七班の場合

 


「カカシ先生〜!!千鳥おせーてよ」


原理だけでもサ。俺としてもウカウカしてるつもりないしね?


子供は無邪気に笑って担当上忍へ強請る。


「お前には相性が悪いと思うけどなぁ。ま、教えるだけならな」

半眼の教師はとぼけた調子で子供の『お願い』を受け入れた。

「やったー!」

万歳して喜ぶ子供。
一見和やかな雰囲気漂う七班。
遠巻きに二人を眺める、黒髪の少年と桃色の髪の少女。
少女は穏やかな顔つきで子供を視界の端にいれ、口を開いた。


「・・・サスケ君、ありがとう・・・。・・・今回もサスケ君が砂の手から助けてくれたんでしょう?」

憧れであり好意の対象である黒髪の少年。
サスケに向けて少女ははにかむ。


「・・・・・イヤ」

少女の思惑とは全く逆の返答。


「え?」

僅かに目を見開いた少女はサスケの険しい顔つきを見る。
目線の先には教師から千鳥を習う同班の子供。
左手に意識を集中させて唸っている。


「お前を助けたのはナルトだよ」

見たままの事実(実はソレも少し捻じ曲げられた事実ではあるが)をサスケは告げた。

「またまた、サスケ君たらぁ〜v謙遜しちゃってェ。確かにナルトも強くなってるけどあの砂のやつ・・・」

「本当の事だ」

少女の言葉を遮ってサスケは断言した。

「アイツはお前を助ける為に死にものぐるいで戦った。今までに見せたこともない力を見せてな」

目の前では頬を膨らませて不細工顔の子供=ナルトが唸る。

「・・・・ッ」

少女の口許が緩み笑みを形作った。
今迄で一番優しい顔をして、ナルトを見る少女。
そんな少女にサスケは気持ちが沈んでいくのを感じた。


 俺は何も出来なかった・・・。
 ナルトは異常なまでにどんどん強くなっていく。
 『落ちこぼれ』呼ばわりされていた忍者学校の頃からみたら・・・信じられないくらいの成長だ。


「ちどりぃぃぃぃ・・・でろ〜」

顔を真っ赤にして力むナルト。
横では呆れた顔の担当上忍がナルトの頭を突く。


 近くでずっと見ていると分かる。
 アイツは・・・何か凄い力を秘めている。時に恐怖すら感じるほどに。


「むぅぅうぅ」

諦め悪いナルトは唸り続ける。



 うずまきナルト。お前は一体何者なんだ。



 そうだね、サスケ。例えるなら俺は幻影。
 一時しか見ることの出来ない蜃気楼。
 在るはずのない存在であり、在り続けなければならない存在。
 いずれは消える存在。



 それが俺。うずまきナルト。



探るようなサスケの視線に気づかない振りをして、ナルトは深呼吸。
呼吸を止めてチャクラを練ろうと意識を集中させていたので、やや酸欠気味。
顔も真っ赤で何度も深呼吸を繰り返す。


「サクラちゃん、サスケ。なにぼんやりしてんだよ」

まったり和んでいるサスケと少女=サクラに声を張り上げる。

何時ものナルト。
五月蝿い位に元気で、明るいうずまきナルトだ。


「失礼よ!ナルトこそ、無駄にチャクラ使うの止めなさいよね」

サクラの手痛い指摘に、ナルトは肩を落とす。


 無駄にチャクラを使うなかぁ。
 う〜ん、千鳥の原理は分かるけど俺向きじゃないよね。
 なんてったって『写輪眼』持ってないから相手の行動を完全に読みきれないし。
 相性の良い『照日(てるひ)』と『禍風(まがつかぜ)』で戦った方が動きやすいしな。


「まあまあ、サクラ。ムキにならない」

「ムキになってません。カカシ先生こそどういうつもりですか?今日は。任務も無いのに召集して」

宥めにかかった上忍に逆に噛み付いて。
サクラは担当上忍=カカシを軽く睨む。
カカシは白々しく笑い手近にいたナルトの髪をグシャグシャに乱した。

「実はなぁ。お前たちにしか出来ない大切な。そう、たぁ〜いせつな極秘任務があってな」

絶対何か裏にあります。
顔に出ているカカシの言葉に、サクラは頬を引きつらせ。
サスケも白い目線を向ける。


 うわ。胡散臭っ!


思ってもナルトが発するのは別の言葉。


「極秘任務!?なに、なに?やっぱ俺がすっげー活躍したから?」

目を輝かせカカシを見上げるナルト。


 気づきなさいよ!ナルトォ!こんなの見え透いた罠に決まってんでしょ!!


内なるサクラを発動させたサクラのチャクラが、黒味を帯びる。


 ドベが。コイツの胡散臭い任務なんか碌なもんじゃない筈だ。


小馬鹿にしつつもナルトを探る姿勢をくずなさないサスケ。
二人の正直な反応にナルトは内心苦笑した。


 そりゃー、俺だって逃げたいけど。今回はこの空気をもう少し味わいたいんだ。
 カカシ先生なんかは確実に俺の実力見抜いてるだろうけど?
 注連縄の呪いのせいか、あんま近づいてこないしな。
 あれ?紅先生の影響もあったっけ?


裏でカカシへ毒電波を送る(呪詛!?)存在に心当たりはある。
ストーカー幽霊注連縄と元ナルトの教師(数年前)紅だ。
しかしナルトに尾尻をつかませない注連縄と紅。
当然カカシだって正直にナルトへは白状しないだろう。

我が身は可愛い筈だ。


「生還記念ピクニックだ」

フニフニナルトの頬を摘み、カカシはサクラとサスケへにっこり笑った。
虚を突かれたサクラは呆然と立ち尽くし、サスケもどう反応を返せばいいのか分からない。
明らかに戸惑った様子でカカシを見る。

「・・・結局中忍試験は中止になったけどな〜。波乱万丈だった襲撃事件も乗り越えてお前達は生還した。先生なりに嬉しく思ってるんだヨ」

どこから取り出したかカカシの手にバスケットが四つ。


サクラ・サスケ・ナルトの顔が同時に青ざめた。


 一寸待ってよ!確かに嬉しいし先生の感動も分かるけど。
 先生の手料理だけは死んでも嫌よ。
 あの味覚から繰り出される料理は人間業じゃない・・・まだ死にたくないわ。


サクラ心裡で十字を切る。


 冗談じゃないぞ。俺は料理には疎いが、アレよりはマシだ。
 アレよりは。
 あの地獄を味わった合同演習の教訓(真夜中の唄を参照)を忘れた訳じゃない。
 絶対に回避しなくては。


真剣に写輪眼を発動しようかサスケ悩む。


 はははは・・・・。マジか?いや、あの顔はマジだな。
 カカシ先生なりに俺達の労を労ってくれるつもりらしいけど。
 ・・・つもりだけに留めておいて欲しい。


流石に冷や汗をかくナルト。
数々の修羅場や絶体絶命の危機を潜り抜けてきたナルトだが、今回ばかりは一人でどうこう出来る状況じゃない。


ちらり。


サクラがナルトを見た。
ナルトは無言で二度程うなずく。
ナルトがサスケに目線を向ければサスケも黙ってうなずいた。


「?どうした?」

元気を失くして俯くナルトに。
唇を震わせて怯えるサクラ。
無表情ながらも冴えない顔色のサスケ。

三人の子供のアイコンタクト。
チームワークの良さはカカシの教育の賜物だが仲間外れにされるのは心外だ。
カカシは訝しげに子供達の頭を見る。


子供達はカカシを無視。三人で輪を作ってヒソヒソ相談を始める。


「やっぱり、アレよね」

緊張した顔でサクラはナルトとサスケを見た。

「俺ってば火影になるまで死ねないってば」

ナルトはさり気にカカシの料理を酷評。

「いや、火影になる〜はともかく。俺だってアレで早死にするつもりはないぞ」

ナルトに同意するサスケの顔には『一族の復興と復讐』の二文字が浮かぶ。
額を付き合わせた子供達は真剣だった。


「あのさ、あのさ。こーゆうのはどう?」


「・・・ナイスよ、ナルト。そうして・・・すれば・・・」


「ああ、サクラが・・・しておけ。俺はナルトと・・・だ」


「よしっ!サスケがそう動いてくれれば・・・ってば?」


「うん。分かったわ。・・・までお願いね、ナルト・サスケ君」


「任せておけ、サクラ」

「りょーかいだってばよ、サクラちゃん」


ヒソヒソ。コソコソ。
子供達は密談終了。一斉にカカシへ向き直り、手を出した。


「カカシ先生の手料理は家に帰って食べます」

サクラが問答無用でカカシの手からバスケットを奪う。


「生還記念ピクニックなら皆で祝うべきだ。違うか?」

続いて自分の分のバスケットを奪取したサスケは唇の端を持ち上げた。


「先生が作った料理は家で食べるから、ピクニックは皆で作った料理を食べるってばよ。皆で作った方が楽しいじゃん」

最後にカカシからバスケットを受け取って、ナルトはニシシシと笑う。


「ん〜。先生一本取られたかな?」

目に見えて。見えなくて成長を続ける子供。
カカシは三人の子供の髪を乱暴に崩し、心底幸せそうに笑った。
初めて受け持った子供達。受け持たされた子供達。


 先生って立場。
 面倒だと思ったこともあったけど、こういうのがあると嬉しい誤算だね。


真っ先に文句を言うサクラ。短い腕を伸ばしカカシへ抵抗するナルト。
さり気に千鳥を発動させようとするサスケ。


じんわりするカカシを他所に。


 た、助かった〜!!!!


同じ気持ちを共有する七班の子供達の姿がありました。

 





その夜。木の葉の里のとある一軒家。

天鳴(あまなり)という表札の下がった、小さな古ぼけた家。居間で。


『これなーに?』

無造作に置かれたバスケットを指差すスケスケ青年。
金髪・碧眼。一見美青年風。

「ああ、カカシ先生の手作り弁当。皆でピクニックに行って余ったから。どうせだったら注連縄が食べなよ。教え子の手作りだし」

お風呂上りの少女はタオルを頭に被ったまま、スケスケ青年・注連縄に教えた。

『へぇ〜カカシ君の手作りねぇ』

興味津々。注連縄はバスケットの蓋を開ける。

「生還記念ピクニックだって。俺達があの波乱の試験を潜り抜けて、無事に生きているのを喜ぶピクニック。カカシ先生意外に素質あるよね、教師としての」

少女は水分を吸って重くなった髪をタオルで拭き取り、言葉を続けた。

『そりゃ〜お兄さんの教え子だからねぇ』

胸を張る注連縄に、「・・・だから驚いてんだよ」と。
少女は呆れた調子で呟いた。

「という訳だから食べてあげれば?」

気のない素振りを装うが少女は真剣。
どんな手段を使ってでも注連縄にカカシ手作り弁当を食べさせようと決めている。

『幽霊に食べろって・・・珍しいね、ナルちゃん』

「じゃ、俺が手作り弁当食べても騒がないのか?」

『騒ぐに決まってるじゃないv』

満面の笑みで反論する注連縄。


 よしっ!


餌が食らいついた感触に少女は内心ほくそ笑み。
あくまでも表向きは冷静を装って気のない相槌を打った。


『カカシ君には悪いけど。この愛情はお兄さんが処分しちゃおう〜』

どうやって食べるつもりか?子細は不明だが注連縄はバスケットの弁当へ手を伸ばす。


 あーあ。


注連縄の口へ消える鳥の唐揚げ。
無言で見守り少女は心の中だけで言った。

 



後日。原因不明の病に倒れたカカシの姿があったとか。なかったとか。

ヒエラルキー話最後。七班の場合。一番がナルト→サクラ→サスケ→カカシです。カカシ先生が最下位なのは注連縄がいるから(笑)良い先生ですよねカカシ先生。七班のチームワーク好きですvブラウザバックプリーズ