対面式二度目の答え



その日を振り返り、短冊街、商店街某店主A氏は語る。
『外見は凄い美女なのにバカ力の女と、小五月蝿いガキの口論かと思ったら。とんでもない、彼等は最終兵器だ。大量破壊兵器だ。悪夢だ……』と。


短冊街。

定食屋で四人掛けの席に陣取る珍妙な一行。

内訳は以下の通り。ナイスバディーの美女一人。
彼女の隣に座る控えめ女性一人。
女性陣と向かい合って座るのは白髪頭のおっさん。
もう一人、金色の頭の蒼い瞳。
頬に走る三本の痣が特徴的な少年一人。

あんまり接点がなさそうな四人組。
和やかに食事……を、しようとしていた。

「綱手様、じゃなくて今度からはそう呼びな」

 ニヤリ。

少年から受けた手痛い悪戯は不問に帰すらしい。
美女は不敵な笑みを浮かべて金色頭の少年へ告げた。

「五代目、火影様ねぇ……」
本来の性格を前面に押し出して、金色頭の少年は素っ気無く。
率直な感想を漏らす。
「結局引き受けたんだな。今日から五代目火影様ね」
自分から綱手がそう選ぶように算段つけて。
いざそうなったら、なったで拍子抜け。
子供が自分の影響力を過小評価している証拠でもある。

口を真一文字に結び押し黙った子供。

「何だ? 自分から仕掛けておいて不満そうだのォ、ナルト」
沈黙を振り払うように白髪頭のおっさんが口を開く。
ナルト、と呼ばれた金色頭の子供は曖昧な笑みを浮かべて美女を、綱手を一見した。

「そりゃ、三代目と比べるとな。気性は荒い、わがまま。金にルーズで陰険でバカだ」
表の自分ならもっと違う言葉を使うだろうが。
五代目を引き受けた目の前の美女が、仮面をつけるなといったので。
正直に本来の自分が考えた言葉を音に出す。

ナルトのさり気ない? 口撃に、笑顔だった綱手の顔が引き攣った。
痙攣を繰り返す額の辺りなど見事としか現しようがない。
急激に温度を下げる綱手に畳み掛けるように。
「ちゃんと俺達のコト扱えるのか、少し疑問には思う」
ナルトがボソッと呟く。

完全に綱手の周囲に冷気が舞い降りた。

「……つ、綱手様。何か注文を」
どもりながらも、綱手の隣に座る女性。
シズネが懸命に愛想笑いを浮かべて綱手の注意を逸らそうと努力。
「50代のクセして若作りすぎ。火影が里の者に偽りの姿を見せるのは、どうかと」
が、シズネの必死の言葉を打ち砕くナルトの一言。
「……」
怒りマークを無数に浮かべた綱手は、挑発的な暴言を吐くナルトの顔を見下ろした。

何かを期待しているような、そうじゃないような。
まだ綱手を心から信頼しきっていないような、探るような瞳。

「表に出な、ガキ」

 ぐいっ。

ナルトに顔を近づけて綱手が凄む。

「あひぃ〜」
シズネが綱手の剣幕に驚いて、目を丸くしたまま叫ぶ。
「はぁ……」
この賑やかさを喜ぶべきが。嘆くべきか。
判断がつかないままに、白髪頭のおっさんは嘆息したのだった。


初対面の折、ナルトと綱手が喧嘩をした時と同じ状況。
違うのは、綱手の胸に下がった首飾りが未だナルトの胸元に存在するという事。
「こう見えても、これから五代目火影になる私だ。ちんちくりんのガキ相手に、本気もないな」
澄ました顔で綱手はナルトへ告げる。
あの喧嘩の時と同じように。
「コレ一本で十分」
人差し指を一本立てて、今度は逆にナルトを挑発。

あの戦いでナルトの実力は知っているだろうに、知っていて敢えてナルトを唆す。
ニヤリと笑うナルトの瞳に灯る好戦的な輝きに、シズネは眩暈を感じて額を抑えた。

 綱手様も、ナルトちゃんも……何お互いに挑発しあってるんですかぁ〜!!!

出来ることならこのまま意識を失って倒れて。
他人のフリをしたい。
この二人がフザケてとはいえ、小競り合いをすれば必ず被害が出る。

「……じ、自来也様っ!!」
最後のストッパー。
白髪頭のおっさん、自来也の上着の端を掴みシズネは必死の形相で訴えかける。

どうかあの二人を止めてくれ、と。

シズネの意図を察した自来也も険しい顔つきで睨みあうナルトと綱手を観察。
数秒の後。
「無理だのォ」
と。重々しい口調できっぱりすっぱり言い切った。
「そ、そんなぁ〜。だって……」
「いざとなったらわしらは逃げるぞ」
反論しかけたシズネを手で制して至極真剣な顔つきの自来也。
顎先でナルトと綱手を示す。

シズネは不服そうに頬を膨らませながらも黙った。


「ガキガキって……仕方ないだろう。どんなに努力しても早く歳は取れないからな」
好戦的な瞳はそのままに。
ナルトは物分りの悪い人間を諭すように穏やかに切り返す。
「年齢を言ってるんじゃない。全部をひっくるめてガキだと言っている」

意を得たり。

綱手が大人の余裕を漂わせナルトの言葉の揚げ足取りをする。
穏やかな表情を保ちナルトの顔の筋肉が固まった。

「実力があるのに火影は興味がない? フン、私等と言っていることは『同じ』じゃないか。生まれを理由に責任逃れかい?」

 ん? 

尚もナルトを挑発する綱手。
シズネと自来也は揃って二歩ほど後ろへ下がり、衝撃に備えた。

「責任ってのは原因を作った人間が吐く台詞だ!」
ナルトは真正面きって綱手に立ち向かっていく。

突き出したナルトの拳を綱手は上体を逸らして避ける。
前屈みになったナルトの額に綱手は人差し指を。
以前と同じく木の葉マークの額宛を弾き飛ばした。
「!!」
綱手の指先がデコピンの形を作り上げる。

安い綱手の挑発に、ドベレベルで挑みかかれば綱手もソレに応じて半分加減。

綱手とナルトの視線が交差して、次の瞬間二人は腹を抱えて笑い出した。

「強情だね、本当」
豪快に笑い綱手はナルトの頭を撫でる。
ナルトも愉快そうに声を上げて笑いながら、小さく舌を出す。
「五代目ほどじゃないよ」
改めて綱手を五代目と呼び、彼女を認めたナルトに。
綱手は柔和な眼差しをナルトへ向ける。
顔から胸に下がった首飾りへ。
綱手の視線が移動した。
「……?」
笑うのを止め、不思議そうな顔をしてナルトが綱手を見上げる。
「その首飾り。正式にナルトにあげる」

 ぎゅう。

ナルトを抱き締めて綱手は小さな声で言った。

「確かに火影を目指した弟と、恋人にあげたモノで。初代火影様の形見、みたいなものだけどね。これからはそんな柵必要ないだろ。
私以外の人間がつけたら死ぬ、そんな逸話をナルトに打ち破って欲しいんだ」
綱手が力を込めれば、力の入りすぎかナルトの顔が赤く染まる。
やや息苦しそうに身じろぎするナルトの様子が可愛くて。
綱手は益々力を込めた。
「言っとくけど、火影命令だからね」
予想されるナルトの拒否言動を考慮して、先に釘を刺す。
意味不明瞭の言葉を発しながらナルトは綱手の腕の中で唸り声をあげた。
「いざとなったら金にもなる。未亡人にでもなったら使いな」
ぱっとナルトの身体を開放して、数歩下がり。
綱手は両手を広げた。
「未亡人?」
顔を真っ赤にしたまま。ナルトが首を傾げる。

自来也から訊いた不器用なナルトの彼氏達は未だナルトの心を掴んでいないようだ。
ナルトの反応から確信した綱手は思わず噴き出した。

「強情だね、ナルトは。そうやって自分の気持ちから逃げてると、後悔するよ」
続けて放り投げるのは、中身が空になったガマ財布。
財布自体は、シノとのお揃いで。
財布につけた木製のガマはシノ・シカマルとのお揃い。

 エロ仙人、余計なコト説明したな。

茶化す綱手の物言いに、ナルトは確信する。
殺気を込めて自来也を見れば、即行で自来也に目線を逸らされた。

「実体験に基づいて?」
ナルトは直ぐに本来の敵に向かって噛み付く。
「言うね」
人差し指をナルトの額に向け愉しそうに綱手が応じる。
「言うよ?」
ナルトも財布片手に綱手へ答えた。

シズネと自来也が見守る中(見守るといっても、数歩ずつ確実に逃げる体制に入っている)、綱手とナルトのチャクラが膨れ上がる。

「白黒ははっきりつけた方がお互いに良いようだね」
目にも留まらぬ速度でナルトの眼前に移動。
綱手は遠慮なく人差し指でナルトをデコピン。

ナルトも両足を踏ん張ってデコピンの攻撃に耐えるが、相手はバカ力の持ち主。
軽いナルトの身体は軽く数百メートルは吹っ飛ぶ。

「ちっ」
体制を整える間もなく綱手の人差し指がナルトの左肩を突付く。
突付いているだけでなく、綱手のチャクラがナルトの肩の神経を麻痺させる。

医療忍者らしい綱手の戦い方に、ナルトは少々苦戦気味。
左腕が肩から下、痺れて動かない。
ということは印を組む術の発動が不可、という事。

「性格悪いぞ」
咄嗟に真横に飛んで綱手の指先をかわし。
ナルトは忌々しげに呟く。

綱手はナルトの悪態を鼻で笑っただけで間髪いれずにナルトに人差し指を……。

「二度も同じ手を食らうか!!」
力無くだらけきった左手。
かろうじて使える右手のひらに集めるのはチャクラ。
ナルトの練り上げるチャクラは渦を形作り、風を生む。

この時のナルトは冷静さを欠いていて。
また、己が手加減しなくても大丈夫な相手だったので余計に。

本来の、ナルトの力で螺旋丸を作り上げた。

「あわわわわ」
シズネはナルトが作り上げた螺旋丸の風圧に呆然。

落ち着いて周囲を観察すれば、飲食店が立ち並ぶ通りの看板が軒並み飛ばされて。
遠いお空の彼方目指して消えていく。
自分も吹き飛ばされそうになりながら、シズネは声にならない悲鳴をあげる。

「綱手のヤツ、悪ノリだのォ」
腕組みして呆れ果てて。
自来也は暴風に身を曝しながらも、立ち尽くすのは天晴れ? 妙な部分で綱手の行動に感心していた。

「食らえっ」
最大出力に近い螺旋丸。
狙うは綱手の上半身。

綱手の指先をかわしてナルトが右手を綱手に向ける。
ナルトとしても本気ではないので動きは緩慢だ。

「甘い」
綱手も遊び半分なので、ナルトの右手首を人差し指で下から上へ振り上げる。

指先一本でも綱手の一撃。

ナルトの身体は中を飛び、当然右手の螺旋丸も弧を描く。
爆風は後方一回転をするナルトの動きにあわせて周囲の諸々を吹き飛ばした。
吹き飛んだ看板を綱手は避けずに人差し指で真っ二つ。
ナルトへ向け逆に弾き飛ばす始末だ。

「……潮時、かの」
首を左側に倒し、飛んできた桶を避けて自来也がシズネに言った。
「そうですね」
シズネは肩を落としたまま、看板の欠片をクナイで後方に流し飛ばす。


驚いた店主達が店先に顔を出すが、飛び交う看板や諸々に直ぐに首を引っ込める。
道を埋め尽くすバックミュージックは何かが壊れる音。
木の葉でも最高位にランクする二人のじゃれ合いは、じゃれ合いレベルでも一般人には大迷惑。


「そろそろ止めんと、街が壊れるぞ」
ナルトに怒鳴って自来也は我先に通りから逃げ出す。
「綱手様、これ以上借金が増えても逃げられませんからね」
シズネも綱手に叫んで訴え。
自来也に倣って通りから逃げ出した。

「「あっ」」
ついつい、楽しんでしまったナルトと綱手。
我に返って動きを止める。

風も瞬時に収まり、空からは大量の看板やら桶やら暖簾やら。
色々と降ってきた。

「に、逃げるよ、ナルト」
静かになった通りに再度顔を出す店主達。
見咎められないうちに逃げ出すのが得策だ。
綱手はナルトの襟首を引っつかみ屋根へ飛んだ。

そのまま自来也とシズネの気配を追って移動を開始する。

「ったく、火影になって早々、メンドー起こすなんて」
一人口を零す綱手の台詞にナルトは満足そうにうっすら笑う。

 二度目の答え。
 火影になるって、覚悟があるって。
 分かったからいっか。

乱暴に綱手に連れられて、揺られながら。
ナルトは胸元の首飾りを右手で握り締めた。


ブラウザバックプリーズ