親子愛・・・?

 


「あら?」

最初に気がついたのは紅一点。
素っ頓狂な声を上げ、ある人物を指差す。

「おいおい、人を指差すもんじゃないぞ」

咥えタバコがトレードマーク。
担当上忍はあまり咎める口調ではなく、おざなりに少女の行動を諫める。

ポッチャリの子供は一心不乱に善哉に齧り付き無関心。

同じく善哉を食べていた目つきの悪い少年も聞き流そうとして。


失敗した。


「・・・ゲッ」

思わず悲鳴を上げたいのを寸止めして、これだけの声しか漏らさなかったのは非常に幸運と言わざるをえない。


復興進む木の葉の里。第十班の面々は任務の後のお楽しみ。
『担当上忍アスマの奢により一日の労を労ってもらって』いる最中だ。
大概が紅一点と大食漢の主張により甘味処へ通うのが第十班の慣例である。


「知り合いか?」

紅一点=山中 いのの顔を覗きこむアスマ。

「違うわよ」

あっさり否定するいの。

それはそうだ。
いのが過去に一方的に見かけただけで、向こうはいののコトなど知らないのだから。


「二ヶ月くらい前かな〜。もっと前だったっけ。あの八班の油女 シノの彼女の噂がたったのよ。その女の子が、あの子よ」

仲睦まじく(?)父親らしき青年と手を繋いで歩く美少女。
里ではあまり見かけない顔だが里の人間であるには間違いない。
肩までの亜麻色の髪を揺らして軽快に歩いている。

「へぇ〜、なかなか別嬪さんだな」

顎鬚をさすってアスマが感嘆の声を漏らした。

「流石にわたしも参ったって思ったもの!あの子を見た時にね〜。でもシノと付き合ってるみたいだし、くの一みたいでそうじゃないみたいだったから。ま、いっかな?とも思ったのよ」

善哉を掬う木のスプーンを振りかざし、いのが熱弁を振るう。
アスマはニヤニヤ笑って興味深そうにいのを観察していた。


 じょ、冗談じゃねえぞ。


事情を知る少年の背筋を冷たい汗が流れ落ちる。


「ねぇ、シカマルも知ってるわよね?噂」

無邪気に同意を求めるいのの声に、目つきの悪い=シカマル。
今日の運命を悟った。

「噂だけなら」

極力無気力を装うが、そんなこといのの知ったこっちゃ無い。
逆に全く関係ないと表現して差支えは無い。

「あ〜、気になるなぁ。わたし結構同い年のくの一の情報は知っているつもりだったんだけど、あの子は探れなかったのよね。忍じゃないなら探れなくて当然だと結論を下したんだけど」


 探ったんかい!?


口の中の善哉を噴出しそうになってシカマルは堪える。
いののぼやきはシカマルの心臓に悪い。

 心労が祟ってそのうちに倒れるか・・・。

シカマルは頭の片隅で思った。


「いのが知らないなら、普通の女の子なんじゃないの?」

おっとりした口調でチョージがいのへ言う。
仲間になって実感するのはいのの持つ膨大な情報量だ。
ドコから拾ってきた!?と思わせるような(主にサスケ絡みだが)情報まで握っていて、侮れない。


「そーかも。・・・でも気になるのよね」

椅子に座り足をブラつかせ、いのは煮え切らない口調で言う。

「・・・」

いのは善哉を食べる手を止め、真剣な顔つきで親子を観察し出した。
記憶の中に関連のある情報がないか確かめ出したのだ。

「やっぱり隠密行動だけじゃ駄目って場合もあるよね」

席を立って駆け出すいの。

「あーあ」

善哉片手に追いかけるチョージ。
シカマルは真っ青になって二人の後を追う。

「揉めたら問題だしなぁ」

アスマに至っては緊張感の欠片も無い。
一応の責任者として三人の子供の後を追った。



「ちょっとまって!」

行く手を塞ぐ形で立ちはだかるいのに、手を繋いだ仲良し親子は立ち止まった。

「シノの恋人!」

いのは美少女を指差して大きな声で言う。
いのの言葉に父親らしき人は顔を引きつらせ、美少女は不思議そうにいのを見た。

「あの・・・?」


コクリ。

おっとりした動作で小首を傾げる美少女に、いのは奇妙な敗北感を感じる。


 うわ〜!この子、目茶目茶可愛いじゃないのっ!!


悔しさ半分・羨望半分。
といった所だろう。


「わたし、油女 シノ君と同じ学年だったの。シノ君とは・・・つまり、クラスメートよ、クラスメート!」

弁解がましく口早に説明するのは、やましい気持ちが混じっているから。
いのは好奇心に負けて親子に声をかけた事を少しだけ『悪いな』と感じた。

自分だってやたらと彼氏の事を無断で調べられたら腹が立つかも知れない。
相手は油女蟲使い。
反撃が・・・怖い。


 いざとなったら儘よ!ガッツよ!わたし。


「シノのクラスメート?」

顔を真っ赤にして緊張しているいのを訝しく思いつつも、美少女は演技を続ける。

「そう」

いのは何度も首を縦に振った。

『そっか〜、シノ君のクラスメートさんかぁ』

微妙に怖い雰囲気を醸しだす父親(?)。
ニコニコ笑っているが何かに怒っているようで、瞳は全く笑っていない。
いのの運命を思いシカマルは天を仰ぎ神に祈った。

「えっと親子ですよね?兄弟とかには・・・見えないし」

手を繋いだ二人にいのが問いかける。
とたんに上昇する父親(?)の機嫌。
怖い雰囲気は四散。代わってピンクのチャクラ全開で頬を染めて照れ出す。

『やっぱり分かっちゃう?今までちょっとした事情で一緒に暮らせなかったんだけどね。やっと一緒に暮らせるようになって。今日は家の備品の買出しなんだv』


 いの、ナイスだ。きっと無自覚で聞いたんだろうけど。


心の中で滝の涙を流して己の安全に安堵するシカマル。
美少女は父親(?)の馴れ馴れしい講釈に青筋を立てて立腹しているようだが顔には出さない。


「分かりますよ。物凄くそっくりですし、顔立ちも似てるから」

花屋の店番経験を生かした世間話は、いのの十八番。
父親(?)は完全にいののペースに乗せられる。
さり気に相手の喜ぶツボを押す話術にアスマとチョージは苦笑。

『そう言って貰えると凄く嬉しいなv僕、この子に父親らしいこと出来なかったから』

珍しいことに父親(?)は素の表情で。
本当に父親らしい笑みを浮かべて自然に喋っていた。

シカマル・美少女共に動揺するも沈黙。
薮蛇にならぬようツッコミは却下する。


「それじゃ、今まで母子家庭だったの?」

会話の矛先が美少女へ移る。

いのの疑問は至極当然。
こんなに愛くるしい美少女が一人暮らしなら危険もあるだろう。
誰かしら保護者がいるはずで、通常なら母親が保護者であるはずなのだ。


「ええ・・・まあ・・・・」

曖昧に笑って言葉を濁す美少女。
笑顔が引きつってしまうのは仕方ない。
彼女は母親の顔を知らないのだから答えようが無いのだ。

『この間の襲撃事件で命を落としてね・・・元々病弱だったから、うちの奥さん』


 捏造だろ!いけしゃーしゃーだ、お前!


ふっと表情を曇らせた父親(?)の嘘臭い演技。
見抜けるのはシカマルと美少女だけで、真に受けたいのは少し困った顔になる。

「あ、ごめんなさい・・・そんなつもりじゃなかったんですけど」

『いや、良いんだよ。別に』

儚く笑う父親(?)にシカマルが眉間の皺を深くする。
美少女は咄嗟に俯いて怒りの表情を上手く隠した。

『こうして最愛の忘れ形見とも再開できたしv僕としては万々歳かな〜?後は邪魔者を蹴散らして娘と二人だけの静かな生活を送りたいんだ。そうだよね?』

「・・・・・そ、そうね。お父様」

間があってから美少女が父親(?)に応じる。

「おしとやかだね。お嬢様なのかな?」

「俺が知るかよ」

チョージの感想をサクサク打ち切るシカマルは、気が気じゃない。
綱渡りしながら敵と戦っているよりも。
今の状況の方が遥かに危険なことを知っていた。


 俺は無事に夕日を拝みたい。
 神様・仏様・・・えっと?なんでもいいや。
 三代目火影様、草葉の影に居るならこの状況を打破してくれっ。


「親子愛ですね」

いのは、美少女の変化に気がつかないのか気づいているのか。
尚も会話を続行する。

第十班。
いのが天下を握り。
起爆剤となっているのかも知れない。


『いや〜、照れるな♪』

ごくありきたりの感想だが、父親(?)にとっては嬉しいらしい。

フニャ。

と溶けそうな幸せ笑顔で口許を緩ませる。


『恥ずかしいね』

「面と向かって親子愛なんて言われると。恥ずかしいですわvねぇ?お と う さ ま っ!」


 グリグリグリ。


美少女はにこやかに微笑みながらも、踵で父親(?)の足の甲をぐりぐり踏みつけている。
父親(?)涙目になりつつも負い目があるのか耐えていた。


 やっぱり。突然再会した父親と暮らして間もない心境は複雑よね。


同じ女の子と会っていのは感慨深くうなずく。


 反抗期か?・・・年頃は難しいからな。


いのの頭のお団子を見て他人事のアスマ。


 細いし。風が吹いたら飛んでっちゃいそうだ。


チョージ、一人で基準作って。


 怒ってるけど対象がおっさんなら里は平和だな。


欠伸交じりにシカマルは思う。


四者四様。
対応バラバラ考えバラバラだが、それなりに美少女の本音に近い答えを導き出している。


「これからも任務、頑張ってくださいねv」

優雅に白魚のような白い手を振る美少女。

「あ、ありがと・・・」

美少女の仕草に圧倒され、いのはどもりながら礼を言う。
あっという間に雑踏に消える親子連れ。
商店街へ向かう道なので人通りも多くなっている。


「・・・行っちゃったね〜」

呑気にチョージが呟き、残りの善哉を平らげた。

「ハァ」


 た、助かったっ!流石に俺も今回ばかりはヤバかったぜ。


額に脂汗を掻くシカマルに、いのは変な顔をしてブツブツ言っていたが徐に叫んだ。


「あ――――!!シノの恋人かって噂の確証も取れなかったし、住んでる場所だって、素性だって、名前だって聞いてないじゃないっ!わたし!!!」

驚愕した顔で絶叫するいの。声の大きさと高さに。

「「「・・・」」」

耳を押さえて互いに顔を見合わせる迷惑顔の男共。

「もぉ〜、わたしの馬鹿〜!!!」

何も聞き出せなかっただなんて引止め損だ。
寧ろ、マズイ。非常にマズイ。
蟲使いに知れたら只じゃ済まない様な気がする。


いのは後悔の嵐。
絶望に打ちひしがれたいのを慰める術もなく、男達は困惑した。

 



「二度とゴメンだから。俺は見世物じゃないし、ああやって知り合いと遭遇しないとも限らないからな」

美少女はいののお節介に感謝しつつ、父親(?)へ宣告した。

『ええ〜。良いじゃない〜?髪の色とか変えるだけでバレないんだから〜』

「不採用v」

父親(?)がごねるのを笑顔で封じ、美少女は勝利を収める。


 いのに感謝。だな。


 地雷を踏んだいのだったが、蟲に襲われる事無く平穏無事だったのは書くまでもない。

十班におけるヒエラルキー話(笑)いの大好きv自分に正直なくせに変に遠慮するところとか。サクラちゃんともどもどんどん成長していって欲しいものです。後は踵で密かに攻撃するナルコが書きたかったのですっごく自己満足(おい)です。ブラウザバックプリーズ