想う者・想われる者



一週間前。

大蛇丸との邂逅を果たした短冊城の一角。
姿を見せる綱手と大蛇丸。
互いに十分な距離を置き立ち止まる。

「……答えは」
大蛇丸が静かに呟く。

両脇に垂らした長めの前髪。
俯いたままの綱手の表情は冴えないまま、彼女の苦悩の深さを物語る。

「腕は治すわ。その代わり里には手を出すな」
「…クク……いいでしょう」

綱手の返答に青白い顔のまま大蛇丸は哂った。
刹那、脳裏に蘇る綱手のこれまで。
取り戻したくとも戻らない大切な『想い人達』との生活。

 縄樹……ダン……。

唇が音を発することなく二人の名前を紡ぐ。

「さあ」
大蛇丸は震える両腕を差し出し綱手に治療を迫る。
逝ってしまった二人の、在りし日の笑顔を目前に、綱手は泣いた。

大蛇丸の笑みが深まる。
「さあ」
綱手を促し自分は綱手に歩み寄る。

そんな二人の手前の塀の上。
カブトが遅まきながら到着し、高い位置から綱手と大蛇丸を観察。
綱手と大蛇丸の距離約数歩分。
大蛇丸が両手を胸の位置に持ち上げ、手にチャクラを集中させた綱手が大蛇丸に触れようとして。

「「!」」
気配を察して綱手と大蛇丸が飛び退る。

 ガッ。

大蛇丸・綱手の位置を遠ざけるクナイ。
投げた本人カブトは塀の上で、いつでも動けるよう座り沈黙。
綱手が己を確認したのを見てからカブトは大蛇丸の背後に着地した。

「どういうことなの? ここにきて私を裏切るなんて……」
鈍い黄色の大蛇丸の瞳が険しく光る。
「綱手」
静かに告げる大蛇丸、睨む先は綱手。

「どうしたらそういう答えになるのかしら? 綱手姫。私を殺そうとするなんて」
僅かな失望を滲ませた大蛇丸の声音に綱手は答えない。
無言で大蛇丸とカブトを睨んでいる。

「にしても、心底信頼するわカブト。お前の私に対しての忠誠と、綱手の攻撃を見抜いたその眼力をね」
「ええ、同じ医療班出身ですからね。チャクラに殺気がみなぎってました」
振り返らず背後のカブトに声をかければ、カブトは律儀に大蛇丸へ言葉を返す。

「ハー」
大蛇丸はゆっくり息を吐き出した。

「綱手? 私は本当に二人を生き返らせるつもりでいたのよ。それに木の葉を潰さないという約束までしたのに」
綱手の痛みも苦しみも。
大蛇丸にしたら彼女を揺さぶるための『材料』にすぎない。
棘を含んだ大蛇丸の台詞に綱手は苦い顔をした。

「フフ……」
自嘲気味に綱手は鼻で笑う。
「大蛇丸、お前が里に手を出さない事がウソだって事くらい……分かってる。分かっているのに私は」
喋る綱手の声だけが静まり返った場に響く。
「二人に、もう一度だけでいい。もう一度で良いから会いたかった。もう一度で良いから触れたかった。もう一度で良いから笑ったあの顔を。でも」
最愛の弟と恋人への思いを切々と語る綱手の雰囲気が変わる。
大蛇丸は数ミリばかり目を見張った。

「本当に縄樹とダンにもうすぐ会える。そう肌で感じた瞬間に気付いちまった。自分がどうしようもないバカヤローだってな」
目尻を伝い溢れる涙が顎を落ち、綱手の胸元へ落ちる。

「二人のあの顔を思い出すだけで、こんなにも目が見えなくなっちまう」
言葉通り綱手は今涙で目が霞み何も見えないだろう。

「大好きだった。本当に愛していたから! だから会って抱き締めたかった。でも出来なかった。あのガキのせいで二人の夢を思い出しちまったから。忘れようとしていたのに」
独白を続ける綱手。
感傷に浸る綱手を冷静に見やる大蛇丸には微かな嫌悪の表情が浮かぶ。
カブトは感情を顔から消して大蛇丸の指示を待っていた。

「二人の命を懸けた大切な夢。その夢が叶うことが私の想いでもあった。……形あるものはいずれ朽ちる。お前は言った……でも」
泣き顔のまま綱手が顔を上げる。

やっぱりこの想いだけは朽ちてくれないんだよ……
瞳に宿る密かな決意。

「交渉決裂ね。仕方ない。こうなったら力ずくでお願いするしかないわね」

同じ瞳を数ヶ月前に見た。
この手で殺した己のかつての師。
誰も彼も似たような瞳をして己に挑んでくるものだ。
大蛇丸はひとりごちつつ、綱手に告げる。

綱手は己の涙を手で拭い、殺気の篭った瞳を大蛇丸へ向けた。
それは一瞬だった。
音もなく綱手は飛び上がり踵落としを大蛇丸の頭上に繰り出す。

 ズゴ。

音がして大蛇丸が立っていた場所が陥没。

「やるわよ……カブト」
いち早くカブトと塀の屋根上に避難した大蛇丸が背後のカブトに命じる。
「だから言ったでしょう? 良薬といっても苦い程度じゃ済まされないって」
半ばこのオチを予想していたのか、カブトは呆れた調子で返答する。

「……来い! 大蛇丸」
片や綱手はヒートアップ。
彼女なりに大蛇丸を挑発して見せた。
「フフ……そういえば、お前とやりあったことは今まで一度もなかったわね」
「そうね」
めり込む綱手の踵と罅割れる大地。
「よく言いますね、やりあうのは僕でしょ」
綱手のバカ力を前に冷静にカブトが突っ込んでいる。
「ろくでもねェーお前らは、今ここで殺す!!」
こめかみに血管が浮き出ている状態で、綱手は塀に拳を打ち込んだ。
塀が崩壊するのと同時に後方へ飛び退る大蛇丸とカブト。
「一発でもくらったらそれで終わりよ」
非常時に冷静なのは本来の気質なのか?大蛇丸が未だ衰えない綱手の力をカブトへ忠告した。
「見たらわかりますよ。ここは間をとって闘うには少々窮屈ですね」
大蛇丸の忠告を耳にしつつ、先ほど見かけた人物の乱入を考慮し、カブトが提案。
「移動する気?」
「その方がいいでしょうね。……少し気になる方が綱手様の部下といましたしね。何時援護に来るやも知れない」
険しい顔つきのカブトの言葉に、更に大蛇丸が言葉を返し。
音の二人ははるか後方へ姿を消す。

そんな音を追いかけて綱手も姿を消した。


青春ドラマにでもなりそうな、忍ドラマを傍観していたのは大人二人と子供一人。
+仔豚。
「追いかけなくていいんですか?」
一部始終見てました。
シズネはオロオロした態度で自来也とナルトを見る。
「追いかけるけど、良かったな。エロ仙人」

 ポフ。

自来也の背中を程よく叩きナルトは安堵する自来也へ喋りかけた。

「ああ」
複雑な顔つきで自来也は綱手が破壊した地面と塀の残骸を眺める。

「さて。これで一つの答えが出た。綱手姫は俺が偶然言ってしまった『火影への夢』を理解し、共感し。かつて愛した弟と男の遺志を継ぐ者として俺を認めようとしている」
集中力の薄い自来也を放置。
ナルトは比較的まだ混乱薄いシズネに向き直る。

「でもまだ彼女の中の決意が足りない。綱手姫が現段階で判断した事。二つだ。
大蛇丸の腕を治さない事。大蛇丸を潰したい事」
指を二本立てナルトは冷静に綱手の心理を紐解こうとした。

「でも……先ほど綱手様は『二人の夢を思い出して』と仰っていたではないですか? あれはナルト君の夢を後押ししたいという気持ちの表れでは?」
怪訝そうな顔をしてシズネがナルトに反論する。

本来ならば慌てふためき大蛇丸&カブトと綱手の後を追うのが先決なのだ。
だが落ち着き払ったナルトの雰囲気に引き摺られシズネも心穏やかである。

 これからの芝居には彼女の動きも必要だ。俺一人だけだとマズイからな。

さり気なくシズネの危機意識レベルを下げる落ち着いた発言を繰り返し、ナルトはシズネの心理をやんわりと操る。

「否定はしない。だが賭けを忘れていないか? 綱手姫は俺に『螺旋丸』を一週間でマスターできるかと問うた。
恐らくは四代目ほどの根性と心構えがあるか。見たかったんだろう。俺は賭けに勝ったか、負けたか証明していない」

惚ける自来也と、真剣な顔で話し込むナルト・シズネ。
交互に見上げて小豚はプヒーと所在なさげに鳴くばかり。

「ええ……賭けはまだ、でしたね。ナルト君、まさか君は?」
高レベルの忍だとはシズネも理解したが、どこまでのレベルなのか。
は、未確認だ。
思わず不安に感じて恐る恐る尋ねる。

「安心しろ。螺旋丸ならマスター済だ。あっさり完成形を見せる事は簡単だけどな? それじゃあ綱手姫は目を覚まさない。五代目火影の椅子も、俺に譲るような馬鹿をするかもしれない」
彼女が本当に里を想うなら、ナルトに火影の椅子を譲る愚行は犯さない。
だが今彼女は迷子のまま彷徨う旅人。気の迷いだって生じてしまう。
「もしナルト君が本当に火影を目指すなら、綱手様は後ろ盾になるでしょう」
応じてシズネ。
ナルトへの理解が薄いのでシズネとしての意見を口にする。

「いや? 俺は生憎火影の椅子には興味が無い。権力と名の付く職に興味を示さないように心がけている。
客観的に考えろ、何故俺がドベの演技をこれまで続けて里の大多数の忍の目を欺いてきたか」

 九尾の封印。
 器たる俺の実力が知れたら木の葉は根底から揺るぐ。
 揺るぎ、俺の処刑だけで事足りれば良い。
 最悪下手すれば他里に付け込まれる弱点ともなりうる重大な問題だ。
 理解できないシズネじゃないだろう。

 それに俺が火影目指してないって印象付けないと。やばいし。

ナルトは計算ずく。
自来也が萎れているのでシズネに己の主張を強く印象付けておく。

「……」
懐疑的で否定的なナルトの台詞にシズネは咄嗟に言葉を出せず。
曖昧な顔で眉根を寄せた。
肩を竦めたナルトに申し訳なさそうな顔でシズネは頭を下げる。

「ごめんなさいナルト君。わたしの早計でしたね。ナルト君は複雑な事情を持っているのに……実力だけで火影に成れるなら」
皆まで言わずシズネがちらりと自来也を盗み見た。
「そうだな、可能性としてはありうるな」
シズネとナルトは顔を見合わせて互いに笑顔を浮かべる。

「木の葉は綱手姫を必要としている。疲弊した木の葉にはアレよりかは、医療技術を持つ彼女の方が相応しい。
俺も個人的事情だが彼女に癒して欲しい知り合いがいる。うちはと、コピー忍者のカカシ。イタチ襲撃の煽りを食らって意識が戻らない」
ドベのナルト時にも綱手に訴えていた真実。
真摯な瞳でシズネを見据えれば彼女も笑っていた顔を真剣な顔へ変える。

「分かりました。綱手様に決意して頂きます。もし本当に綱手様が火影の椅子を拒絶した場合はご容赦下さい」
「じゃあそろそろ行くか。俺達が『想う』大切な姫の救出に」
頭を下げるシズネの肩を軽く叩きナルトはおどけたのだった。


シリアスが続くよ〜、暫くは〜。戦闘シーンは苦手ですね、私。しっかし原作は…が多い。ブラウザバックプリーズ