今までに一人たりとも居ない。
ナルトを教育し忍としての真価を見出した三代目火影が作り上げたシステムで、表のナルトはそのシステムを知らないことになっている。
最も、ナルト宛に郵便が届くことなど皆無。

今回が初めてなのだからナルトが驚くのも無理はないだろう。


「でもさ、でもさ!俺宛にしては怪しいんだってっ!」

もし危険物だったら?不安になったナルトは二人を追い払おうと考える。
とりあえず怪しまれない程度に不審物だとアピールしてみるが・・・。

「いかにも普通の郵便にしか見えないが?」

にべもなくサスケが切り返し。

「普通の手紙じゃない」

サスケと同意見のサクラ。

挙句、サクラにすればごく当然の行動として封筒に歩み寄り拾い上げ、ナルトが静止する間もなく開封。真っ白の紙が登場。
サクラは何か思い当たる節があるようで印を組む。

「〜!!!!」

ナルトは声にならない悲鳴を上げる。


 サクラちゃんがっ!サクラちゃんがっ!


「なになに?
拝啓、うずまきナルト様。先日行われた中忍選抜試験第三の試験におきましては弟がご迷惑をかけましたことを深くお詫びします。
あれから弟は目に見えて穏やかになり私や直ぐ下の弟ともよく話すようになりました。砂の風影が大蛇丸の凶刃にかかり無念の最期を遂げたことは周知の事実です。
踊らされたとはいえ弟とわたし達が・・・。ってコレってアレよね?」

サクラが意味ありげにサスケを見る。
サスケは呆れた顔でナルトを小突いた。

「ドベが!あの手紙の何処が不審物なんだ。詫び状じゃねーか。俺とサクラのところにも届いたぞ」

「ほえ?」

ナルトが間抜けた相槌を打ちサクラを見れば、サクラがうなずいた。

「いくら忍同士の戦いといっても状況が状況だったしね。ナルトが我愛羅を説教したんでしょう?お姉さんのテマリさんから連名の詫び状が来たの。・・・ナルトに届いたのが遅かっただけよ。わたしの所には二日前」

「俺も二日前だ」

サクラの言葉尻を捕らえサスケも言う。

「・・・なんだ」

魂が抜けきったかと思う安堵感と。
一々動揺して騒いだ自分が馬鹿らしいと思う反面。
心配して跡をつけてきた二人への感謝だとか。
色々感情が交じり合いナルトもリアクションに困る。


「差出人名がないし、ちょっと独特の印を組まなきゃ駄目なのよね。流石に白紙だったからわたしも分からなくてカカシ先生に相談したんだけど」

悪戯が失敗した子供のようにサクラは小さく舌を出した。

「お前だったら一生かかっても気が付かなかっただろう?」


 だからドベなんだよ。


いつもの調子でサスケはナルトに突っかかる。


「ムカッ!俺ってば急成長中!!これくらい分かってたってばよ」

「「本当に?」」

虚勢を張った振りをしてふんぞり返れば、サクラ・サスケが見事にハモって疑問系で問いかけてくる。

「俺は将来火影になるんだ!全然だいじょーぶたってばよ〜!!」

「「・・・それは関係ないと思う」」

またもやハモって二人に手を横に振られてしまう。
明らかにガッカリして落胆するフリをしながらナルトは不思議に思っていた。


 こういう詫び状なら紅先生が天鳴(あまなり・ナルト本宅)へ届けてくれてもいいのに?
 なんでうずまき宅へ届いたんだ??

 



真相。


『我愛羅だっけ?お姉さんが書いた手紙にこんなのつけて』

憤慨するスケスケ青年。

「どれどれ?もう一度戦いたい。今度は正々堂々と・・・?果たし状か?」

首を捻る目つきの悪い少年。

「いや違うな。最初はナルトの強さに惹かれるかもしれんが、勘が鋭い奴だ。本来のナルトに気がつくかもしれない」

淡々と語る丸黒眼鏡の少年。

「一歩間違えば恋文だよ、恋文。憧れが愛情に変わるなんざ、ザラだからね」

結論付けた美人くの一が果たし状(?)を燃やした。


正にこの恋文(?)は闇に葬られ、何故か幻影に魘される砂の下忍少年の姿が砂隠れの里で目撃されたとかされなかったとか。

真相はこの四人しか知らない。

我愛羅はいい味出しますよねvこういう事をしそうだなぁ。と勝手に私が思ってるだけですけど(汗)ブラウザバックプリーズ