種類の異なる友へ 後編


影分身で螺旋丸作りなんてちゃちな真似はしない。
何よりサスケに対して失礼だ。

ナルトは右手に螺旋丸を作り上げる。
サスケも静かに左手にチャクラを集め始めた。

「……」
愉快そうに口元に弧を描くナルトが後方にジャンプし、螺旋丸を維持したまま滝つぼへと頭から落下していく。
滝つぼの下、湖になっている部分へ落ちながら目線だけでサスケを挑発した。
降りて来い、と。

「フン」
千鳥独特のチャクラ音を響かせつつ、サスケはナルトの『安い挑発』に乗ってやる事にした。

現在の最大限の威力を持った千鳥を発生させ、足裏に集めたチャクラを持って滝を滑降する。
片やナルトは器用に滝下の湖に激突する前に、身体を丸め足から湖に着地。
助走もなしに水面を蹴り、サスケの予想した速度を越えサスケの携える左手の千鳥目掛けて螺旋丸を繰り出す。

ぶつかり合う螺旋丸と千鳥。

「呪印がなくてもその程度は強かったのか」
螺旋丸と千鳥が放出するチャクラエネルギーは周囲を白く青く染める。
千鳥のチャクラに頬を切られた状態なのに、ナルトは場違いな発言をかました。
サスケというと、フルパワーの千鳥を螺旋丸で受け止められ眉間に皺を寄せる。

「悪かったサスケ。俺はお前を甘く見すぎていたのかもしれない」
澄ましたナルトが言った瞬間、ナルトの左手に新たな螺旋丸が出現した。
現在衝突している螺旋丸とは比較できない高密度の螺旋丸である。

サスケは瞬きする間もなく、ナルトがもう一つの螺旋丸を拮抗しあう千鳥にぶつけるさまを見た。

 ドバッ。

圧倒的な回転力とチャクラ密度の反発で螺旋丸・千鳥の威力は相殺。
寧ろ、ナルトが放った第二発目の螺旋丸の威力によってサスケは滝つぼ側へ弾き飛ばされる。
ナルトも多少の衝撃を受けて湖の中に沈む。

「お前どれだけ隠してるんだ」
全身が水を吸って体が少々重く感じる。
肩で息をしてサスケは皮肉も何も込めず、日常会話の延長といった風でナルトに尋ねる。

一体『うずまき ナルト』なるドベは何処までその実力を隠して道化を演じてきたのか?
果たして自分は彼の実力を理解しているのか?

友であるが故に抜け忍を許容し、本来の力を以て対峙すると宣言した友(ナルト)。
彼の気持ちを真っ向から受けて立ちたい。
サスケ自身にとってもナルトは『仮初の友』から『かけがえのない仲間』へ変化していたのだから。

当のナルトといえば、湖に浮かび上がったまま、顔だけをサスケの方へ向け不敵に笑っていた。
「かなり」
「チッ」
加えるなら本来のナルトはどうやら意地が悪いらしい。
否、かなりの捻くれ者だろう。

明らかにサスケと真剣に殺り合う状況を愉しんでいる顔で声音で、平然とのたまう。
自然とサスケは舌打ちした。

「伊達にドベはやってなかったってワケだ。残念だな、サスケ」
感情を務めて抑えたナルトの言葉の端に喜びが滲む。
サスケと真の意味で対峙している己のこの状態を幸せだと思える。
唯の自己満足だと理解していても。

「なら俺も本気でいかせて貰うぜ、ナルト」
サスケはポケットに手を入れ、無造作に突っ込んであった己の額当てを取り出した。
自然な動作でサスケは額当てを額に巻く。

常に発動を続けていたサスケの写輪眼の文様が僅かに変化した。
ナルトは注意深くサスケへ軽く回し蹴りを放つ。
空気を裂く音がする。
ナルトの見た目に反して威力の重い蹴りはサスケによってかわされた。

 サスケが呪印の力で写輪眼を変化させたのか。

ナルトは尚も軽くサスケへ蹴りを入れたり拳を突き出したり。
体術をメインにサスケの瞳の状態を測るように戦う。

サスケは何かを掴んだかのようにナルトの攻撃を紙一重で避けていく。
そして数分もしないうちに立場が逆転した。

「うわっ」
サスケに突き出した拳が避けられ逆に腹に重い一発が打ち込まれる。
避けきれずナルトは吹っ飛んだ。

重力の法則に従って逆様に滝つぼへ落下していく。

音の四人衆が発揮した呪印による身体・能力強化も考慮し、事態を冷静に受け止めナルトは滝つぼから頭を出す。
サスケは崖の中腹辺りで垂直に立ってこちらの出方を窺っている。

負けてやるつもりなんかない。
この段階で殺してやるつもりもない。
ナルトは水中で印を組み、それを出現させた。

「なっ!?」
湖から出現する巨大な水の龍。思わずサスケは叫びかけた。

龍が出現する術は見覚えがある。
水の国の任務の時、再不斬という抜け忍が使った『水遁・水龍弾』という術だ。
咄嗟にサスケは術者であるナルトに火遁・豪火球の術を放つ。
しかし、豪火球の直撃を受けたナルトの身体は蒸発した。
水のように。

水分身……。

内心だけでナルトの戦術に感嘆し、サスケは水分身の背後に立っていた本体を睨み付ける。
どのタイミングで入れ替わったのかさえサスケの写輪眼で見抜くことは叶わなかった。

「水中で印を組まないと写輪眼でコピーされるだろ? といっても、今のサスケのチャクラ量じゃ成立しない術だ。俺を体術だけの特攻馬鹿だと思うなよ? いくぞ」
ナルトの蒼い瞳が細まった。

龍は咆哮しサスケ目掛けて口を開く。
サスケは冷や汗をかきながら龍の口撃を避け、真横に飛ぶ。
真横に飛んだ瞬間、サスケは待ち構えていたナルトに背後から回し蹴りをくらい、今度は自分が滝つぼへと落下する。
落下しかける自分に容赦なく降り注ぐのはクナイ。
しかもご丁寧に薬が仕込んであると思われる。
身を捩ってクナイを避け、湖面に直撃する寸前に龍の口内に捉えられた。

「早く抜け出さないと息が出来なくなるぞ、サスケ」
龍の形が球形上になり、その上にナルトの手が添えられている。
写輪眼でそれを確認したサスケは顔を歪めた。

桁違いの強さだ。
けれど負ける積もりは無い。

何故なら。

サスケは身体を侵食する呪印の感触に奥歯を噛み締め、ソレを現した。

「成る程ね」
ナルトはサスケの変貌をその一言で片付ける。

禍々しい黒いチャクラがサスケの身体を覆い皮膚が黒く変色していく。
白目だった部分間で黒く変色し、艶やかな黒い髪は白髪へ変化していた。
ゴポゴポとサスケを拘束する水牢の水分が蒸発し、水蒸気が天高く上っていく。

うちは一族が得意とする火遁の術をサスケが水の中で放ったのだろう。
ナルトはあっさりと水牢の術を解いた。

「……負ける気がしねぇ」
水蒸気の向こう側、高揚したサスケの声がする。
サァアアと風が湖面を吹きぬけ、背中に羽モドキを生やしたサスケが立っていた。

 ……呪印2。
 呪印の侵食速度が速まるアレを、長時間保たせるわけにはいかないな。

ナルトは遊びすぎた自分を戒め、サスケを早々に沈めることに決める。

「あーあー、ハイハイ。大口は俺に勝ってから叩けよ」
軽口で応じるナルトの瞳が不意に赤く染まった。

千鳥を発動させながらサスケは訝しみ、唐突に理解する。
ナルトを覆い包む自分のものとは違う禍々しいチャクラ。
何かを封印していると言ったナルト。
自分も、うちはの血も『特別』だが、何かを封印していて正気を保っているナルトも『特別』なのだと。

勝負はあっけなかった。
三度目になる螺旋丸と千鳥の激突。
衝撃は滝を揺らし、湖を震わせ湖周囲の木々を風圧で薙ぎ倒す。
弾き飛ばされたサスケは背を崖に強く打ちつけ、更に身体を侵食する呪印の圧力に口から血を吐き出した。

「!? っ」
ナルトの顔色が変わる。

 たった数分の発動でこれだけ身体に負担がかかるのか。
 成長期でもある俺達世代の身体には重い負担になるだけか……。

それからのナルトの行動は素早かった。
逆に呪印を開放させ過ぎた事を悔やんだ様な顔でサスケに近づく。

湖近くの岩場にサスケを移動させ、手早く印を組み、サスケの呪印状態を解かせ(原理は分らないがサスケはそう理解した)る。
通常の姿に戻ったサスケの左肩、首近くの呪印辺りに手を翳す。

「……せめてもの情けだ。受け取っておけ」
ナルトは吐血したサスケに狼狽える事無く、彼に掌仙術を施す。
無理矢理呪印の力を引き出したサスケの身体に負担は大きかったのだろう。
幾ら本気で相手をするからといってもサスケの寿命を削る積もりはなかったナルトだ。
己の読みの甘さに少し腹を立てる。

「ナルト」
サスケといえば呆れきった顔でナルトを見上げた。

お人好しにも程があるというか。
逆説的に考えて『それだけ』ナルトが強いのだと納得すれば良いのか。
サスケは考えあぐねる。

「サスケ、お前は俺が認めた友だ。呪印が原因で病死なんかしてみろ。思いっきり嘲笑うからな。それから無駄なトコで無様に死ぬ真似だけはしないでくれよ?」
面倒だからな? 敵討ちとか、敵討ちとか、敵討ちとか。
付け加えてナルトは表情を消し、サスケに手を差し出した。

サスケは無言で木の葉マークに真一文字が刻まれた自身の額当てをナルトへ差し出す。

「「……」」
ナルトは黙ってサスケの額当てを受け取る。
もう互いに言葉は要らなかった。



そこへ第三者の声が乱入してくるまでは。

「うずまき!!!」
言わずと知れた暗部スタイルのシカマルである。
妙に清々しい雰囲気を発しているナルトとサスケに、嫌な予感がしてならない。

「あ、間に合った。カカシより早かったな」
身構えたサスケに必要ないと小声で告げ、ナルトはシカマルに声をかけた。
その間にシカマルはナルトの背後に立つ。
ナルトはシカマルを振り返らなかった。

「うずまき、お前何を」
「サスケの見送り」
シカマルの問いにナルトは答える。
至ってシンプル且つ分りやすく己の行動理由をナルトは明らかにした。

尤も、滝の両側の崖は一部壊れているわ、像も心なしか損傷してしまっていたりするのは。
シカマルの目の錯覚ではない。

「……」
シカマルは絶句した。

「何が正しくて何が間違っているかは、誰にも決められやしない。俺やサスケやサクラちゃんにも。伝説の三忍にも。三代目火影にも。……四代目火影にも。皆、誰かの意見や考えに迎合するフリをして本当は自分が一番正しいんだと思ってる」
無意識にナルトは手にしたサスケの額当てを強く握り締める。

「けどそんなモンは傲慢だ。……進む道が闇だからといって必ずサスケが不幸になるわけじゃない。里に残る俺が幸せになるとも限らない」
訥々と喋るナルトの考えは正しく正論だ。
ただ正論ばかりをふりかざせば良い訳でもない。
シカマルは口の中に渋いものが広がった気がして、無理矢理唾を飲み込んだ。

「俺達は自由であるべきだ。木の葉の里の忍である前に」
ここまで喋ったナルトの台詞を聞き、サスケは無言で踵を返した。

本来の目的の音の里へ向かうのだろう。
シカマルは手をサスケに伸ばしかけ、伸ばしきれず。
宙を手で掴み、肩を落とし項垂れる。

「……何も知らない下忍達を半殺しの目に合わせてまでか? そんなに」
サスケが大事なのか? 仲間以外だったら見殺しに出来るのか? 
シカマルは言いかけ言葉を呑み込む。

ナルトが振り返り、全てを理解した顔つきでシカマルを見詰め返したから。

「俺は俺。俺の考え方でしか生きられないし、誰かにはなれない。独善的だと罵ればいい。権利はそっちにあると思う」
ナルトはシカマルの問いを否定しなかった。

サスケは闇に消え、シカマルは何も言えず彼を見送り、ナルトを罵倒する事ができなかった。

雨が降り始め、冷たい雨粒がやけに体に沁み込む気がしてシカマルは顔を顰めた。


 対サスケ戦終了。
 シカマル到着するも、シカマル自身、迷いがあって、ナルコをとめられず(苦笑)
 サスケも止められず、音の里へと旅立って行きました
 ナルコは真正面から罵倒されても耐えるつもり。
 自由であることの責を負う事が、どれだけ重いか。を、うちのナルコは知っているのです。
 ブラウザバックプリーズ