ちょっとした種明かし



伝説の三忍・綱手姫と、木の葉の下忍・うずまき ナルトの賭けの期日。
賭けを持ちかけられた日から丁度七日目。
清清しい朝が短冊街に訪れた。

「んー……よく寝た」
ベットの上で一人優雅に大きく大の字に伸びるのは、うずまき ナルト。
なんとも呑気に何度かベットの上でゴロゴロ。
「っとそんな場合じゃないってば」

 ニシシ。

笑って軽く朝シャン。

身支度を整え手始めに起こすのは、昨日晩から床と友達と化した綱手姫の付き人・シズネ。
気を失ったままの彼女を起こす。
「おい! おいってば!」

 …ナルト…くん…。

ナルトの声に反応してシズネが薄っすら瞼をあける。
「……」

 この分だとこのガキ、明後日までは目を覚まさないだろう。

次第に覚醒するシズネの意識に蘇る綱手の言葉。

「しっ、しまった!! 今日……今日は何曜日ですか?」
焦って上半身を起こすシズネに表向き驚きつつナルトは答えた。
「げっ・・・月曜日だけど」なんて丁寧にどもって。
「……」
焦った表情から打って変わり。
毒気の抜けたシズネの顔。
まじまじとナルトの血色良い顔色を見つめた。
「なんだってばよ?」
「もう体は大丈夫なんですか?」
問いかけたナルトに更に疑問を乗せて尋ねるシズネ。
「俺ってば昔から一晩寝りゃ、どんな怪我だって大概回復するんだってばよ!!」
ナルトは目を細めて得意げに胸を張り答える。
子供らしいナルトの答えに妙に納得した表情でうなずきかけシズネは鈍い痛みを発する腹を抑えた。

「それより……あのクソババアどこにいんだってばよ!? 今日は約束の賭けの日だかんな! 結局修行は完成しなかったけど……」
演技を続けつつチラリとシズネの顔色を窺えば、見る間に青ざめるシズネの顔色。
「ナルト君はここにいてください!」
窓から外に出ようと身を翻し、シズネは窓枠に手をかけた。
顔を出した瞬間に宿の壁に突き刺さるクナイ。
「何だ!?」
音にナルトも驚いて顔を出す。
「あなたは!」
クナイを投げた本人の顔を見てシズネは二度目の驚愕。
宿の壁に凭れる様にして立つ、自来也の強張った表情であった。
「綱手のヤロー、わしの酒に薬を盛りやがった。上手くチャクラ練れねー上に体が痺れてハシもろくに持てねー!」
痺れた腕を持ち上げ苦い顔で告げる。

外に通じる窓から屋根部分に降り立ったシズネとナルト。
自来也を囲んで彼の話しを聞く。
ほんの数秒ばかりナルトは顔を引き攣らせた。

「いつもスゲー忍者だっていばってるくせにぃ! ダッセーぞ、ソレ。エロエロ攻撃にやられたのか!?」
目を丸くして食って掛かれば自来也がムッとした顔で反論。
「うるさいっ!」
何があったかナルトは知らないが、自来也にも不本意だったようである。
「腐っても医療スペシャリスト。対忍者用に無味無臭の薬を調合できるのはアイツぐらいだ。……しかしいくらほろ酔い状態でも、このわしが隙を突かれるとは」
渋い顔で呟く自来也に、表情を曇らせるシズネと。
キョトンとした顔のナルト。

そんな三人を物陰から眺める気配が一つ。
大蛇丸の部下・カブトだ。
カブトは三人の姿を確かめただけで直ぐにその場を離れてしまう。

「!」
自来也の眉間の皴が深くなった。
ついでに自来也、横目でナルトを観察すればナルトは薄っすら哂っている。

 何か仕掛けたんだな。

「……おい! シズネ」
確信を持ち自来也はシズネに顔を向ける。

「一体大蛇丸と何の話をしたか、そろそろ話してもらうぞ」
話してもらうも何も。
途中までは三代目の影の遺品、水晶玉を使って大蛇丸の『取引』をしっかり覗き見。
シズネの口から聞くまでもないだろうに、自来也なりの配慮か思惑か。
半分当事者であるシズネに口を開かせようとする。

 物好きだな。

ナルトは顔にはおくびにも出さず自来也のシリアス顔に心の中で苦笑い。

「綱手様を信じていたかった……だから今まで言い出せなかった。でも……」
俯いたシズネの目に前髪がかかり、表情が窺えない。
苦悩に満ちた声だけがシズネの心情を窺わせる。


「じゃあアンタは木の葉を大切に想ってるんだな?」
すっくと立ち上がり、ナルトはシズネを見下ろした。
「……え?」
ナルトの豹変にシズネは目を丸くしてナルトを見上げる。
「ナルト、お前も回りくどいのォ」

極限状況まで追い込まれないと人は本音を漏らせない。
人、というよりかは忍はという表現の方が正しい。

ナルトの回りくどい確認のとり方に自来也は呆れた。

「経緯は知らないが薬盛られて使い物にならねーエロ仙人よりかは? 遥かに賢く立ち回ったつもりだけどな」
鋭利な刃物を感じさせるナルトの冴え冴えとした笑み。
挑発的に哂い自来也を小馬鹿にする態度は数分前までの『ナルト』ではない。

「ナルト君…君は一体……!?」
口篭るシズネにナルトは無言で肩を竦める。
ナルトの『お前から説明しろよ』的視線を受け自来也は痺れる体に鞭打って口を開く。

ナルト自身から種明かしをするよりかは、己が口を開き説明した方が。
シズネはより『こちら』の話を信用する。
打算的になってしまうが背に腹には代えられない。

五代目火影候補を、ひいては木の葉の行く末を左右する重大な局面。
一ミリでも有利に事を運びたいのは自来也も大蛇丸も同じ。

「表向きはうずまき ナルトだ。嘘偽りはない。だが本来の姿と役割は違う。まぁ、暗部並とだけしか説明できんがのォ」

 仕方ないか。

半ば貧乏くじを引いているのに自覚はある。自来也は適当に説明した。

「もしシズネさんが本当に綱手姫を助けたいんだろ? 世の中ギブアンドテイクだ。こちらがそちらに協力する代わりに、そちらにも一芝居打ってもらうぜ」
無言で腕に仕込んだ毒針を構えたシズネだが、ナルトの動きの方が早い。
すかさずシズネの背後を取り背中に突きつけるクナイの柄部分。
「……」
「無理強いはしない。『自由』に決めろ。綱手姫の意思や願い云々ではなく、シズネさん? アンタ自身の『意思』で」
確固たる信念を持つもののみが発するであろう自信に満ちた声。
に、聞こえるよう喋っているのは内緒だが、ナルトは自身の演技力には多少の自信があった。

 ドベの演技し続けてたのも無駄じゃなかったな〜。

やや白けた顔でナルトを見やる自来也の視線は無視。
ナルトはシズネに考える時間を与える。

一見考えさせて選ばせているようにも感じられるが冷静になってしまえば理解できるはず。
選択の余地など最初から存在しないのだ。

綱手姫が現在ココに居ないのは事実。
大蛇丸の甘言に乗る確立が零ではない証拠。
曲げようもない現実だ。

シズネに出来る事は自来也とナルトに協力を求め、綱手姫を止めること。

(この性悪! いつこんな仕掛けを作った?)
悩むシズネに気取られぬよう自来也がナルトへ問いかけた。
(色々)
醜態晒す自来也を鼻で笑って短く返答。

自来也、左側の頬だけが見事に引き攣る。
動きの止まる三人の間を不思議と風が通り抜けた。
風一つない無風状態なのに。

シズネは背中に押し付けられたクナイの柄の感触に悟る。
「そういえば、わたしが綱手様の過去を説明しようとしてナルト君に会った時。暗示をかけられ記憶を封印されてしまいましたね」
感じていた違和感の正体。
漸く己の過去を思い出せてシズネは穏やかな調子で背後に囁いた。
微かに笑うナルトの気配がする。
「わたしも木の葉の里の一員です。当然綱手様だって今でも木の葉の里の忍です。自らの夢と誇りを早々に捨てるお方ではありませんから」
木の葉の、故郷の一大事の時に感じるのも不謹慎だ。
けれどシズネの気持ちが一気に軽くなる。

自来也は本調子でなくチャクラも碌に練れない。
自分ひとりの力ではどこまで大蛇丸に対抗できるかも分からない。

でも、何故か。

ナルトと共にならなんだか『平気』な気がする。
全て上手く。
ことが運ぶような気がしてならないのだ。

「じゃ、話は早い。可能性は二つ。一つ綱手姫が大蛇丸の腕を治療した場合。俺は迷わず彼女を捕獲し、大蛇丸を退ける。
この時点で綱手姫の五代目火影就任はないと思え。五代目は……そうだな、エロ仙人、お前がやれ」

「わしか……?」
心底嫌そうな自来也にナルトは満面の笑みで応えた。

その笑顔が恐い。
なにせ顔立ちはかつての注連縄(自来也の弟子)にそっくりなのだ。
含みある笑顔に自来也の背筋が凍る。

「二つ。綱手姫が大蛇丸と闘う事を決意した時。エロ仙人と、シズネは大蛇丸と部下のカブトと戦わなくちゃならない。
俺は綱手姫のコンプレックスを取り除く。確か血が怖いんだよな? だから俺が一芝居打つ。その間俺はドベの演技をするから適当に調子を合わせておいてくれ」

すっかりちゃっかり。

自来也に代わりこの緊急時をしっかり仕切ってナルトは今後の動きについて適切と思える行動を示す。

「ええ」
シズネが真面目な顔でうなずいた。
「俺が本気を出すまでに、綱手姫は五代目火影に就任すると決意してるさ。伊達にドベの演技をしてたわけじゃないんでね」

当座の火影として彼女が相応しいかどうかは不明。
でもナルトが表舞台に出ないと決めたからには。
ナルトの事情を多少把握し、融通が利く人物が火影に座った方が木の葉にとってはより安全で平和。

 エロ仙人と注連縄の思惑。早々簡単にノってたまるか。

なんてのが、ナルトの本音である。

「要はわし等で綱手を騙そうって話だな?」
最後に自来也がナルトの話を纏め、三人は一頻り笑い。
それから笑っている場合じゃないので大急ぎで移動を開始した。

 相手(シズネ)の信頼を得るには俺の素も見せておかないとね。
 セオリーだろ。

ちょっとした種明かし。
ナルトの狙い通りシズネを味方に加える事に成功した。


某守護霊様あたりなら『外見嘘のままだし、ちょっとズルじゃない? だって綱手さんは、ナルちゃんが男だと思って心揺れてるんだよ〜!!』なんて。
的確にズバッと指摘しただろう。

 はー。注連縄封印しておいて正解だな。

自来也・シズネ・ペットのブタと並んで走りつつ、ナルトは胸を撫で下ろしていた。


こうしてシズネさんを仲間に加え(笑)ナルコパーティーは、綱手姫救出(?)へ向います。ちなみにシズネもこの時点でナルトを男の子だと思ってます(説明不足・汗)ブラウザバックプリーズ