空回り? 交差?

綱手姫一行ついに木の葉入り。

 まぁ、非常時だしな。こんなもんだろ。
 一人悦に入ってるのがちょっとアレだけどな。

閑散とした火影岩下、テラス。
手すりから身を乗り出した綱手は、吹き上げる風に神を揺らし満足そうに。
満更でもない表情でキメている。

そんな綱手をみたナルトの感想が↑である。

「木の葉も随分と様変わりしたね」
冷たく綱手を見守るナルトを他所に綱手は一人で郷愁の念で胸一杯。
愛(いとお)しむ様にじっくりと里を眺めた。
「今日から私がこの里を治める。五代目火影だ」
背後のご意見番を意識してだろう。
きまった!! 内心綱手はそう思っているに違いない。
ナルトは密かに欠伸を漏らした。

 御託はいいから。俺は早く家に帰って寝たいんだよ。
 疲れたし。

なんだかんだいって。
一筋縄ではいかなかった綱手への説得(罠)
ナルトとしては当座の里の安全が確保されて一安心。
今日ばかりは本当の家でゆっくり休みたい。

しかしながらナルトの願いとは裏腹に里の上層部は揃いも揃って。

 暇人?

ナルトが首を捻りたくなる位の自分時間を刻んでいる。

「よくあやつを説得できたな」
綱手の様子を見守っていたホムラがやや感心した調子で自来也へ言う。
「なに! 男前のわしが一言言えばイチコロだのォ! ギャハハハハ……」
白々しくも言い切って馬鹿笑いをかます自来也に。
ナルトはドベ演技のまま、白い目線をきっちり自来也へ送る。

 毒盛られてイチコロになってりゃー良かったんだよ! この阿呆。

矢張りいつかはコレの弟子であった過去を葬ろう。
例え弟子の期間が一時期であったとしても。
ナルトは硬く決意した。

「……では早急に大名を呼び、五代目火影の就任祝いをしなくてはな。ゲンマ、アオバ。里の者々にもこの事を」
コハルが最後をしめて、控えていた特別上忍ズへ指示を出す。


 ……?

 なにか忘れている。はて?

ナルトは瞬間真剣な顔つきで思案した。

 !!! ヤッバ!


「「は!」」
コハルの指示を受け承諾の意を示すゲンマ&アオバ。

「ちょい待ち!! それより先に綱手のバアちゃんは、やることがあるってばよ!!」
滑り込みでドベ演技成功。

 ヤッベー。今本当に真剣に。
 カカシ先生とサスケの存在忘れてた!!
 家に帰れるって浮かれてたのかもな……俺、ちょっとホームシック??

ドベ演技中なので顔に出さないが、ナルトショック。
本来のナルトもそうして欲しいと綱手に頼んだ治療。
声を張り上げるナルトに会得顔で綱手は髪をかき上げる。

「自来也……誰だったっけ?」
「帰り途中に言ったろ! カカシの小僧と、うちはのガキ。それにリーって名のガイの教え子だ」
とぼけた様子の綱手に、自来也は呆れた風に三人の名前を挙げる。
綱手は黙って笑うだけで歩き出す。

大方、ドベナルト演技を新鮮に感じつつ笑いを堪えている、感じだ。
小刻みに震える肩が綱手の心境を如実に物語っている。

 だいじょーぶなのか? この人。

痛み始める頭を左右に振って人の気配が多い、テラス下へ階段を使って下りていく。
降りていったら、思わぬ人物に会った。

「お! ナルトじゃねーか」
懐かしい声。さも偶然のような調子でナルトへ声をかける。
「なんでお前がこんなとこいんだよ?」
分かりきった話なのだが、表向きの立ち位置は間違えない。
ナルトの傍にいる以上は最低限護らねばならぬルール。

 なんか。シカマルの演技も懐かしいって思う俺も相当キてるな。

シカマルにだけ分かるよう小さく笑って、ナルトは気持ちを切り替えた。

「そっちこそ! 何でこんなトコ来てんだってばよ。奥には忍者登録室があるだけだろ!?」
綱手の背後から顔だけ出して告げるナルトに、一気にテンションを下げるシカマル。

 え? え??? 俺、フツーに演技してるよな??
 シカマルがダメージ受けてる??

 どよどよ。

一気に沈んだシカマルに内心だけで焦る。
最近は素ばかりで過ごしていたので、己の勘が鈍ったかと。本気で考えてしまう。

「実はちょっと、めんどくせーことになってよ」
(あ、ワリ。ナルトの演技ミスじゃねーよ。ちょっとな)
力なく笑いシカマルは答えた。
音に出して聞こえる部分とは別に、唇の動きでナルトに詫びる。

「? 何だってばよ?」
本心から。ナルトはキョトンとした顔で、シカマルが凹んでいる『めんどくせー』なるものを訊こうとしたが。

「お、お久しぶりっす。綱手様、自来也様」
緊張して挨拶するシカ父・シカクにあっさり遮られてしまった。
彼の立場からしたら、伝説の上忍の自来也と綱手を無視するなど出来ないだろう。
子供達が話し込む前に挨拶したい。その気持ちは痛いほどよく分かる。

「おお! 奈良家のガキか! で……そっちは子供か?」
いけしゃあしゃあ。
表向きは久しぶりに会った顔見知りに挨拶する風で。
実は自分にきっちり視線を向けてくる。

綱手からの不躾な視線にシカマルは一寸だけたじろいだ。

 ??? 俺、コレが初対面だよな??
 まぁ、夜に一回挨拶に行くけどな。な、なんかしたのか? 俺……。

シカマル、普段は眠らせる頭脳をフル回転。

「鹿の世話はちゃんとやってるか? あの辺の鹿の角はいい薬になる」
綱手といえば、考え込んでしまったシカマルからシカクへターゲット変更。
世間話? を展開する。
「ハイ」
いつもなら飄々としているシカクでも相手が悪い、らしい。
緊張した面持ちで綱手に答えている。

 動揺してる場合じゃねーよな。初対面の俺がする行動っていったら。

「おい、ナルト。若けーくせに、あの偉そうな女は誰だよ」
心臓はまだバクバク鳴っている。
けれどここで、普段の自分を貫いてこそ忍というもの。
身体の重心を低くして。
シカマルは小声で、といっても周囲の者には聞き取れる位の大きさで、ナルトへ問いかけた。

「新しい火影だってばよ。それとホントはああ見えても50代なんだぞ」
ナルトもシカマルに合わせて小声で返事をする。
「!」
ギョッとした。顔で一応驚く。
小さな遣り取りをしている間に、綱手とシカクの会話は終わりそうだった。

「じゃあな、またそのうち」
綱手は片手を挙げ去っていく。
「ハイ」
シカクは直立不動の姿勢のまま綱手を見送った。
ナルトも綱手達に置いていかれないよう、慌てた様子で後を追いかけながらシカマルへ口を開く。

「シカマル! シカマル! また後で会おーぜ! 俺のすっげー新技みせてやっから! じゃーな」

 ニシシ。

得意げに笑うナルトと、調子に乗ったナルトを叱り付ける自来也。
賑やかな一行は奈良親子の前を通り過ぎていった。

「あの女が五代目火影になるんだってよ。何者だ、あの女」
めんどー、だが切り出さねばなるまい。
シカマルは心持ち不服そうに父親へ会話を切り出した。

愚痴っぽく言えば父親はあの女が伝説の三忍だと解説。わかりきった答え。

そしてここからが半分本音。

「あ〜あ。女が火影かよ。女ってのはどーも苦手なんだよな。ワガママで口うるさいしよ。みょーにサバサバしてる割にやたらつるむし。仲いいんだか、悪いんだか。よく分からねーし」
一気に言ってのけてから一息。
この時点でシカマルが思い描いているのは、イノとサクラだったりする。

「大体、男が自分の思い通りになると思ってっからな。とにかくめんどくせーぜ、女は」
さらに一言。続けて言ってみればシカク苦笑。

「シカマルよぉ……女がいなきゃ、男は生まれねーんだぜ? 女がいなきゃ男はダメになっちまうもんなんだよ。てか、例の将棋友達のあの子は女だろ?」
たまに奈良家に遊びに来る、頭の良い『ナル』という名の美少女。
どこからどう見ても女。
シカクは不思議に思って逆に聞いてみた。

「……や、そりゃー、そーだけどよ」
シカマル、さり気に50のダメージ。
アレは特殊だとは口が裂けてもいえない。
見たままの美少女で屈託がないと。印象を今崩すのはマズイ。

「それにな? どんなにキツイ女でもな〜、ホレた男にゃ優しさを見せてくれるもんだ。お前も経験あるだろう? それともフラれたか? 最近あの子見かけねぇしな〜」
息子の変化に気づかず、シカク講釈を続行。
付け加えて、最近見かけないシカマルの彼女? の動向を息子から直接探ろうとする。

 さっき、見かけたアレがナルですよ。

頭の中だけでひっそり父親に突っ込んで。シカマルは乾いた笑みを浮かべた。

「年頃になれば分かるモンだけどなぁ? ナルちゃんも、ほや〜っとした部分はあるが案外ハッキリ物を言うタイプだろ?」
眉間に皺を寄せ唸るシカク。

 仰る通りですよ。
 ハッキリどころかグッサリくる言葉も平気で言いますよ。暗部だから。

思わぬ父親との珍問答にシカマルは眩暈を覚える。
頭の中だけで普段は使わない言葉でさり気なく突っ込み返すだけに止めておく。

この喰えない父親前に失言でもしようものなら、更に突付かれる。

 俺だってな! 俺だって久しぶりにナルトに会って、色々話したかったりするけどな。
 けど俺にもナルトにも複雑なジジョーがあんだよっ!!

 言えたら、楽だろうな〜。

少し遠い目をしてシカマルは現実逃避した。

「おっといけねぇ! お前はこれから用事があんだろ? じゃ、オレは先帰るぜ〜。母ちゃんにどやされっから」
シカクは壁にかかった時計を見上げ、針が示す時間に自身の帰宅を息子へ告げる。
「……」
息子の方、シカマルは複雑な顔で沈黙するばかり。

息子の複雑な顔を盗み見て、シカクは歩き出した。
そのまま通路を数歩歩いてピタリと立ち止まる。
シカクは上半身を捻ってシカマルに再度尋ねた。

余計なお世話と知りながら。
「やっぱりフラれたか?」
「フラれてねーよっ!」

 それ以前の問題が山盛りなんだよっ!!

一秒の間も挟まずに返される息子からの返事。
肩を怒らせ顔を真っ赤にして怒る息子のムキになる顔は久しく拝んでいない。
シカ父は思わず小さく噴き出した。

「悪り〜、悪り〜。ナルちゃんに会ったら、オレが会いたがってたって伝えてくれよ」

 まだまだアイツも子供だな〜。

ある意味当たっている見当を付け。
シカクは捨て台詞を残し、今度こそ本当に立ち去って行った。

「くっそ〜」
釈然としない。腹が立つ。
気持ちを込めてシカマルは悪態を零した。

だだでさえ、中忍という目に見えるプレッシャーもあるというのに。

奈良親子。

互いの意思は空回りしているんだか、交差しているのだか。

シカマルは激しい脱力感に襲われつつも、用事を済ます為に父親とは別方向へ足を踏み出したのだった。


シカクさんにどーしても「やっぱりフラれたか?」と聞いて欲しくて作ってみました。即行で否定するシカマルも笑えてよい感じだと思うのですが。ブラウザバックプリーズ