形作るモノ


三代目逝去の後、復興作業の続く木の葉の里。
過ぎ去った嵐に感慨抱く間もなく新米下忍達が行う任務といえば。
『復興作業のお手伝い』である。

「合同任務なんて久しぶりだってばよ」
元気良く両腕をグルグル回し上機嫌に告げる金色ヒヨコ。
傍らの桃色の髪の少女を見る。
「そうね……。任務って言えるのかは疑問だけど」
肩を竦め少女は黙りこくる黒髪少年を見遣った。
「……」
大概に於いて黒髪の少年は無口だ。
無駄口を叩かないと表現した方が正しいだろう。
しかしながら少年は今日は特別無口で少し様子がおかしかった。

考え込むように俯いて一人で思案に耽る。

気になる事象でもあるのか、遅刻まである担当上忍が大幅に遅刻しているのを気にも留めていない。
今までも気にはしていなかったが、遅刻に対しては怒っていたのに。
心ここにあらず。
黒髪の少年はぼんやりしてる風にも見えた。

「でさ、でさ、サクラちゃん」
心配そうに黒髪少年を見る少女の感情を全く理解していない(?)金色ヒヨコ。
呑気に話しを続けようとして、少女の鉄拳制裁を受けた。
「〜!!!」

 ゴツ。

鈍い音と、頭を抱えて蹲る金色ヒヨコ。
撃沈したヒヨコの隣に立って呆れた顔をするのは犬を頭に乗せたフードの少年。

「馬鹿だな、ナルト。相変わらず場の空気読んでねーな」
「うっせえぞ、キバ」
フードの少年=キバに手を貸してもらい起き上がり、金色ヒヨコ=ナルトは不服そうに文句を言った。
そんな二人にポテトチップス片手にポッチャリした子供が近寄ってくる。

「ね〜、ナルト。ナルトの班のカカシ上忍はまだ? もう直ぐ予備のポテチがなくなっちゃうんだけど」
ナルトはポッチャリ系の子供の手にした袋が五袋目なのを確かめ、複雑そうに目を細める。
どれ程食べればこの子供が満足するかは知らないが。

「約束の時間二時間過ぎだ。もうすぐか、あと一時間は確実に来ないってばよ。ごめんなチョージ」
太陽を眺め時間を計りナルトがポッチャリ少年=チョージに答える。

「別に良いけどね。バツとして皆でなにか奢って貰う?」
ポテトチップスを食べ続けチョージが提案する。
ナルト・キバは同時に考え込んだ。

「一楽……」
「「それは駄目」」

口を開きかけるナルトを止める、キバ・チョージ。

見事に息のあった返事を返すところは成る程アカデミー同期。
ナルトのラーメン好きをよく把握している。
しゅんと項垂れるナルトにキバとチョージは苦笑。
ラーメンは嫌いではないが、折角奢って貰うのだ。(まだカカシの了承は取っていないが)
高いものを集るのが常套だろう。

「ステーキとか?」
「わん!」
キバの言葉に赤丸が鳴いて賛同した。

「う〜ん。肉なら焼肉の方が美味しいんじゃない?」
中忍選抜試験中に焼肉の食べすぎで入院までしたチョージ。
まるで懲りてないコメントを返す。
キバ・赤丸は無言で互いに顔を見合わせる。


「俺だったら石英(せきえい)の夜のディナーだな」
咥えタバコがトレードマーク。
第十班の担当上忍、アスマはニヤニヤ笑い会話に参戦。
ちゃっかり里で一番高い料亭の名を出す。

「じゃ、わたしはカガリのフレンチフルコースかしら?」
アスマに続いて第八班・担当上忍紅はにっこり微笑んだ。
まったく目は笑っていない怒った雰囲気を身に纏って。


「先生達も怒ってるってば」
「しかたねーだろ、二時間も待ちぼうけだぜ」
「クゥーン」
「う〜ん。ボクは中華が良いな〜」
上から順にナルト→キバ→赤丸→チョージのヒソヒソ話。
何気にチョージのコメントが的外れなのはご愛嬌。
堪忍袋の緒が切れたような紅と、状況を面白がっているアスマ。
それから九人の子供が。
一向に姿を見せないカカシを待つ。

 俺は見たんだけどな。偶然に。

ぼんやり雲なんか眺めてぼけーっと座り込む目つきの悪い少年=シカマルは、珍しくナルト達の会話に加わらず一人心地に考えた。




三代目火影の葬儀の日であった。
実はさる事情から特別上忍であるシカマル。
過去数回共に任務を遂行した月光 ハヤテの手向けに慰霊碑を訪れていた。
一輪の白菊の花を慰霊碑に置き始まる葬儀へ向かおうとした刹那。

雨に濡れ音もなくその上忍はやってきた。

「……」

いつものお茶らけた雰囲気はない。
険しい顔つきで慰霊碑を無言で凝視するその上忍にシカマルは咄嗟に気配を消した。
近くの木の上に身を隠し、影分身を使い分身を葬儀会場へ向かわせる。
無言で佇むカカシは顔色も普通だがどこか覇気がない。
シカマルがこの場を離れようかどうか思案していると。
一人の女が姿を見せた。

「……ハヤテへか……」
振り返らずにカカシが女へ言った。
腰まで届く美しい黒髪の女であるが、持つ雰囲気と立ち振る舞いからしてくの一であろう。
手にした花を持ち慰霊碑に近づく。

「三代目の葬儀がもう始まっている。急げよ……」
花を手向ける女にカカシがお小言。
しかも時間に関することであった為、木の上でシカマルは失笑した。

「カカシ先輩こそオビトさんへですか……。いつも遅刻の理由考えるくらいならもっと早く来てあげればいいのに」
女の言葉を耳にして、シカマルは顎に手を当てる。

カカシの写輪眼が本人のものではないこと。
まして彼は『うちは』の出身ではないこと。
ランクが上の忍達の間では暗黙の了解となった事実である。
シカマルも情報の一つとして耳に挟んでいる。

 うちはは一族がイタチに殺されたこともあるし、情報が盗みにくい。
 俺だって全てのうちはの人間を把握できたわけじゃねーしな。
 ……オビト、ね。

「……来てるよ、朝早く。……ただ…ここに来ると…昔の馬鹿だった自分をいつまでも戒めたくなる」
男の顔だった。

正直、カカシの忍の顔は何度かお目にかかっている。(任務がらみで)
しかしながら、素に近い男としての彼を見るのは初めてであった。
シカマルは暫し瞠目。

 後悔を抱えて尚生きて。
 んでもって……慰霊碑で己の愚かさを・浅はかさを嘆くのか。

察しの良いシカマルは苦渋に満ちるカカシの心情をおぼろげながら理解する。
黙ってこの場を去るのが一番の礼儀だろう。
胸のうちに出来事を仕舞ってシカマルは場を離れた。



 めんどくせーな、大人って。
 今日も律儀に慰霊碑でオビトって仲間に侘びかよ。


気だるげに気へ寄りかかりシカマルは空を流れる雲を見る。
緩やかな気流に乗って流れる千切れ雲。
緩慢に形を変える雲を眺め、自分であったらどうだろう。ついつい考える。

目の端ではどれを奢って貰おうか(しつこいようだがカカシはまだ未着で、奢る等とは約束していない)額をつき合わせて楽しく談笑するナルト・キバ&赤丸・チョージ・アスマ・紅。
更にサクラ・いの・ヒナタといった少女三人も加わり賑やかになっている。

 ナルトに庇われて生き延びたら……マジやっべー。
 きっと俺はカカシのようになるだろうな。
 生きて慰霊碑を訪ねては愚鈍な俺自身を責める。
 シノだったら暴走しそうだよな。
 意外に短気だしよ、アイツは。

不躾にシノを観察すれば、気分を害したらしい長身の少年=シノが黒丸眼鏡を持ち上げる。
シカマルは黙って肩を竦めてシノへ非礼を詫びた。


「……やぁ〜諸君! 今日は…」

「あ〜!!財布が来たってばよv」
気配を消して姿を見せたカカシを、ナルトが指差し嬉々として叫んだ。
「は?」
言い訳を始めようとしたカカシの動きが止まる。
「取り敢えずは任務の後でね」
楽しそうに紅が言って手を叩く。
一人ポツンと佇むシノと、サスケ。
木に持たれてぼんやりしているシカマルへの召集の合図だ。
九人揃う子供達と歩き出した紅の後姿を見送り、カカシはもう一度首を捻るのだった。





任務終了後。
ジャンケンでお店を決定することになり(でも矢張りカカシ本人は奢る約束をしていないし、内容を知らない)勝ったのは。

「……俺?」
出したパーの手をまじまじ見つめ、シカマルがぼやいた。
「こればっかりは約束だしね。奈良、好きなお店を言っていいんだよ」
紅がシカマルを促す。
シカマルは頭を掻き掻き脳内店リストをさらっと洗い出し。
出した結論は。

「じゃ、遠慮なく。最近出来た和風創作料理の店、オガクズ」

シカマルの言葉に少女たちは歓声を上げ、一部の男の子は首をかしげ。
更に残りの男の子達は意気揚々と歩き出す。
壊れた里を横目にワイワイ・ガヤガヤ。
総勢十二人+一匹は里に最近出来た和風創作料理の店に向かった。


半ば無理矢理小部屋をゲット。
十二人+一匹はテーブルを挟んで座る。

「こうやって……ご、ご飯食べるのって初めてだね」
ヒナタは嬉しいのかはにかむように微笑んだ。
「あ〜、言われてみればそうだな」
適当に座った席なので班などはバラバラ。
シカマルは右隣のヒナタへ答える。

「そうだってば!初めてだ」
驚きに目を見開くのはナルト。
落ち着きなくソワソワしていて、いかにも『場慣れしていません』と言った風情。
シカマルは左隣のナルトを軽く小突いた。
「馬鹿丸出しだぞ、お前
むう。ナルトがシカマルの指摘に頬を膨らませる。

カカシは未だ状況が把握できておらず、食前酒を飲み始めたアスマと紅に絡まれていた。
数分もしないうちに次々に運ばれてくる料理に目つきが変わるチョージ。
美味しそうな料理に唾を飲み込むキバ。
尻尾を千切れんばかりに振るのは赤丸。
いのとサクラも歓声を上げ、今日ばかりはサスケを挟んで仲良く談笑……一見すれば。
お互いに火花を散らして、サスケの取り皿に料理を取ってやったりとまぁ、世話をかいがいしく焼いている。
サスケは辟易しているようだが。

「ほれ」
シカマルは面倒臭そうにナルトの取り皿に野菜をひょいひょい入れた。
「あー!!! 俺ってば野菜嫌いなの!! シカマルわざとだな」
目を丸くして怒鳴るナルトに、ナルトの偏食を知る面々は苦笑。
知らなかった面々は驚いてナルトを見る。

「お前の好みなんか一々知るかよ。目の前の料理とってやっただけだろーが」
「あ、ナ、ナルト君。……よかったら、わたしのお、お肉…」
己の皿をおずおず差し出すヒナタをシカマルは止めた。
「こいつただでさえチビなんだから、好き嫌いなんざしてたら一生チビだぜ? つべこべ言わずに食え。男がギャーギャー喚くなよ」

 フン。

オマケに鼻で笑ってやればナルトは渋々野菜を口に運ぶ。

 お前を形作るもの。
 忍術であり大胆な行動であり、表のドベなお前であり。
 クールで強く、女である本来のお前。
 ありとあらゆる形が纏ってナルトが出来上がる。
 まずは飯でも食って大きくなってもらおうか。
 どんなに強くとも飯食わなきゃ倒れるしな。

楽観しているわけじゃないが。
シカマルとしてはこの穏やかな時間をナルトに味わって欲しい。

今後のナルトを形作る『モノ』として。

大切な一つになればいい。

(やけに今日は世話焼きだね)
ナルトの唇がそう告げる。

(育成に本腰入れたいんだよ)
(育成?なにか育てるの?・・・なんで笑うわけ?変なシカマル)
見当違いなナルトの台詞に喉奥でクツクツ笑えば、ナルトは不思議そうに眉を顰める。

(今育ててんだよ)

ナルトを形作るもの全てを。

物であったり物でなかったりはするけれど。


シカマルはニヤニヤ笑うだけで明言を避けた。


「ありがとねv カカシ」
「「「「「「「「「カカシ先生ご馳走様でした!」」」」」」」」」
「じゃーな、カカシ」
紅→下忍→アスマ。
の順に礼を言い、明細をカカシに持たせて一同帰宅。


「……俺の奢りだったの!?」
やたらと桁の多い明細を握り締め、呆然と呟くエリート上忍の姿がありました。
とさ。

カカシ先生はカッコイイと思います。生き方とか(よく倒れちゃうけど)だけど普段はヘタレな先生ってのがウチ設定。私的にはお気に入りの話の一つ。シカマルの育成に本腰入れたい発言とか(笑)ブラウザバックプリーズ