嵐の前の



五代目火影捜し旅。
綱手姫を火影に据えよう作戦もいよいよ佳境。
表向きはドベとして。
本来は凄腕忍として暗躍するナルトの本領発揮の時間だ。

実はナルト、素性・性別・実力共にうずまき ナルトとはまったく違う姿を持つ。
うちはにも勝るとも劣らない継血限界『天鳴(あまなり)』の血を保持する末裔でもある。
クールかつ大胆な性格に磨きもかかり、行きがかり上綱手姫との賭けを『表』のナルトとして受けて立ち。
さらには彼女を火影の椅子へ座らせるべく決意をさせて。
現在に至っている。

その現在とは。

自来也・綱手・大蛇丸の伝説の三忍揃い踏み。
揃いも揃って『口寄せ』の術でそれぞれに相棒を呼び出し済み。

互いに睨みを利かせている真っ最中。

裏方のナルトといえば、影分身を綱手の元へ残し自身は本来の性別を取る。
ぼんやりとだが、素性を悟られた大蛇丸とカブトの記憶を封印した事を最大限に利用する為だ。

「即席木の葉の暗部くの一助太刀ってね」
気配を完全に殺し、ナルトは睨みを利かせている三匹プラス三人を見上げる。

手にしたのは狐面。
目立つ金色の髪は亜麻色へ。
矢張り目立つオレンジ色の衣装も今回は黒色で。
年齢などは操作しない。
後で綱手姫に怒られた時に彼女の怒りをなるべく削ぐために。

「まずは」
ナルトは呟き、ナルトと同じ様に三匹と三人を見上げるシズネへ目を向ける。
音を立てないのは基本中の基本。
さり気なさを装いシズネの傍らに立つ。

「!?」
見知った気配を纏った見知らぬ少女の出現に、シズネは驚き。
それから少女が唇に人差し指を立てて、悪戯っぽい微笑を浮かべたのに仰け反った。
「も、もしかして!?」
上擦った声音でナルトを凝視するシズネにナルトは表情を崩す。

「流石は綱手姫の付き人。シズネさんて察しが良いよね」

名前は名乗らない。
上の三人の注意を引かないように静かに大人しく。
ナルトの意図を察したシズネは叫びたい衝動を堪え何度か深呼吸をした。

「ごめん。綱手姫があんな無茶する人だなんて思ってなかったんだ。五代目火影に推されるだけあって正義感は人一倍なんだね」
まず謝るのは綱手に秘術を使わせてしまったこと。

知らなかったとはいえあの術は諸刃の剣だ。
使い方を誤れば確実に綱手姫の弱点となる。
ナルトの謝罪にシズネは首を横に振った。
説明なら自分だってしていなかったのだ。
お互い様である。

「ええ、とても優しくて強い方です」
変化したナルトの名前は聞かない。
そしてこの目の前の少女の姿が、どんな意味を持つのかも問いかけない。

ナルトが。
全身全霊を懸けて綱手を守ってくれようとしている。
空気を読み取ってシズネも無駄口は叩かない。

「頃合を見計らって仕掛けるつもりだから、巻き込まれないように注意して」
艶やかな少女の微笑を残しナルトはシズネの傍らから姿を消した。

「……綱手様」

 ツキッ。

痛む足の存在を思い出し、シズネは両足首にチャクラを送り込む。

地上での小さな会話を他所に、上ではちょっとした別枠の同窓会が開始されていた。
「マンダに大蛇丸。カツユに綱手。こりゃぁ懐かしい面々じゃのォ。今から同窓会でもするーゆーんか? 自来也」
トレードマークの巨大煙管を一服。
煙を口から吐き出しガマブン太が頭の上の人物へ問いかけた。
「バ――――カ! 久しぶりに呼んでやったのに、つまんねー冗談言ってんじゃねーよ。そろそろ長年の因縁に決着をつけようと思ってのォ」
ガマブン太流の洒落に応じ、自来也も軽い口調で答える。
「大蛇丸を今日ここで今。倒すんだよ」
だが次の瞬間真顔に戻った。
自来也大真面目である。
姿を消してガマブン太の背中に到達したナルトは少々焦っていた。

 エロ仙人はそれで満足かも知んないけど。
 大蛇丸は貴重な情報源だ。
 イタチが早々暁の情報を漏らすとは考えにくい。
 だとしたら突きやすいところから突くのがセオリーだろ。

 あーあぁ。
 エロ仙人もなんだかんだ云って頭に血が上ってやがる。

 はぁ。

仲間で天才肌のものぐさ。
少年のため息を真似てナルトは首を横に振った。
そんなナルトの驚きを他所に大蛇丸の呼び出した巨大蛇が口を開く。

「オイ、大蛇丸! オレ様をこんなメンドくさそーなとこに、呼び出してくれてんじゃねーよォ!」
呼び出した主の性質が悪いなら、呼び出された蛇も性質が悪い。
「てめェ、食うぞコラ」
しかも呼び出した本人を餌呼ばわり。

 うわっ。なーんかなぁ……。

マンダという名の蛇の第一声にナルトは顔を引き攣らせた。
似た者主従といえばそうなのだろうが。
昔は、己もああいう関係が忍にとっては正しい間柄だと思っていた時期もあるので笑うに笑えない。

「そう仰らないで下さい、マンダ様。それなりのお礼は必ず」
マンダの頭に大蛇丸と乗っているカブトが膝をつき言葉を発するが。
「誰がテメーと口をきいてんだよ、コラ! オレ様に話しかけんじゃねぇ、ガキ!!」
一蹴である。

ナルトは眩暈を感じ額に手を当てる。
こんなのが、こんなのを呼び出す面々が、木の葉の里で羨望の的となっている伝説の三忍だとは。
大人気なさを通り越して人間的に問題があるとしか考えられない。


 人間的にマトモだったら、忍なんて目指さないかも。
 人のコト言えない、俺も同類だ。
 傍観して頭が痛いとか感じてる場合じゃないよな。

もう一度ナルトはため息を吐き出した。

「オイ……後で供え物、生贄100人は用意しておけ」
マンダのトドメの一言に、ナルトはバランスを崩しかける。

 生贄? 生贄って!? どんな主従関係なんだよっ、こいつ等。
 やっぱり係わり合いにならない方が良いのか。

厭な大人見本市状態になりつつある戦いの場。
密かに悩むナルトを他所に綱手も動き出す。
綱手の背後に眠るナルト(影分身)

「カツユ、そこのガキをシズネの処に連れていけ!」
横目で眠るナルトの顔を確かめ指示を出す。
「はい、分かりました」
穏やかな気質らしいカツユ。
綱手の指示に従い己の身体を分裂させ、その分身をシズネの元へ落下させる。

 一番マトモ。

綱手&カツユコンビはなんだか纏まっていて羨ましい。
オヤブン&自分も負けてないとは思うが年季が違う。
それにオヤブンは今自来也と組んでいるのだ。

 エロ仙人もお手並み拝見。

下手に飛び出して目立っても意味がない。
あの危険思考蛇に恨みを買うのも嫌だ。
的確に大蛇丸を退けさせ事態を収拾しなくては。

つらつら考えを張り巡らせるナルトを他所に、まずはブン太が動く。
これ見よがしに煙をマンダの顔へ吹き付ける。
鎌首をもたげたマンダはドスの利いた声音でブン太へ話しかけた。

「てめェ、カラッカラの干物にしてやろーか! コラ!」
「わしゃ、ちょうどヘビ革の財布が欲しゅーてのォ」
ガマブン太も負けてはいない。
マンダの言葉に一ミクロンたりとも動じず。
脅しには、暗に含ませた嫌味で応じる。
言いながら腰のドスに片手をかけた。

「……」
気質的に静かなのがカツユ。
マンダとガマブン太の遣り取りを無言で見守る。

「大蛇丸、おめーは悪に染まりすぎた。もう同士じゃねェのォ」
飄々とした態度を崩さずまず自来也が口を開く。
「同士? クク……心寒い」
大蛇丸は自来也の挑発には乗らず冷静に言葉を返す。
「三忍と呼ばれるのも今日限りだ」
かつては志を共にした仲間。
決別の言葉を紡ぐ綱手。

ナルトが知らない三人の繋がりと、その縺れた糸の行く末。
三本の糸先は一先ずは別々の方向を示す。
ナルトは背筋を正して三人の最後の言葉を聞いていた。

「別れの言葉」
ナルトは独り言を漏らす。

人は一人だ。一人で生まれ一人で去って逝く。
だが気持ちのある程度の部分を共有できる誰かを。
選び共に歩む事は出来る。

「俺は選んだ」

木の葉を。
外という言葉は魅力的で、自由の言葉が持つ素晴らしさも、その裏に潜む罠も知った。
不自由だからといって全てが密封された世界ではない。

箱は広がるのだ。
ナルトが願えば願った分だけ。

「これからも迷ったりするけど。でも俺が俺であることからは逃げない」
一人自分に言い聞かせ、ナルトは首元に落としていた額当てを額へ巻き直した。

既に三忍による戦闘は始っていて、綱手の相棒。
カツユが巨大蛇のマンダヘ『舌歯粘酸』なる液体を吐きかける。

マンダは巨体に似合わず素早い動きを見せ、カツユの攻撃を避けるとあっという間にカツユへ巻きつく。
巨大な口を開けてたマンダへ、ガマブン太が横向きにドスをマンダの口へ突きつける。

マンダは素早くドスを口に銜え、カツユを締め付ける力を最大にした。
カツユも負けておらず身体を無数の己に分けマンダの締め付けから逃れる。

対するガマブン太。
マンダが銜えたドスの柄を握り締め力比べ。

均衡を破るようにマンダが尾をガマブン太の顔目掛け横向きになぎ払う。

「綱手! 離れてろ」
叫ぶ自来也。
察したガマブン太はマンダの尾を避け後方へ飛び退る。
すかさずマンダが口に銜えたドスをガマブン太へ投げ放つが、ガマブン太は再度飛んでドスを避けた。

「ブン太、油だ!」
「よっしゃ!」
自来也の呼びかけに応じ、ガマブン太の両頬が膨らむ。
息の合った自来也の火遁の術がガマブン太の油に引火し、マンダ目掛けて襲い掛かる。

 ふーん。ああいう戦い方もアリってコト。

動きの激しいガマブン太の背後に控えつつ、ナルトは客観的に三忍の闘い方を観察していた。

滅多に拝めない三人の本気。
いずれ戦う事もあるかもしれない一人の情報も手に入るので一石二鳥。
焦ってこの戦いに乱入すれば、綱手あたりに誤解されて返り討ちにされそうでもあったので、まだ静観を決め込む。

 まずは俺が戦いやすい足場作りっと。

ナルトが手早くチャクラを練り上げつつ仕掛けるのは幻術。
伝説の三忍が戦いに集中している間に仕掛ける。
注意深く見なければ分からない程度に空の色が薄い灰色がかった膜に覆われていく。

凄まじい炎がマンダの身体を包み込み、肢体が激しく燃え上がる。
焦げ臭い匂いが周囲を支配した。
マンダの燃え方に異変を感じた自来也が眉間に皴を寄せる。

抜け殻を己の身体に見立てて姿を消したマンダ。
大地を波打たせガマブン太へ迫る何か。
地面を割ってガマブン太へと襲い来る細長い何かは当然マンダである。

「!」
ガマブン太も戦い慣れしている強者(つわもの)だ。
臆することなく細長い何かを両前足でしっかり掴み押さえつけようとして。

しかしそれはフェイク。

ガマブン太の背後の土が盛り上がり、マンダが口を大きく開いて噛みかからんとする。

「「!」」
自来也・ガマブン太共に咄嗟に反応できず目の前に迫るマンダの巨大な口を見上げた。
そこへドスが自然に? マンダ目掛けて飛んでくる。

正しくはあの巨大なドスを持ち上げ飛翔した綱手姫も共に、だが。

 うわ〜。バカ力過ぎ。

飛んでくるドスと綱手を、ナルトは唖然としたまま目立たない位置で見上げる。

「閉じてろ」
綱手が叫びドスが振ってきた。

狙い済ませたタイミング。
マンダの口上から勢い良く振り下ろされるドス。
ドスはマンダの口を地面に縫いつける。

少々の振動と戦いがひと段落着きそうな気配。
地面に立っていた大蛇丸はドスの柄部分に立つ、綱手を見上げ口を引き結んだ。

そんな大蛇丸を見やり、ナルトが、動く。


ブラウザバックプリーズ