里勢調査


個別に呼び出された面々は巻物片手に困惑顔。
ウキウキ顔の五代目火影を盗み見る。
(この非常時に里勢調査!? なんとかと天才は紙一重って言うけどな)
無表情ながら静かに真正面のシノへ話しかける、ナルト。
(里勢調査か……今回は忍を中心に行われるようだ。内容が五代目火影に対する印象と、今後の里についてとは。実質、己の知名度の高さ等を図る目的と考えるが?)
指令書の書かれた巻物を手にシノが応じる。
(そりゃ、何年も里を離れていたんですもの。気になるんじゃ……ないかしら?)
少し首を捻りつつも、シノの隣に立つ紅がフォローを入れた。
ナルト・シノ・紅は互いに顔を見合わせ沈黙。
とても嬉しそうな綱手を他所に仕事モード。
完璧なポーカーフェイスで感情を隠す。
「こんな時期に、とは思うがこれも里の忍の心理状態を把握する為だ。しっかり頼むよ。
一先ずお前達は17・8位の中忍という事で変化して貰う。他の上忍や中忍・下忍・アカデミー生等から出来うる限りの回答を集めてくれ」
そのウキウキチャクラさえなければ。
ナルト達だって、綱手の里復興にかける意気込みに内心だけで拍手を送っただろう。
何を想像しているのかクフクフ含み笑いを飛ばす綱手姫に一礼してナルト達は揃って肩を落とした。




任務開始。
綱手の指示通り17・8歳位に変化。
ナルトは髪と瞳を亜麻色に。
紅は金色髪に緑瞳。
シノは髪・瞳共に灰色に。
色も変えて人生色々へ向かった。

(こうして見ると人生色々も新鮮に見える)
入り口で立ち止まって感慨深そうに声無く呟く紅。
(センセー、立ち止まってる場合じゃないって)
ナルトが入り口を塞ぐ紅の背中を押し、その二人の後を大人しくシノが付いて行く。
ほとんどが任務に狩り出されている人生色々は閑散としていた。

そんな中で一際目立つ、濃い人。
ナルト・シノ・紅は見なかったことにしようと踵を返したが、当人により阻止された。
「見かけない顔だな! どうしたんだ?」

 キラーン。

歯が光る、目から輝きがもれる。
どうやったらあそこまで『純度』が高くなるのか不思議なくらい、彼(か)の人物が醸し出す雰囲気は濃厚だ。
ガイの濃さに三人は咄嗟に目線を逸らした。
「里勢調査を行うことになりまして。手始めに忍からと、五代目より指示を仰ぎました」
意を決して紅が口を開く。
綱手に持たされた任務記載の巻物をナルトがガイへ見せた。
「ふむ」
顎に手を当ててガイは思案顔。
任務には今回の質問事項も乗っていて、それを黙読した上でのガイのだんまりである。
「綱手様の印象か……リーの事さえなければ言うことなしだ。とても素晴らしい人だと思う。
今後の里? もう少し熱血漢が増えると愉快だと思うぞ。青春を熱く過ごし里の結束力を高めたらどうだ?」
ガイが言った言葉をそのままシノが白紙の巻物へ記す。
一通り記し終えたシノが「有難う御座いました」と礼を述べて頭を下げる。
「いや、役に立てて何よりだ☆」

 キラーン。

しつこくまた光る。
矢張り三人はそっと目線をズラして、それを見なかったことして。
ぼんやり雲を眺めているシカ父の元へ、早々に避難した。

「おう、ご苦労だな」
ガイとの遣り取りを聞いていたシカ父が気だるげに手を上げる。
紅とナルトは微苦笑して、シノは無表情。
「俺も時間がねぇからな、なになに?」
座った椅子から上半身だけを乗り出してシカ父が文面を眺める。
「そうだな……火影としては文句なしの人だと思うぜ。今後の里? 若い面子がなんとかするんじゃねーか?」
簡潔に意見を述べたシカ父。
ガイの時と同じようにシノが認めて意見収集終了。
この場には他に上忍がいなかったので中忍を探しがてら。
ナルト達は人生色々を後にした。



里の商店街へ向かおうかと歩いていると、商店街中からテンテン&ネジが。
修行帰りのようで仲良く揃って歩いている。
「すみませーん」
ナルトが手を振ってテンテンとネジを呼び止める。
テンテンとネジは中忍姿のナルト達を見て首を捻ったが、紅が事情を話すと真剣な面持ちで考え出す。
「そうですね……。綱手様は私にとっては憧れです! 将来、綱手様のような忍になりたくって頑張ってるんで、火影に就任されたって聞いたときはすっごく嬉しかったですv
今後の里? 早く、何時もの生活が戻ってくると嬉しいかな」
はにかみ答えるテンテンに、ナルトは同情の視線をネジへ送った。

(賭け事スキーで馬鹿力で思い込み激しいんだぞ、五代目は。テンテン、アンタは目標を激しく間違えている)
思わずナルトが紅とシノに愚痴を零して、紅・シノから失笑を貰う。
片や、ナルトに哀れみの目線を貰ったネジは怪訝そうな顔をした。
「俺か? 興味ないな。相応しい者が火影になったのならそれでいい。今後の里は火影を中心に復興していくだろう」
妙にさっぱりしたネジの意見に、テンテンが「面白くない〜」等と不満を漏らすが個人の意見は意見なので。
シノが巻物に書き、ナルト達はテンテン&ネジを開放する。

「うーん、里に居るのは誰だっけ」
里外任務に行った忍には、受付でアンケートが配られる事となっている。
ナルトが里に居るであろう忍達を考え商店街を歩いていると。
散歩帰りのヒナタとキバと影分身のシノに会った。

今度は紅が引き止めて三人へアンケート。
「え、えっと……その……とても、素敵な人だって聞いています。里? これからもっと皆で仲良くなれば……いいかなぁ、って」
緊張に顔を赤らめるヒナタがゆっくり喋る。
隣ではキバと赤丸が順番を待ちきれない様子で興奮気味。
シノの影分身は本人(シノ)を前に苦笑。
「俺はな! 一度戦ってみてーぜ! なんてったって、伝説の三忍だぜ!? ワクワクするじゃねーかっ!
これから? まぁ、なるようにしかならないだろ。俺にだって分からねーよ」
キバが一気に捲くし立てて赤丸が「ワン」と鳴く。
久しぶりに見かけたヒナタとキバ・赤丸が想像以上に元気だったので、ナルトは無意識で笑みを浮かべ。
更にそのナルトを見た紅とシノが相好を崩す。
最後に寡黙なシノの影分身から当たり障りのない返事を貰い。ナルト達はヒナタ達と別れた。


次は商店街を抜けて公園へ。
アカデミーが休校なので、公園で遊ぶ木の葉丸チビ軍団を捕まえる。
「綱手のバアちゃんもヒマだな、コレ」
呆れた調子で木の葉丸が腕組みして、木の葉丸の友達。
ウドンとモエギがじーっとナルト達を見詰める。
教師達とは違った本物の忍に興味津々という視線。
一身に浴びるナルト達は少々居心地が悪かった。
「六代目火影を目指す立場としては、まずライバル宣言だ!
第一段階としてナルトのにーちゃんを倒し! 次に綱手のバアちゃんを倒す! そして晴れて六代目だ!!」

 えっへん。

胸を張った木の葉丸に、ウドンとモエギが両隣で拍手。
燃える木の葉丸に三人は引きながらも、この少年の気持ちが明るくなった事に安堵した。

(身柄は綱手様が引き取ることになったらしいから、こういう発言なんでしょう)
演説を始めた木の葉丸を他所に紅がナルトとシノに事情を説明する。
(だがナルト、木の葉丸はお前を倒すといっている。中々頼もしい)
緩やかに口角を持ち上げ揶揄するシノに、ナルトは複雑な顔になる。
(表の俺を目標にしてくれるのは、そりゃ、嬉しいけどな。正体がバレた時、一番怒られそうだよ。木の葉丸には、さ)
渋い表情でシノと紅にボヤいたナルトに、シノと紅、堪えきれずに大爆笑。突如笑い出した中忍二人に、きょとんとした目をする木の葉丸。

「ア、アンケート協力有難う」
引き攣った微笑を浮かべ、笑い覚めやらぬシノと紅を引きずって去っていくナルト。
「まだ答えてないのに」
「ねぇ」
足早に去っていくナルト達の背中を見送り、寂しそうにウドンとモエギが呟いた。

顔を真っ赤にさせたナルトが肩を怒らせて歩く。
途中任務に向かう特別上忍連中を捕まえ、アンコ・イビキ・ゲンマ・アオバ等から回答を回収。
イビキとゲンマから不審気に観察されながら、依頼書は本物なので任務を遂行。
自分が見た綱手姫と周囲の見る火影サマのギャップに、時には笑い時には呆れ。

 てか、こんなの今調べても無駄のような……。

ちょっぴり綱手の行動に疑問を抱きながらも。
火影に就任した彼女のことだから、きっと深い考えがあるんだろう。
等と考え直してアンケートを続行。

中忍試験管ズの、イズモ・コテツ・イワシ・トンボを捕らえ回答を回収。
道すがら同じく中忍のオウケイ・ハヤセからも回収。

「とりあえずこんなモンじゃないのか? 里外任務は通常通りだし、忍の出入りも激しい。
上忍は最低人数以外は里外任務だからね……中忍もこれ以上居るとは思えないし」
回答者人数を数え上げて紅がナルトに提案する。
「今現在で大丈夫だろう。そもそも今日一日で聞いて回るのが無理なんだよ」
首を大きく回しながらナルトがため息混じりに応じた。
「後は下忍か?」
同期ではヒナタとキバにしか聞いていない。律儀にシノが確認の問いかけを放つ。
「一旦火影様のところへ戻って確認しましょう」
忍を歩いて探していたら時間もかなり経った。
夜、アンケートと称して忍を探すのも骨が折れるし不毛だ。
暗闇の中、敵だと勘違いされて攻撃されてはかなわない。

茜色に染まり始める西の雲の端。
指差す紅にナルトとシノはうなずき、瞬時に姿を消した。





火影邸。
火影の執務室へ足を運べば、生真面目な瞳で書類をチェックする綱手に。その綱手にお茶を持ってきたシズネが居た。
「皆さんお揃いでどうされたんですか?」
ナルトに気づいたシズネが首を傾げる。
シズネの問いにナルトは答えず、軽く目礼する。
「火影様、戻りました」
背筋を正してナルトが声を出せば綱手は書類から目を上げる。
「ご苦労」
なんだか嬉しそうに言う綱手にシズネは益々不思議顔。
綱手とナルトの顔を交互に眺めて頭に沢山の? マークを飛ばす。
「回答はこちらになります」
シノが巻物を差し出せば、任務に赴く時にみせたウキウキチャクラを飛ばし、綱手は巻物を開く。
鼻歌まで飛び出しそうな上機嫌。
処理していた書類・巻物途中のまま。

熱心に綱手はナルト達の報告書を読み耽った。

「……」
瞬きもしない綱手と、綱手の解散の言葉が貰えずに解散できないナルト達と。
ワケが分らず気になって執務室に留まるシズネ。

「……」
上機嫌から機嫌は急降下。眉間に皺が寄りだし綱手の顔が険しくなる。

(? なんで不機嫌なワケ?)
誰も彼も綱手を頼もしく思い火影就任を歓迎しているのに。何故こんなに機嫌を悪くするのだろうか。
困惑するナルトと。
(さあ……なんでだろうね)
同じく戸惑う紅。
回収可能だった回答を読んだ綱手は口をへの字に曲げた。

「なんで、なんで私の美貌が話題に上らないんだ!」
心底悔しそうに呟かれた一言に、執務室の空気が凍る。 「シズネ、どう思う? 酷いじゃないか! こんなに綺麗な私が火影になったというのに、頼もしいだなんて!!!
守ってやろうとか美しいとか。そう言う男がいてもいいじゃないか〜!!!」
悶える綱手に、綱手の言葉を聞いた瞬間に姿を消したナルトとシノ。
自分も帰りたかったがタイミングを逸した紅と、コメントしようがなく目を左右に泳がせるシズネ。

「私が居ない数十年の間に里はどうなったんだい!」

 がこっ。

綱手の八つ当たりの矛先は、たまたまやって来た自来也に炸裂。
書類に埋もれた綱手の陣中見舞いにやって来た自来也、見事にお星様になった。




「あんなんが火影でいいのかよ」
「分らん」
ナルトから事情を聞いて、俺は中忍を出来るだろうか。
本気で悩むシカマルと。
女心は複雑怪奇だと認識を新たにするシノの姿が翌日見受けられたのだった。


「んな非常時にアンケートとるから、そういう答えしか出ないんだろう?」
とは、ナルトの弁である。



 少しほのぼの感が出てれば幸いです。ブラウザバックプリーズ