許さざる罪・襲い来る罰


結界内で向き合うかつての師と弟子。
勝ち誇った笑みをたたえ弟子が言った。

「木の葉崩しここになる!」
浅く息を吐き出しやや辛そうに顔色を悪くするが、優勢なのは弟子の方。
弟子には確信があった。

「……分かっておらぬのォ。大蛇丸。この里の忍を甘く見るな」
師は死相の浮かぶ顔で弟子へ今一度教える。

「木の葉の忍は皆里を守るため……命がけで戦う」
立っているだけでも相当な負担だろうに、師は尚も言葉を紡ぐ。
「この世の本当の力とは、忍術を極めた先などにありはしない。かつてお前にも教えたはずじゃ」
師の言葉に、弟子・大蛇丸は面白くなさそうに顔を歪めた。

「大切な者を守るとき真の忍の力は表れるのだと」

「御託はいい……」
潮時だ。
大蛇丸は頭の片隅で考え師の言葉を遮った。

「まあいい。……今更お前を許す気もない。術におぼれ術におごったお前には、それに相応しい処罰を下す」
大蛇丸を師は、鼻で笑った。
「お前の術全てを貰ってゆくぞ!」
木の葉の里。最高権力者・火影の顔で師は大蛇丸へ宣告した。





本戦会場にてあらかた敵を片付け終えた上忍・中忍達。
奇妙な振動に首を捻る。

「……? カカシ、これは?」
夕日 紅。首を傾げて隣の同僚である半眼の男を見た。
はたけ カカシ。
凄腕上忍であるカカシの顔色は何故か真っ青。らしくない。

 ドスン……ドスーン。

巨大な何かが落下するような振動が会場近くまで近づき。

「蝦蟇だ」
カカシのライバルはさして驚きもせずに巨大な蝦蟇を指した。
「……見れば分かるよ、ガイ」
呆れた口調で紅が突っ込む。
巨大蝦蟇は器用に会場の縁へ足をかけ、頭に乗せた誰かを降ろしている。
会場の端からカカシ達へ駆け寄る人物に。

「……ナルト?」
カカシは思わず驚愕の声をあげていた。
ナルトの直ぐ後ろにはサクラを抱かかえたサスケ。
それに何故かグッタリしているシノとシカマルの姿もある。

「カカシ! ジジイはまだあの中か?」
静かにナルトがカカシへ聞いた。
あまりの落ち着きようと普段とのギャップの差に、他の忍は驚きを隠せない。
金色に揺れる子供のつむじをまじまじと見てしまう。

「ああ……まだだ」
真剣なナルトの表情。カカシはナルトの問いに正直に答えた。

「そうか。……シノ・シカマル。ここは任せた。砂のバキと音のスパイ。薬師 カブトの気配がする。深追いはしなくていいから警護にあたって」
会場全体を一瞥し、ナルトはシノとシカマルへ言った。

「りょーけー」
だるそうに手を左右に振るシカマル。
シノは黙って立ち上がった。
ナルトは二人が承諾したと受け取ると姿を消す。

正しくは瞬身の術を使い、結界直ぐ傍まで移動したのだ。

「お前らは事情を知ってるのか?」
驚きの声を発するのはサスケ。
ナルト本人に尋ねたいが事態が事態だけに躊躇われた。
しかも今は本人が移動してしまった為直接たずねることが出来ない。
シノ・シカマルに詰め寄る。

「なんとも言えねーんだよな。俺としても」
毒の後遺症で痺れる身体を持て余し、シカマルは力無く笑う。

「三代目火影の極秘指令だからな」
勘の良いサスケのことだ。薄々は理解しだしているだろう。
だが、簡単に口に出来るほど生易しい問題ではないのだ。
シカマルは先手を打ってサスケへ釘を刺した。

「あ……」
弾かれたように小さく動揺の声を漏らす紅。
そんな彼女の声に気がついた者はいなかった。
大蛇丸に狙われるサスケがこの場に居る方が問題なのだ。
取りあえずで特別上忍にサスケの身柄が預けられる。

「……」
カカシは無言で結界を見上げた。

 来るべき時が満ちたのか。それとも……。

小さな背中は凛として。
カカシの尊敬(恐怖?)したかつての師と重なる。





血塗れの剣。貫かれた師は目を見開く。
封印!
大蛇丸は両腕から力が抜けるのを感じ、眉を吊り上げる。
「これで両腕は使えぬ。両腕が使えぬ以上印も結べぬ……。お前に忍術はもはや無い。木の葉崩し……ここに破れたり」
死にゆく師の顔はどこまでも穏やかだ。
「この老いぼれが!私の腕を返せ!!」
たまらず大蛇丸は叫ぶ。

勝算はあった。
策も練った。
能力的にこの師を越えているという自負もあった。
なにが足りないというのか。慟哭に近い叫び。

「愚かなるかな……大蛇丸。共に逝けぬのは残念じゃが……我が弟子よ。いずれあの世で会おう」
フッ。
師は慈愛の混じった眼差しを大蛇丸へ向けた。

「風前の灯火のジジイィが! よくも……よくも私の術を」
目を見開き大蛇丸は恨み言を叫ぶ。
腕が封印されたのは間違い無き事実。
計算外の師の攻撃に大蛇丸は動揺を隠せなかった。

「木の葉舞うところに……火は燃ゆる………・」
ぐらりと。師の身体が傾ぐ。

「火の影は里を照らし、また木の葉は芽吹く」
結界の外から幼い子供の声が師の言葉に呼応する文句を言った。
満足そうに満ち足りた顔のまま倒れこんだ師。
大蛇丸は結界の外へ目を向けた。

「君は……」
金色の髪。蒼い瞳。普段見せる表向きの空気はどこへやら。
酷く真剣な顔つきで結界の外から師の死に様を見つめていた子供。

「愚かだな」
死んでしまった師へ手向けた言葉か。
若しくは両腕を封印された大蛇丸へ放った侮蔑の言葉か判断つきにくい。
子供は短くこう告げた。

「木の葉崩しは破れた。これ以上お前がここに留まるのは無意味だ。消えろ」

 一太刀。

煌く刃に消える結界。すぐに大蛇丸を取り囲む音の四忍。
だらりとだらしがなく垂れた両腕をそのままに大蛇丸は眉を潜める。

「敵をとりたいのなら今が絶好のチャンスよ? ……ナルト君」
大蛇丸とて忍である。
今の傷ついた己の力と目の前の子供の力。
どちらが上かはすぐに判断がつく。極力冷静を装って問いかけた。

「そうかもしれない。野放しにすれば間違いなくアンタは危険人物。ここでジジイと共に散った方が幸せかもな」
子供は、ナルトは口許を歪めた。

「同情……してくれてるのかしら?」
何も仕掛けてこないナルトに大蛇丸は探りを入れる。
ナルトは首を横に振った。
「アンタとジジイの間にナニがあったかは。俺は知らない。無関係な部分で巻き込まれるつもりはないからな」
師が呼び出した老猿が消える瞬間。
大蛇丸の刀も一緒に持ち去る。
老猿の行動をナルトと大蛇丸は黙認した。
大蛇丸は目の前にナルトが居る為に手出しできなかったからである。

「随分な自信ねぇ? もう私を越えてしまった?」
不謹慎にも大蛇丸は可笑しくて仕方がない。
この子供が珍しく『死』を間近に落ち込んでいるようなのだ。
忍を生業とするなら日常茶飯事である『忍の死』に。
笑いながら俯き加減のナルトを見る。

「いや。俺の力では無理だ。自身の力を過大評価したりはしない」
拍子抜けするほど簡単にナルトは己の力不足を大蛇丸へ認めた。

「そう。では何故? 天鳴(あまなり)である君がココにいる理由は?」
大蛇丸の駆け引き。
息を飲む大蛇丸の部下と暗部の面々。
視線がナルトへ集中する。

「任務だからだ」
素っ気無くナルトは答えた。

「可哀相にね。木の葉の里の栄華を影で支え続け、まだ支えるつもりで居るの?」
「さあね」
ナルトが大人びた動作で肩を竦めた。
揶揄するような大蛇丸のからかいに簡単には乗らない。
心の奥底で何を考えて大蛇丸と対峙しているのか。
大蛇丸自身にも判断がつきかねた。

「やっぱり君は諸刃の剣だわ。取り扱いを間違えればたちまちドカン。危険すぎて私には手が出せない」
真顔に戻って大蛇丸はナルトをひたと見据えた。
視線を感じてナルトも顔を持ち上げる。

「確かに。取り扱い注意の危険物だ……俺だって手を出したくないね」
ナルトは大蛇丸流のジョークに反応して笑った。

「私には成したい事があるの。邪魔しないで欲しいんだけど?」
大蛇丸の探る目つき。
ナルトは大蛇丸の蛇のような金色に怪しく光る瞳を見つめ、首を横に振った。

「木の葉はそれ全てが家族。木の葉隠れの忍達は、皆『火の意志』を持っている。この里を守ろうとする強い意志。『火の意志』を持っている限り、この里に居る者は全て家族そのもの……」
昔は。
今でも?
このジジイの考えには疑問を抱くナルトであるが、大蛇丸への警告には丁度良い文言に思えたのでちゃっかり拝借した。
ジジイの死は。
死体を目の前にしてもっと動揺するかと思っていたナルトだが、その心はかつてないほど静まり返り。
動揺している大蛇丸が分かるほどに無に近い自分が居る。

「ナルト君まで私にお説教?」
ナルトは再度首を横に振る。

「勘違いをするな。確かにアンタはジジイよりも強い。この里にアンタを殺せる忍は居ないだろう。『今』は。木の葉の里の忍を甘く見るな?
俺じゃなくてもジジイの遺志を継いだ誰かがアンタを探すだろう、遠くない未来に」
一陣の風が血の臭いを運ぶ。

「そうしてアンタは己の行いで自分の首を絞め死ぬ。どんなに死から逃れようとしても。死は万人に等しく訪れる」
「忠告? それともナルト君なりの警告?」
「憐憫」
ナルトが言った瞬間に、ナルトの頬を掠めるクナイ。
大蛇丸の部下の一人が威嚇するようにナルトへクナイを放った。

「止めなさい。お前達じゃ歯が立たないわ」
ナルトへ殺気を放つ部下を叱責。
大蛇丸は長々と息を吐き出した。

「アンタが自身で刻んだ罪の刻印は消えることがない」
罪の刻印は罰する者をアンタの元へ運ぶだろう。
続けてナルトが言う。

聡明なナルトは大蛇丸の腕を指して言っているわけではない。
大蛇丸自身の今後を警告し釘を刺している。
これ以上この場に居ても−ナルトの告げた通り−命を危機に晒すだけ。
潮時だ。
大蛇丸は考えた。

「だったら。遠慮なく私は消えるわ」
部下が『罠は仕掛けられていない』と大蛇丸へ目で告げる。
大蛇丸自身も探るように周囲を見渡し罠がないのを確かめた。
いるのはナルトと暗部だけ。
逃げるだけなら簡単だ。

「追うな」
身構える暗部を殺気で竦ませ、ナルトは静かに言い放つ。
無言で見上げた空に大蛇丸の身体と部下四人の身体が舞った。


「なーんか。すっげー逞しくなってねぇ? ナルトの奴」
可愛らしくなってくれるなら歓迎だけど。
暗に含ませてシカマルはぼやいた。

「……」
シカマルの落胆に反してシノが大層幸せそうにしていて。

「……明日は嵐かしら」
と。真剣に悩むシノの担当上忍の姿があったのは完全に蛇足である。


イエー! ビバ捏造v (果たしてこの見にコメント欄に何回捏造と書いているんだろう私…)この場面は原作を読んだ時に書きたかったので満足〜。ちょいシリアスすぎますけどね。ブラウザバックプリーズ