愛犬元気俺様悲劇

 そもそもどーして俺様がこんな目にあってんだろ・・・。


半ば自暴自棄になった運の無い少年は遠い目をした。


「だ、大丈夫? キバ君」
少年の隣でおろおろするばかりの心優しき少女。
魂を飛ばしかけている同じ班の少年の身を案じている。
少年……犬塚 キバはそんな少女の言葉すら耳に届かずに、何度もため息をついてはぼんやり空を見上げていた。

「今日の占い、見損ねたっけ」
きっとチェックしていたなら仕事運が最悪だっただろう。
確信してキバはもう一度ため息をつく。
明らかに落胆して気落ちしているキバに処置無しの少女。
どうやってキバを励ましたら良いのか分からずに差し出した手が宙を彷徨う。

公園に設置された椅子に腰掛け、惚けるキバに傍でオロオロする少女。
二人は数時間ほど前からこの行動を繰り返していた。





「家出?」
玄関先で出会った子犬。
哀れを誘うその鳴き声に立ち止まったのは一人の少女。

肩まで届く金色の髪と深い蒼い色の双眸。
潜められた眉は美しく弧を描き、整った鼻筋から桃色の唇へ下る造詣などは神業と思うほど。
整っている。

いつものTシャツの上に羽織ったベージュエプロン姿で、足元の子犬を見下ろす。

「ワンッ」
「……は? 家出は俺のせいなの!?」
子犬の申し出に驚愕する少女。
エプロンのポケットからスコップが地へ落ちた。

「クゥ〜ン」
「修行……で。蛙……? 蛙ってもしかしてガマ吉?」
少女は首を捻り子犬の言い分を聞く。
「オンッ!オン」
的を得たり。子犬は少女にコトの事態を理解してもらって尾尻をハタハタ振って喜びを表現した。
逆に少女は困惑気味。
しゃがみ込み子犬を抱かかえた。

「確かにそうかもしれないけど。ただの勘違いだろ? キバと赤丸の。そーゆうのは、きちんと二人で話し合わなきゃ駄目だよ」
「クゥ〜ン」
少女のお小言に少々不満気味の子犬。
目を細めて少女に不満表明。
「はいはい。家に入って考えようね」
天鳴(あまなり)。家の塀にかかった些か古い表札。
横目で見て少女と子犬は家の奥へと消えて行った。





そもそもの始まりは昨日の散歩であった。
「はぁ〜! 久々の任務無しの休みだぜ」
両腕を高く伸ばして身体をほぐし、キバは幸せそうに相棒へ言う。

キバの懐に納まった相棒・・・赤丸は「オン」と同意。
忍犬である赤丸とキバは相性抜群の良き相棒。
赤丸の言葉を正確に聞き取れるのはキバだけで、その能力もずば抜けて高い。
将来の優秀な忍犬使いとして頭角を現しつつあるキバであった。

キバの将来性はさておき。

任務の無い休日・午後。
いつものように赤丸と共に散歩に出かけたキバは、珍しい場面に遭遇した。

演習場の一つ。
丸い池があって小さい魚や鯉が泳ぐその場所に。
一際目立つ子供が一人。
金色の髪を乱暴に掻き毟り、難しい顔で両腕を組み唸っていた。

「ありゃナルトじゃねーか。どうしたんだ?」
なにやら悩んでいる様子の知り合い……ナルトにキバは歩みを止める。
キバの目的地はこの演習場の先にある複雑に入り組んだ廃墟のある建物。
赤丸との連系攻撃を強化しようと修行場に選んだ場所だ。

「ワンワン」
「蛙?」
赤丸がナルトの頭上に鎮座する生物(ナマモノ)の匂いを嗅ぎ取り、キバへ教えた。
キバは赤丸の伝えた言葉に首を捻る。
「あの池に蛙なんていたっけ」
ナルトを知る人間ならこんな風に疑問は抱かなかっただろうが。
生憎キバは、ある意味ナルトと無関係の少年であったし蛙に無関心でも仕方のないことであった。
「……」
賢明な赤丸は真実を告げずに沈黙。

赤丸とナルトの秘密の約束。
いつか時が来れば大好きなキバに話しても大丈夫な、小さな大きな意味を持った大切な約束。

『ドベ』で『意外性NO.1』と称される、うずまき ナルト。
実は素性も性別も偽っている実力派。
クールで凄腕の上忍で故あって少年の姿で下忍に身を窶す少女だ。
いくら凄腕といえども根源の匂いまでは誤魔化せない。
アカデミー時代にナルトが少女であることを見抜いた赤丸。
裏のナルトを知るシノに脅されて、黙認を続ける。

尤も。

 《ごめんね、赤丸》

記憶を操作しようとしたシノを止め。
心底申し訳なさそうに自分をトリミングしてくれたナルトへの恩義もあるからだ。
そんなこんなで赤丸はナルトが『女の子』である秘密を知る数少ない存在だったりする。

「ま、俺達には関係ないか。あいつだって修行位するよな」
赤丸と己に言い聞かせ、キバは踵を返そうとした。

変化すら出来なかった落ちこぼれアカデミー生。
キバのナルトに対する第一印象。

それが今はどうだ。
中忍選抜試験・第三の試験予備選。
ナルトと対峙したキバは考えを改める破目となった。
裏の裏をかかれ、未完成ながらもナルトが編み出した技に叩きのめされた。

 《戦う時は相手がどんなにチンケな虫であってもナメたりはしない。全力で向かう!》

あの時ほどアカデミー入学前からの友人の決め台詞が耳に痛かったことは無い。
キバは反省したものだ。昨日まではドベかもしれない。
だが、自分と相棒が日々成長するように相手も成長しているのだ。
お互いに足踏みをしているわけじゃない。

少しばかり成長したキバは、ナルトの邪魔をせぬように少し遠回りして目的地へ向かおうとした。

「!?」
向かおうとしてキバは動きを止める。

ぴゅっ。

ナルトの頭の蝦蟇は器用に水鉄砲を飛ばし、池に浮かぶ浮き草を射抜く。

「……???」
見間違いかと目を擦り、何度も瞬きをしてキバはナルトの頭上の蛙を凝視。

ぴゅっ。

またもや放物線を描き浮き草を射抜く水鉄砲。
ナルトは蛙の行動に興味が無い様で、頻りに唸っている。

「遠距離攻撃……」
ピコン! 誰かがキバの心を覗けたなら。
キバの頭いっぱいに広がるランプの数に驚いただろう。
赤丸はちょっぴり嫌な予感を抱え、キバを見上げる。
「ひゃっほー!赤丸!早速試してみようぜ」
意気揚々とその場を離れるキバ。
「キュ〜ン」
悲痛な鳴き声をあげる赤丸。なんとも明暗分かれた不思議な光景だ。
気配を消したつもりのキバだが、ナルトにはお見通し。

 なに思いついたか知らないけど。大丈夫か、あいつ等?

対照的な二人を見てもナルトは事情が分からないので、取りあえず黙殺した。
次第である。





場所は戻って天鳴(あまなり)家。

本来の姿のナルトは、ミルクをペロペロ舐める赤丸を眺めため息をついた。
『へぇ〜。キバ君は遠距離攻撃を編み出そうとして、ねぇ』
「赤丸は本来の素早さを生かした接近戦が得意だ。遠距離向きじゃないよ」
ナルトの隣でフヨフヨ漂う青年。
金髪・碧眼一見美青年風。感心した口調のスケスケ青年にナルトは手痛くつっ込んだ。

『そうだけどさぁ。試してみようって言うチャレンジャー精神は評価しなきゃ』
スケスケ青年は『ねv』とナルトに同意を求める。
「結果がコレでも?」
呆れた顔でナルトは赤丸の頭の円形脱毛症を突いた。
キバの考えた遠距離攻撃作戦で見事焦げてしまった部分だ。
『…………』
スケスケ青年は頬を引きつらせ、明後日の方角を向く。
ナルトは小馬鹿にした顔つきでスケスケ青年を一瞥。
それから視線を赤丸へ戻した。

「勢いの家出なんだし、俺が付き合ってあげるから。早くキバのところへ帰ろう? キバも怒ってないよ」
粗暴でガサツっぽい印象を受けるキバだが、結構アレでナイーブなのだ。
今頃赤丸を案じて神経をすり減らしているに違いない。考えてナルトは支度を整える。
「ほら。行くってばよ、赤丸」
躊躇する赤丸が逃げられないように身柄を拘束し、ナルトはニシシと笑った。





そして場面は再び公園へ。
「キーバー! いい加減に戻って来いってば!」
気の短いナルトが目を丸くしてキバへ怒鳴る。
ナルトの怒声にヒナタのオロオロ度が更に上昇。
ナルトを見て、キバを見て。途方に暮れる。

「考え方は面白いね」
赤丸がボールを転がす姿を眺めつつ、第八班の担当上忍は評した。
「でもさ、でもさ。いきなりは乱暴だって」
赤丸の頭に張られたガーゼにナルトは顔を顰める。
紅に反論すれば、髪を乱暴に乱される。

ナルトは「ムキー! 紅先生、最近カカシ先生に似てきたってばよ!」なんて。
只でさえ大きな丸い瞳を丸くして子供じみた反論。
とたんに目つきを変えた紅に「……今のナシ! 俺ってば勘違い」等と。
態度を一変させている。

シノが『ナルトに触れるんじゃない』オーラをキバに出していた。
ヒナタだって真相を知ればキバに殺意を抱くかもしれない。

赤丸との仲を取り持ってもらい。
思わず嬉しくってナルトに抱きつき頬にキスして感謝したのが運の尽き。
何故かナルトを気に入っているシノにバレて、毎日蟲の襲撃を受けている。

今日で五日目。
恐らく警告の意味を含めて七日間きっちり襲われるのだろう。
上着に隠れて見えないが蜂に指された痕や毛虫に被れた肌だとか。
キバの身体は悲惨な状況になっている。

紅も一見、いつもとかわらない風だけれど。

キバに向ける目つきが怖かったり、任務がキバだけ難易度が上がってたりして。
生命の危険を感じてしまうのは、気のせいではない。
野生の勘が警鐘を鳴らす。

一人歩きをすれば背筋が凍る悪寒を感じるし。
(振り返っても人影はないし、気配も無い。怪現象である)
ポルターガイスト現象も真っ青の部屋の荒れように涙を呑んだこともしばしば。
人為的な悪意を感じる。

 なんだよ!  赤丸をナルトに保護してもらっただけじゃねーか!!

絶叫したいのは山々だが。
察しの良い目の前の日向の少女・ヒナタにバレるのだけは避けたい。
普段が大人しいだけに反動が凄いのだ。

「今日も任務だし」
一週間きっちり任務で、キバの心が休まる間もない。
しかも察しの悪いナルトが赤丸とキバを心配して毎日八班に顔を見せるものだから。
状況は悪化の一途を辿る一方。
「キーバー!!」
キバを呼ぶナルトの声。

 ナルトに近づこうものならどうなるか……分かっているな?

不気味に光るシノの黒眼鏡。

 怖ええよ、お前ら。

無意識に身震いしてキバは何度目かのため息をついた。
「ほっぺにチューなら気にしてないぞ!」
キバを奈落へ叩き落す無常なナルトの無邪気な発言。
凍りつくキバに、何処か黒いチャクラを出現させたヒナタが白眼発動。
「!!!!!!」
それこそ、悲鳴の一つも出せないキバでした。


八班で針の莚を味わうキバ。
背中に哀愁が漂っていたのはナルトの見間違いではないはず。

「シノと良い、紅先生と良い、ヒナタと良い……注連縄と良い。大人気ない」
「オン」
呆れるナルトに赤丸だけが同意した。


紅班におけるヒエラルキー話。キバ好きですよ私(こんなにしておいて・・・)ナルコはそっとキバの怪我を治しに毎日顔を出しているんです。シノに本気で攻撃されたらキバは(遠い目)あ、いちおうギャグのつもりなんですけどまったくオチてないオチつき(笑)ブラウザバックプリーズ